速報!逓増定期保険の名義変更に関する国税庁のパブリックコメント(2021年6月18日)徹底解説

公開 2021年6月18日更新 2022年7月26日
速報!逓増定期保険の名義変更に関する国税庁のパブリックコメント(2021年6月18日)徹底解説
速報!逓増定期保険の名義変更に関する国税庁のパブリックコメント(2021年6月18日)徹底解説

※(2021年6月26日追記)改訂通達が発遣されました。詳しくは「逓増定期保険の名義変更プランとは?使い道はあるか?【2021年新通達対応版】」をご覧ください。

本日(2021年6月18日)、逓増定期保険の法人から個人への名義変更の税務上の扱いについて、国税庁が行った意見公募手続(パブリックコメント)の結果が公表されました。

2021年4月28日~5月27日の間に提出された意見は合計87通です。本日公表されたパブリックコメントの結果は、主な意見の内容を紹介し、これに対して国税庁が「考え方」を示す形式になっています。

その内容から、新ルールの中身はほぼ固まっていることが推察されます。

これを踏まえ、2021年6月25日に新しい通達が正式に公表され、施行される見込みです。

ただし、国税庁の見解は、税法の解釈を前提としており、それを知らないと理解が難しいものです。

そこで今回、パブリックコメントについて、主な意見の概要と、それに対する国税庁の「考え方」を紹介します。そして、必要に応じ、税法の解釈や判例を踏まえて、分かりやすい解説を加えます。

低解約返戻金型の逓増定期保険のいわゆる「名義変更プラン」の問題点と、国税庁が4月に公表した新ルール案の概要については、詳しくは「逓増定期保険の名義変更に関するルール改定とは?」をご覧ください。

はじめに

今回のパブリックコメントにおいて、主な論点は以下の4つです。

  1. 保険の名義変更時の評価額を「資産計上額」とすることの是非
  2. 新ルールの適用範囲
  3. 法人から法人へ名義変更する場合の扱い
  4. いわゆる「遡及適用」の是非

それぞれについて、「提出された意見の概要」⇒「国税庁の見解」の順に説明します。

また、論点1.と論点4.については、税法の解釈・理論が関係するので、解説を加えます。

論点1|保険の名義変更時の評価額を「資産計上額」とすることの是非

まず、第一の論点は、「低解約返戻金型」の定期保険の契約名義を法人から個人へ変更する際、評価額を「解約返戻金相当額」ではなく「資産計上額」とすることの是非です。

1.1.提出された意見の概要

この点については、概ね以下のような意見が提出されました。

  • 資産計上額は帳簿価額に過ぎないので不合理である
  • 時価はあくまで解約返戻金相当額である

1.2.国税庁の見解

これらに対する国税庁の見解の論旨は、以下の通りです。

  1. 経済合理性の観点:もう少し待てば解約返戻金の返戻率が高くなるのに、返戻率が極端に低い時に敢えて名義変更を行うことは、第三者との通常の取引ではあり得ない。
  2. 評価方法の合理性の観点:新ルール案で保険契約の評価額を「資産計上額」とするのは、実質的な資産価値をとらえたものである。また、納税事務を行う際に負担が軽く、計算も簡便であり、合理的である。

1.3.解説

この点については、背後に税法の解釈がかかわっているので、解説を加えます。

1.3.1.経済合理性について

国税庁の見解は、いわゆる「同族会社の行為計算否認規定」(法人税法132条1項・所得税法157条)を根拠にしたものと考えられます。

この規定は、社会一般の第三者との取引ではふつうあり得ない経済合理性のない行為については、通常の取引に引き直して評価することを認めるというものです。

通常、アカの他人にモノを売る時に、もう少し待てば高く売れるのが明らかなのに、敢えて価値が低い時に極端に安い値段で売ることはあり得ません。そういう場合は、本来の価値で売ったものとみなすよ、と言っているのです。

1.3.2.評価方法の合理性について

ただし、その場合は保険契約の「本来の価値」をどのように評価するかが問題となります。

その点、国税庁の意見は、「資産計上額」で評価することは、実際の資産価値との整合性が取れており、かつ、税金を計算する法人の側に余計な負担を与えずに済むものであり、合理的だ、と言っているのです。

