これから会社を起業しようと考えていらっしゃるあなたは、事業がうまくいったら、M&A、つまり、高い金額で他へ売却しようと考えていらっしゃるかも知れません。
しかし、正直、M&Aについての本やウェブサイトを見ても、いまいちイメージが掴みにくいのではないでしょうか。
確かに、M&Aにはいろいろな方法がありますが、パターンは大きく3つで、しかも、それぞれやりとりされるのが「お金」か「株式」かが違うに過ぎません。
また、実は、それ以前に重要なことがあります。起業する時に「株のこと」と「お金のこと」をきっちりと決めておかないと、M&Aがうまくいくどころか、取り返しのつかないことになってしまう可能性があります。
そこで今日は、これからスタートアップを考えていらっしゃる方のために、まず、将来のM&Aのことまで見通して、失敗しないための株式とお金のことについてお伝えします。
その上で、M&Aについて、細かな知識に深入りすることなく、ごく基本的なことをイメージしやすく説明します。是非、最後までご覧になって、お役立てください。
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1.起業する時に絶対にしてはならないこと
まず、起業する時、特に友人等と共同で立ち上げる場合や、誰かにスポンサーになって出資してもらう場合は、株式を誰が何%持つかということに気をつけなければなりません。
スタートアップの時点であなたが株式をしっかり握っておかないと、後で取り返しのつかないことになりかねません。
どういうことなのか具体的なイメージを持っていただくために、ここで私の友人A氏の実話をご紹介したいと思います。
1.1.自分で作った会社を追い出されてしまったA氏の話
A氏は、ある会社の創業メンバーです。実質1人で会社を大きくしたにもかかわらず、会社を追い出されてしまいました。
彼がそんな目に遭ってしまった最大の原因は、A氏が株式を握っていなかったことです。
A氏はもともと若くしてアフィリエイトで大きな成果を上げ、その方面ではちょっとした有名人でした。そこへ、B氏という紳士然とした人物が現れ、「自分が出資するからサイトで新ビジネスをやらないか」ともちかけてきました。
「1円だけ出資すれば良いし、事業が軌道に乗ってきたら後で株式の半分を持たせてあげる」とも言われ、A氏はB氏の話に乗ることにしました。社長にはB氏が就任し、A氏は、B氏が連れてきた2人の人物(C氏・D氏)とともに、取締役に就任しました。
A氏は、アフィリエイトで培ったスキルを活かし、優良なサイトを実質1人で作り上げました。そして、やがてそのサイトからコンサルティングの依頼がたくさん来て、会社は短期間で大きな収益を上げるようになりました。
ところが、B氏らはいつまでたっても株式をA氏に渡さないどころか、話し合おうとしてもはぐらかして応じず、挙句の果てに「君は新しくやりたいことがあるでしょ」などと言ってオフィスから追い出し、結果としてA氏を会社から追放してしまいました。
株式を持たないA氏にはなすすべがありませんでした。結局、A氏は会社の収益を上げるしくみを作るためだけに利用され、食い物にされてしまったのです。
1.2.起業するなら株式をきちんと握っておくこと
このA氏の件から分かることは、起業するならば、株式の大部分をきちんと握っておかなければならないということです。
「A氏は人を見る目がなかった」と言ってしまえばそれまででしょう。
しかし、たとえばあなたに出資を申し出てくれている人がいたとして、その人が本当に信用できると断言できるでしょうか。あなたを利用するためだけに近づいてきたのか見極めるのは至難の業です。先ほどのA氏も、B氏はいかにも紳士然として温かさを醸し出していたと言います。
そうでなくても、人は、お金に目がくらむと人格が変わってしまうこともあります。「軌道に乗ったら株式を分けてあげる」などというのはあてにならないと考えた方がいいです。
また、起業する時によくあるのが、友人と立ち上げる時等に株式を平等に分け合う方法です。しかし、これはいろいろな意味で問題があります。会社の意思決定は原則として株式数で決まりますので、株式が何人かに分散していると、意思決定がめんどうになるリスクがあります。
特に、次にお話しするM&Aを行う場合、どの方法を選ぶにしても原則として株主総会で2/3以上の賛成が必要です。あなたの株式が2/3を割り込んでいる場合、他の株主に反対されればそれまでです。
さらに、後で路線の違い等で共同経営者の方が会社を去ることになった場合、その方から株式を買い取るのはかなりめんどうです。
これらのことからすれば、起業する時は、誰かに出資してもらうにしても、仲間との共同経営にするにしても、あなた自身ができれば株式の全部、最低でも2/3を握っておくことをおすすめします。
2.M&Aで失敗しないために!最低限知っておきたい6つのパターン
ここまでで、起業するにあたり、特にM&Aを考えている場合、株式の大部分を握っておくべきという話をしました。それを前提として、ここからは、M&Aで失敗することなく、ベストなM&Aの方法を選ぶために、最低限知っておいていただきたいM&Aの基本を分かりやすくお伝えします。
本やサイトを見ると、いろいろと難しい専門用語が書かれています。しかし、あなたが自分の会社・事業を他の会社に売る場合、M&Aのパターンは大きく3つだけです。いずれも原則として株主総会で株式数の2/3以上の多数決が必要です。
