医師・医療法人のための節税戦略:MS法人活用のメリットと注意点

医師は社会的に重要な役割を担う一方で、高収入を得る方が多いことから、所得税や住民税の負担が重くなりがちです。そのため、効果的な節税対策や資産形成に関心を持つ先生方も少なくありません。個人開業医の場合、所得が増加するにつれて「法人化」が有力な選択肢となりますが、医療分野には特有の法人形態が存在します。

それが「医療法人」と「MS法人」です。これらは設立根拠や事業内容、特性が異なり、それぞれにメリット・デメリットがあります。特にMS法人は、医療法人の活動を補完し、より柔軟な節税や事業展開を可能にするとして注目されています。この記事では、医療法人とMS法人の基本的な違いから、法人化による節税メリット、そしてMS法人ならではの活用法と注意点について解説していきます。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 医療法人とMS法人:それぞれの特徴

まず、医療法人とMS法人がそれぞれどのような法人なのか、その基本的な違いを見ていきましょう。

医療法人とは(医療法、非営利性)

医療法人は、病院、診療所、または介護老人保健施設・介護医療院を開設・運営することを目的として、「医療法」に基づいて設立される法人です。その設立目的から公益性が重視され、「非営利性」が原則とされています。これは、医療行為によって得た利益(剰余金)を、出資者(社員など)に配当することが禁止されていることを意味します。また、医療法人は、原則として医療提供に関連する本来業務や附帯業務しか行うことができません。

MS法人(メディカル・サービス法人)とは(会社法、営利性、事業例)

MS法人(メディカル・サービス法人)は、特定の法律で定義された法人形態ではなく、主に医療法人に対して医療提供以外のサービス(メディカル・サービス)を提供することを目的として設立される、一般的な営利法人(株式会社や合同会社など)の通称です。「会社法」に基づいて設立されるため、医療法人のような業務範囲の制限や剰余金配当の禁止といった制約はありません。 MS法人が行う事業の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 医療事務、受付、経理、請求業務の受託
  • 医療機器や消耗品の賃貸・販売
  • 不動産の賃貸(クリニックの建物・土地など)
  • 清掃、保守管理業務の受託
  • 職員への福利厚生サービスの提供 など

なぜMS法人が活用されるのか(医療法人の制約補完)

医療法人は非営利性が求められ、行える業務も限定されています。そこで、医療行為以外の業務(特に営利性が伴う可能性があるもの)を切り離し、MS法人に委託・担当させることで、医療法人は診療に専念しやすくなります。同時に、MS法人側では医療法の制約を受けずに多様な事業活動を展開し、利益を追求することが可能になります。このように、MS法人は医療法人の活動を補完し、経営の効率化や多角化を図るために活用されています。

2. 法人化による共通のメリット

個人開業医が医療法人またはMS法人を設立(あるいは両方を活用)することで、共通して得られる主なメリットには以下のようなものがあります。

所得税・法人税の税率差による節税

個人開業医の場合、所得が増えるほど所得税の税率が高くなる累進課税が適用され、最高税率は住民税と合わせて55%にも達します(課税所得4,000万円超の部分)。一方、法人税の実効税率は、中小企業の場合、利益が年800万円以下の部分は約25%、800万円を超える部分でも約34%程度で、一定の上限があります。 個人の所得が特に高くなる(目安として1,800万円を超えるような)場合、法人化して役員報酬として給与を受け取る形にすることで、所得税と法人税の税率差を利用した節税効果が期待できます。

家族役員への報酬支払いによる所得分散

個人事業では院長一人に所得が集中しがちですが、法人化すれば、生計を同一にする配偶者や子などを役員とし、その業務内容に応じて役員報酬を支払うことが可能になります。これにより、院長個人の所得を分散し、世帯全体で見た場合の所得税・住民税の負担を軽減できます。例えば、院長の所得1,500万円を、配偶者を役員にして適切に分散した場合、世帯の手取り額が年間で数十万円から百万円以上増加するケースも考えられます(※役員報酬額や家族構成等により効果は異なります)。この所得分散は、結果的に相続税対策にもつながる場合があります。なお、医療法人で家族を役員にする場合、一定の制約(理事の親族割合制限など)がありますが、MS法人であればより柔軟に役員を選任できます。

退職金制度の活用(損金算入と受取時の税優遇)

個人事業主は自分自身に退職金を支給できませんが、法人は役員に対して退職金を支給できます。支給した退職金は、原則として法人の損金(経費)として計上できるため、退職金を支払う年度の法人税負担を軽減できます。さらに、退職金を受け取る側も、通常の給与所得に比べて税制面で大きく優遇されています(退職所得控除、分離課税、2分の1課税)。計画的に退職金を準備・支給することで、効果的な節税とリタイアメントプランニングが可能になります。

その他のメリット

上記以外にも、役員報酬は給与所得控除の対象となる、生命保険料の一部(または全部)を損金算入できる場合がある、決算期を自由に設定できるため繁忙期を避けたり資金繰りに合わせたりできる、といったメリットがあります。

3. MS法人ならではの活用法とメリット

医療法人と共通のメリットに加え、MS法人には営利法人であるからこその、より柔軟な活用法があります。

資金調達の多様化

医療法人は、その非営利性から株式や社債の発行による資金調達はできません。一方、MS法人(株式会社等)であれば、株式発行による増資や社債発行、あるいは金融機関からの融資(特にMS法人が不動産を所有していれば、それを担保にした融資)など、多様な手段で資金を調達し、それを医療法人への貸付や設備投資などに活用することが考えられます。

