相続税対策で忘れてはいけない「配偶者控除」のメリットと落とし穴
- 2021年9月7日更新
あなたは、相続税対策で「配偶者控除」の制度を活用しての節税を考えていることと思います。
「配偶者控除」(正式には「配偶者の税額の軽減」)は、よく、「配偶者の相続する遺産が1億6,000万円までなら相続税がかからない制度」という説明がされます。しかし、この説明は、ともすれば誤解を招くおそれのある表現で、実際には、落とし穴があります。
この記事では、「配偶者控除」のメリットと落とし穴について、イメージしやすいように具体例を上げて説明します。
是非とも最後までお読みになって、「配偶者控除」の制度を正しく活用するためにお役立てください。
保険の教科書編集部
最新記事 by 保険の教科書編集部 (全て見る)
- 養老保険の逆ハーフタックスプランは「節税」になるのか? - 2024年11月29日
- 法人向け養老保険2タイプの保険料の「損金処理」の落とし穴 - 2024年11月28日
- 高齢者が医療保険を検討するときに知っておくべきこと - 2024年11月21日
目次
1.配偶者控除とは
「配偶者控除」とは、相続税の計算をする際に配偶者が相続する分の額から1億6,000万円を差し引けるというものです。
これは、配偶者の生活を守るための制度と言われています。
「配偶者控除」は以下のように、相続税の計算の最終段階で行われます。
〈相続税の計算の順序〉
※詳しくは「相続税の計算方法|マスターするための5つのステップ」をご覧ください。
- 遺産総額を算出する
- 基礎控除額を差し引いて課税対象となる額を確定する
- 各人の法定相続分に基づく相続税額を算出し、合計する
- 3の合計額を、各人が実際に相続した遺産の割合で割りあて直す
- 各人ごとに事情に応じ増額・減額して最終的な相続税の額を確定する ←「配偶者控除」はここ!
具体的には、
①法定相続分の額 ≦ 1億6,000万円 の場合
- 実際に相続した財産の額が1億6,000万円以下ならば非課税
②法定相続分の額 > 1億6,000万円の場合
- 実際に相続した財産の額が法定相続分の額以下ならば非課税
ということになっています。その結果、かなり多くのケースで、事実上、配偶者は相続税を支払わなくてよいことになります。
たとえば、あなたの遺産(課税価格)が2億円だとすると、配偶者の法定相続分は1億円(1/2)です。そのため、「①法定相続分の額 ≦ 1億6,000万円」のケースにあたります。
この場合、あなたが遺言で配偶者に1億2,000万円相続させると、全額あっさりと非課税となります。
ここで、あなたは、
「ならば配偶者の相続分を『配偶者控除』の限度額いっぱいにしておけば、配偶者は相続税ゼロだし、他の相続人の相続税も安くなるじゃないか!?」
とお思いになるかも知れません。
しかし、そううまくはいきません。そういう考えだけで「配偶者控除」の枠を活用してしまうと、後で思わぬ落とし穴が待っています。次をお読みください。
2.配偶者控除のメリット
たとえば、あなたが都心の一戸建てに配偶者と2人で暮らしているとします。
あなたは、ご自身が亡くなった後も配偶者が家屋敷に住み続けられるようにしてあげたいとお思いになることでしょう。
しかし、配偶者に家屋敷を単独相続させると、「配偶者控除」の制度がなければ、相続税の負担が重くなってしまいます。最悪の場合、納税のために家屋敷を売り払わなければならなくなります。
そういう場合に、「配偶者控除」の制度を活用すれば、配偶者があなたから家屋敷を相続する段階では相続税がかからないことになるのです。
このように、特定の高額な財産を配偶者に単独で相続させなければならないやむを得ない場合に配偶者控除の枠を活用すると、大いにメリットがあります。
ただ、これには同時に落とし穴もあることを忘れてはいけません。次に説明します。
3.「配偶者控除」の落とし穴|配偶者が死亡する時のことまで含めて考えるべし
「配偶者控除」には大きな落とし穴があります。単に「相続税を安くしたい」という理由だけで配偶者の取り分を多くすることはおすすめできません。それをすべきなのは、上で説明したように、配偶者にどうしても家屋敷等の特定の大きな財産を相続させたい、という特別の事情がある場合に限られると思ってください。
