開業費を賢く活用!個人事業主が見逃せない節税のポイント

個人事業主として新たな一歩を踏み出す際には、事務所の契約、備品の購入、広告宣伝、必要な知識を得るためのセミナー参加など、開業前から様々な準備費用が発生します。「これらの費用は、果たして経費として認められるのだろうか?」と疑問に思う方も多いでしょう。

実は、個人事業主が開業する日までに事業の準備のために支出した費用は、「開業費」として処理し、将来の節税に大きく役立てることができる、非常に便利な制度があります。しかし、この開業費の範囲や正しい計上方法、そして何よりその節税効果を最大限に引き出す活用法について、詳しく知らないまま開業してしまう方も少なくありません。

この記事では、「開業費」とは具体的にどのようなものか、何が開業費として認められ、何が認められないのか、そして開業費を最も効果的に節税につなげるための方法と注意点、さらに法人設立時の費用との違いについて詳しく解説します。

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社長の資産防衛チャンネル編集チーム

社長の資産防衛チャンネル編集チーム

本記事は社長の資産防衛チャンネル編集チームで執筆、税理士法人グランサーズが監修しています。編集チームは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持つメンバーで構成されています。

1. 「開業費」とは?~開業準備にかかった費用~

開業費の定義(開業日までの準備費用)

開業費とは、個人事業主が事業を開始する日(開業日)までに、開業の準備のために「特別に支出した費用」のことを指します。「開業準備費」とも呼ばれます。事業を始めることを決意してから、実際に営業を開始するまでの間にかかった様々な費用をまとめて「開業費」として扱うことができます。

開業費が節税につながる理由(経費化タイミングの柔軟性)

開業費の最大の魅力は、その経費計上のタイミングを、ある程度自由にコントロールできる点にあります。

通常、経費はその支出があった事業年度に計上しますが、開業費は「繰延資産」として一旦資産計上し、その後、任意のタイミングで任意の金額を償却(費用化)することが税法上認められています。これにより、事業が軌道に乗って利益が出始めた年にまとめて経費化するなど、戦略的な節税が可能になるのです。この詳細は後ほど詳しく説明します。

「創立費」との違い(法人特有の費用)

開業費と似た言葉に「創立費」がありますが、これは法人の設立登記までにかかった費用(定款作成費用、登録免許税など)を指し、個人事業主には関係ありません。法人の場合、「創立費」と「開業費(法人設立後、営業開始までに特別に支出した費用)」の両方が存在しますが、個人事業主の場合は「開業費」のみとなります。

2. 何が開業費になる?ならない?

開業準備期間中の支出がすべて開業費として認められるわけではありません。具体的な例を見ていきましょう。

開業費として認められる費用の例

以下のような、開業準備のために直接必要であったと説明できる費用は、開業費として計上できる可能性が高いです。

  • 広告宣伝費関連: 名刺、チラシ・パンフレットの作成費用、ウェブサイト制作費用、看板作成費用など。
  • 調査・学習関連: 市場調査費用、関連書籍の購入費、開業に必要な知識やスキルを習得するためのセミナー・研修参加費、コンサルタントへの相談料など。
  • 事務関連: 事務所や店舗の賃借契約にかかる礼金(敷金は除く)、開業準備期間中の家賃・水道光熱費・通信費(事業用と明確に区分できる部分)、事務用品購入費、印鑑作成費など。
  • 打ち合わせ関連: 開業準備のための取引先や関係者との打ち合わせにかかる交通費、飲食代(常識の範囲内)など。

開業費として認められない費用の例

一方で、以下のような費用は開業費として認められません。

  • 10万円以上の減価償却資産: パソコン、机、応接セット、車両などで、取得価額が10万円以上のものは、開業費ではなく固定資産として計上し、減価償却によって費用化します。
  • 仕入れ代金: 販売する商品の仕入れ代金は、開業費ではなく「仕入高(売上原価)」として処理します。
  • 敷金・保証金: 事務所や店舗を借りる際の敷金や保証金は、将来返還される可能性があるため、開業費ではなく「差入保証金」などの資産科目で処理します。
  • 開業後の通常の経費: 開業日以降に発生する通常の取引先との接待交際費や、日常的な経費は、開業費ではなく、それぞれの該当する勘定科目で処理します。
  • 事業とは無関係な個人的な支出: 当然ながら、プライベートな支出は開業費にはなりません。

いつの支出まで遡れる?(原則と実務上の目安)

「開業のために使った費用」であれば、原則として何年前の支出でも開業費として計上することが法律上は可能です。しかし、あまりにも開業時期から離れた支出は、税務調査で「本当に関連性があるのか?」と疑問視される可能性があります。

実務上は、開業日の数ヶ月前から1年程度前の支出であれば、比較的スムーズに認められることが多いでしょう。1年以上前の支出を開業費として計上する場合は、それが間違いなく開業準備のための支出であったことを客観的に証明できる証拠(契約書、計画書、当時のメモなど)をしっかりと残しておくことが重要です。

