寄与分とは?円満相続のために絶対に必要な4つの知識
- 2024年9月20日更新
あなたは、ご自身に万一のことがあった場合の相続の際の遺産の分け方をどうしようかとお考えになって、「寄与分」についてお調べになっていることと思います。
寄与分は、言ってみれば、ご家族の中に、あなたの事業の成功に貢献した方とか、あなたの病気療養や介護の世話をした方がいた場合、相続の時にその方に多めに遺産を相続させてあげようという制度です。
相続が円満にいくためには、あなたご自身があらかじめ、財産がご家族に公平に分配されるよう配慮し、それを遺言として残しておくことです。
その際、寄与分の制度の内容を理解しておくと、大いに参考になるはずです。
この記事では、寄与分について、どのような制度なのか、具体的な相続分の計算にどのように反映されるのかなど、円満な相続のために役立つ知識を分かりやすくお伝えします。
保険の教科書編集部
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目次
1.円満相続のために必要なのは遺言を残すことと日頃のコミュニケーション
まず、寄与分について説明する前に、もっと大切な「遺言」についての話を簡単にお伝えします。なぜならば、それを十分に理解しておかなければ、寄与分のことを学んでもよく活かせないからです。
円満相続のためには遺言が絶対に必要
相続で最も尊重されるのは、あなた(被相続人)ご自身の遺志です。遺族は、あなたの遺志がよほど不合理でない限り、それに従うものだと思います。
そして、あなたの遺志を伝える一番の手段は、遺言(「いごん」と読みます)を残すことです。したがって、円満な相続を実現するためには、最低限、遺言を残しておいてあげることが絶対に必要なのです。
遺言の様式は法律で厳格に決まっています。したがって、できれば、行政書士・司法書士・弁護士といった専門家のアドバイスを受けて作成した上、公正証書遺言のような確実な形で残しておくことをおすすめします。
円満相続のためには遺言の内容を公平なものにしなければならない
ただ、遺言を残しておくことは、あくまで最低限です。円満な相続のためには、遺言に書かれている遺産の分け方が、ご家族それぞれに対する配慮が行き届いた公平なものでなければなりません。
そういう遺言を残すためには、今回説明する「寄与分」をはじめとして、相続に関する法律を知っておく必要があります。
どういうことなのか、次に具体例で説明します。
私の知っているある自営業の男性の方(Aさんとします)の実例で、現在進行中の話です。
なお、記事で紹介するにあたり、実名を伏せるという条件で、ご本人の了解を得ています。
Aさんには、奥様Bさんと2人のお子様(長男Cさん・次男Dさん)がいらっしゃいます。
長男Cさんは高校を卒業してすぐ家業を継ぐため後継者として働きました。
次男Dさんは大学に通い会社員になりましたが、休日に家業の手伝いをすることもありました。その際、次男Dさんは特に報酬は受け取っていません。
その後、長男Cさんは結婚し、Aさんは、長男Cさんのために自宅敷地内に別棟として家を建ててあげました。
一方、次男Dさんは実家を出て家を借り、結婚した後に持ち家を建てました。その際、Aさんは、事業の業績が思わしくなかったため、資金援助をしてあげられませんでした。
現在、Aさんは、ご自身がこの世を去った後のことについて考え始めています。そして、妻Bさん、長男Cさん・次男Dさんにどのように遺産を分けたら良いのか決めなければと思っています。
遺産は、妻Bさんと一緒に住んでいる店舗兼自宅とその敷地(同じ敷地内に長男Cさんの家が建っている)、現預金等です。
これらの財産をどのように分けるか、特に、2人の子・長男Cさんと次男Dさんのバランスをどうとるのかは、頭の痛い問題です。
ざっと思いつくだけでも、以下のような問題があります。
- 長男Cさんが家業の後継者として重責を担ってくれている点をどう考えるべきか
- 次男Dさんだけ大学に行かせてあげた点をどう考えるべきか
- 次男Dさんが休日に時々無報酬で家業を手伝ってくれていた点をどう考えるべきか
- 長男Cさんが家を建てるのに自宅の敷地を提供し、建物の建築資金も援助してあげたことをどう考えるべきか
- 次男Dさんが持ち家を購入するのに一切資金援助をしてあげられなかった点をどう考えるべきか
Aさんはこういったことに配慮してあげなければなりません。それは、きれいにすっぱりと正解が出せるものではありません。
Aさんの事例は、それほど特殊なものではなく、普通の家庭のありふれた話だと思います。しかし、そんなありふれた家庭でこそ、相続は非常に難しいのです。
寄与分の制度を知っておくことは遺言を作成する上での指針になる
こういうとき、やはり、何らかの指針が必要でしょう。
