賞与(ボーナス)を活用した節税と社会保険料削減のポイント

会社から支払われる「賞与(ボーナス)」は、従業員のモチベーション向上や利益の還元といった目的だけでなく、実は法人税の節税や社会保険料の負担軽減といった側面からも有効に活用できる場合があります。ただし、その対象が従業員なのか役員なのかによって、税務上の取り扱いや活用できるスキームが大きく異なるため、正確な理解が不可欠です。

「役員賞与は経費にならないのでは?」「賞与で社会保険料が本当に減るの?」といった疑問をお持ちの経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、役員賞与を経費として損金算入するための具体的な方法、従業員への決算賞与を活用した節税策、そして役員報酬と賞与の支給バランスを工夫することによる社会保険料削減のポイントとその注意点について、詳しく解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 役員賞与を経費(損金)にする方法:「事前確定届出給与」

役員賞与が原則損金不算入となる理由

まず基本的なルールとして、役員に対して支給される賞与は、原則として法人税法上の損金(経費)には算入できません。これは、役員が自身の報酬額をある程度自由に決定できる立場にあるため、期末の利益状況を見て恣意的に役員賞与を支給し、法人税負担を不当に軽減することを防ぐためです。

「事前確定届出給与」とは?

しかし、この原則には例外があり、一定の要件を満たせば役員賞与も損金として認められます。その代表的な方法が「事前確定届出給与」という制度を活用することです。

制度の概要(事前に支給日・金額を届出)

事前確定届出給与とは、その名の通り、「誰に、いつ、いくら支給するか」を事前に決定し、その内容を記載した「事前確定届出給与に関する届出書」を所轄の税務署長へ提出し、その届け出た通りに支給する給与(賞与を含む)のことです。この手続きを踏むことで、支給した役員賞与を損金に算入することが可能になります。

届出の手順と期限

事前確定届出給与を利用するための主な手順と期限は以下の通りです。

  1. 株主総会等での決議: まず、株主総会(または社員総会など)で、役員賞与の支給対象者、支給日、支給金額を具体的に決議します。この際、議事録を必ず作成・保存しておく必要があります。
  2. 届出書の提出: 上記で決議した内容を記載した「事前確定届出給与に関する届出書」を、以下のいずれか早い日までに税務署へ提出します。
    • 株主総会等の決議日から1ヶ月を経過する日
    • その会計期間開始の日から4ヶ月を経過する日 (例:3月決算法人で、会計期間開始が4月1日、株主総会を6月20日に行った場合、提出期限は7月20日となります。)

活用上の注意点

事前確定届出給与は、損金算入というメリットがある一方で、非常に厳格な運用が求められます。

  • 届出通りの支給が必須: 届け出た支給日と支給金額は、1日でも1円でもズレてはいけません。 もし届け出た内容と異なる支給をした場合、その支給額の全額が損金不算入となってしまいます。
  • 不支給の場合の手続き: 業績悪化などの理由で、届け出た賞与を支給しない(または減額する)という判断をすることもあるでしょう。この場合、実際に支給しなかった(または減額した)金額については、当然ながら損金にはなりません。不支給とする場合は、役員から会社に対して「事前確定届出給与の辞退届」を提出してもらい、その旨を株主総会で決議し、議事録を残しておくといった手続きが望ましいです。
  • 決算対策としての活用可能性: この制度の厳格さを逆手に取り、決算月の直前に支給日を設定した事前確定届出給与を届け出ておくことで、期末の利益状況に応じて支給するか否かを判断する、という決算対策のオプションとして活用することも考えられます。利益が出そうなら届け出通りに支給して損金算入し、利益が出ていなければ不支給(または辞退)の手続きを取る、という方法です。ただし、毎期のように不支給が続く場合は、制度の濫用と見なされるリスクも考慮する必要があるでしょう。

2. 従業員への賞与(決算賞与)で節税する方法

従業員賞与は原則全額損金算入

役員賞与とは異なり、従業員に対して支払われる賞与は、不相当に高額でない限り、原則として全額を損金に算入することができます。これは、従業員の労働の対価であり、利益調整の手段とはなりにくいためです。

「決算賞与」とは?(期末の利益処分)

特に節税策として有効なのが「決算賞与」です。決算賞与とは、その事業年度の業績が好調だった場合に、決算日を迎えるにあたって従業員に支給される臨時の賞与のことです。これにより、会社の利益を従業員に還元するとともに、法人税の負担を軽減することができます。