3. 開業費を活用した節税方法:繰延資産としての任意償却

開業費の会計処理(繰延資産への計上)

開業準備のために支出した費用(10万円以上の固定資産を除く)の合計額が10万円以上になる場合、それらを個別の経費科目で処理するのではなく、まとめて「開業費」という一つの資産科目(繰延資産)として貸借対照表に計上します。

償却方法の選択肢

資産計上された開業費は、その後、複数年にわたって費用化(償却)していくことになります。この償却方法には、会計上の原則と税法上の特例があります。

  • (1) 均等償却(会計上の原則:5年均等): 会計ルール上は、開業費を5年間で均等に償却(費用化)することが原則とされています。例えば、開業費が100万円であれば、毎年20万円ずつ5年間にわたって経費計上するイメージです。
  • (2) 任意償却(税法上の特例:自由なタイミングと金額で償却): これが開業費の最大の節税ポイントです。税法上、個人事業主の開業費の償却については、**償却する年や金額を自由に決めることができる「任意償却」**が認められています。

任意償却のメリットと活用法

任意償却のメリットは、事業の利益状況に合わせて、経費計上するタイミングと金額を柔軟にコントロールできる点にあります。

  • 赤字の年は償却しない、黒字の年にまとめて償却: 開業当初は売上が安定せず、赤字になることも少なくありません。そのような年に無理に開業費を償却(費用化)しても、赤字が拡大するだけで節税効果は得られません。任意償却なら、赤字の年には償却額を0円とし、事業が軌道に乗って利益が十分に出始めた年に、まとめて多くの金額を償却(費用化)することができます。これにより、利益が出た年の課税所得を効果的に圧縮し、所得税・住民税の負担を軽減できます。
  • 償却額の上限(未償却残高まで): 各年に償却できる金額は、0円から、その時点での開業費の未償却残高の全額までの範囲で、自由に設定できます。つまり、初年度から大きな黒字が見込めるなら、開業費の全額を初年度に償却することも可能です。
  • 5年超の償却も可能: 会計上の均等償却期間は5年ですが、税法上の任意償却にはそのような期間制限はありません。5年を超えて、例えば10年後に償却するといったことも可能です。

10万円未満の場合の処理

開業費の合計額が10万円未満の場合は、繰延資産として計上せず、開業した年の必要経費として、それぞれの支出内容に応じた勘定科目(広告宣伝費、消耗品費など)で一括して経費計上することができます。

4. 開業費を計上する際の重要注意点

開業費を適切に計上し、節税メリットを享受するためには、以下の点に注意が必要です。

証拠書類(領収書・レシート等)の徹底保管

開業準備にかかった費用の領収書やレシートは、どんなに少額なものであっても、日付、宛名(屋号または個人名)、金額、但し書き(支出内容)、発行者名がきちんと記載されているかを確認し、必ず保管しておきましょう。これらは、税務調査が入った際に、支出の事実と事業関連性を証明するための最も重要な証拠となります。

領収書がない場合の対応(出金伝票)

電車代や慶弔費など、領収書が発行されない支出については、日付、支払先、金額、目的などを記載した「出金伝票」を自分で作成し、保管しておきます。

明細書の作成と添付

確定申告の際には、開業費の内訳を記載した明細書(任意様式で可)を作成し、会計帳簿に添付しておくことをお勧めします。これにより、後から見返したときに内容を把握しやすく、税務署への説明もスムーズになります。

5. 法人の「創立費」「開業費」との違い

個人事業主の開業費と、法人の設立時にかかる費用は、取り扱いが少し異なります。

法人における費用の区分(創立費と開業費)

法人の場合、設立にかかる費用は「創立費」と「開業費」の2つに区分されます。

  • 創立費: 会社設立のための定款作成費用、登録免許税、設立登記費用など、法人を設立する「登記まで」に要した費用。
  • 開業費: 法人設立後、実際に営業を開始する「まで」に、開業準備のために「特別に支出した」費用。

法人の開業費の範囲(「特別に支出する」費用に限定)

法人の開業費として認められるのは、広告宣飩費や市場調査費、従業員の研修費用など、開業準備のために「特別に」支出した費用に限定されます。事務所の家賃や従業員給与、水道光熱費といった、事業を開始すれば経常的に発生する費用は、たとえ営業開始前であっても法人の開業費には含められません(これらは営業開始後の期間に対応する費用として処理されます)。

まとめ

個人事業主にとって「開業費」は、開業準備にかかった費用を将来の利益と相殺できる、非常に柔軟で使い勝手の良い節税の仕組みです。繰延資産として計上し、任意償却を選択することで、赤字の年には償却せず、事業が軌道に乗って利益が出始めたタイミングで経費化することができます。

このメリットを最大限に活かすためには、開業を決意した時点から、事業準備にかかったあらゆる支出の領収書やレシートを確実に保管し、何にいくら使ったのかを記録しておくことが不可欠です。そして、確定申告の際には、税理士に相談しながら、適切な会計処理と償却計画を立てることをお勧めします。開業費を賢く活用し、スムーズな事業スタートと将来の節税につなげましょう。

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