この記事をお読みの方は、相続税対策に生前贈与が有効だという話を耳にしたことがあることでしょう。しかし、それがどういう意味なのかは、なかなかイメージしにくいことと思います。また、ひとくちに生前贈与といっても、贈与する財産の種類や金額の大きさはさまざまで、それらに応じて、生前贈与によるメリットや注意点が異なってきます。特に「暦年贈与」と「相続時精算課税」は二者択一なので、どちらを選ぶべきか慎重に見極める必要があります。
この記事では、生前贈与を活用することで相続税の負担を軽くできるオーソドックスな7つの方法について、そのポイントと注意点に着目して分かりやすくお伝えします。
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保険の教科書 編集長。2級ファイナンシャルプランナー技能士。行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
はじめに|生前贈与の有効活用は相続税対策につながる
贈与税は、相続税法で定められている税金です。なぜならば、相続と生前贈与は実態として紙一重だからです。あなたが遺言で財産を遺族に与えれば相続、生きているうちに財産を与えれば生前贈与になるので、基本的な性質は同じというわけです。
そして、税率は、基本的には贈与税の方が相続税よりも高いです。なぜならば、贈与は相続税逃れに使われやすいため、税法は一般論として贈与に対して厳しい態度で臨んでいるからです。
ただし、だからといって一概に「生前贈与は損」とは言えません。生前贈与の方が節税につながる場合もあるのです。
生前贈与の時に贈与税がゼロになるならば、当然相続税も当然ゼロになります。
また、たとえば、将来値上がりが見込まれる財産について、生前贈与の時(値上がり前)に贈与税が課されず、相続の時(値上がり後)に初めて相続税が課せられるしくみがあるならば、結果として相続税が軽くなる可能性があるということです。
この記事では、相続税対策につながる生前贈与の活用法について、以下のように整理して説明します。
〈贈与税の基礎控除、または相続時精算課税の活用〉
〈贈与税の配偶者控除〉
〈政策目的による贈与税の非課税〉
- 住宅新築・購入・増改築のための資金を贈与した場合の非課税(平成31年6月30日まで)
- 教育資金を一括贈与した場合の非課税(平成31年6月30日まで)
- 結婚・子育ての資金を一括贈与した場合の贈与税の非課税(平成31年6月30日まで)
1.贈与税の基礎控除、または相続時精算課税の活用
生前贈与を受けた人には贈与税が課税されることになります。この贈与税は、言ってみれば、「相続税の生前版」です。つまり、死亡(相続)による財産の移動ではなく、生前の財産の移動をとらえて課税するもので、相続税を補う制度です。
しかし、以下の2つの制度のどちらかを利用して、贈与税の負担を抑えることができます。
- 贈与税の基礎控除(年110万円、「暦年贈与」)
- 相続時精算課税
どういうことなのか、それぞれの制度と、どのケースにどちらを活用すべきかについて説明していきます。
1-1.贈与税の基礎控除(暦年贈与)|贈与税も相続税も支払わなくて済む
贈与税は、1年ごとに課税されます。そして、毎年、110万円の基礎控除が受けられます。そのため、1年あたり110万円以下の贈与については贈与税がかかりません。納税申告も不要です。これを「暦年贈与」と言います。
ただし、相続開始(=あなたの死亡)前3年以内に贈与税の基礎控除を受けた分については、相続税の計算の時に相続財産に含まれることになりますので、相続税の対象となります。
暦年贈与の場合は、110万円×(贈与年数-3年)の額について贈与税と相続税の両方がかからないことになります。つまり、暦年贈与は贈与税と相続税の両方の節税になるということです。
したがって、あなたの資産の額から考えて相続人に相続税がかかることになる見通しが大きい場合には、暦年贈与を選ぶ方が有利ということになります。
なお、相続人に相続税がかかる場合とかからない場合の区別は以下の通りです。詳しくは「相続税の計算方法|マスターするための5つのステップ」をご覧ください。
〈相続税がかかる場合〉
- 遺産総額 > 相続税の基礎控除の額(3,000万円+600万円×法定相続人数)
〈相続税がかからない場合〉
- 遺産総額 ≦ 相続税の基礎控除の額(3,000万円+600万円×法定相続人数)
また、遺産に相続税がかからない見通しの場合でも、1年あたりの贈与の額が贈与税の基礎控除の額の範囲内、つまり110万円以下の贈与をするのであれば、暦年贈与を選ぶのがおすすめです。
1-2.相続時精算課税|値上がりする財産の贈与税・相続税節税に有効
相続時精算課税というのは、合計2,500万円までの贈与については贈与の時点では贈与税がかからず、相続の時点で初めて相続財産に含まれて相続税がかかるという制度です。
以下にあてはまる方におすすめです。
〈相続人に相続税がかかる見通しが大きい場合〉
- 値上がりする見込みがあるか、収益を産む財産を贈与したい
〈相続人に相続税がかかる見通しが小さい場合〉