その時に役立つのは、「寄与分」の制度をはじめとして、相続に関する基本的な制度の枠組みを理解しておくことです。
なぜなら、相続に関する法律は、「誰にどのように分けるのが公平なのか?」ということを考え抜いた末に作られたものだからです。
したがって、遺言を残すにしても、ある程度理解しておけば、指針になるはずです。
最高の相続のためには日頃からご家族に想いを伝えること
さて、ご家族のそれぞれの事情に配慮した内容の遺言書を作成できたとして、それで終わりではありません。ご自身のご家族への思いが伝わらなくては、相続は本当の意味で完成しません。
ご家族に遺言を残すことも、相続に関する制度を理解することも、思いを伝えるためのツールにすぎません。
そのために、何よりも、日頃からご家族と良好な関係を保ち、緊密にコミュニケーションをとっておくことが大切です。どれほど深い愛情を持ち、大切に思っていても、言葉に表さなければ、伝わらないものだと思います。
前置きが長くなってしまいましたが、以上の点を念頭に置いて、読み進めていただければ嬉しいです。
2.寄与分とは何か
ここでは、寄与分とは何なのか、イメージしやすいようにお伝えします。
なお、寄与分が現実に機能するのは、遺言がなく、相続人が遺産を分けるための話し合い、つまり「遺産分割協議」をすることになった場合です。そして、もしも寄与分の額について遺産分割協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に申し立てをして、額を決めてもらうことになります。
したがって、以下はそのような場合を想定してお読みください。
寄与分とは、ご家族(相続人)の中に、あなた(被相続人)の財産を増やしたり維持したりするのに役立った方(寄与者)がいた場合、その分をいったん相続財産から差し引いてから、残った財産について、法律が定めた相続人の相続分(法定相続分)を算出するというものです。
なお、相続分については、詳しくは「法定相続分とは?相続対策に欠かせない3つの基礎知識」をご覧ください。
配偶者と子が相続人の場合、法定相続分は配偶者が1/2、子が「1/2÷頭数」です。したがって、上の例のAさんのケースでは、妻Bさんは1/2、長男Cさんと次男Dさんは1/4ずつということになります。
そして、このようにそれぞれの法定相続分を算出した後で、相続財産から差し引いておいた寄与分を、寄与者の財産にプラスしてあげるのです。
もし、仮に次男Dさんに寄与分があったとしたら、以下のイメージ図のようになります。
3.寄与分が認められるのは現実に財産が増やせたか、減るのが防止できた場合
相続人の寄与分が認められる条件は、相続人の行為が被相続人(相続される人。上の例ではAさん)の財産の維持、または増加に特別に役立ったことです。
民法の条文(904条の2)では、そういった行為の例として、
- 被相続人の事業のために労務を提供したこと
- 被相続人の事業のために特別の支出をしたこと
- 被相続人の療養看護をしたこと
の3つの例を挙げています。あくまで例なので、これ以外のことも「寄与」になりえます。
ただし、注意が必要なのは、あくまでも、
- 結果として被相続人の財産の維持、または増加につながったこと
- その寄与が「特別」なものだったこと
が必要です。
以下、それぞれについてお話しします。
3-1.財産の維持・または増加につながったこと
もう一度、上で挙げたAさん一家の事例を思い出してください。事案をざっとおさらいすると、以下の通りでした。
〈事案〉
- Aさんには、奥様Bさんと2人のお子様(長男Cさん・次男Dさん)がいる
- 長男Cさんは高校を卒業してすぐ家業を継ぐため後継者として働いた
- 次男Dさんは大学に通い会社員になったが、休日に無報酬で家業の手伝いをすることもあった
- Aさんは、長男Cさんのために自宅敷地内に別棟として家を建ててあげた
- 次男Dさんは実家を出て独立し、その後、持ち家を建てたが、その際、Aさんは、事業の業績が思わしくなかったため、資金援助をしてあげられなかった。
そして、Aさんが、特に、長男Cさん・次男Dさんにご自身の財産をどのように相続してもらうか考えるにあたっての問題は、以下の通りです。赤で示した項目が、「寄与分」が問題になる部分です。
〈相続にあたっての懸案事項〉
- 長男Cさんが家業の後継者として重責を担ってくれている点をどう考えるべきか
- 次男Dさんだけ大学に行かせてあげた点をどう考えるべきか
- 次男Dさんが休日に時々無報酬で家業を手伝ってくれていた点をどう考えるべきか
- 長男Cさんが家を建てるのに自宅の敷地を提供し、建物の建築資金も援助してあげたことをどう考えるべきか
- 次男Dさんが持ち家を購入するのに一切資金援助をしてあげられなかった点をどう考えるべきか