事業の多角化

MS法人は医療法の制約を受けないため、医療関連サービス以外にも様々な事業を展開できます。例えば、MS法人で不動産を取得し、一部をクリニックに、残りを調剤薬局や他のテナントに賃貸する不動産賃貸業、医師監修の化粧品(ドクターズコスメ)や健康食品の企画・販売、医療経営のノウハウを活かしたコンサルティング事業などが可能です。これにより、医療収入以外の収益源を確保し、経営の安定化を図ることができます。

資産管理会社としての活用

院長個人が所有する株式や不動産などの資産をMS法人に移転し、その管理・運用をMS法人で行うことも考えられます。これにより、個人の資産と事業用資産を明確に区分し、効率的な資産管理や将来の相続対策につなげることが期待できます。

法人税・相続税対策(利益移転と持分評価額の抑制)

医療法人からMS法人へ、医療行為以外の業務(事務、経理、清掃、機器リースなど)を適正な対価で委託することにより、医療法人に集中しがちな利益をMS法人へ移転させることができます。これにより、医療法人の利益が圧縮され法人税負担が軽減されるとともに、MS法人側で役員報酬などを支払うことで、MS法人自体の利益もコントロールしやすくなります。

出資持分と相続の問題点

特に、過去に設立された「出資持分あり」の医療法人(※現在、新規設立は「出資持分なし」のみ)の場合、この利益移転は相続税対策としても重要になります。出資持分とは、出資額に応じて医療法人の財産を受け取る権利であり、相続財産となります。医療法人は利益が内部留保されやすく、純資産価額(持分の評価額)が高額になりがちです。理事長(出資者)の相続発生時、この高額な持分評価額に基づいて多額の相続税が課され、後継者が納税資金に窮するケースが少なくありません。

MS法人への業務委託による効果

MS法人へ適正な業務委託料を支払うことで、医療法人の利益を計画的に圧縮し、純資産価額の上昇を抑制することができれば、将来の出資持分評価額を引き下げ、相続税負担を軽減する効果が期待できます。

4. MS法人を活用する上での注意点

MS法人の活用はメリットが多い一方、注意すべき点も存在します。安易な設立はかえってデメリットを生む可能性もあるため、以下の点を十分に理解しておく必要があります。

医療法人理事とMS法人取締役の兼任問題

医療法人の役員(特に理事長や管理者)と、その医療法人と取引関係にあるMS法人の代表取締役を同一人物が兼任することは、医療法人の非営利性の観点から原則として認められていません。形式的に代表者を分けても、実質的に同一人物が双方の経営を支配していると判断されれば問題となる可能性があります。

消費税の納税義務発生

医療法人が行う保険診療は、原則として消費税が非課税です。しかし、MS法人が医療法人から受け取る業務委託料や、物品販売収入、不動産賃料収入などは、原則として消費税の課税対象となります。MS法人を設立することで、これまで発生しなかった消費税の納税義務が生じる可能性がある点は、大きな注意点です。インボイス制度への対応も必要となります。

税務否認リスク(取引の合理性、法人実態)

医療法人とMS法人の取引は、実質的に理事長とその家族など同族間で行われることが多いため、税務調査ではその取引内容の「合理性」とMS法人の「事業実態」が厳しくチェックされます。

否認を避けるためのポイント

税務否認リスクを避けるためには、以下の点を遵守することが重要です。

  • 取引価格の妥当性: 業務委託料や賃料などが、第三者間の取引と比較して適正な水準(相場)であること。不当に高額な設定は利益移転とみなされます。
  • 契約書・証憑類の整備: 業務委託契約書、賃貸借契約書、請求書、領収書などをきちんと作成・保存すること。
  • MS法人の事業実態: MS法人として独立した事務所スペースがあるか、必要な備品が揃っているか、専任の従業員がいるか、社会保険に加入しているかなど、法人としての実態を備えていること。ペーパーカンパニーとみなされないように注意が必要です。

都道府県への取引状況報告義務

医療法は、医療法人に対して、関係事業者(MS法人を含む)との間で一定額以上の取引がある場合、その取引状況に関する報告書を毎会計年度終了後、都道府県知事に届け出ることを義務付けています。ここで不適切な取引が疑われれば、指導や調査の対象となる可能性があります。

まとめ

高収入を得ることが多い医師にとって、医療法人化、そしてMS法人(メディカル・サービス法人)の活用は、所得税・法人税の負担軽減、所得分散、退職金準備、さらには事業の多角化や相続税対策といった多岐にわたるメリットをもたらす可能性があります。特にMS法人は、医療法の制約を受けずに柔軟な事業運営ができる点が魅力です。

しかしその一方で、代表者の兼任制限、消費税負担の発生、そして税務否認リスクといった重要な注意点も存在します。MS法人を設立・運営する際は、これらのメリット・デメリットを十分に理解し、関連法規や税法を遵守した適正な運用を心がけることが不可欠です。

MS法人の設立や活用方法、税務上の取り扱いについては、専門的な判断が求められる場面が多くあります。計画・実行にあたっては、医療分野に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

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