相続税対策と生命保険|一時払い終身保険、生前贈与と保険の合わせ技など
- 2021年11月25日更新
相続税は2015年の税法改正以降、課税対象となる人が大幅に増え、今まで以上に人々の関心を集めるようになりました。
家や土地をはじめ、相続遺産が多い富裕層であるほど、真剣に相続税対策に取り組む必要が出てきます。
そこで、生命保険を使ったスキームがいろいろと考えだされています。
しかし、正直言って玉石混交で、実際のところどれが良くてどれが悪いのか、なかなか分からないことと思います。
そこで今回は、相続税対策に生命保険を利用する方法について、それぞれの概要を説明します。特に、たまに紹介される、生前贈与(暦年贈与)と生命保険を組み合わせる方法については、現時点での必要性と有効性を検証します。
保険の教科書 編集部
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目次
はじめに|相続税対策の要否は基礎控除額で決まる
生前贈与による相続対策が必要なのは、ある程度の資産がある方に限られます。
なぜなら、そもそも相続税には基礎控除があり、資産の額が基礎控除額以下であれば、相続税が非課税になるからです。
2015年施行の相続税法改正により、この基礎控除額が大幅に引き下げられました。その結果、相続税の課税対象となる人の範囲が広がりました。
相続税の基礎控除額の計算式は以下の通りです。
- 基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人数
たとえば、法定相続人となる人が1人の場合、資産の総額が3,600万円以下なら相続税がかかることはないということです。
したがって、相続税対策が問題になるのは、基礎控除額を超える価値の資産を持っている場合ということになります。
相続税対策は大きく分けて2つです。
- 相続財産自体の価値を抑える
- 生前贈与(暦年贈与等)を活用する
それぞれについて、よく言われている生命保険を利用する方法と、その有効性を、検証を加えながら説明します。
1.相続財産自体の価値を抑える相続対策(一時払い終身保険)
まず、課税対象となる相続財産の価値を抑える方法です。
ごく大ざっぱに言えば、今ある資産を別の形に変えて保有する方法です。
ここでは、一時払い終身保険を使う方法をお伝えします。
一時払い終身保険とは、保険金の全額を1回で払い終えるタイプの終身保険です。「終身保険」と名前が付いてはいますが、生命保険というより、相続対策向けの特殊な金融商品と考えるのが分かりやすいです。
一時払い終身保険は多くの場合、保険金額と保険料がほぼ同額です。これを相続税対策に使います。
どういうことかというと、生命保険金は基本的に「みなし相続財産」として相続税の課税対象です。
しかし同時に、遺族が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠が設けられています。
たとえば、相続人が配偶者と子1名の計2名の場合、死亡保険金のうち1,000万円が非課税になります。
したがって、もし、一時払い終身保険に死亡保険金額1,000万円、保険料1,000万円で加入した場合、相続財産のうち1,000万円を保険会社に預ける形で減らすことができ、その分、相続税を免れることになります。
なお、一時払い終身保険のうち米ドル建てのものは、相続対策以外にも貯蓄目的で活用されることがあります。
詳しくは「一時払い終身保険の2つの活用法と、円建て・外貨建ての比較」をご覧ください。
2.生前贈与(暦年贈与)を活用する相続税対策(終身保険等)
次に、生前贈与と生命保険を組み合わせた、保険業界で「相続対策に有効」とされている方法を2つお伝えします。生前贈与は、贈与税の基礎控除の枠、つまり、1年あたりの贈与税の非課税限度額を利用する方法です。
ただし、予め言っておくと、生前贈与による相続対策と、生命保険の活用とは、切り離して考えた方が分かりやすいです。
2.1.贈与税の基礎控除の枠(暦年贈与)とは?
贈与税の課税金額の算出方法は以下の通りです。
- 課税金額=贈与金額-基礎控除額(110万円)
つまり、総預金額が110万円以下であれば、課税金額は0円となり、贈与税が課税されないのです。これはよく「暦年贈与」と言われます。
税務申告は毎年行うことになるので、毎年110万円の枠内で贈与することにより、贈与税を課税されることなく暦年贈与を行うことができます。
ただし、亡くなる前の3年以内に暦年贈与をした場合、その分については相続財産に含まれ、相続税の対象となってしまいます。
よって、非課税で贈与できる金額の合計は、
- 110万円×(亡くなるまでの暦年贈与の年数-3年)
です。
つまり、毎年生前贈与をし続けても、最後の3年分については相続税が発生することになります。
以上が、生前贈与による相続対策です。最後の3年間は節税効果がありませんが、長く続ければ、この暦年贈与だけでもかなり相続税を抑えることができます。しかし、今回お伝えする2つの方法は、ここからさらに手間をかけます。
結論から言えば、いずれも、生命保険を使わなければならないという必然性はありません。その理由も含め説明します。
なお、生前贈与による相続対策は、この暦年贈与以外にもあります。詳しくは「相続税をゼロに近づけるための生前贈与の6つの活用法」でがっつり説明しているのでそちらをご覧ください。
2.2.暦年贈与と生命保険の「合わせ技」の有効性は?
