節税対策を考える際、設備投資は有効な手段の一つですが、「中古資産」の購入が選択肢に挙がることもあります。「中古品で本当に節税になるのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、中古資産には、新品にはない特有の節税メリットが存在する場合があります。
この記事では、中古資産、特に「太陽光発電設備」「社用車」「コインランドリー」を取得した場合の節税の仕組みやメリット、そして注意すべき点について、出口戦略まで含めて解説していきます。
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中古資産の節税における基本原則:減価償却
中古資産での節税を理解する上で、まず「減価償却」の仕組みを知る必要があります。
減価償却とは
事業のために使用する建物、機械、車両などの固定資産は、購入した年に全額を経費にするのではなく、その資産が使用できる期間(法定耐用年数)にわたって、分割して経費計上していきます。この会計処理が減価償却です。例えば、新品のパソコンなら4年、新車(普通自動車)なら6年、木造の建物なら22年といったように、資産の種類ごとに国が耐用年数を定めています。
なぜ中古資産だと償却期間が短くなるのか?
新品の資産は法定耐用年数全体で減価償却を行いますが、中古資産を取得した場合、その資産がすでに経過した年数を考慮して、残りの使用可能期間を見積もり、耐用年数を再計算します(簡便法など)。多くの場合、この計算により新品よりも短い耐用年数が適用されます。
短期償却による節税効果(損益通算含む)
耐用年数が短いということは、購入費用をより短い期間で経費計上できることを意味します。つまり、1年あたりの減価償却費の額が新品に比べて大きくなるため、課税所得を圧縮する効果が高まります。 特に、個人の場合、太陽光発電事業やコインランドリー事業などで(減価償却により)赤字が出た場合、その赤字を給与所得など他の黒字の所得と相殺(損益通算)できます。これにより、全体の課税所得が減少し、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があるのです。
中古太陽光発電設備を活用した節税
近年、中古の太陽光発電設備が市場に出回るケースが増えています。
中古市場が形成される背景
中古の太陽光発電設備が売りに出される理由の一つに、「節税目的の達成」があります。過去には「グリーン投資減税」という制度があり、太陽光発電設備について100%即時償却(購入した年に全額経費化)が認められた時期がありました。この制度を利用して節税メリットを享受し終えたオーナーが、売却するケースが見られます。また、急な資金需要や管理の手間などを理由に手放す人もいます。
中古太陽光投資のメリット
中古の太陽光発電設備には、以下のようなメリットが考えられます。
(1) 短期償却による節税効果 前述の通り、中古資産は新品よりも短い耐用年数が適用される可能性があり、1年あたりの減価償却費を大きく計上できます。これにより、損益通算などを通じて所得税・住民税の節税効果が期待できます。
(2) 実績データに基づく収益予測のしやすさ 中古物件はすでに稼働しているため、過去の発電量や売電収入といった実績データを確認できます。これにより、新規で設置する場合に比べて、より確度の高い収益予測を立てることが可能です。「想定より発電量が少なかった」というリスクを低減できます。
(3) 高い売電価格(FIT)の引き継ぎ可能性 太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)は、国が一定期間(通常20年)、固定価格で電力を買い取る制度です。この買取価格は年々低下しており、例えば2012年頃は40円/kWh(10kW以上)だったものが、2024年度には10円/kWh(10kW以上50kW未満)となっています。FIT認定を受けている中古物件を購入すれば、残りの期間、当時の高い売電価格を引き継げる可能性があります。
(4) 融資の受けやすさ 過去の売電実績があるため、金融機関に対して収益性を示しやすく、新規設置に比べて融資審査が通りやすい傾向があると言われています。年収や他の条件にもよりますが、比較的大きな金額の融資を受けられるケースや、フルローンでの購入が可能になるケースもあるようです。
注意点
中古太陽光発電投資にはメリットがある一方、設備の劣化状況、メンテナンス履歴、土地の権利関係、自然災害リスクなどを十分に確認する必要があります。専門的な知識も求められるため、信頼できる仲介業者や専門家への相談が不可欠です。
中古社用車を活用した節税
社用車を経費で購入する際、中古車、特に「4年落ち」のものが節税に有利と言われることがあります。
なぜ4年落ちが有利なのか?