なぜならば、配偶者があなたから相続した財産は、最終的に配偶者から子に相続されることになり、その段階でかえって損をしてしまうリスクがあるからです。
どういうことなのか説明します。「法定相続人」の数と「基礎控除」の額に注目して、お読みください。
3-1.「配偶者控除」を受けると子の相続税が高くなってしまう
ポイントは「基礎控除」です。基礎控除の額は、
3,000万円+600万円×法定相続人数
です(基礎控除については「相続税対策の初歩・「基礎控除」について徹底解説」をご覧ください)。
そして、
- あなたが亡くなった場合の相続を「第一次相続」
- その後に配偶者が亡くなった場合の相続を「第二次相続」
とします。
あなたが死亡した時の相続(第一次相続)で配偶者の相続分を大きくして「配偶者控除」で相続税が軽くなったとしても、その後で配偶者が死亡した時の相続(第二次相続)では、結局その分の相続税がかかってくることになるのです。
その結果、「第二次相続」の時にかえって多額の相続税を支払うハメになってしまうというリスクがあるのです。
具体例で見てみましょう。
3-2.具体例
以下の例について考えてみます。
- 相続人:配偶者・子2人(合計3人)
- 遺産総額(第一次相続の時):1億6,000万円
「第一次相続」の時は法定相続人が配偶者と子2人の合計3人なので、基礎控除の額は
3,000万円+600万円×3人=4,800万円 です。
しかし、その後、配偶者が死亡して「第二次相続」が発生する時は、法定相続人が子2人なので、基礎控除の額は
3,000万円+600万円×2人=4,200万円 です。
この事例で、配偶者の相続分を100%(1億6,000万円)にして「配偶者控除」で相続税を「0円」にした場合と、そうしないで配偶者の相続分を法定相続分通りの8,000万円にした場合とを比較してみましょう。
第一次相続で配偶者の相続分を100%(1億6,000万円)にして「配偶者控除」で相続税を「0円」にした場合
■第一次相続の時
4,800万円の基礎控除がありますが、子2人にそもそも相続分がなく、配偶者も「配偶者控除」によって相続税が「0円」なので、結果的に4,800万円の基礎控除のメリットが全く受けられないということになります。
つまり、せっかくの基礎控除が「空振り」ということです。
■第二次相続の時
子が配偶者から相続する額は1億6,000万円になってしまいます。
そして、ここで初めて、4,200万円の基礎控除のメリットを受けられるだけです。
結局、子の世代になって相続税の負担が重くなってしまうというわけです。
第一次相続で配偶者の相続分を8,000万円(1/2)にした場合
■第一次相続の時
4,800万円の基礎控除が受けられ、また、配偶者は、「配偶者控除」で相続税がゼロになります。
つまり、基礎控除のメリットと「配偶者控除」のメリットをダブルで受けられるということです。
■第二次相続の時
子が配偶者から相続する額は8,000万円です。
しかも、4,200万円の基礎控除が受けられます。
つまり、第一次相続、第二次相続を通じて、最終的に、合計9,000万円の基礎控除のメリットが受けられるのです。
したがって、第一次相続で「配偶者控除」目当てで配偶者の相続分を多くすると、第二次相続の時にかえって損をしてしまうリスクがあります。
たとえば、ご自身の死後も配偶者が自宅に住み続けられるようにしてあげたいなど、やむを得ない事情がある場合に限った方が無難でしょう。
まとめ
相続税の「配偶者控除」について、メリットと落とし穴の両方を説明してきました。
「配偶者控除」は、配偶者の相続税の負担を軽くできるというメリットがありますが、その反面、後で配偶者を相続する人の相続税の負担が重くなってしまうリスクがあります。その意味で、単に「節税」だけのためにその枠を活用するのはおすすめできません。
「配偶者控除」の枠の正しい活用法は、配偶者を自宅に住み続けてあげられるようにしたい場合等、特定の高額な財産を配偶者に単独で相続させなければならないやむを得ない事情があるケースに限られると言えるでしょう。