論点2|対象となる保険契約の範囲

次に、今回の新ルールの対象となるのは「法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利」です。

すなわち、逓増定期保険をはじめとした解約返戻金がある「定期保険」等です。

2.1.提出された意見の概要

提出された意見の概要は、新ルール案は定期保険だけを狙い撃ちにしたもので不公平である、というものです。

たとえば、以下のような商品も対象にしなければ片手落ちだと言っています。

  • 一部の介護保険(解約返戻金はないが、名義変更後に所定の介護状態になれば相当多額のお金を受け取れる)
  • 「低解約返戻金型」の終身保険・養老保険

2.2.国税庁の見解

これに対し、国税庁は、保険商品の設計などを調査した上で、見直しの要否を検討するとしています。

これは、意見の指摘を踏まえたものであり、今後、他の低解約返戻金型等の保険についても何らかのルールを策定することを検討するという含みを残したものと言えます。

論点3|法人から法人へ名義変更する場合の扱い

3点目は、法人から法人へ保険契約の名義変更を行う場合の扱いです。

3.1.提出された意見の概要

国税庁が3月に公表した新ルール案は「法人⇒個人」の名義変更についてのもので、「法人⇒法人」の名義変更については触れられていませんでした。

これに対し提出された「意見」は、その点について明らかにするよう求めたものであり、意見というよりも質問です。

3.2.国税庁の見解

これに対し、国税庁は、「法人⇒法人」の名義変更の場合も「法人⇒個人」の名義変更と同じルールが適用される旨を明らかにしました。

論点4|いわゆる「遡及適用」の是非

最も意見が多かったのは、新ルールの適用時期に関してでした。いわゆる「遡及適用」にあたらないか、ということです。

この点については、新ルール案の公表直後から、最も重要な論点となっています。

税法理論と判例を踏まえ、詳しい解説を加えることとします。

4.1.提出された意見の概要

まず、意見の概要です。概ね以下のような内容だと言えます。

  • 事実上の遡及立法・遡及適用であり、国民の予測可能性を害する
  • 将来の名義変更プランを行うことによる効果を期待して契約したのだから、通達発表前の契約については名義変更を認めるべき
  • 「名義変更プラン」の問題点は古くから指摘されていたのに、2019年以降の契約のみ遡及するのは不公平である

4.2.国税庁の見解

これに対する国税庁の見解は、以下の通りです。

  • 対象となるのは保険契約自体ではなく、通達が発効する後(2021年7月1日以後)に行われる「名義変更」なのだから、遡及適用ではない
  • 2019年7月の法人保険の現行ルール改定の際の説明会で、保険会社への注意喚起を行っている

4.3.解説

提出された意見と国税庁の見解とは、必ずしも完全にかみ合っているとは言えません。しかし、遡及適用に関する論点を整理すると、結局、以下の2つに集約されると考えられます。

  1. 通達課税の問題:通達は法令ではなく、税務当局内部の解釈基準にすぎないので、新ルールは租税法律主義(憲法84条)に違反しないか?
  2. 遡及適用の問題:新ルールを遡及適用するのは納税者の予測可能性を害するものであり、事後法の禁止(憲法39条)、人権尊重の原理(憲法13条)に違反しないか?

4.3.1.|通達課税(憲法84条違反)について

提出された意見の中には「『事実上の』遡及立法」という表現があります。

これは、法令の改正でなく通達で新ルールを定めるのは違法・違憲だ、というニュアンスが含まれていると考えられます。

なぜなら、租税法律主義(憲法84条)の下、課税の条件を定める場合は、国税庁という行政機関で決めることができず、国会の議決に基づかなければならないからです。

この点については最高裁の判例があり、通達が法令の正しい解釈に合致している限り憲法違反にならないとされています(最高裁昭和33年(1958年)3月28日判決)。

先ほど解説した通り、今回の通達のルール変更は、「同族会社の行為計算否認規定」(法人税法132条1項・所得税法157条)を根拠としたのです。

したがって、この解釈が正当と認められる限り、違法・違憲の問題はないということになります。

4.3.2|遡及適用について

次に、遡及立法・遡及適用の問題です。

■法的には遡及適用にあたらない?

国税庁は、通達が適用されるのは通達発効後の「名義変更」なので遡及適用にあたらないとの見解を示しています。

この理屈は一応、筋が通っているものと言えます。なぜなら、一般に、法人が法人保険に加入する際、後で他者への名義変更を行うことは想定されていないからです。

■事実上の予測可能性の侵害にあたるか?

ただし、そうは言っても、事実上の遡及立法にあたるのではないか、つまり、予測可能性が事実上侵害されているのではないかという問題は残ります。

現に、提出された意見の中には、国税庁が「そもそも遡及適用ではない」と主張するのを事前に想定してか、「契約の時に名義変更によるメリットを期待していたのだから、通達発効前の契約に適用されるべきではない」と言っているものがあります。

それでは、事実上の予測可能性侵害の点については、どのように考えるべきでしょうか。

実は、この点についても判例があります(最高裁平成23年(2011年)9月22日判決ほか)。

最高裁は、遡及立法は、以下の2つの要件を満たす限り憲法84条に反しないというルールを示しています。

  1. 遡及の必要性:ルールを遡及させないと、対象となる行為が駆け込み的に行われ、ルールが無意味になる
  2. 納税者の不利益の軽微性:遡及による納税者の不利益が軽微なものにとどまる

今回のルール変更についてあてはめてみます。

①遡及の必要性

国税庁は、今回の通達の新ルールはそもそも遡及適用にあたらないと主張していますが、仮に遡及立法にあたるとして考えます。

ルールを遡及させなかった場合、2019年7月以降の「駆け込み」的な契約を黙認することになります。これでは、ルールの意味がありません。その意味で、一応、遡及の必要性は満たすという論理は成り立ちます。

②納税者の不利益の軽微性

それでは、今回、納税者の不利益は軽微だったと言えるでしょうか。

国税庁は、2019年7月に保険会社に対して説明会で注意喚起を行ったとしています。

この点をどう評価するかで、結論が分かれてくると考えられます。

国税庁が注意喚起を行ったのは保険会社に対してであり、直接国民に対して説明したわけではありません。その点を重視すると、判例のルールに違反し、違法・違憲となる可能性が出てきます。

これに対し、以前から「名義変更プラン」について専門家や一部のメディア等から問題点が指摘されていたこと、国税庁が問題視していることがある程度知られていたこと等を重視すると、判例のルールを満たしており、適法・合憲だということになります。

まとめ

6月18日に公表された、いわゆる逓増定期保険の「名義変更プラン」に適用される新ルール案に関する国税庁のパブリックコメント(意見公募手続)の結果について、その内容を紹介した上で、重要な論点の解説を行いました。

今回、提出された意見書に対し、国税庁が見解を示しています。この見解を見る限り、新ルール案は大筋で変更されることなく、施行される可能性が高いことが推察されます。

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