相続税評価額とは?宅地と自社株式の評価の方法
- 2021年5月31日更新
あなたは、不動産や自社株式といった価値の大きな財産の相続税対策をお考えのことと思います。
相続税対策を考えるにはまず、相続税評価額を知る必要があります。そして、そのためには、財産の評価方法についての基本的な考え方を押さえておくことが必要です。
そこで、この記事では、相続税の価値評価が特に困難な宅地と自社株式にスポットを当てて、それらの相続税評価額の算出方法を、基本的な考え方から整理して分かりやすくお伝えします。
保険の教科書編集部
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目次
はじめに
相続税法では、相続財産の評価方法は、相続が開始した日、つまりあなた(被相続人)がこの世を去った日の「時価」と定めています。
この「時価」は、市場価値がほぼ定まっていて簡単に判断できるような財産であれば、特に問題はありません。
ただ、世の中には、そういった財産の方がむしろ少ないです。
そのため、税務当局の内部では「財産評価基本通達」という基準をきめ細かく定めて、これに従って評価するという扱いをしています。
宅地や自社株式についても、ここで評価基準がきめ細かに定められています。
そして、宅地については、「時価評価」を行った上で、さらに、政策的に評価額を引き下げる「小規模宅地等の評価額減」の制度もあります。
1.宅地の相続税評価額
宅地の相続税評価額は、どんな利用をしているかに応じて、3通りのタイプに分けて、以下のような計算式で計算されます。
それぞれの計算式の詳細については後で改めて説明しますが、押さえておいていただきたいことは、いずれも、基礎となるのは、更地(上に建物等がないまっさらな土地)の評価額だということです。
〈宅地を自分自身だけで使っている場合(自用地)〉
更地の評価額
〈宅地を他人に貸して建物を建てさせている場合(貸宅地)〉
更地の評価額 × (1 - 借地権割合)
※借地権:土地を借りている人が土地を使用し、利益を得る権利
〈宅地に自分で建物を立てて他人に貸している場合(貸家建付地)〉
更地の評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合(30%) × 賃貸割合)
※借家権:建物を借りている人が建物を使用し、利益を得る権利
※賃貸割合:建物の床面積全体のうち、実際に賃貸されている部分の割合
そして、この更地の評価額の計算方法は2通りあります。
- 市街地にある宅地:路線価方式
- それ以外の宅地(=路線価のない宅地):倍率方式
以下、それぞれについて説明します。
1.1.宅地の評価の基礎は「路線価方式」と「倍率方式」
1.1.1.路線価方式|市街地にある宅地の評価方法
「市街地」にある土地(更地)の資産価値は
路線価(1㎡あたり) × 面積(㎡)
で算出されます。
なお、「市街地」というと都市の中心部を思い浮かべることが多いと思いますが、ここでいう「市街地」の範囲はそれよりも広いと思ってください。
「路線価」というのは、簡単に言えば、その土地が接している道路の価値に応じて、土地自体の評価額を決めるものです。
路線価は実際に取引される際の市場価値(実勢価格)にほぼ連動します。つまり、土地の市場価格は、市街地の大通りに面している土地ほど高くなりますが、路線価もそれとほぼ同じように変動するということです。
路線価はだいたい市場価格(実勢価格)の70~80%とされています。つまり、市場価格よりも2割~3割引きした額が路線価になるというイメージです。
ご自身の土地の路線価を確認したい方は、国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」を参照してください。
1.1.2.倍率方式|路線価のない宅地の評価方法
路線価のない宅地、つまり「市街地」にない宅地については、「倍率方式」といって、以下の計算式を使います。
固定資産税評価額 × 評価倍率
まず、「固定資産税評価額」というのは、あなたが毎年、土地の固定資産税を支払う際の基準となる評価額です。お住まいの市区町村から毎年送付されてくる固定資産税の「課税明細書」に記載されているので、一度確認してみてください。
次に、「評価倍率」は、国税局長が定めるもので、その地域ごとの売買の実情や、不動産鑑定士等の専門家の意見を基にしています。ご自身の土地の「評価倍率」は国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。
1.2.宅地の利用状況に応じた3タイプの評価法
上述しましたが、宅地は、3タイプに分けて評価されます。
- 宅地を自分自身だけで使っている場合(自用地)
- 宅地を他人に貸して建物を建てさせている場合(貸宅地)
- 宅地に自分で建物を立てて他人に貸している場合(貸家建付地)
それぞれについて説明していきます。
なお、どれも更地の評価額(=土地自体の価値)が基礎となっていますが、更地の評価額は上述のように
- 市街地の宅地:路線価(1㎡あたり)×面積(㎡)
- それ以外の宅地(=路線価のない宅地)固定資産税評価額 × 評価倍率
です。これを念頭に置いて以下をお読みください。
1.2.1.宅地を自分だけが使っている場合(自用地)
宅地をあなただけが使っている場合は、あなたの宅地の利用は完全無欠ということですので、評価額を引き下げなければならないような事情はありません。
したがって、評価額は、更地の評価額そのままということになります。
1.2.2.宅地を他人に貸して建物を建てさせている場合(貸宅地)
宅地を他人に貸して、その他人が建物を立てて使っている場合は、あなたの宅地利用がその分制限されています。
したがって、その分を更地の評価額から割り引いて評価します。
更地の評価額 × (1 - 借地権割合)
1.2.3.宅地に自分で建物を立てて他人に貸している場合(貸家建付地)
これはたとえば、土地にアパートを建てて賃貸しているような場合をイメージしてください。
