社長の老後資金5,000万円を効率的に準備する方法──企業型DCを活用した節税戦略

「老後2,000万円問題」が話題となったのは、もう何年も前のことになります。しかし昨今の急激な物価上昇を踏まえると、本当に2,000万円で足りるのか、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。実際、最近では老後に必要な資金として「5,000万円」という数字が語られることも珍しくなくなってきました。

経営者の方が個人の貯蓄だけでこの金額を準備しようとすると、相当な負担になります。役員報酬を上げて貯めようとしても、所得税・住民税・社会保険料で大部分が削られてしまい、手元に残るお金はごくわずかです。

そこで近年、経営者の間で注目されているのが「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。大企業の福利厚生制度というイメージが強いかもしれませんが、実は中小企業の社長にとってこそ、非常に強力な資産形成ツールとなります。本記事では、企業型DCの仕組みと、中小企業の経営者がこれを活用すべき理由について詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

中小企業導入率わずか2.5%という現実

まず、企業型DCが実際にどれくらい普及しているのか、その実態から見ていきましょう。加入している事業所数自体は年々右肩上がりで増加しており、加入者数は約860万人。これは会社員全体の約20%にあたります。

しかし、国内の厚生年金適用企業全体に対する導入率を見ると、わずか2.5にとどまっています。「会社数では2.5%なのに、加入者数では20%」という数字のギャップは、従業員数の多い大企業では普及している一方、中小企業ではほとんど導入されていない実態を物語っています。

なぜ中小企業で普及していないのか

これほどメリットの大きい制度が中小企業で普及していない理由は、主に業界構造的な問題にあります。

第一に、顧問税理士から提案されにくいという事情があります。企業型DCの導入には、税務だけでなく労働法、社会保険、さらには投資の知識まで幅広く求められます。そのため、税理士であっても詳しく説明できる人は限られているのです。

第二に、中小企業の退職金準備といえば長年、法人保険が主流でした。そのため、保険会社の営業はあっても、DCを積極的に提案する営業ルートが少ないのが実情です。

第三に、「導入すると手間や管理コストが増える」という先入観も普及を妨げる要因となっています。結果として、メリットの大きい制度であるにもかかわらず、ほとんどの中小企業経営者に知られないままの制度となってしまっているのです。

裏を返せば、この制度を知り、適切に導入できれば、他の98%の会社に対して大きなアドバンテージを得ることができるということでもあります。

企業型DCに用意された3つの強力な税制優遇

企業型DCの最大の魅力は、お金の「入口」「運用中」「出口」、そのすべての段階に税制優遇が用意されている点にあります。

(1)運用益が全額非課税

通常、株式や投資信託で得た利益には約20%の税金がかかります。しかし、企業型DCの口座内で運用した利益には、この税金が一切かかりません。NISAと同様、利益の全額をそのまま次の運用に回せるため、複利効果が最大化されます。数十年というスパンで見ると、この20%の差は資産形成において決定的な違いを生み出します。

(2)受取時の退職所得控除

積み立てた資産を退職時に受け取る際、そのお金は「退職所得」として扱われ、「退職所得控除」という非常に手厚い控除を受けることができます。

たとえば30年間積み立てた場合、退職所得控除額は1,500万円。さらに、控除しきれなかった分も、その2分の1にしか税金がかからないというルールがあります。役員報酬として毎月受け取れば所得税・住民税で最大55%の税率がかかることを考えると、退職金として受け取る際の手残りは圧倒的に有利です。

掛金が全額損金になる効果

3つ目のメリットは、掛金が全額損金になることによる法人税の圧縮効果です。

通常、社長個人の老後資金を会社で準備しようとすると、まず会社で利益を出し、法人税を支払い、その残りを内部留保として貯めていく、というプロセスを踏みます。法人税率を約30%とすると、100万円の利益が出ても手元に残るのは70万円。残り30万円は税金として消えていきます。

ところが、企業型DCで会社が支払った掛金は、全額「経費」として処理できます。つまり、法人税を支払う前のお金を、そのまま将来の社長個人の年金資産として積み立てられるのです。

もちろん、年金制度である以上、60歳までは引き出せないという制約はあります。しかしその代わりに、運用益も非課税、給与ではないため社会保険料もかかりません。会社から見れば「経費」で節税になり、個人から見れば効率よく資産が増える、まさに一石二鳥の制度といえます。

毎月5.5万円で5,000万円を作るシミュレーション

それでは、実際にどれくらいの資産が形成できるのか、具体的にシミュレーションしてみましょう。

企業型DCの掛金は、月5万5,000円が上限となっています。年間では最大66万円の積み立てが可能です。なお、確定給付企業年金(DB)など他制度と併用している場合は、「5万5,000円から他制度分を引いた額」が上限となります。

さらに、この上限は今後6万2,000に引き上げられる予定です。現行制度では企業型DCに加入しているとiDeCoの掛金は月2万円までに制限されますが、改正後はこの制限がなくなり、企業型DCとiDeCoの合計で月6万2,000円まで掛けられる方向で議論が進んでいます。

