国が提供する助成金は、企業の採用活動、人材育成、職場環境改善などを後押しし、経営を支える重要なツールです。返済不要の資金であるため、積極的に活用したいところですが、「種類が多すぎて、どれが自社に合うのか分からない」「制度が頻繁に変わるため、最新情報を追うのが大変」と感じている経営者の方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、2025年度(令和7年度)において、特に中小企業の経営者が注目すべき、比較的活用しやすいと思われる7つの助成金をピックアップし、その概要やポイントを解説します。
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1. キャリアアップ助成金
概要と目的
キャリアアップ助成金は、パートタイマー、アルバイト、契約社員といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップ(正社員化、処遇改善など)を促進するため、事業主に対して助成する制度です。多様なコースが用意されています。
注目コース:「正社員化コース」
中でも特に多くの企業で活用されているのが「正社員化コース」です。これは、有期雇用労働者等を正規雇用労働者(正社員)に転換、または直接雇用した場合に助成金が支給されるものです。
2025年度(令和7年度)の主な改正点(2回目支給要件)
従来、有期雇用労働者を正社員に転換し、6ヶ月雇用を継続すると1回目の助成金(令和6年度:中小企業で1人あたり40万円 ※以下、助成額は特に断りがない限り中小企業の額)が支給され、さらに6ヶ月(合計12ヶ月)雇用を継続すると2回目の助成金(同40万円)が支給されていました。 令和7年度からは、この2回目の支給対象者が「重点対象者」に限定される見込みです。重点対象者とは、以下のような労働者を指します。
- 雇用期間が3年以上の有期雇用労働者
- 雇用期間が3年未満でも、過去の経歴から不安定な雇用が継続していると認められる有期雇用労働者
- 人材開発支援助成金の対象訓練修了者、派遣労働者、母子家庭の母等 など
つまり、雇用期間3年未満で上記に該当しない有期雇用労働者を正社員化した場合、1回目の40万円は受給できますが、2回目の支給(合計80万円)は対象外となる可能性がある点に注意が必要です。とはいえ、該当すれば引き続き大きな助成が受けられます。
2. 人材開発支援助成金
概要と目的
人材開発支援助成金は、従業員のスキルアップや能力開発のために、職業訓練などを計画的に実施した事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。こちらも複数のコースがあります。
注目コース:「事業展開等リスキリング支援コース」
特に活用しやすいのが「事業展開等リスキリング支援コース」です。これは、企業の事業展開(新製品製造、新サービス提供など)やDX化に伴い、従業員に新たな分野で必要となる専門的な知識・技能を習得させるための訓練を実施した場合に利用できます。
2025年度(令和7年度)の主な改正点(賃金助成額)
令和6年度は、中小企業の場合、訓練経費の75%、訓練期間中の賃金として1人1時間あたり960円が助成されていました。令和7年度からは、経費助成率は維持しつつ、賃金助成額が1人1時間あたり1,000円に引き上げられる見込みです。中小企業以外(大企業等)も480円から500円への引き上げが予定されています。
助成額イメージ
例えば、中小企業が従業員1人に対し「受講料40万円(税込)・訓練時間75時間」の外部研修を受けさせたとします。
- 経費助成:40万円 × 75% = 30万円 (訓練時間100時間未満の経費助成上限額が30万円のため、満額受給)
- 賃金助成:1,000円 × 75時間 = 75,000円
- 合計助成額:30万円 + 75,000円 = 37万5,000円 もし10人の従業員に同様の研修を実施すれば、合計で375万円の助成が受けられる計算になります。
その他の注目コース:「人への投資促進コース」
デジタル人材や高度人材の育成を目的とした訓練を支援する「人への投資促進コース」も注目です。こちらも一部訓練について、令和7年度に賃金助成額の引き上げが予定されています。
3. 両立支援等助成金
概要と目的
仕事と育児や介護といった家庭生活との両立を支援する取り組みを行った事業主に対して支給される助成金です。従業員が安心して働き続けられる環境整備を後押しします。
注目コース:「介護離職防止支援コース」(令和7年度拡充)
高齢化が進む中で重要性が増しているのが、仕事と介護の両立支援です。令和7年度には「介護離職防止支援コース」が拡充される見込みです。このコースでは、労働者が円滑に介護休業を取得し、職場復帰できるような取り組み(相談体制の整備、制度の周知、休業取得、復帰後の支援など)を行った場合に助成金が支給されます。介護休業取得時・職場復帰時に最大60万円の助成が予定されているほか、介護休業中の代替要員の確保や業務支援のための手当支給などに対する助成も検討されています。
