決算が近づき、予想を大幅に上回る利益が出た際、多くの経営者が頭を抱えるのが「税金」の問題です。「このままでは多額の法人税がかかってしまうが、有効な対策を打つ時間がない」そんな状況で、突発的な利益に対して極めて強力な節税効果を発揮するのが「即時償却」という制度です。
通常の減価償却では数年かけて経費化する設備投資費用を、特例により初年度に全額損金(経費)として計上できるため、利益を大幅に圧縮し、その年の納税額を劇的に抑えることが可能になります。例えば、2,000万円の利益が出た年に、2,000万円の設備投資を行って即時償却すれば、その年の課税所得をほぼゼロにすることも夢ではありません。
この記事では、この「即時償却」の仕組みを解説するとともに、実際に活用できる3つの具体的な投資手法(GPUサーバー、コインランドリー、太陽光発電)について、その仕組みやメリット、そして注意点を詳しく解説していきます。
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1.初年度でまるっと経費化!「即時償却」とは?
通常、企業が建物や機械装置などの高額な資産を取得した場合、その購入費用は一度に経費にはならず、法定耐用年数に応じて毎年少しずつ経費計上する「減価償却」を行います。しかし、「即時償却」とは、税法で定められた特定の要件を満たす設備投資を行った場合に限り、その取得価額の全額(100%)を、事業の用に供した初年度に一括で損金算入することが認められる特例措置です。
これにより、投資額と同額の損金が一気に発生するため、その期の利益を相殺し、法人税等の支払いを大幅に軽減(繰り延べ)することができます。決算間際の駆け込み対策としても非常に有効な手段です。
2.今注目の「GPUサーバー投資」
まず一つ目は、AI(人工知能)の急速な進化に伴い、世界的に需要が爆発している「GPUサーバー」への投資です。
GPUサーバーとは?
GPU(GraphicsProcessingUnit)は、画像処理に特化した半導体チップですが、その高い処理能力がAIの学習やデータ解析に不可欠となっています。ChatGPTなどの生成AI開発には、膨大な数のGPUサーバーが必要とされており、国もその確保を戦略的に推進しています。
即時償却の仕組み(中小企業経営強化税制)
この投資が即時償却の対象となる根拠は、「中小企業経営強化税制」です。青色申告を行う中小企業者等が、生産性向上に資する先端設備(A類型)などを導入した場合、即時償却または税額控除(最大10%)を選択できる制度です。GPUサーバーはこの対象設備に該当するため、購入費用を全額損金に算入できます。(※事前に「経営力向上計画」の認定を受ける必要があります。適用期限は2027年3月31日まで。)
GPUサーバー投資のメリット
- 比較的少額から可能:1口1,000万円程度から投資でき、航空機リース(数千万円~)などに比べてハードルが低いです。
- 為替リスクがない:円建ての案件が主流であり、為替変動の影響を受けにくいです。
- 税務調査に強い:実態のある物理的な資産への投資であり、事業活動として認められやすいです。
- 利回りが期待できる:計算力の販売によるインカムゲインと、数年後の売却益を合わせたリターンが期待できます。
注意点
高性能で市場価値の高いサーバーを選ぶことや、運営会社の信用リスク、収益変動リスクなどを考慮する必要があります。
3.実はまだ可能「コインランドリー投資」
二つ目は、根強い人気を誇る「コインランドリー」への投資です。「コインランドリーの節税は税制改正で封じられたのでは?」と思っている方も多いかもしれませんが、条件を満たせば現在も可能です。
即時償却の条件
2023年の税制改正により、「管理のおおむね全部を他者に委託する」コインランドリー業は、中小企業経営強化税制の対象外となりました。しかし、これは裏を返せば、「運営を丸投げせず、自ら主体的に経営に関与している」場合には、依然として即時償却が認められるということです。採用や広告宣伝などをオーナー自身が行うなど、事業としての実態があれば、洗濯機や乾燥機などの設備投資費(初期投資の約7割程度)を全額損金にできます。
メリット
景気に左右されにくい安定した現金収入が見込めるほか、立地や運営次第で10%前後の利回りも期待できます。
4.特定地域でまだ使える「太陽光発電投資」
三つ目は、特定の地域限定で活用できる「太陽光発電」への投資です。一般的な太陽光発電の即時償却(グリーン投資減税)は終了しましたが、「福島復興再生特別措置法(特措法)」に基づく税制優遇は現在も有効です。
特措法による即時償却
この法律は、原子力災害からの復興を支援するため、福島県内の特定の避難指示解除区域等で、復興に資する事業を行う法人・個人に対し、設備投資の即時償却または税額控除(15%)を認めるものです。認定を受けることで、法定耐用年数17年の太陽光発電設備を、初年度に全額経費化することが可能です。
メリットと要件
- 全額損金:2,000万円程度の投資で、設備費のほぼ全額を損金にできます。
- 長期安定収益:FIT(固定価格買取制度)により、20年間の安定した売電収入が見込めます。
- 要件:指定された地域(田村市、南相馬市など)で、避難指示解除から一定期間内に事業を開始するなどの要件があります。
まとめ
決算期に突発的な利益が出た場合、「即時償却」を活用した設備投資は、法人税の負担を劇的に軽減し、資金を有効活用するための強力な手段となります。
- GPUサーバー:成長産業への投資と節税を両立。1,000万円から可能。
- コインランドリー:経営への関与を前提に、安定収益と即時償却を狙う。
- 福島・太陽光発電:復興支援と強力な税制優遇、長期安定収入の組み合わせ。
いずれも魅力的な選択肢ですが、投資である以上リスクも伴います。また、税制の適用には期限や細かな要件があります。自社の状況に合わせて最適な投資を選び、確実に節税効果を得るために、検討の際は必ず税理士などの専門家にご相談ください。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的なスキームや最新の情報を知りたい場合に、参考にしてください。