長男Cさんも次男Dさんも、それぞれにAさんの事業のために労務を提供したと言えます。
ただし、ここで事案の「5」を読んでみてください。
「次男Dさんは実家を出て独立し、その後、持ち家を建てたが、その際、Aさんは、事業の業績が思わしくなかったため、資金援助をしてあげられなかった。」
これは、次男Dさんが家を建てた時の話なので、現時点からみれば過去の話です。しかし、もしも現在も事業の業績が思わしくない状態が続いていたような場合には、長男Cさんも次男Dさんも寄与分が認められない可能性があります。
つまり、民法の寄与分の規定は、実際に骨を折ってくれただけでなく、実際に財産の維持・増加の効果があった場合に限って寄与分を認めているのです。
本当の意味での相続人間の公平を考えるならば、財産の維持・増加という結果につながらなかったとしても、頑張ってくれた労力を正当に評価してあげるのが理想です。しかし、民法の規定はそうなっていないのです。
Aさんが長男Cさん・次男Dさんの数字に表れない貢献についてもきちんと配慮してあげたいのであれば、その思いを反映させた遺言を残しておくしかないということです。
そういう意味で、法律の規定には限界があり、だからこそ、円満な相続のためには遺言を作成することが大切なのだと言えます。
3-2.「特別の」寄与をしたこと
次に、忘れてはならない要件は、寄与が「特別」なものであったことです。
では、「特別」とはどんな場合でしょうか。
扶養義務の範囲を超えていること
「特別」かどうかのメルクマールとしては、まず、「扶養義務」の範囲を超えているか、つまり、家族として世話をしてあげる義務の範囲を超えているか、ということが挙げられます。
上のAさんご家族の例で、まず、長男Cさんが事業の後継者になって働いてくれるというのは、昔ならば当たり前だったかも知れませんが、少なくとも現在ではむしろ、「重責があるし他の道もあっただろうによく継いでくれた」と考える方が多いのではないでしょうか。「家族として世話をしてあげる義務」とは言えないでしょう。
次に、次男Dさんが休日に無報酬で働いてくれたことも、普段の会社勤めだって大変なのに、なかなかできないことだと思います。これも「家族として世話をしてあげる義務」とは言えないでしょう。
結論として、長男Cさんも次男Dさんも、Aさんに「特別」の寄与をしていると言えるでしょう。
扶養義務の範囲内でも、他の相続人がやらない世話を引き受けてあげたこと
ただ、扶養義務の範囲内でも、「特別」と言ってよいケースが考えられます。
たとえば、Aさんが介護が必要な状態に陥ってしまった場合です。
この場合、Aさんと同居している長男Cさん夫妻がAさんの世話をしていて、遠くで暮らしている次男Dさんが何もしてあげられなかったら、どうでしょうか。
長男Cさんが父親であるAさんの世話をするのは「扶養義務の範囲」ではあるでしょう。しかし、「扶養義務の範囲内」だったとしても、他の相続人がやらないことを引き受けてやっているのであれば、「特別」の寄与と言えます。
なお、長男Cさんの妻はAさんの相続人ではありません。しかし、裁判例では、彼女の頑張りも長男Cさんの寄与に含めて評価してあげるというのが定着しています(東京高等裁判所平成元年12月28日決定 etc.)。
4.寄与分をきちんと相続に反映させるための注意点
上のAさんのご家族の例で、Aさんが遺産の大部分を、遺贈、つまり、遺言で所有権を誰かに譲ることにしていた場合、その遺贈の額が寄与分を侵食していたとしても、寄与分は遺贈に勝てません。
つまり、寄与分を相続財産から差し引くのは、まず遺贈の額を差し引いた後で、初めて認められます。
したがって、Aさんが財産を遺言で誰かに「○○を遺贈する」と言った場合、その額によっては、長男Cさんと次男Dさんの寄与分に配慮して公平に遺産を分けることが難しくなってしまうおそれがあるので、注意が必要です。
まとめ
寄与分は、相続される人(被相続人)の財産の維持・増加に特別に寄与した相続人がいた場合、公平の見地から、その人に多めに遺産を相続させてあげようという制度です。
円満な相続のためには遺言を残しておくことが絶対に必要ですが、遺言の作成の際に大いに参考になる制度の一つです。
寄与分について、民法の規定は、現実に被相続人の財産の維持・増加の効果があったことを要求しています。しかし、遺言を作成する時に、がんばってくれたということ自体に配慮をしてあげることはできます。
また、「特別に寄与した」というのは、扶養義務の範囲を超える貢献をしてくれた場合はもちろん、扶養義務の範囲内だったとしても、他の相続人がしてくれなかったことをしてくれた場合も含みます。
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