新車(普通自動車)の法定耐用年数は6年ですが、中古車の場合、簡便法で耐用年数を計算します。法定耐用年数の全部を経過した資産(この場合は6年経過後)は、法定耐用年数の20%が耐用年数となります。一方、法定耐用年数の一部を経過した資産は、「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」で計算します。 これにより、3年10ヶ月以上経過した中古普通自動車(いわゆる4年落ち)を購入した場合、耐用年数は2年となります。
初年度一括償却のインパクト
耐用年数が2年となる資産を取得した場合、定率法(2007年4月1日以降取得の場合、2年償却の償却率は1.000)を選択すれば、購入した初年度に取得価額のほぼ全額を減価償却費として経費計上することが可能です。これにより、その年の利益を大幅に圧縮し、法人税等の負担を軽減できます。
ローン活用によるキャッシュフローへの影響
4年落ち中古車をローンで購入すれば、手元のキャッシュを大きく減らすことなく、初年度に多額の経費を計上できます。利益が多く出た年度の節税対策として有効な手段となり得ます。
リセールバリューを考慮した運用サイクル
ベンツなど、一般的にリセールバリュー(再販価値)が高いとされる車種を選べば、1~2年で償却した後、比較的高値で売却できる可能性があります。その売却資金を元手に、新たに4年落ちの中古車を購入するというサイクルを繰り返すことで、少ない負担で社用車を運用しながら節税を図ることも考えられます。ただし、車両の売却益は課税対象となる点に注意が必要です。
中古コインランドリーを活用した節税
コインランドリー投資も、中古物件を活用するケースが見られます。
中古市場が形成される背景
約20年前の第一次コインランドリーブーム時に開業したオーナーが高齢化し、後継者不在や管理負担の増加から事業を手放すケースが増えていることが、中古市場形成の一因とされています。
リノベーションによる収益改善の可能性
20~30年前の古い設備が残る店舗も少なくありません。しかし、最新の洗濯機や乾燥機(大型機、省エネタイプなど)に入れ替え、内装をリニューアルすることで、集客力と収益性を大幅に改善できる可能性があります。光熱費が削減できる点もメリットです。
節税効果(減価償却の活用)
中古のコインランドリー設備も、前述の中古資産の原則に基づき、新品より短い耐用年数が適用される可能性があります。これにより、設備投資額を比較的短い期間で減価償却し、経費計上していくことが可能です。 (注意:税制改正について) 以前は「中小企業経営強化税制」を利用して、一定の要件下で新品設備の即時償却が可能でしたが、コインランドリーでのこの制度は終了しています(2025年4月15日現在)。したがって、現時点で新たに中古コインランドリー投資を始める場合に、この税制による即時償却は原則として適用できません。節税効果は、主に中古資産としての減価償却(新品より短い期間での償却)によって得られることになります。
信頼できる業者の選び方のポイント
中古コインランドリー投資、特にリノベーションを伴う場合は、特有のノウハウが必要です。業者を選ぶ際は、単なる機器販売だけでなく、立地診断、売上・経費シミュレーションの精度、故障・クレーム対応体制、そして中古物件のリノベーション実績が豊富かどうかを確認することが重要です。
出口戦略の重要性
これまで見てきた中古資産を活用した節税スキームは、減価償却によって課税を将来に繰り延べている側面が強い点に注意が必要です。
利益の繰り延べであることの認識
減価償却によって早期に経費計上しても、将来その資産を売却した際には、売却益(売却価額から未償却残高を引いたもの)に対して課税されます。償却が進んでいるほど未償却残高は小さくなるため、売却益が大きくなりやすい傾向があります。
売却益と相殺できる支出
節税効果を確定させるためには、計画的な出口戦略が不可欠です。資産の売却によって利益が出るタイミングに合わせて、役員退職金の支給、新たな設備投資、大規模修繕など、他の大きな損金(経費)が発生するように計画し、売却益と相殺することが有効な対策となります。
赤字年度での売却
あるいは、本業で大きな赤字が見込まれる年度に資産を売却し、売却益をその赤字と相殺するという方法も考えられます。
まとめ
中古資産、特に太陽光発電設備、社用車、コインランドリーなどを活用することで、減価償却期間の短縮による早期の費用計上が可能となり、大きな節税効果を得られる可能性があります。それぞれの資産には特有のメリットや市場背景がありますが、共通して言えるのは、購入時の検討だけでなく、将来の売却まで見据えた「出口戦略」が極めて重要であるということです。
また、税法や関連制度は改正される可能性があるため(例:中小企業経営強化税制の期限切れ)、常に最新の情報を確認し、個別の状況に合わせて専門家(税理士など)に相談しながら進めることが、賢明な資産防衛につながります。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例などを知りたい場合に、参考にしてください。