相続税対策に借金を有効活用する2つの条件
- 2021年5月31日更新
相続税は、プラスの財産にかかってきます。そのため、相続税対策の中心は、プラスの財産をいかに少なくするかということです。
そこで思いつくのが、借金をすれば良いのではないか、ということではないでしょうか。
その理屈としては、「借金すればその分マイナスの財産が増えることになり、相続税対策になるのではないか?」ということだと思います。
しかし、それは多分に誤解があり、借入金の使い道について条件があります。また、そもそも借金をすること自体がリスクを伴うので、慎重に検討する必要があります。
この記事では、相続税対策にとって借金が有効となるための条件とはどのようなものなのか、ということについて詳しく説明していきます。
相続税対策のために「借金」をお考えの方は、是非、お読みいただきたいと思います。
保険の教科書編集部
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目次
1.借金しても相続税評価額は「プラスマイナスゼロ」
実は、借金それ自体には、相続税対策としての意味はありません。
どういうことか、説明します。
あなたの現在の全財産の相続税評価額(相続税を課す前提となる財産の評価額)が1,000万円だとします。
ここで1,000万円を借り入れた場合、相続税評価額はどうなるでしょうか。
〈プラスの財産〉
現金1,000万円が入ってくるので、その分、「+1,000万円」になります。
〈マイナスの財産〉
1,000万円をいずれ返済しなければならないので、「-1,000万円」となります。
これらをプラスマイナスすると、1,000万円の借入をした後のあなたの全財産の相続税評価額は、
1,000万円+1,000万円-1,000万円=1,000万円
となります。
つまり、あなたが借金すると、その分の金額が同時にプラスの財産とマイナスの財産にそれぞれ算入されるだけなのです。つまり、借金しただけでは相続税評価額の総額は結果としてプラスマイナスゼロになるだけなので相続財産を減らすことはできないのです。
2.借金が相続税対策になる条件
条件1.借金でマイホームを建てるかアパート・マンション経営をすること
そうは言っても、借金が相続対策として役立つ可能性があるのは事実です。
それは、借りたお金で評価額が市場価格よりも低い財産を購入した場合です。
どういうことなのか、「プラスの財産」と「マイナスの財産」とで分けて検討してみましょう。
〈プラスの財産〉
借入をすると1,000万円がプラスの財産に算入されます。
そして、1,000万円で、相続税評価額が市場価格よりも低い財産を購入します。仮に、評価額が市場価格の80%だとすると、
+1,000万円×80%=+800万円
となります。
〈マイナスの財産〉
返済義務を負う金額は1,000万円で変わりません。つまり、-1,000万円のままです。
その結果、プラスの財産(引き下げられた評価額)よりもマイナスの財産(1,000万円そのまま)の金額が上回ることになり、全体として相続税評価額が引き下げられるということになります。
以上の例で評価額総額を計算すると
1,000万円+1,000万円×80%-1,000万円=800万円
ということになります。
このように、相続税対策に借金が有効な可能性があるのは、借金することそれ自体ではなく、借りたお金で、評価額が市場価格よりも低い財産を購入することだと言えます。
そして、相続税評価額が市場価格よりも低い財産の最たるものが、不動産です。
ただし、それには一定の条件があります。以下、
- 土地を購入してマイホームを建てる場合
- アパート・マンション経営をする場合
に分けて、また、土地と建物のそれぞれについて説明します。
土地を購入してマイホームを建てる場合
■第1段階|不動産の資産価値自体が低く評価される
まず、あなたが自宅を建てた場合、相続税評価額は敷地と建物のそれぞれ別々に計算されます。また、市街地の土地(路線価がある土地)とそうでない土地とに分けられます。
計算方法は以下の通りです。赤下線部が、評価額を市場価格(実勢価格)よりも引き下げる要素です。
〈市街地の土地(路線価がある土地)に建てる場合〉
- 敷地(宅地):路線価 × 面積
- 建物:固定資産税評価額
〈路線価がない土地に建てる場合〉
- 敷地(宅地):固定資産税評価額 × 評価倍率
- 建物:固定資産税評価額
「路線価」は市場価格の70~80%程度、「固定資産税評価額」は市場価格の60~70%程度と言われています。詳しくは、「相続税路線価と土地の評価額の算出方法」をご覧ください。
このように、不動産の相続税評価額はそれ自体が、実際の市場価格よりも低く評価されます。
ただ、マイホームを建てる場合、ここからさらに評価額が引き下げられることになります。次に説明します。
■第2段階|敷地の評価額が「小規模宅地等の負担軽減措置」で更に引き下げられる
マイホームの敷地については、「小規模宅地等の負担軽減措置」という制度によって評価額が更に引き下げられます。この特例は、自宅の建物とその敷地を配偶者、または同居の子が相続する場合に適用されます。
どういうことかというと、マイホームの敷地(小難しい用語で「特定居住用宅地」と言います)のうち、330㎡以下の部分については、相続税法上の評価額が20%と扱われます。つまり、80%も差し引かれます。
「小規模」といっても330㎡を「坪」「畳」の単位に換算すると「100坪」、「199畳」にあたり、かなりの広さになります。したがって、多くのマイホームの敷地(宅地)がこの条件をみたします。
その結果、相続税評価額が大幅に引き下げられ、その分、敷地にかかる相続税の額も抑えられることになります。
アパート・マンション経営をする場合
■第1段階|不動産の資産価値自体が低く評価される
アパート・マンション経営をする場合は、自分の土地にアパート・マンションを建て、各部屋を賃貸することになります。
その分、所有者自身が土地をフルに使用できなくなっています。
