※(2020年10月17日追記)この記事における法人保険の保険料の税務上の扱い、契約例に関する記載内容は、旧ルールを前提としております。最新のルールについては「法人保険の損金算入ルールを分かりやすく解説します」をご覧ください。また、新ルールを踏まえた法人保険の最新の活用法については「法人保険|会社のお金の問題解決に役立つ最新6つの活用法」をご覧ください。
逓増定期保険は、よく、法人の「節税」に役立つ保険商品と言われています。しかし、「逓増」という言葉が聞き慣れないのもあり、どんなものかよく分からないのではないでしょうか。
「節税」というのはウソではありません。しかし、それは、加入時に正しい商品を選ぶのはもちろん、いくつかのポイントを押さえた上でという前提です。
この記事では、私たちがこれまで数多くの法人様のコンサルティングを行ってきた経験を踏まえ、逓増定期保険の基本的なしくみと正しい活用法、選び方について、分かりやすくお伝えします。
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保険の教科書 編集長。2級ファイナンシャルプランナー技能士。行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
1.逓増定期保険とは
まず、逓増定期保険がどんな保険なのかをお伝えします。
重要なポイントは以下の2つです。
- 保険金が5倍にまで増えていく
- わりと短期間で保険料総額の90~100%台のお金が貯まる
1.1.保険金が5倍にまで増えていく
逓増定期保険は、法人専用に設計された、保険金が当初の5倍にまで増えていく生命保険です。
なぜそういう設計になっているかというと、法人が将来成長していくのを想定しているからです。
どんな大企業も、起業当初は小さかったはずです。法人が成長して大きくなっていくと、その分、経営者の方に万一があった時に必要な保険金の額も大きくなるということです。
【イメージ】

1.2.わりと短期間で保険料総額の90~100%台のお金が貯まる
逓増定期保険の2つ目の特徴は、短期間で多くのお金が貯められることです。
どういうことかというと、適切なタイミングで解約すると、それまでに支払った保険料の90%~100%台の「解約返戻金」が受け取れます。
ただし、受け取れる率(返戻率)は、以下のように釣鐘型に推移します。
返戻率は、最高になるタイミング(ピーク)を過ぎると下がっていきます。なので、返戻率のピークの頃に解約する必要があります。
ピークが来る時期は、商品により幅がありますが、だいたい
- 1/2損金の商品:5~10年後
- 1/3損金の商品:15~20年後
- 全額損金の商品:5年後くらい
となっています。

2.逓増定期保険の3つのタイプと選び方のポイント
2.1.逓増定期保険の3つのタイプ
逓増定期保険は、保険料のうちどのくらいの割合を損金に算入できるかに応じて、3つに分かれます(1/4損金の商品もありますが、かなり特殊なので割愛します)。
- 1/2損金タイプ
- 1/3損金タイプ
- 全額損金タイプ
これらのうち全額損金タイプは、35歳までしか加入できません。
2.2.逓増定期保険は経理処理に注意
逓増定期保険の活用を考える上で、経理処理を押さえておくことが重要です。
詳しい理屈は「逓増定期保険の経理処理|キャッシュをより多く残せるしくみ」で分かりやすく説明していますので、ご覧いただくとして、ここでは簡単に説明しておきます。
1/2損金タイプと1/3損金タイプは、保険料のうち損金に算入されなかった分の額は、資産計上されていきます。

経理処理は、1/2損金タイプを例にとると以下の通りです。
【契約例(50歳・男性)】
- 保険期間:22年(72歳満了)
- 保険料:4,888,750円
- 保険金:5,000万円
- 返戻率のピーク:10年後(98.1%(47,950,000円))
【保険料を支払った時】
- 1/2:その時点の保障を受けるための「支払保険料」(費用)
- 1/2:将来の保障のため積み立てる「前払保険料」(資産)
となります。

【解約返戻金を受け取った時】
10年後に解約返戻金47,950,000円を受け取るとその分、現金・預金という資産が増加します。
ただし、解約返戻金の一部は、保険会社に保険料の1/2を「前払保険料」として預けて積み立ててきた合計24,443,750円の資産が姿を変えて戻ってくるものです。したがって、その分だけ前払保険料という資産がなくなります。
そして、解約返戻金から前払保険料を差し引いた23,506,250円は収益としてとらえます。これが税務上、雑収入として益金に計上されます。

