「高級車の購入」は、税金対策の代表的な方法の1つとして挙げられることがあります。
会社に大きな利益が出ると、相応の法人税がかかります。高い税金を払うくらいなら社用車を買い替えよう、と考える方も少なくありません。
しかし、そもそも車の購入は税金対策として有効と言えるでしょうか?有効な場合があるとして、どのような条件を満たせばよいのでしょうか?
また、「お金持ちは4年落ちの高級車を頻繁に乗り換える」と言われることがありますが、どういうことでしょうか?
本記事では、これらの疑問に対して分かりやすくお答えします。
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公認会計士・税理士。監査法人トーマツ、税理士法人山田&パートナーズを経て筧会計事務所(現、税理士法人グランサーズ)に入社。
税理士法人グランサーズ代表社員。
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1.高級車の購入は原則、節税にならない!
高級車を購入することは、基本的には節税になりません。その理由をご説明します。
1.1.経費化するのに6年かかる
事業用の車両を購入した時、原則としては、その購入代金を一度に購入年度の経費にすることはできません。
自動車・建物・機械設備などの事業用資産を取得すると、その費用は減価償却で処理されます。
減価償却とは、資産の取得代金を、法定耐用年数に応じて、複数年に分けて計上していくというものです。
法定耐用年数とは、減価償却資産が使用に耐えられるとされる年数のことで、品目によって異なりますが、自動車の場合は6年です。したがって、新車を購入した場合、購入代金は6年間に分けて経費計上します。
つまり、初年度に多額の代金を払って新車を購入しても、経費化するのに6年かかってしまうということです。これでは税金対策としては効果は限定的です。
また減価償却費は月割りで計算するので、決算月に購入した場合、さらに効果は限られます。
減価償却の詳しい仕組みに関しては「減価償却とは?節税と資金繰りで圧倒的に得するための基礎知識」をご覧ください。
1.2.キャッシュが流出する
車両の購入によって多少税金の負担は減りますが、減少分以上に多額のキャッシュが流出することになります。また、自動車を所有すると、保険料・税金・メンテナンス代などの維持費が発生します。
これらによって事業の資金繰りを圧迫するようでは、本末転倒です。
1.3.個人事業主の場合、条件が厳しい
個人事業主が車両を取得した時、経費化はさらに条件が厳しくなります。
1.3.1.プライベートと事業の割合を分けなければならない(家事按分)
個人事業主が保有している車について、経費として認められるのは事業に利用した部分のみです。
多くの場合、個人事業主は一台の車を事業とプライベート両方に使っているので、申告の際には、どの位の割合で事業とプライベートに使っているか分けて計算しなければなりません。これを家事按分といいます。
個人事業主は家事按分しなければいけないので、車の取得代金や関連費用の内で、経費化できるのはその一部ということになります。
1.3.2.個人事業主は原則『定額法』
個人事業主の場合、減価償却の方法は原則として定額法です。
定額法とは、期間内に毎年均等な額を償却する方法です。一年あたりの償却額は、車両の購入価額を、耐用年数で割って算出します。
例えば、200万円の車両を購入し、その耐用年数が4年の場合、4年間にわたって各年50万円ずつが経費になります。
一方、法人の場合、定率法で償却することが認められています。定率法は、その時点での残存価値に対して一定の割合で償却する方法です。初年度の減価償却率が高くなるので、定額法よりも早期に多額の経費を計上することができます。
このように、個人事業主が高級車を購入する場合、経費化できるのが一部のみに限られ、また、経費化に時間がかかるため、税金対策として利用するのが法人に比べて更に難しくなっています。
2.高級車で節税になるのは3年10ヶ月落ち以上の中古車のみ
以上のような理由により、基本的には高級車を購入しても「節税」の効果はありません。
しかし、例外的に、4年落ち以上の中古車であれば、税金対策になることがあります。
現に、富裕層の間では、4年落ちの高級車を頻繁に乗り換えるということが、税金対策として行われています。
どういうことなのか、以下の点からご説明します。
- 早期に費用化が可能
- 中古市場で値が付きやすい
2.1.早期に費用化が可能
中古車は、新車に比べて早く費用化できます。これには耐用年数が関係します。
先ほど述べたように、自動車の法定耐用年数は6年です。
一方、中古車を購入した場合、4年落ち(正確には3年10ヶ月落ち)より古い自動車の耐用年数は2年となります。
|
耐用年数 |
2年落ち |
4年 |
3年落ち |
3年 |
4年落ち |
2年 |
5年落ち |
2年 |
6年落ち |
2年 |
耐用年数の計算には以下の式を使います。
【耐用年数をすでに超えている中古車の場合】
【耐用年数をまだ満たしていない中古車の場合】
※小数点以下は切り捨て、耐用年数2年未満は耐用年数2年
そして、定率法では、耐用年数2年の場合、1年目の償却率が100%になります。
つまり、耐用年数2年の車の購入代金は、初年度に全額損金にできるということです。
以下の図は、600万円の車を新車・4年落ちの中古車、それぞれで購入した場合の、初年度償却費を比較したものです。
|
耐用年数 |
償却率(定率法) |
初年度償却費 |
新車 |
6年 |
33.3% |
199万8千円 |
中古(4年落ち) |
2年 |
100% |
600万円 |
新車で購入した場合、購入費用の約33%、およそ200万円しか初年度の経費にできません。
しかし、4年落ちの中古車では、100%の600万円を初年度に経費にすることができます。
事業に大きな利益が出ることが予め分かっている場合、このしくみを利用して初年度に大きな損金を作ることができます。
2.2.価値が下落しにくい
4年落ちの車は、耐用年数が2年になる車の中で、最も年式が新しい車です。
特に、高級車の場合、4年落ちであっても、後で売却する時もまだ資産価値があまり下落しておらず、高値が付く可能性が高いと言えます。
2.3.富裕層がやっている高級車の節税とは?
