毎年5月から6月頃になると、お住まいの市区町村から「住民税決定通知書」が届きます。給与明細や確定申告書を見て所得税については意識していても、少し遅れて通知が来る住民税の金額に、改めて驚いたり、気が重くなったりする方も多いのではないでしょうか。
「所得税と同じように、住民税も安くする方法はないのだろうか?」そう考えるのは当然のことです。
実は、住民税の仕組みを正しく理解し、所得が確定する前年のうちから適切な対策を講じることで、その負担を合法的に軽減することが可能です。
この記事では、住民税の基本的な仕組みから、税額計算の元となる「課税所得」を圧縮する方法、そして税負担を軽くする「所得控除」などを最大限に活用する方法、最後に重要な注意点について詳しく解説していきます。
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1. 住民税の仕組みと計算方法
住民税の課税スケジュール(前年所得主義)
まず理解しておくべき最も重要な点は、その年に納める住民税は、前年(1月1日~12月31日)の所得に基づいて計算されるということです。
例えば、2025年度に納める住民税は、2024年中の所得に対して課税される、という仕組みです。
このため、会社員の場合、前年に所得のなかった新入社員の住民税は2年目の6月から給与天引きが始まり、「2年目から手取りが減った」と感じる原因になります。
逆に、前年に高所得だった方が今年退職して所得がゼロになったとしても、前年の所得に対する住民税を納付する必要があるため、負担が重く感じられるケースもあります。
住民税の構成:「所得割」と「均等割」
住民税は、主に「所得割」と「均等割」の2つで構成されています。
- 所得割: 前年の所得金額に応じて課税される部分。税率は、所得の多い少ないにかかわらず、原則として一律10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。所得が多くなるほど税率が上がる所得税(超過累進課税、最高45%)とは、この点が大きく異なります。
- 均等割: 所得金額にかかわらず、その地域に住む人が均等に負担する部分。金額は自治体によって多少異なりますが、おおむね年額5,000円程度です。
節税のポイントは「所得割」の圧縮
均等割は定額のため節税の余地はほとんどありません。したがって、住民税の節税とは、実質的に「所得割」の税額をいかに減らすか、ということになります。
所得割は「(前年の総所得金額等 - 所得控除額)× 税率10%」で計算されるため、節税のポイントは以下の2つに集約されます。
- 課税対象となる「所得金額」を圧縮すること
- 所得から差し引ける「所得控除額」を増やすこと
以下、それぞれの具体的な方法を見ていきましょう。
2. 【対策その1】課税所得を圧縮する方法
主に個人事業主やフリーランスの方が対象となりますが、課税所得そのものを減らすための代表的な方法です。
① 必要経費を漏れなく計上する
事業所得や不動産所得、雑所得は、「収入金額 - 必要経費」で計算されます。したがって、事業を運営するためにかかった必要経費を漏れなく、かつ正確に計上することが、所得圧縮の基本にして最も重要なポイントです。
特に、自宅兼事務所として事業を行っている場合、家賃や水道光熱費、インターネット通信費などを、事業で使用している割合に応じて按分(家事按分)して経費計上することを忘れがちです。
また、事業で使用する自家用車の車両費やガソリン代なども同様です。これらの経費を適切に計上することで、課税所得を抑えることができます。
② 青色申告特別控除を活用する
個人事業主の方が確定申告をする際、「白色申告」ではなく「青色申告」を選択することで、所得金額から最大65万円を控除できる「青色申告特別控除」の適用を受けられます。
この控除は、住民税の計算上も所得金額から差し引かれるため、65万円の控除を受けられれば、住民税はその10%にあたる6万5千円も安くなります。
青色申告には複式簿記での記帳などの手間がかかりますが、そのメリットは非常に大きいと言えます。
③ 少額減価償却資産の特例を利用する
青色申告者である中小企業者等(個人事業主を含む)は、取得価額が10万円以上30万円未満の減価償却資産(パソコン、エアコン、業務用の機材など)を取得した場合、年間合計300万円まで、その全額を取得した年の経費として一括で計上できる特例があります。
通常は数年にわたって減価償却する費用を初年度にまとめて経費化できるため、利益が多く出た年の所得を効果的に圧縮するのに役立ちます。
3. 【対策その2】所得控除・税額控除を増やす方法
次に、所得から差し引ける「控除額」を増やす方法です。こちらは会社員の方でも活用できるものが多くあります。
① 小規模企業共済等掛金控除(小規模企業共済、iDeCo)
- 小規模企業共済: 個人事業主や小規模企業の役員のための退職金積立制度です。支払った掛金(月額1,000円~7万円)は、その全額が所得控除の対象となります。例えば、年間上限の84万円を拠出すれば、課税所得を84万円減らすことができ、住民税だけでも約8万4千円の節税になります。
