「今期は予想以上に利益が出そうだ。税金で持っていかれるくらいなら、役員賞与を出して節税したい」そう考える経営者の方は多いでしょう。しかし、「役員賞与は経費にならない」という原則があるため、二の足を踏んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
実は、ある手続きを踏むことで、役員賞与を経費(損金)に算入できるだけでなく、社会保険料まで大幅に削減できる「一石二鳥」の方法が存在します。ただし、この方法は金額設定を誤ると、かえって社長個人の税負担が増え、トータルで損をしてしまう可能性もあります。
今回は、役員賞与を損金にするための条件「事前確定届出給与」の仕組みから、社会保険料削減のカラクリ、そして最も得するボーナス金額の設定方法まで、税理士の視点から徹底解説します。
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1.役員賞与を全額経費にする「事前確定届出給与」とは
原則は損金不算入だが…
役員に対する賞与は、原則として法人の経費(損金)にはなりません。これは、決算間際に利益調整のために賞与を出すことを防ぐためです。しかし、「事前確定届出給与」という制度を使えば、例外的に損金算入が認められます。
経費にするための厳しい条件
事前確定届出給与とは、簡単に言えば「いつ、誰に、いくら支払うか」を事前に税務署に届け出て、その通りに支払う給与のことです。条件は非常に厳格です。
- 提出期限:株主総会から1ヶ月以内、または会計期間開始日から4ヶ月以内のいずれか早い日までに届け出ること。
- 完全一致の原則:届け出た支給日、支給額と1円でも1日でもズレると、支給した全額が損金不算入になります。
例えば、「業績が良いから50万円上乗せしよう」とした場合、上乗せ分だけでなく、当初予定していた金額も含めて全額が経費として認められなくなります。事前の緻密な利益計画が不可欠です。
2.役員賞与を活用する2つの強力なメリット
厳しい条件をクリアしてまで役員賞与を出すメリットはどこにあるのでしょうか。
メリット①:社会保険料の大幅削減
これが最大のメリットです。役員報酬(月額給与)と役員賞与では、社会保険料のかかり方が異なります。特に厚生年金保険料には、「1回の賞与につき150万円まで」という上限があります。150万円を超える部分には、厚生年金保険料がかからないのです。
例えば、年収1,200万円を「月額100万円」で受け取る場合と、「月額5万円+賞与1,140万円」で受け取る場合を比較すると、後者の方が年間で約100万円以上も社会保険料(会社負担+個人負担)を削減できる可能性があります。トータルの年収を変えずに、手取りを増やせる強力なスキームです。
メリット②:利益変動への対応(全額不支給)
事前確定届出給与は、金額の変更は認められませんが、「全額不支給(0円)」にすることは可能です。期中で業績が悪化し、賞与を出す余裕がなくなった場合、支給日前に株主総会等で「全額不支給」を決議すれば、ペナルティなく支給を取りやめることができます。これにより、ある程度の利益変動リスクに対応することが可能です。
3.ボーナスはいくら出すのが正解?損益分岐点の見極め方
では、具体的にいくら賞与を出せば得をするのでしょうか。
「150万円の壁」を意識する
社会保険料削減効果を狙うなら、厚生年金保険料の上限である「150万円」を超える金額を設定するのが一つの目安です。150万円以下の少額な賞与では、社会保険料の削減メリットは薄く、手続きの手間だけが増えてしまいます。
法人税と個人所得税のバランス
もう一つ重要な視点は、法人税と個人の税金のバランスです。役員賞与を出すことで会社の利益を圧縮し、法人税を減らすことができます。特に中小企業の場合、年800万円以下の利益に対する法人税率は約15%と低いため、利益を800万円以下に抑える調整弁として賞与を使うのは有効です。
しかし、個人の所得税は累進課税のため、年収が上がると税率が最大45%(住民税込みで55%)まで跳ね上がります。会社で節税できても、社長個人の税金がそれ以上に増えてしまっては意味がありません。個人の税負担率が、法人税の実効税率(約34%)を超えないラインを見極めることが重要です。
「将来の退職金」という選択肢も
目先の節税だけでなく、会社にお金を残して将来の「役員退職金」として受け取る選択肢も忘れてはいけません。退職金は税制優遇が非常に大きく、社会保険料もかからないため、長期的に見れば最も手残りが多くなる可能性があります。
まとめ
役員賞与(事前確定届出給与)は、正しく使えば社会保険料削減と法人税対策の両立が可能な、非常に強力なツールです。しかし、その運用には厳格なルールがあり、金額設定を間違えると逆効果になるリスクもあります。
- 期限内に正確に届け出る
- 1円単位、1日単位で実行する
- 社会保険料の上限(150万円)を意識する
- 法人と個人のトータル税負担をシミュレーションする
これらを徹底し、自社に最適な役員報酬プランを設計してください。不安な場合は、節税シミュレーションに強い税理士に相談することをお勧めします。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的なシミュレーションや届出の注意点などを知りたい場合に、参考にしてください。