富裕層がよく行っていると言われている方法があります。
それは、4年落ちの高級車を乗り継ぐ方法です。
購入代金を初年度に全額経費計上し、その後、価値が落ちないうちに売却し、その代金でまた新たに中古の高級車を購入する、というサイクルを繰り返すやり方です。
3.経費計上が否認されるケースがある
このように、4年落ちの高級車は、早期費用化でき、かつ、資産価値が落ちにくいというメリットがあります。
ただし、事業用という名目で購入する以上、自動車の代金が経費として認められるには、前提として、そもそもその車両が事業のために必要で、実際に事業に用いていることが必要です。
特に高級車の場合、業務との関連をシビアに見られます。
3.1.経費計上が認められやすい車のタイプ
趣味性の高いスポーツカーなどに比べると、ベンツやレクサスなどの高級セダンの方が、社用車として認められる可能性は高くなります。
なぜなら、高級セダンであれば、代表者が通勤や支店の巡回、接待などに用いるものとして常識的な範囲内のものと判断されやすいからです。
3.2.フェラーリが社用車として認められたケース
一方、高級スポーツカーのフェラーリであっても、社用車として認められたケースもあります(国税不服審判所1995年10月12日非公開裁決)。
この裁決では、根拠として以下の点が挙げられています。
- 運転記録から、過去に事業で使用していた実績が認められる
- 出張旅費規程を作成していて、且つ、代表者に交通費を支給していない
- 他にプライベートで所有している外国製車両は、会社の償却資産にしていない
これらの事情からも分かるように、社用車として問題なく認められるには、その車両を事業に用い、事業に使用した記録を残すこと、また、他にプライベートカーを所有している場合は、事業用車両とプライベートカーに分けておくことが必要です。
4.税金対策として車を選ぶ際のポイント
ここでは、税金対策として4年落ちの中古車を購入しようとする場合に、押さえておきたいポイントを解説します。
4.1.事業に必要な車を購入する
まず、その車両が本当に事業に必要であるか、利益を生んでくれるか、という事を考える必要があります。
税金の負担が減ったとしても、同時にキャッシュも出ていきます。したがって、事業に使わないのであれば、無駄遣いということになります。
4.2.維持費を計算する
次に、維持費を計算し、どこまで許容できるかを想定しておくことが大事です。
車両を購入した後も、以下のような維持費が発生します。
- 自動車保険の保険料
- 駐車場代
- 自動車税
- 車検代
- ガソリン代
外国車両は社用車として人気がありますが、維持費がかさむ傾向にあります。それには次のような理由があります。
- ランニングコスト・メンテナンス費用が高い(ハイオク、オイル交換など)
- 故障したときの修理費用が高い(部品取り寄せ、ディーラー修理)
不具合の少なさで選ぶのであれば、国産の高級車という選択肢もあります。米国の調査会社J. D. Powerが発表した2021年版の自動車耐久品質調査(※英語)では、レクサスが1位、トヨタが4位にランクインしています。
4.3.価値が下落しにくい車種を選ぶ
また、費用化した後に売却する事を見据えて、価値が下落しにくい車種選んでおくことが重要です。
一般的な国産車は、3年後に販売価格が新車価格の40~60%と言われているので、これが一つの目安となります。
価値が下落しにくい車の特徴は、次のようなものです。
- 人気のモデル
- 人気カラー(白・黒)
- 人気のオプションが付いている
4.4.購入のタイミングに注意
税金対策として中古車を購入するときは、いつ購入するか、正確には「何月」に購入するかが大事です。
車両の購入代金は、購入した月から事業年度の終わりまでの月数のみが経費となります。
決算月に購入したとしても月割になってしまうので、その年の償却費の12分の1しか経費にすることはできません。
したがって、中古車購入で税金対策を行うのであれば、決算月の翌月、言い換えれば、事業年度の初めの月に購入することによって、1年分を経費計上でき、メリットを最大限活かすことができます。たとえば、12月が決算月であれば、1月に購入するということです。
まとめ
高級車の購入は基本的には節税にはなりませんが、4年落ち以降の中古車を購入し、定率法で減価償却費の計算をすることで、初年度に車両購入代金を全額経費にできるというメリットがあります。
また、4年落ちの中古車は、リセールバリューが高ければ、購入金額とあまり変わらない金額で売却することもできます。
しかし、税金対策を意識するあまりに、本来必要のない出資を行い、事業の資金繰りに悪影響を与えるようでは意味がありません。購入後の維持費も考慮にいれ、事業に本当に必要な車を購入するようにしてください。