暦年贈与に加えて生命保険を合わせ技で使う2通りの「相続税対策」が、あたかも有効であるかのように紹介されることがあります。
いずれも、親(被相続人)から子(相続人)に暦年贈与を行う点は共通しています。
違うのは、親の側で贈与前にお金を増やすか、子の側で贈与を受けた後でお金を増やすか、の違いです。
- 親(被相続人)の側で保険に加入する方法
- 子(相続人)の側で保険に加入する方法
言い換えれば、
- 親がお金を増やしてから子に贈与するか
- 子が親から贈与してもらったお金を増やすか
の違いです。「相続税対策」と、「お金を増やすこと」という、全く別の問題を、一緒に考える論理的な必然性は全くありません。
特に注意が必要なのは、お金を効率よく増やすことができる方法は保険以外にもあるという点です。
その点を頭に置いて、「こんな方法もあるのね(笑)」という程度でお読みください。
親(被相続人)が生命保険でお金を増やしてから子(相続人)に生前贈与する
まず、親の側で生命保険を使ってお金を増やしてから、110万円ずつ子に贈与する方法です。
たしかに、「一時払い」「ドル建て」「変額」等の保険商品を活用すれば、ある程度はお金を増やすことができます。
実際、このスキームに合わせて設計されたと思われる保険商品も存在します。
しかし、お金を増やす方法は生命保険以外にもあります。
生前贈与と生命保険を組み合わせる必然性は全くないのです。
もし、生命保険の商品を活用するならば、暦年贈与のことは切り離して考え、積立の効率が最も高い方法を選ぶことをおすすめします。
子(相続人)が生前贈与されたお金で親(被相続人)に生命保険をかける
次に、子(相続人)が生前贈与を受けた後で、そのお金で親(被相続人)に生命保険をかける方法です。
子が生前贈与によって受け取ったお金で親に保険をかけ、自分自身を保険金の受取人に指定します。
- 契約人:子
- 被保険者:親
- 受取人:子
こうすると、親が亡くなって子が保険金を受け取ったら、子の固有の資産であるとみなされるため、相続税の対象となりません。
なお、先ほどお伝えした一時払い終身保険は保険金が「みなし相続財産」として相続税の対象となりますが(500万円×法定相続人数の額が控除される)、この場合は純粋に子の固有の財産であり、「みなし相続財産」にもあたりません。最初から相続税の課税対象外です。
その代わりに、子の一時所得として扱われ、所得税が課税されることになります。
以下の終身保険の例でシミュレーションしてみましょう。現状、保険料が最も割安なものを選んでいます。
- 保険種類:終身保険
- 親(被保険者):60代男性
- 払込期間:終身
- 死亡保険金額:3,000万円
- 保険料:約110万円/年
この契約では、親(被相続人)が亡くなると、契約者(被相続人)は死亡保険金として3,000万円を受け取れます。
受け取った保険金は一時所得として、所得税がかかるのですが、一時所得は所得の中でも課税額が少額になりやすく、相続税と比べると相当税額を抑えることができます。
一時所得の課税所得金額は以下のようになります。
- 一時所得の課税所得金額 = (総収入金額 – 払込保険料総額 – 50万円) × 1/2
つまり、保険に加入して増えた金額から50万円を差し引き、さらにそれを1/2にした額です。
その結果、子は保険金を受け取れて、しかも税負担が安くなる…と言うのです。
しかし、現在(2020年8月時点)、この方法は全くおすすめできません。
なぜなら、年間保険料110万円で、保険金額3,000万円だと、親(60歳)が27年後(87歳)の時にも生存していた場合、保険料合計が保険金額を上回る計算になります。
「人生100年時代」とも言われている今日、この方法を活用する必然性は全くありません。定期預金の方がよほどマシということになります。
3.まとめ
生命保険を活用した相続税対策でよく紹介されるのは、大きく分けて以下の2つです。
- 相続財産自体の価値を抑える(一時払い終身保険)
- 生前贈与(暦年贈与)を活用する(終身保険等)
このうち、前者の一時払い終身保険を活用して相続財産自体の価値を抑える方法は、生命保険の保険金について500万円×法定相続人数の額の控除枠があるので、大変有効です。
しかし、後者の、生前贈与(暦年贈与)と生命保険を組み合わせる方法については、2020年8月現在、必要性・有効性が乏しいと考えられます。
相続税対策と、財産をどのように効率よく増やすかということとは、全く別の問題であり、切り離して考えるべきです。もしも保険を活用するのであれば、積立の効率等を考え、自分のニーズに合ったものを選ぶことをおすすめします。
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