相続税対策の初歩・「基礎控除」について徹底解説
- 2022年2月14日更新
あなたは、相続税の負担を軽くするための制度の一つとして、「基礎控除」の枠の活用を考えていることと思います。
基礎控除の枠は、基本的には法律で固まっているもので、あなたの意思で増減できないものです。なので、その範囲をはっきりさせておくことは、相続税対策の第一歩と言っても過言ではありません。
ただ、間違いやすい点や、分かりにくい点もあります。
この記事では、基礎控除に関して注意すべき点を解説します。また、基礎控除そのものではありませんが、おまけとして、配偶者のための「配偶者控除」の制度についても触れます。
保険の教科書編集部
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目次
1.基礎控除の額の計算方法
相続税の計算の順序については、詳しくは「相続税の計算方法|マスターするための5つのステップ」をご覧いただきたいのですが、以下のように、基礎控除は、遺産総額を算出した次の段階で行われるものです。
〈相続税の計算の順序〉
- 遺産総額を算出する
- 基礎控除額を差し引いて課税対象となる額を確定する ←基礎控除
- 各人の法定相続分に基づく相続税額を算出し、合計する
- 3の合計額を、各人が実際に相続した遺産の割合で割りあて直す
- 各人ごとの事情に応じ増額・減額して最終的な相続税の額を確定する
基礎控除は、あなたの遺族の生活を守るために一定額を遺産総額(プラスの財産(現金・不動産・株式等)、マイナスの財産(借入金等)、直近3年間に贈与した財産等の総計)から差し引くものです。つまり、遺産総額が基礎控除の額を下回れば、相続税を納税しなくても済むものです。
基礎控除の額は、以下の計算式で算出します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人についてはこちらの記事をご覧ください。
たとえば、あなたに配偶者と2人の子がいる場合、その3名が法定相続人になるので、基礎控除の額は、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
ということになります。したがって、遺産総額(課税価格)が4,800万円を下回っていれば、相続税がかからないということになります。
法定相続人の範囲は法律でかっちりと決まっていますが、次に、注意が必要な点について説明します。
2.基礎控除の対象となる「実子」と「養子」について
2-1.実子ならば養子に出しても基礎控除の対象
法定相続人である子には、全ての実子が含まれます。したがって、たとえば、子2人のうち1人を養子に出したとしても、実子である以上、2人とも依然として法定相続人です。
2-2.養子の扱いは要注意
養子も法定相続人ですが、注意が必要です。普通養子は、原則として、相続税の基礎控除の対象とできる人数に限りがあります。
なぜかというと、そのような制限がなければ、基礎控除の枠を増やすために多くの養子縁組をするといったことが考えられるからです。
逆に言えば、そのようなおそれがない場合には、特に制限の必要がないということです。次に説明します。
2-3.養子の基礎控除の人数制限がない場合がある
養子でも、基礎控除の枠を増やす目的で養子縁組したと考えにくいような場合には、特に基礎控除の人数制限はありません。
具体的には、以下の5通りです。
- 特別養子縁組をした養子
- 配偶者の実子で、あなたと養子縁組した子
- 配偶者の特別養子で、あなたと養子縁組した養子
- 既に死亡した子・孫等の代わりにその子・孫と養子縁組した場合の養子
- 相続権を失った子・孫等の代わりにその子・孫と養子縁組した場合の養子
特別養子縁組は、6歳未満の子どもが生みの親との親子関係自体を法律上解消してしまって、あなたと新たに親子関係を結ぶタイプの養子縁組です。その結果、戸籍上、その子はあなたの実子と同じ扱いになります。
また、結婚相手の子と養子縁組をすることや、子が死亡してしまった場合にその子(あなたの孫)を養子とすることは、よくあることで何ら不自然ではありません。
これらは明らかに、基礎控除の枠を増やす目的の不自然な養子縁組ではないと言えます。したがって、これらの場合は、養子についての基礎控除の人数制限を設ける必要がないのです。
3.相続放棄した法定相続人も基礎控除の計算の対象になる
相続放棄というのは、民法上の制度で、法定相続人があなたの死後に、あなたのプラス財産もマイナス財産も一切相続しないことを認めるというものです。
なお、手続は、その法定相続人本人が家庭裁判所に申請することになっています。
この相続放棄をすると、その法定相続人については一切相続が発生しません。
しかし、基礎控除の計算上は、相続放棄した法定相続人の相続分も基礎控除の対象になります。
理由は2点あります。
- 相続放棄した人がいたかいないかで他の相続人の相続税の額が増減するのはおかしい
- 基礎控除の制度が法定相続人の自由な意思決定を妨げてはならない
一点目はイメージしやすいと思いますが、二点目については税法特有の考え方なので、少し説明が必要でしょう。
どういうことかというと、相続放棄というのは非常に重いことなので、法定相続人本人の自由な意思に委ねられるべきです。
それなのに、「俺が相続放棄すれば他の家族の相続税が安くなる!相続放棄した方がみんなのためだ!」ということになると、自由な意思決定ができなくなってしまうおそれがあります。これでは、相続放棄という民法上の制度が歪められてしまいます。
したがって、相続放棄した人がいようがいまいが、全ての法定相続人の相続分を基礎控除の対象とする必要があるということです。
4.おまけ|配偶者には税額控除(配偶者控除)がある
基礎控除とは違いますが、配偶者には「配偶者控除」という、相続税の負担を軽くする特別の制度がありますので、これについても少し説明しておきましょう。
もう一度、相続税の計算の順序を確認しましょう。以下のように、基礎控除と配偶者控除は、行われる段階が違います。
配偶者控除は相続税の計算の最終段階で行われるものです。
〈相続税の計算の順序〉
- 遺産総額を算出する
- 基礎控除額を差し引いて課税対象となる額を確定する ←基礎控除
- 各人の法定相続分に基づく相続税額を算出し、合計する
- 3の合計額を、各人が実際に相続した遺産の割合で割りあて直す
- 各人ごとの事情に応じ増額・減額し最終的な相続税の額を確定する ←配偶者控除
具体的には、
〈法定相続分の額 ≦ 1億6,000万円 の場合〉
- 実際に相続した財産 < 1億6,000万円 ならば非課税
〈法定相続分の額 > 1億6,000万円の場合〉
- 実際に相続した財産 ≦ 法定相続分の額 ならば非課税
となります。その結果、ほとんどの場合、事実上、配偶者は、相続税を支払わなくてよいことになります。
配偶者は、相続人全員の相続税が軽くなる基礎控除のほか、独自の控除も受けることができ、手厚く保護されているというわけです。
まとめ
相続税の基礎控除について、ポイントを絞って説明してきました。基礎控除の額の計算式自体は単純なものですが、養子の扱い、相続放棄があった場合の扱いには注意が必要です。
基礎控除の枠は、基本的にはかっちり固まっていて、減らすことはできません。また、養子縁組によって枠を増やすことも事実上は困難です。相続対策を考える上で、まず、基礎控除の範囲がどこまでなのかを押さえておくようにしていただきたいと思います。
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