- 1度に贈与したい財産の額が110万円を超え、かつ、基礎控除の枠(年110万円)をコンスタントに使う予定がない
これは、贈与する年の1月1日時点であなたが60歳以上、法定相続人(たいていは子、子が死亡していれば孫)が20歳以上の場合に適用されます。
この制度の利点は主に、値上がりする見込みのある財産(自社株式等)、収益を産む財産(不動産等)を贈与する場合に贈与税・相続税の両方の節税になるということです。
また、相続の時まで課税のタイミングが繰り延べられるということなので、遺産に相続税がかかる見通しが小さい場合には、税金がいっさいかからず得をするケースが多いことになります。ただし、1度に贈与する財産の額が贈与税の基礎控除(110万円)の枠内で、しかも基礎控除の枠を毎年コンスタントに使う予定がある場合には、基礎控除を選んだ方が得策でしょう。
2.贈与税の配偶者控除
2-1.配偶者の住む場所の確保を容易にするための制度
あなたが、結婚して20年以上の配偶者に対して居住用の土地建物、あるいはそれを購入するためのお金を贈与した場合、「配偶者控除」の対象となります。控除される金額の上限は2,000万円で、この額までは贈与税がかかりません。これは、たとえば、土地建物の価格が4,000万円の場合にそのうち2,000円についてだけ贈与するということも可能です。
これによって、贈与税がかからなくなるだけでなく、配偶者があなたを相続する時に相続税もかからなくなります。その時にはすでに土地建物が配偶者固有の財産になっているからです。
2-2.配偶者控除を利用しようとする場合の注意点
登録免許税と不動産取得税がかかってくることになりますので、要注意です。
また、相続税法には「小規模宅地の負担軽減措置」があります。これは、あなたが遺言で自宅の土地建物を配偶者が相続させるよう指示していた場合、その敷地(特定居住用宅地)のうち、330㎡以下の部分については評価額が20%として計算されるものです。したがって、土地については、こちらの方がメリットが大きい可能性があります。
3.政策目的による贈与税の非課税
国の政策目的を実現するための贈与税の非課税措置というのもあります。
その政策とは、上の世代から下の世代へと資産を移動させ、それによって下の世代の経済活動を活発化させて経済を発展させるというものだと言われています。
この記事では、以下の3つの非課税措置についてお伝えします。
- 住宅新築・購入・増改築のための資金を贈与した場合の非課税
- 教育資金を一括贈与した場合の非課税
- 結婚・子育ての資金を一括贈与した場合の贈与税の非課税
3-1.住宅新築・購入・増改築のための資金を贈与した場合の非課税(平成33年12月31日まで)
あなたが子・孫に住宅の新築・購入・増改築のためのお金を贈与した場合、子・孫の側で一定の条件をみたせば、贈与税が「非課税限度額」まで非課税となります。
非課税となる条件は、以下の通りです。
- 子・孫が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上
- 子・孫の贈与を受けた年の所得金額合計が2,000万円以下
- 子・孫が贈与を受けた額のお金を新築・購入・増改築のために使用した
なお、「非課税限度額」が定められています。また、限度額は、「省エネ住宅」または「耐震住宅」については高く設定されています。詳しくは国税庁HPの資料をご覧ください。
3-2.教育資金を一括贈与した場合の非課税(平成31年3月31日まで)
あなたが30歳未満の子・孫に教育資金のためにお金を一括して贈与した場合、条件をみたせば、1,500万円までは贈与税が非課税になります。これは、平成31年3月31日までの間の贈与に適用されます。
その他の非課税の条件は、以下の通りです。
- 子・孫が受け取ったお金について、銀行等と「教育資金管理契約」を結び、預け入れた場合
- 子・孫が受け取ったお金について、証券会社と「教育資金管理契約」を結び、証券会社の営業所等において有価証券を購入した場合
なお、お金自体の贈与でなくても、あなたが子・孫のためにお金を教育資金として信託すれば、子・孫が「信託受益権」を得ることになります。その場合には、子・孫は、「信託受益権」について1,500万円までは贈与税がかかりません。
3-3.結婚・子育ての資金を一括贈与した場合の贈与税の非課税(平成31年3月31日まで)
あなたが20歳~49歳の子・孫に結婚・子育ての資金のためにお金を一括して贈与した場合には、「非課税限度額」まで贈与税がかかりません。これも、平成31年3月31日までの間の贈与に適用されます。
「非課税限度額」は以下の通りです。
まとめ
相続税対策として有効な、オーソドックスな7つの生前贈与の活用法について、整理してお伝えしてきました。それぞれの方法とその守備範囲を理解しておいて、今のうちから何ができるかを考えておくことで、きたる相続の時に備えた有効な対策が可能になります。そのために、この記事を有効活用していただければと思います。
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