相続税対策と現金の関係|相続税の負担を減らす5つの方法
- 2021年9月7日更新
資産として多額の現金・預貯金をお持ちの方は、相続の時に現金にかかる相続税を軽くすることができないかとお考えになっていることと思います。
現金・預貯金は、不動産や自社株式等と違って、分けることが簡単です。そのため、ある程度残しておいて、相続人の間の遺産の配分の調整のために利用できるようにすると便利ではあります。
しかし、一方で、現金・預貯金はその金額自体に相続税がもろにかかってくることになるため、一定の対策がどうしても必要になります。ただし、お金それ自体の価値は変動しないので、対策は比較的立てやすいと言えます。
この記事では、現金・預貯金についてどのような相続税対策ができるか、整理して分かりやすく説明します。
保険の教科書編集部
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目次
はじめに|現金の相続税対策に忘れてはならない贈与税、生命保険
相続税対策を考える上で忘れてはならないのは、「贈与税」と、「生命保険」です。
どういうことかというと、まず、贈与税は相続税を補う制度だからです。
つまり、贈与税は、「相続人が支払う相続税を軽くするために、生きているうちに贈与しておこう」というケースを見据えて、贈与を受けた人に課税するというものだからです。したがって、贈与税の負担が軽くなる制度があれば、それが相続税対策にもなるということになります。
また、生命保険金については、遺産総額からの控除が認められています。なお、それと贈与税の軽減の制度との合わせ技もあります。
これから、以下の制度について具体的に説明していきます。
〈贈与税の負担が軽くなるもの〉
- 「贈与税の基礎控除枠」または「相続時精算課税」の活用
- 住宅を購入するための資金を贈与した場合の非課税
- 教育資金を一括贈与した場合の非課税
- 結婚・子育ての資金を一括贈与した場合の贈与税の非課税
〈生命保険金の控除枠の活用により相続税が軽くなるもの〉
- 一時払終身保険の活用
1.「贈与税の基礎控除枠(暦年贈与)」または「相続時精算課税」の活用
あなたが生きているうちに財産を法定相続人に贈与すると、その相続人には原則として贈与税が課税されることになります。
ただし、後継者の税負担を軽くするために以下の2つの制度のどちらかが利用できます。
1.1. 1年あたり110万円の基礎控除(暦年贈与)
贈与税は1年ごとに課税され、毎年110万円の「基礎控除」を受けられます。
つまり、1年あたり110万円分までの贈与であれば、贈与税がかかりません。これを「暦年贈与」と言います。
ただし、相続開始前(あなたが死亡する前)3年以内に贈与された部分については、相続税の対象になります。
したがって、基礎控除(暦年贈与)によって贈与税・相続税が課税されない額は、
110万円×(贈与年数-3年)
ということになります。
1.2. 相続時精算課税制度
法定相続人が子(死亡している場合には孫)の場合、その年の1月1日時点であなたが60歳以上、子(孫)が20歳以上であれば、合計2,500万円分までの贈与には贈与税がかからないという制度があります。これは「相続時精算課税」という制度です。
ただし、後で相続の時に、その財産を相続財産に含めて相続税が計算されることになります。
これを「相続時精算課税制度」と言います。
1.3. 暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを選ぶべきか?