1/3損金タイプも全額損金タイプも、しくみは同じです。
ただし、全額損金タイプの場合、保険料を払った時に資産計上する「前払保険料」がないだけです。なので、解約返戻金を受け取った時に減少する「前払保険料」がなく、全額が「雑収入」になります。
2.3.重要なのは「いつ解約するか」と「解約返戻金を何に使うか」
解約返戻金を受け取った場合の雑収入は益金ですので、それと同額以上の損金を出さないと、税金が取られてしまいます。そうなると、「節税」の効果は得られません。
したがって、逓増定期保険をプランニングするには、
- 解約時期(解約返戻金のピークの時期)はいつか
- 解約返戻金を受け取った時に損金を計上できる使い道があるか
という点が、非常に重要です。
では、逓増定期保険の3つのタイプは、どのように使い分けるべきでしょうか。次に、解約時期と、解約返戻金の使い道に着目して、それぞれの大まかな傾向についてお伝えします。
3.「1/2損金」「1/3損金」「全額損金」はこう使う
逓増定期保険で最もメジャーなのは「1/2損金タイプ」、その次が「1/3損金タイプ」、最もマイナーなのが「全額損金タイプ」です。
全額損金タイプが最もマイナーな最大な理由は、35歳以下しか加入できず、また、あまり大きな保険料を設定できないからです。
以下に、大まかな向き不向きを表にしました。

詳しくは「逓増定期保険の損金の3つのタイプを最大限に活用するポイント」をご覧いただくとして、以下、それぞれについて簡単に説明します。
3.1.「1/2損金タイプ」の活用法|5~10年後の資金準備と事業承継に
1/2損金タイプの大まかな特徴は以下の通りです。なお、例外もあります。
- 解約返戻金のピーク時の返戻率:90~100%台
- ピーク(90%以上)の時期:5~10年後
ピーク期間の長さ:長短あり

のことからすれば、5~10年後の資金準備に向いていると言えます。
特に、50~60代の経営者の方の退職金を積み立てるために加入するケースが多いです。
また、退職金の積み立てをしながら、後継者の方への事業承継にも役に立ちます。
どういうことかというと、保険料の1/2を損金算入するので、その分、会社の資産価値を減らしていくことができます。その結果、自社株式を後継者の方に引き継ぐ時に、後継者の相続税・贈与税を抑えることができるのですす。詳しくは、「事業承継対策に役立つ生命保険4種類の活用法」をご覧ください。
なお、1/2損金タイプを活用した法人・個人両方にとっての「節税スキーム」として、「名義変更プラン」と呼ばれるものが一時期もてはやされていました(今でもこれを売り物にしているケースが散見されます)。しかし、これは税務上のリスクがあり、かつ、その割に旨みが少ないと考えられますので、おすすめできません。詳しくは「逓増定期保険名義変更プランのしくみと3つの注意点」をご覧ください。
3.2.「1/3損金タイプ」の活用法|40代~50代の方の退職金準備に
1/3損金タイプの大まかな特徴は以下の通りです。
- 解約返戻金のピーク時の返戻率:95~110%台
- ピークの(100%以上)時期:15~25年
- ピーク期間の長さ:非常に長い

特に、40代~50代の経営者の方の場合、リタイア適齢期にさしかかる60~70代にピークがきますので、退職金準備には最適です。
しかも、返戻率100%以上の期間が非常に長く続くものがあり、極端な話、そのタイミングで解約返戻金を受け取って雑収入が出て、損金を計上する使い道がなくて税金を取られてしまったとしても、損はしません。
このことからすれば、「節税」の効果はそこまで高くはない反面、損をするリスクは低いと言えます。
3.3.「全額損金タイプ」の本当の活用法は?
全額損金タイプは35歳以下しか加入できません。その他に、以下のような特徴があります。
- 返戻率:80%台~90%前後
- ピークの時期:4~5年後
- ピークの期間…2~3年
このように、ピークはすぐに来て、すぐ終わってしまうのです。したがって、おすすめできるのは、5年後くらいに解約返戻金の明確な使い道がある場合くらいです。
たとえば、業務拡大のための多額の出費を予定しているとか、現在60代くらいの役員・従業員の方の退職金を準備したいとかの場合です。
まとめ
逓増定期保険は、保険金が当初の5倍までだんだん増えていく保険です。保険料の一部または全部を損金算入できることと、解約した時に高率の返戻金を受け取れる点をさして「節税商品」と言われることがあります。
ただし、上手に活用しないと、かえって損をしてしまうリスクもあります。
保険料を払った時に損金算入できる割合に応じて「1/2損金」「1/3損金」「全額損金」の3つのタイプがあり、それぞれ、特徴と活用法が違います。
重要なのは、「解約時期」と「解約返戻金の活用法」です。
それぞれの特徴を見極め、また、ご自身と会社のニーズを見極めて、しっかりプランニングした上で選んで活用しましょう。
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