決算賞与を当期の損金にするための3つの要件

決算賞与を、実際に支払うのが翌期首であったとしても、当期の損金として計上するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  • (1) 決算日までに、支給対象となる全従業員それぞれに対して、その支給額を通知していること。 口頭ではなく、書面で通知するのが確実です。
  • (2) (1)で通知した金額を、決算日の翌日から1ヶ月以内に、全対象従業員に対して支払っていること。
  • (3) (1)で通知した金額について、当期の損金として経理処理(未払金計上など)をしていること。

これらの要件を満たせば、期末ギリギリのタイミングでも、駆け込みで節税対策を行うことが可能です。

注意点:役員には適用不可、資金繰りへの影響

この決算賞与のルールは、あくまで従業員に対するものであり、役員に対して適用することはできません(役員賞与は前述の事前確定届出給与等のルールに従います)。また、決算賞与を支給すれば、その分会社のキャッシュは減少します。節税効果はありますが、資金繰りを圧迫しない範囲で支給額を決定することが重要です。

3. 【裏ワザ】役員報酬と賞与のバランスで社会保険料を削減する方法

最後に、役員報酬と賞与の支給バランスを工夫することで、経営者自身や役員の社会保険料負担を軽減する方法について触れます。これは法人税の節税とは異なりますが、会社と個人の手残りを増やす効果が期待できます。

社会保険料の計算基礎と上限

健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)それぞれに対してかかります。重要なのは、この標準報酬月額と標準賞与額には上限が設けられている点です。

  • 毎月の給与にかかる社会保険料の上限: 健康保険料の算定基礎となる標準報酬月額の上限は139万円(令和4年3月時点、協会けんぽ東京支部の場合)、厚生年金保険料の算定基礎となる標準報酬月額の上限は65万円(令和2年9月~)です。
  • 賞与にかかる社会保険料の上限: 健康保険料は、年度の累計標準賞与額が573万円で上限となります。厚生年金保険料は、1回の支給につき150万円が上限です。

つまり、これらの上限額を超える給与や賞与を受け取っても、上限を超えた部分については社会保険料がかからないのです。

削減スキームの仕組み

この上限制度を利用し、年間の役員報酬総額は変えずに、毎月の役員報酬額を極端に低く設定し(例えば、社会保険の等級が最低になる月額5万円程度)、残りの大部分を高額な役員賞与(事前確定届出給与として届出が必要)として年1~2回に集中して支給するという方法が考えられます。 こうすることで、毎月の社会保険料は最低額に抑えられ、賞与についても上限額を超える部分には社会保険料がかからないため、トータルの社会保険料負担を大幅に削減できる可能性があります。

具体的な削減効果シミュレーション

例えば、協会けんぽ(東京都、40歳以上)加入の経営者が年間1,200万円の役員報酬を受け取る場合、

  • 月100万円の役員報酬で受け取る場合
  • 月5万円の役員報酬(年間60万円)+ 賞与1,140万円で受け取る場合 この2つのケースで社会保険料(会社負担分と個人負担分の合計)を比較すると、後者の方が年間で約140万円も社会保険料が安くなるという試算例もあります(※実際の金額は加入する健康保険組合や年度によって異なります)。

【重要】制度改正リスクと現状

この社会保険料削減スキームは、非常に大きな効果がある一方で、厚生労働省がその実態を問題視し始めています。社会保険料負担の公平性の観点から、賞与にかかる社会保険料の上限額が引き上げられたり、役員報酬を極端に低く設定しているケースに対して何らかの規制が設けられたりする可能性も否定できません。

実際に、社会保険料の算定基礎となる標準賞与額の上限については、将来的な引き上げが議論されている状況です。このスキームの活用を検討する際は、将来的な制度変更リスクも念頭に置く必要があります。

まとめ

賞与の支給方法を工夫することは、法人税の節税や社会保険料の負担軽減において、有効な手段となり得ます。役員賞与については、「事前確定届出給与」の制度を厳格に遵守することで損金算入が可能となり、決算対策としても活用できます。従業員への決算賞与は、要件を満たせば期末直前の利益処分としても有効であり、従業員のモチベーションアップにも繋がります。

また、役員報酬と賞与の支給バランスを見直すことによる社会保険料削減スキームは、大きな効果が期待できる一方で、その持続性については制度改正のリスクもはらんでいます。

いずれの方法も、そのメリット・デメリット、適用要件、そして潜在的なリスクを十分に理解した上で、自社の状況に合わせて慎重に検討・実行することが重要です。特に役員賞与や社会保険料の取り扱いについては、税理士や社会保険労務士などの専門家とよく相談し、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な手続きや最新の動向について知りたい場合に、参考にしてください。

 

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