暦年贈与と相続時精算課税制度は、どちらかを選ばなければならず、両方を利用することはできません。そのため、どちらを選ぶべきかということが問題になります。
その判断はケースバイケースではありますが、一応の目安を挙げておきます。
暦年贈与を選んだ方が良いケース
暦年贈与の場合は、110万円×(贈与年数-3年)の額について贈与税と相続税の両方がかかりません。つまり、暦年贈与は贈与税と相続税の両方の節税になるということです。
したがって、遺産に相続税がかかる見通しがある場合には、暦年贈与を選ぶ方が有利ということになります。
なお、遺産に相続税がかかるかかからないかは、以下の計算によります。詳しくは「相続税の計算方法|マスターするための5つのステップ」をご覧ください。
〈相続税がかかる場合〉
- 遺産総額 > 相続税の基礎控除の額(3,000万円+600万円×法定相続人数)
〈相続税がかからない場合〉
- 遺産総額 ≦ 相続税の基礎控除の額(3,000万円+600万円×法定相続人数)
また、遺産に相続税がかからない見通しの場合でも、1年あたりの贈与の額が贈与税の基礎控除の額の範囲内、つまり110万円以下の贈与をするのであれば、暦年贈与を選んだ方が有利です。
相続時精算課税制度を選んだ方が良いケース
相続時精算課税制度は、合計2,500万円の贈与まで贈与税がかかりませんが、相続の時に最終的にその分の相続税を計算することになります。
したがって、遺産に相続税がかからない見通しがある場合に、1年間に110万円を超える贈与をすることがあるのであれば、相続時精算課税を選んだ方が得をする可能性があるということです。
2. 住宅新築・購入・増改築のための資金を贈与した場合の非課税(平成33年6月30日まで)
あなたが子・孫に住宅の新築・購入・増改築のためのお金を贈与した場合、子・孫の側で一定の条件をみたせば、贈与税が「非課税限度額」まで非課税となります。
この特例は、平成33年(2021年)12月31日までの間の贈与に適用されます。
非課税となる条件は、以下の通りです。
- 子・孫が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上
- 子・孫の贈与を受けた年の所得金額合計が2,000万円以下
- 子・孫が贈与を受けた額を新築・購入・増改築のために使用した
なお、「非課税限度額」が定められています。また、限度額は、「省エネ住宅」または「耐震住宅」については高く設定されています。詳しくは国税庁HPの資料をご覧ください。
3. 教育資金を一括贈与した場合の非課税(平成31年3月31日まで)
あなたが30歳未満の子・孫に教育資金のためにお金を一括して贈与した場合、条件をみたせば、1,500万円までは贈与税が非課税になります。これが適用されるのは、平成31年(2019年)3月31日までの贈与です。
贈与は、契約書等の書面を作成して行う必要があります。
その他の非課税の条件は、以下の通りです。
- 子・孫が受け取ったお金について、銀行等と「教育資金管理契約」を結び、預け入れた場合
- 子・孫が受け取ったお金について、証券会社と「教育資金管理契約」を結び、証券会社の営業所等において有価証券を購入した場合
なお、お金自体の贈与でなくても、あなたが子・孫のためにお金を教育資金として信託すれば、子・孫が「信託受益権」を得ることになります。その場合には、子・孫は、「信託受益権」について1,500万円までは贈与税がかかりません。
4. 結婚・子育ての資金を一括贈与した場合の贈与税の非課税(平成31年3月31日まで)
あなたが20歳~49歳の子・孫に結婚・子育ての資金のためにお金を一括して贈与した場合には、「非課税限度額」まで贈与税がかかりません。これも、平成31年(2019年)3月31日までの間の贈与に適用されます。
「非課税限度額」は以下の通りです。
- 結婚資金:300万円
- 子育て資金:1,000万円
5. 一時払い終身保険の活用
「一時払い終身保険」とは、加入時に保険料の全額を支払ってしまうタイプの終身保険です。
死亡保険金の受取人を、特定の相続人にしておきます。すると、あなたが死亡した場合、死亡保険金は遺産(相続財産)ではなく、受取人の固有の財産として扱われます。
また、死亡保険金は、相続税法上は一応「みなし相続財産」として課税対象にはなりますが、500万円×法定相続人数の額が控除されますので、その額までは相続税がかかりません。
なお、死亡保険金が受取人の固有の財産になるということは、遺産分割の対象にならないということです。この点については、相続税以外にもメリットがあります。
たとえば、その受取人が、あなたの財産のかなりの部分を特定の大きな不動産や自社株式が占めるとします。その財産を、特定の相続人(いわゆる「跡取り」など)に相続させる場合、他の相続人との公平をはかるために、他の相続人に対してお金を支払うことになります。
このような方法で行う遺産分割を「代償分割」、支払われるお金を「代償交付金」といいますが、死亡保険金の受取人を「跡取り」等に設定しておけば、死亡保険金は「跡取り」等が他の相続人に支払う「代償交付金」の資金になるのです。
まとめ
現金・預貯金自体の相続税対策について、贈与税を軽減することで相続税も軽くできる方法と、生命保険を活用して相続税を軽くできる方法に分けて説明してきました。
相続税対策については、財産の種類に応じて、それぞれ活用できる制度を整理しておくことが有効です。そして、現金・預貯金については、「評価額」というものがなく、金額自体に相続税がかかってくることになりますので、それに即した対策が必要な反面、計画的な対策が立てやすいといえるでしょう。
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