その他のコース(出生時両立支援コースなど)
男性の育児休業取得を推進する「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」など、育児関連の支援コースも複数用意されています。企業の社会的評価にも繋がる取り組みであり、活用を検討する価値は高いでしょう。
4. 早期再就職支援等助成金
注目コース:「中途採用拡大コース」
中途採用を積極的に行い、雇用管理制度を整備・実施する事業主を支援するコースです。具体的には、対象期間内の中途採用率を前年度等と比較して20ポイント以上上昇させた場合に50万円が助成されます。さらに、その上で45歳以上の中途採用率を一定以上上昇させるなどの要件を満たすと、助成額が100万円に増額されます。
助成内容と要件
助成対象となるのは、期間の定めのない労働者として、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として中途採用した場合です。採用前1年以内に当該企業で就労(雇用、出向、派遣等)したことがない、などの要件があります。
注意点(雇入れ支援コースの廃止)
以前あった「雇入れ支援コース」(離職から1年以内の45歳以上の労働者を雇い入れた場合の助成)は、令和6年度末で廃止されています。
5. 65歳超雇用推進助成金
概要と目的(高年齢者版キャリアアップ助成金)
高年齢者が意欲と能力に応じて活躍し続けられる「生涯現役社会」の実現を目指し、高年齢者の雇用環境整備に取り組む事業主を支援する助成金です。キャリアアップ助成金の高年齢者版とも言えます。
注目コース:「高年齢者無期雇用転換コース」
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者(契約期間が通算5年以内)を、無期雇用労働者に転換させた場合に助成金が支給されます。
助成内容と要件
対象労働者1人あたり、中小企業の場合は30万円、中小企業以外の場合は23万円が助成されます。1事業所あたりの年間支給申請上限は10人まで(中小企業の場合、最大300万円/年)となっています。比較的活用しやすい要件であり、該当する従業員がいる場合は検討したい制度です。
6. トライアル雇用助成金
概要と目的(お試し雇用)
職業経験の不足などから安定的な就職が困難な求職者を、ハローワーク等の紹介により、原則3ヶ月間試行的に雇用(トライアル雇用)する事業主に対して支給される助成金です。企業側は助成金を受けながら、求職者の適性や能力を見極めることができます。
助成内容と対象者
助成額は、対象者1人あたり月額最大4万円(最長3ヶ月、合計最大12万円)です。対象者が母子家庭の母または父子家庭の父の場合は月額最大5万円(合計最大15万円)となります。対象となる求職者には、紹介日時点で就労経験のない職業を希望している、学校卒業後3年以内で安定した職業に就いていない、過去2年以内に2回以上離職・転職を繰り返している、などの要件があります。
7. 特定求職者雇用開発助成金
注目コース:「中高年者安定雇用支援コース」(令和7年度新設)
令和6年度で終了した「就職氷河期世代安定雇用実現コース」に代わり、令和7年度から新設される見込みのコースです(予算案ベース)。不安定な就労状態にある中高年層(35歳~59歳を想定)の正規雇用化を支援します。
助成内容と対象者
ハローワーク等の紹介により、対象となる労働者を正規雇用労働者として雇い入れ、雇用を継続した場合に助成金が支給されます。6ヶ月の雇用継続で30万円、さらに6ヶ月(合計12ヶ月)の継続で追加30万円、最大60万円の助成が予定されています。対象者の詳細な要件等は、今後の正式発表を確認する必要があります。
まとめ
2025年度(令和7年度)も、企業の人材確保や育成、働きがいのある環境づくりを支援するための様々な助成金が用意されています。キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金のように定番となっているものから、両立支援や中高年支援のように時代のニーズに合わせて拡充・新設されるものまで多岐にわたります。
自社の経営課題や人材戦略に合わせて、これらの制度を有効に活用することで、コスト負担を軽減しつつ、企業の成長につなげることが可能です。ただし、助成金制度は要件が細かく、改正も頻繁に行われます。申請を検討する際は、必ず厚生労働省のウェブサイトやパンフレットなどで最新の公式情報を確認するようにしてください。また、手続きが複雑な場合もあるため、社会保険労務士などの専門家に相談することも有効な手段です。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な事例などを知りたい場合に、参考にしてください。