では、その分をどのように評価するのでしょうか。
もう一度、マイホーム、つまり、所有者がフルに土地建物を活用できる場合に、土地建物の相続税評価額がどのように計算されるのか確認しましょう。
〈市街地の土地(路線価がある土地)に建てる場合〉
- 敷地(宅地):路線価 × 面積
- 建物:固定資産税評価額
〈路線価がない土地に建てる場合〉
- 敷地(宅地):固定資産税評価額 × 評価倍率
- 建物:固定資産税評価額
アパートを建ててそれを人に貸した場合、その結果として土地と建物がフルに利用できない分を、以下の赤下線部のように割り引いて計算することになります。
なお、「借地権」は文字通り、土地を借りて使用して利益を得る権利です。
また、「借家権」は、建物を借りて使用して利益を得る権利です。
つまり、本来、使用・収益する権利は本来、土地・建物の所有者だけが行使できる重要な権利ですが、その重要な権利を「借地権」あるいは「借家権」として他人に貸し与えているということです。
〈市街地の土地(路線価がある土地)に建てる場合〉
- 敷地(宅地):路線価 × 面積 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合(30 %) × 賃貸割合)
- 建物:固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
〈路線価がない土地に建てる場合〉
- 敷地(宅地):固定資産税評価額 × 評価倍率 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合(30 %) × 賃貸割合)
- 建物:固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
「借地権割合」というのは、「路線価」の30%~90%の間で、7段階(10%刻み)で設定されています。
また「借家権割合」は全国一律30%と決められています。
そして、「賃貸割合」は、建物の床面積のうち、実際に借手がいる部屋の床面積の割合です。全ての部屋が埋まっていて空室がないならば、賃貸割合は100%になります。
アパート・マンションの土地建物の所有者は、賃借人がいることで、自分自身で不動産の利用することができなくなっています。しかし、その代わり、賃料を受け取っているため、それが不動産とは別に資産に計上されていきます。
つまり、アパート・マンションを経営している人は、土地に建物を建てて賃貸することで、土地・建物の資産価値を削って、代わりにお金を増やしているということなのです。
そのため、アパート・マンションを賃貸している場合には、不動産自体の価値評価は、お金に換えてしまった分を割り引いて低く評価するということなのです。
■第2段階|敷地の評価額が「小規模宅地等の特例」で更に引き下げられる
賃貸アパート・マンションの敷地については、さらに3段階目の評価額の引き下げがあります。
「貸付事業用宅地」として、敷地のうち200㎡までは、評価額が50%引き下げられます。
これも、相続税法の「小規模宅地等の特例」と呼ばれる措置の中の一つです。
詳しくは「相続税評価額最大80%割引!これだけは知っておきたい小規模宅地等の特例」をご覧ください。
条件2.借入金の利子を上回る収益を上げ続けること
特に賃貸アパート・マンションの場合、借金で土地を購入してアパート・マンションを建てただけでは、相続税対策として有効とは限りません。
どういうことかというと、借金はあくまでも借金で、いつか必ず全額、利子をつけて返済しなければならないということです。
そして、きっちりと利息も含めて返済するためには、借金で購入した不動産を活用することで、最低限、利息を上回る収益を上げ続けなければならないのです。
そうしないと、「節税できたつもりがかえって損してしまった」「何もしない方がマシだった」ということになりかねません。
ただでさえ建物は経年劣化していくものです。しかも、今後日本の人口は減少に転じ、賃貸アパート・マンションは空室が増えていくと言われます。
そんな中で、アパート・マンション経営で「満室経営」をキープし、しかも収益を安定して上げ続けていくことは、決して容易なことではありません。
特に、借金でアパート・マンションを建てた場合は、高い利回りをキープしていかないと、返済すらままならないということになってしまうリスクが大きいのです。
そのためには、賃料を適正な額に設定すること、設備・清潔さといった等で他の同程度の物件との差別化を図っていくこと、適度なタイミングでメンテナンス・リフォームを行い、アパート・マンションの商品価値・付加価値を高めていくことで、長期間にわたって安定して収益を上げ続けていく努力が不可欠です。
一般に、建設会社の営業マンは、採算の見通しを甘めに見積もって提示してくることが多いといわれています。したがって、入口の段階では、決して鵜呑みにせず、複数の不動産の専門家の意見を聞き、採算性の予測をシビアに判断することが大切です。
また、アパート・マンションを建てた後も、決して経営を片手間で行うのではなく、主体的に、高い収益性をキープする努力を続けていくことが重要です。
まとめ
相続税対策のために借金をするのがどのような場合に有効なのか、その条件について、具体的に検討してきました。
借金それ自体には相続税を減らす効果がなく、借金をして何をするか、つまり、
- 借金でマイホームを建てるかアパート・マンション経営をすること
- 借入金の利子を上回る収益を上げ続けていくこと
が大切だということがお分かりいただけたことと思います。
特に、アパート・マンション経営を上手に行って借入金の利子を上回る収益を上げ続けていくことは並大抵の労力ではありません。
「借金で相続税対策」ということを考える上では、そのことを十分に踏まえた上で、専門家の意見も聞きながら、慎重なプランを立てることが大切です。
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