そして、それぞれ、M&Aの対価として受け取るのが現金なのか株式なのかによってさらに2通りに分けられます。
つまり、3×2=6つのパターンを押さえておけば十分です。
【会社を大企業の子会社にする方法】
- 売却(お金を受け取る)
- 株式交換(相手会社の株式を受け取る)
【会社全体を他の会社に吸収してもらう方法】
- 吸収合併①(お金を受け取る)
- 吸収合併②(相手会社の株式を受け取る)
【特定の事業だけを身売りする方法】
- 事業譲渡(お金を受け取る)
- 吸収分割(相手会社の株式を受け取る)
なお、他に「新設合併」「新設分割」というものもありますが、これらは「売る」というニュアンスではありませんので、今のところは無視していただいて構いません。
以下、それぞれについて、「お金」と「株式」のイラストを使って、ごくごく基本的なところを説明します。「株式」は形のないものなので、野菜の「カブ」で示しています。
2.1.会社を大企業の子会社にする方法
まず、会社を他の大企業に身売りしてその会社の子会社にする方法です。
これは、すべての株式を相手会社に売るものです。ただし、何を受け取るかによって大きく2つに分かれます。
お金を受け取る「売却」と、相手会社の株式を受け取り、相手会社の株主になる「株式交換」です。
以下、説明します。
2.1.1.お金を受け取る(売却)
■株式を全部売り払い、お金だけ手にする
自分の会社の株式を売り払い、お金だけ手にする方法です。
もしあなたが、成功した会社を高く売ってセミリタイアしたいのであれば、これが最もオーソドックスな方法です。
また、株式を売ったお金でこれまでの事業と全く別の事業を立ち上げたいような場合に向いています。
■株式の一部を売る「資本参加」もある
なお、完全に経営から手を引くのではなく、他社に株式の一部を譲り渡して大株主になってもらい、経営に参加してもらうという方法もあります。「資本参加」と言われる方法です。
もしもあなたが、大きな会社の力を借りてより会社を大きくしたいのであれば、この方法は使えます。
また、経営権を譲り渡した後も、会社から配当金等の利益を受け取り続けたいという場合も、この方法が向いています。
2.1.2.相手会社の株式を受け取る(株式交換)
自分の会社を身売りする方法としては、株式と引き換えにお金を受け取る代わりに、相手方の会社の株式を受け取るという方法があります。「株式交換」と言います。
これは、身売りした後に、相手会社の株主になるというものです。
2.2.会社全体を他の会社に吸収してもらう方法(吸収合併)
会社を身売りする方法としては、他の会社の子会社にしてもらう方法だけではなく、吸収してもらう方法もあります。「吸収合併」という方法です。これも、対価としてお金を受け取る方法と、株式を受け取る方法があります。
2.2.1.お金を受け取る(吸収合併①)
まず、身売りの対価として、株主が直接お金を受け取る方法です。
これも「売却」と同じく、成功した会社を高く売ってセミリタイアしたい場合や、相手会社から合併の対価として得たお金で、今までの事業と全く違う新しい事業を立ち上げたい場合に向いています。
2.2.2.相手会社の株式を受け取る(吸収合併②)
これは、大きな会社に吸収してもらってその会社の株主になり、より事業を発展させてもらうとともにより大きな利益を得るのに向いています(株式交換と同じです)。
また、他の同じくらいの会社と対等の立場で新しい会社を作るのにも向いています。新しい会社を作ると言っても、会社を新設する「新設合併」は手続が非常に面倒なので、今ある会社に吸収してもらうという形をとる方が圧倒的にラクなのです。
2.3.特定の事業だけを身売りする方法
会社全体を身売りするのではなく、特定の事業部門だけを身売りする方法があります。
これも、身売りの対価としてお金を受け取る方法と、相手会社の株式を受け取る方法に分かれます。
2.3.1.お金を受け取る(事業譲渡)
事業部門を身売りする対価としてお金を受け取ることを、「事業譲渡」と言います。
たとえば、成功した事業を高く売って、そのお金で新たな事業を始めたいという場合に有効です。会社自体は存続するので、新しい事業を開始するにあたり、これまで培ってきたネームバリューや社会的信用等、無形の資産をそのまま利用することができます。
2.3.2.相手会社の株式を受け取る(吸収分割)
事業部門を売る代わりに相手会社の株式を受け取るという方法もあります。「吸収分割」と言います。
あなたの会社が受け取った相手会社の株式は、株主(あなたを含む)に分配します。
こうすることで、あなたは、自分の会社の株主と、相手会社の株主とを兼ねることになります。
大きな会社に事業部門を引き取ってもらってさらに発展させてもらい、そこから株主として利益を得たいという場合に向いています。
まとめ
起業を志し、M&Aも視野に入れていらっしゃるあなたのために、起業の最初から株式の多数を握っておくことの重要性と、M&Aで重要な6つのパターンについて、具体的にイメージしていただけるよう、お伝えしてきました。
起業の時に最低でも株式の2/3以上を握っておかないと、後々、取り返しのつかないことになる可能性があります。
また、M&Aはとっつきにくいイメージがありますが、「会社を大企業の子会社にする場合」「会社全体を他の会社に吸収してもらう場合」「特定の事業部門だけを身売りする場合」の3つに分けるのと、M&Aの対価として「お金を受け取る場合」「相手会社の株式を受け取る場合」の2つに分ければ、どういう場合にどのタイプを選べば良いのかが見えてきます。