- iDeCo(個人型確定拠出年金): 自分で掛金を拠出し、運用して将来の年金を形成する制度です。この掛金も全額が所得控除の対象となり、高い節税効果が期待できます。また、運用期間中の利益も非課税です。ただし、原則として60歳まで資金を引き出せない点には注意が必要です。
② 医療費控除
1年間に支払った医療費の合計が一定額(原則10万円)を超えた場合に受けられる所得控除です。確定申告が必要です。
自分自身の医療費だけでなく、生計を同一にする配偶者や親族のために支払った医療費も合算できます。
病院での診療費や薬代だけでなく、通院のための交通費(公共交通機関)、市販の風邪薬や湿布の購入代、レーシック手術費用なども対象となる場合があり、意外と適用できる範囲は広いです。
③ 生命保険料控除
生命保険や介護医療保険、個人年金保険などに加入し、保険料を支払っている場合に受けられる所得控除です。
「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つの区分があり、住民税の計算においては、それぞれの控除額の上限は2万8千円、合計で最大7万円の所得控除が適用されます(所得税とは控除額が異なります)。
④ 扶養控除
生計を同一にし、年間の合計所得金額が48万円以下などの要件を満たす親族がいる場合に受けられる所得控除です。
扶養親族の年齢によって控除額が異なり、例えば16歳以上であれば33万円、19歳以上23歳未満(大学生など)であれば「特定扶養親族」として45万円の控除が適用されます。
また、70歳以上の親を扶養している場合も、同居・別居に応じて38万円または45万円の控除が受けられます。
意外と見落としがちなのが、別居している親を仕送りなどで扶養しているケースです。要件を満たせば控除の対象となるため、確認してみましょう。
⑤ ふるさと納税(寄附金控除)
応援したい自治体に寄付をすることで、寄付額のうち自己負担額の2,000円を除いた全額が、所得税および住民税から控除(還付・減額)される制度です。
実質2,000円の負担で、寄付先の自治体から返礼品を受け取れるため、非常に人気の高い制度です。
- ワンストップ特例制度: 確定申告が不要な会社員の方などが、寄付先を5自治体以内に収めるなどの要件を満たした場合に利用できる簡易な手続きです。この場合、控除額の全額が翌年度の住民税から直接減額されます。
- 確定申告: 個人事業主の方や、6自治体以上に寄付した方などが利用します。この場合、控除額の一部が所得税から還付され、残りが翌年度の住民税から減額される形で控除が行われます。 いずれの方法でも、トータルの控除額はほぼ同じですが、自身の所得に応じた控除上限額を超えて寄付した分は、純粋な自己負担となるため注意が必要です。
4. 最後に確認すべき重要な注意点
住民税決定通知書は必ずチェックする!
様々な対策を講じた上で、最終的に5月~6月頃に届く「住民税決定通知書」。これを受け取ったら、必ず内容を確認する習慣をつけましょう。
なぜなら、この通知書には、稀に計算ミスが含まれていることがあるからです。 住民税の計算は、市区町村の職員が確定申告書や給与支払報告書などの膨大なデータを基に行っています。
そのため、入力ミスや解釈の間違いなど、ヒューマンエラーが発生する可能性はゼロではありません。
間違いの可能性と確認ポイント
例えば、扶養控除の適用が漏れていたり、前年に退職して所得がないはずなのに課税されていたりといったケースも考えられます。
扶養親族が一人抜けているだけでも、年間で数万円単位の税額差が生じます。お手元にある確定申告書の控えや源泉徴収票と、住民税決定通知書に記載されている所得額や控除額の内訳を照らし合わせ、「何かおかしいな」と感じたら、すぐにお住まいの市区町村の税務課へ問い合わせてみましょう。
まとめ
住民税の負担を軽減するためには、その税額が決定される前年、つまり所得を得たその年の行動が鍵となります。
具体的なアプローチは、(1)個人事業主として経費を適切に計上したり、青色申告特別控除を活用したりして「課税所得」そのものを減らすこと、そして(2)小規模企業共済やiDeCo、各種保険料控除、扶養控除、ふるさと納税など、適用できる控除を最大限に活用して「控除額」を増やすこと、の2つに大別されます。
所得税と住民税では控除額が異なる制度も多いため、それぞれの仕組みを正しく理解することが重要です。
そして、対策の結果として送られてくる住民税決定通知書の内容をしっかりと確認し、自身の権利を守る意識も忘れてはなりません。
これらのポイントを実践することで、住民税の負担を合法的に抑え、手元に残るキャッシュを増やすことが可能になります。
この記事で解説した内容は、以下の動画で税理士がより詳しく解説しています。具体的な控除額の計算や最新の制度情報を知りたい場合に、参考にしてください。