相続税対策・生前贈与の活用をお考えの方へ
【無料Ebook '21年~'22年版】知らなきゃ損!驚くほど得して誰でも使える7つの社会保障制度と、本当に必要な保険
日本では、民間保険に入らなくても、以下のように、かなり手厚い保障を受け取ることができます。
- ・自分に万が一のことがあった時に遺族が毎月約13万円を受け取れる。
- ・仕事を続けられなくなった時に毎月約10万円を受け取れる。
- ・出産の時に42万円の一時金を受け取れる。
- ・医療費控除で税金を最大200万円節約できる。
- ・病気の治療費を半分以下にすることができる。
- ・介護費用を1/10にすることができる。
多くの人が、こうした社会保障制度を知らずに民間保険に入ってしまい、 気付かないうちに大きく損をしています。
そこで、無料EBookで、誰もが使える絶対にお得な社会保障制度をお教えします。
ぜひダウンロードして、今後の生活にお役立てください。
関連記事
-
あなたは、相続税の負担を軽くするための制度の一つとして、「基礎控除」の枠の活用を考えていることと思います。 基礎控除の枠は、基本的には法律で固まっているもので、あなたの意思で増減できないものです。なので、その範囲をはっきりさせておくことは、相続税対策
-
小規模宅地等の特例|相続税評価額を最大80%抑える活用のポイント
相続する土地の評価額が高い場合、相続税も高額となり、相続人に大きな負担となることがあります。 特に都心部など地価価格が高額な地域にお住まいの方の場合、自宅の土地建物に多額の相続税が発生し、大きな負担になることも考えられます。 しかし、「小規模宅地等の特
-
相続税対策と生命保険|一時払い終身保険、生前贈与と保険の合わせ技など
相続税は2015年の税法改正以降、課税対象となる人が大幅に増え、今まで以上に人々の関心を集めるようになりました。 家や土地をはじめ、相続遺産が多い富裕層であるほど、真剣に相続税対策に取り組む必要が出てきます。 そこで、生命保険を使ったスキームが
-
あなたは、遺留分、つまり相続人の最低限の相続分が受け取れなくなっており、そのことについてフォローもしてもらえない状態で、遺留分減殺請求について調べていることと思います。 遺留分減殺請求権は、遺留分が受け取れない場合、つまり遺留分の全部または一部が他の
-
法定相続分は、遺言等が残されていなかった場合に、各相続人が遺産を相続できる割合です。 円満な相続のためには遺言を残していただくことを強くおすすめしますが、そのためには、遺言がない場合の法定相続分についてしっかり理解しておくことがスタートとなります。
-
生前贈与をした場合、贈与税がとられ、相続税より高くつく場合が多くなっています。 ただし、上手に使うと、かえって節税できることもあります。 ここでは、生前贈与で税金を節税できる3つのケースについて解説しています。 贈与・相続したい財産が手元
-
あなたは、ご家族にかかる相続税の負担を軽くしてあげたいとお思いになり、そのための対策として、「暦年贈与」の活用をお考えになっているのではないかと思います。 暦年贈与(贈与税の基礎控除)は端的に言えば、年間110万円まで贈与した、つまり無償で譲り渡した
-
あなたは、ご自身に万一のことがあった場合の相続の際の遺産の分け方をどうしようかとお考えになって、「寄与分」についてお調べになっていることと思います。 寄与分は、言ってみれば、ご家族の中に、あなたの事業の成功に貢献した方とか、あなたの病気療養や介護の世
-
2015年の税法改正によって増税された相続税。 相続税は、これからも引き上げられる可能性があります。 また、遺産相続には税金以外にも様々な問題があり、特に準備をせずにその時を迎えてしまうと、大きなトラブルになってしまうかもしれません。 そ
-
不動産小口信託受益権を活用し相続対策と資産運用を同時に行う方法
相続または生前贈与においては、現金そのままの形よりも不動産にした方が、相続税・贈与税の負担は抑えられます。 中でも「不動産小口信託受益権」のスキームを利用することで、不動産収入を得ながら、同時に相続税の節税を行うことが可能です。また、小口化して分割し