内部留保で貯める場合との比較

ここで、会社の内部留保で5,000万円を貯める場合と、企業型DCで積み立てる場合を比較してみましょう。

項目 内部留保で貯める場合 企業型DCで積み立てる場合
必要な税引前利益 約7,500万円 1,650万円(元本)
法人税負担 約2,500万円 0円(全額損金)
運用益への課税 約20% 非課税
最終的な手元資金 5,000万円 約5,000万円超(年利8%想定)

 

内部留保で5,000万円を残すには、法人税率33%として、税引前で約7,500万円の利益を出し、2,500万円もの税金を支払う必要があります。

一方、企業型DCで月5万5,000円を25年間積み立てた場合、元本の合計は「5.5万円×12ヶ月×25年」で1,650万円。この1,650万円は全額損金処理されるため、法人税は発生しません。さらに、これをS&P500などのインデックスファンドで運用し、仮に年利8%で回ったとすると、25年後の資産総額はおよそ5,000万円を超えてきます。

もちろん投資である以上、必ず増える保証はありません。しかし25年という長期スパンで見れば、リスクはある程度抑えられます。仮に保守的に見積もって年利3%で計算しても、約2,500万円にはなります。3%でも元本を大きく上回るわけです。

重要なのは、たとえ不足分を内部留保で補填する必要があったとしても、企業型DCをベースとすることで、用意すべき現金の額が大幅に減るという点です。ゼロから内部留保で5,000万円を作る労力に比べれば、企業型DCを活用する合理性は明らかです。

従業員全員を加入させる必要はない「選択制」

ここまで読まれた経営者の方の中には、「福利厚生制度なら、従業員全員に適用しなければならないのではないか」という懸念を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、全従業員分の掛金を会社が負担することになれば、コスト負担は膨大なものになります。

しかし実務上は、「選択制」という非常に柔軟な導入方法があります。これは、給与の一部を「生涯設計手当」などに設定し、この手当を企業型DCの掛金とするか、これまで通り給与として受け取るかを、従業員本人が選択できる制度です。

この仕組みを使えば、資産形成に関心の高い社長や一部の役員だけが満額で加入し、手取りを優先したい従業員は加入しない、という運用が可能になります。「制度は用意したので、活用するかどうかは各自で判断してください」という形にできるため、社内の不公平感も生まれにくく、社長の退職金設計を主目的とした導入であってもハードルは低いといえます。

導入コストと社会保険料削減効果

導入には一定のコストがかかります。初期費用としては、導入一時金が10万〜20万円、口座開設手数料が1人あたり3,000円程度。維持費としても、事業主手数料や加入者手数料が毎月発生します。

ただし、このコストをカバーできる効果もあります。それが社会保険料の削減効果です。選択制DCで給与の一部を掛金に振り替えると、その分は社会保険料の計算基礎から外れます。つまり、会社負担分と個人負担分の両方で社会保険料が下がる可能性があるのです。

削減額は掛金や加入人数によって変動しますが、社会保険料の削減分が運営コストの一部を補ってくれるケースも少なくありません。

倒産・破産から老後資金を守る法的保護

経営者であれば、必ず押さえておくべき企業型DCの決定的なメリットがもう一つあります。それは、企業型DCの積立金が法律によって「差押禁止債権」と定められていることです。

つまり、会社の借入金の担保として差し押さえられたり、債権者から回収されたりすることがありません。

中小企業の経営は常にリスクと隣り合わせです。万が一、会社の経営が傾いて倒産してしまった場合、あるいは最悪の場合、社長個人が自己破産に追い込まれるような事態に至ったとしても、企業型DCに積み立てた資産だけは差し押さえの対象から外れ、社長個人の老後資金として確実に手元に残ります。

会社と運命を共にしがちな経営者だからこそ、いかなる事態が起きても守られる個人資産を確保しておくことは、極めて重要です。これは単に老後の安心というだけでなく、経営判断を冷静に行うための心の余裕にもつながります。役員報酬を少しずつ貯めていく方法に比べて、圧倒的に安全かつ効率的な資産形成手段といえるでしょう。

まとめ

今回は、社長の老後資金5,000万円を節税しながら効率的に準備する方法として、企業型確定拠出年金(企業型DC)について解説してきました。

要点を整理すると、企業型DCは中小企業の導入率がわずか2.5%にとどまっており、知っているだけで他の経営者と大きな差をつけられる制度です。掛金は全額損金算入、運用益は非課税、受取時には退職所得控除という3段階の税制優遇が用意されており、月5万5,000円を25年積み立てれば年利8%想定で5,000万円超の資産形成も視野に入ります。

また、「選択制」を活用すれば従業員全員を加入させる必要はなく、社長を含む希望者だけが活用する設計も可能です。さらに、積立金は差押禁止債権として法的に守られており、万が一の事態でも個人の老後資金として確保できます。

老後資金の準備に悩む経営者の方は、まず自社で企業型DCの導入が可能かどうか、検討してみる価値は十分にあります。内部留保で貯めるよりも、はるかに効率的かつ安全に資産を形成できる仕組みが、すでに制度として用意されているのです。

本記事の元となった動画では、税理士が企業型DCの仕組みや具体的なシミュレーション、選択制の運用イメージについて、さらに詳しく解説しています。文章だけでは伝えきれない実務的なポイントも盛り込まれていますので、ぜひ動画もあわせてご覧ください。

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