土地の上に建物を建てており、しかも土地・建物を他人(アパートの賃借人)が利用している分、所有者自身が土地をフルに使用できません。そのため、その分を更地の評価額から割り引いて評価します。
更地の評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合(30 %) × 賃貸割合)
1.3.「小規模宅地等の特例」でさらに評価が引き下げられる
宅地については、さらに評価が引き下げられるケースがあります。「小規模宅地等の特例」と呼ばれるものです。
「小規模宅地等の特例」が受けられるのは6パターンありますが、ここでは、最も一般に馴染みがありイメージしやすい以下の2パターンをピックアップしてお伝えします。
- 自宅の敷地にしている宅地(特定居住用宅地)
- 賃貸アパートを建てている宅地(貸付事業用宅地)
1.3.1.自宅の敷地にしている宅地(特定居住用宅地)
宅地に自宅を建てて住んでいる場合、その宅地は「特定居住用宅地」として、330㎡以下の部分については評価額が80%も割り引かれます。つまり、評価額が20%にまで引き下げられます。
「小規模」といっても330㎡を「坪」「畳」の単位に換算すると「100坪」、「200畳」にもなります。
かなりの広さなので、多くの宅地がこの条件をみたし、相続税が軽減されます。
1.3.2.賃貸アパートを建てている宅地(貸付事業用宅地)
宅地に賃貸アパートを立てて賃借している場合、その宅地は「貸付事業用宅地」として、200㎡以下の部分については評価額が50%まで引き下げられます。
なお、200㎡は約61坪です。小規模な賃貸アパートであれば敷地の全部が特例を受けられることも多く、相続税の軽減の効果が大きいでしょう。
2.自社株式の相続税評価額
自社株式については、評価額を客観的に把握しやすいかどうかで、評価額の算定方法が3タイプに分かれます。
- 上場しておらず取引もされていない株式 ←これが最も多い!
- 上場していて取引相場が明らかな株式
- 上場していないが取引相場がなんとなく分かる株式
以下、それぞれについて説明します。
2.1.上場しておらず取引もされていない株式
「自社株式」と言った場合、このケースが圧倒的に多いです。そして、同時に、株式の評価が最も難しいと言えます。なぜなら、取引されていないので客観的な評価額が想定しづらいからです。
そこで、以下のように、会社を規模(従業員数、総資産の額、売上高)に応じて「大会社」「中会社」「小会社」の3つに分け、それぞれ別々の基準で評価額を計算することになっています。
これらの「大会社」「中会社」「小会社」の区別については細かい基準が設けられています。詳しくは財産評価基本通達178を参照してください。
なお、「中会社」の株式については「大会社」の基準と「小会社」の基準を併用して計算します。
そのため、説明の順番は便宜上、「大会社」→「小会社」→「中会社」の順に行います。
2.1.1.大会社:類似の業種・同程度の規模の公開会社の株式価格を基準にする
大会社の場合、事業内容が同じか類似している上場企業の株価を基準として評価する方法がとられます。この方法は「類似業種比準方式」と呼ばれます。
「1株あたりの配当金額」「利益金額」「純資産価額」の3つの要素を使って計算されます。
2.1.2.小会社:解散・清算したらいくらの価値になるかを基準にする
小会社は、仮に現時点で会社が解散して清算して財産に換算したら、総額でどの程度の資産価値になるのか、という観点から評価する方法がとられます。
これは「純資産価額方式」と呼ばれます。
2.1.3.中会社:大会社の基準と小会社の基準を併用した基準を使う
中会社は大会社と小会社の中間ということで、両者の評価方法を併用して評価します。
つまり、大会社の基準である「類似業種比準方式」と小会社の基準である「純資産価額方式」とを併用するというわけです。
両者を併用した詳しい計算式は財産評価基本通達179を参照してください。
2.2.上場していて取引相場が明らかな株式
証券取引所に上場している会社の株式は、取引相場が常に明らかにされていて、簡単に把握できます。
ただし、問題は、株価が毎日、しかも時々刻々と変動していることです。極端な話、あなたがこの世を去った日だけたまたま株価が高騰していたなどというケースも考えられます。そのようなケースで、あなたが亡くなった日の株価を評価額としてしまうと、相続人にとってあまりに酷です。
そこで、上場株式の相続税評価額は、以下の4つのうち最も低い金額、つまり、相続人にとって最も税金が安くなる金額ということになっています。
- 相続開始日(あなたが亡くなった日)の最終価格
- 相続が開始した月(あなたが亡くなった月)の毎日の最終価格の平均額
- 相続が開始した月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 相続が開始した月の前々月の毎日の最終価格の平均額
2.3.上場していないが取引相場がなんとなく分かる株式(気配相場等のある株式)
上場していなくても、取引相場がなんとなく分かる株式というものがあります。
小難しい専門用語で「気配相場等のある株式」と呼ばれたりしますが、別に難しいことはありません。「気配相場」というのは単に、「なんとなく相場がどのくらいか分かるなあ」というイメージだと思っていただければ結構です。
以下のような株式がこれにあたります。
- 登録銘柄
- 店頭管理銘柄
- 公開途上の株式
これらの細かな説明や評価方法について、興味のある方は国税庁のHPをご覧ください。
まとめ
相続税の計算の基礎となる財産の相続税評価額の算定方法について、特に客観的な評価が困難な、宅地と自社株式の評価方法にスポットを当てて説明してきました。
評価額の算定方法を完全にマスターする必要はありません。しかし、まずは、この記事で説明したことを大まかにでも押さえておくようにしていただければ、今後、相続税対策・相続対策を考えるのに役に立つはずです。
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