逓増定期保険で会社のキャッシュを増やせる4つの活用法

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経営者の方であれば、一度は、「逓増定期保険」という法人保険の名前を聞いたことがあると思います。よく「節税できる保険」として販売されています。

しかし、逓増定期保険ほど誤解されている商品もありません。特に、「節税に有利」というのはいささかミスリーディングです。そのことは法人保険を扱う営業マンですら十分に理解していなかったりします。

実は、逓増定期保険は、上手に活用すれば、短期間で会社に必要な資金を効率よく積み立てることができ、同時に事業承継の準備もできる保険です。また、タイミングによっては、急な経営危機の時には赤字を埋めることや、ここぞというチャンスにはすぐに融資を受けることも、できなくはありません。

しかし、「効果が大きいが副作用も大きい劇薬のような保険」であり、どのような会社にも役立つわけではないのです。むしろ、加入すべきでないケースも多いのです。

この記事では、そんな逓増定期保険の4つの活用法について、具体的なケースをまじえて、分かりやすく、余すところなく説明します。また、おまけとして、一時期もてはやされたいわゆる「名義変更プラン」とそのリスクについてもお伝えします。

はじめに|逓増定期保険の保障内容と活用法

逓増定期保険で会社のキャッシュを増やすことのできる活用法は、以下の4つです。

  1. 5~10年で必要な資金を30%多く積み立てる
  2. 事業承継にかかる税金の額を抑えるため株価を下げる
  3. いざという時に赤字を穴埋めする
  4. 急なチャンスに審査不要でお金を借りる

まず、逓増定期保険という商品がどういうものかということと、活用の条件を説明します。

そのうえで、4つの活用法について具体的にお話ししていきます。

逓増定期保険とは

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※「全額損金タイプ」をのぞく

逓増定期保険とは、死亡保険金額が加入時から短期間のうちに当初の5倍程度まで増えていく定期保険を言います。

死亡保険金は莫大で、最初は1億円からスタートして5億円まで増える商品もあります。そのため、保険料も非常に高額です。

保険料は、一部を損金に算入することが認められています。損金に算入できる割合が1/2、1/3、1/4の3タイプ、特に「1/2損金タイプ」がメジャーですが、「全額損金タイプ」もあります。

解約すれば「解約返戻金」を受け取ることができます。この解約返戻金にはピークがあり、加入5~10年目くらいであることが多く、すぐに終わってしまいます。ピーク時の解約返戻金の額は、それまでに支払われた保険料の総額の90%~100%程度に設定されることが多いです。

解約返戻金の推移を表すと、以下のように釣鐘型になります。

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  • 死亡保険金額は最初から高額で、さらに5倍程度まで跳ね上がっていく
  • 解約返戻金のピークが来るのが5~10年目と早く、ピークが短い
  • 死亡保険金が最終的に莫大になり、保険料も超高額
  • 保険料の1/2が損金に算入される

逓増定期保険の活用法を理解するには、特に、保険料の1/2が損金に算入されることと、解約返戻金が釣鐘型に推移してピークが短いことに着目してください。

逓増定期保険の活用条件

逓増定期保険は、5年~10年の短期間で解約返戻金がピークに達するものです。そのため、解約返戻金の使い道は、近い将来に引退を予定している場合の退職金や、大規模な設備投資の予定等が考えられます。なお、退職金の準備は、事業承継対策にもつながります。そして、後で詳しく説明しますが、保険料の1/2を損金に算入することで、解約返戻金の受取の時まで課税のタイミングを繰り延べることができます。

解約返戻金のピークが短いので、もしも解約返戻金の使い道が不明確だと、たまたま解約返戻金のピークに大赤字を計上したり、何らかのアクシデントが重なったりしないと損金を計上できず、莫大な益金だけが計上されてしまうことになりかねません。したがって、解約返戻金の明確な使い道が必要です。たとえば、「いざという時のための緊急予備資金を兼ねて」といった漠然とした目的で加入するのはリスクが大きいです。

また、保険料が高額なので、キャッシュフローを圧迫するリスクがあります。

以上を考えると、逓増定期保険は、以下の条件を充たす場合に向いていると思います。

  • 5年~10年以内に退職金や設備投資等のまとまった資金が必要なので、損益のタイミングを調整しながら資金を効率的に積み立てたい
  • 事業承継の対策をしたい
  • 利益が大きく安定していて、キャッシュフローが潤沢で、5年~10年にわたり保険料を支払い続けられる

これから、事例を用いて詳しく説明していきます。

1.5~10年で必要な資金を30%多く積み立てる

1-1. 逓増定期保険で必要な資金を積み立てるための具体的な活用事例|退職金の例

以下の契約例をもとに説明します。お手元に電卓を用意しておくことをおすすめします。

税金は、法人実効税率を36.0%として計算しています。

〈契約者のデータ〉

  • 経営者:55歳 男性
  • 経営者の退職予定年齢:65歳
  • 売上:年2億円
  • 税引前利益:1,000万円
  • 従業員数:20名

〈契約内容〉

  • 死亡保険金:1億円→5億円
  • 保険料:約878万円/年
  • 解約返戻金のピーク:10年後(65歳)
  • 解約返戻金のピーク時の額:87,322,300円(返戻率99.5%)

経営者の退職予定年齢は65歳なので、解約返戻金のピーク(10年後)はそれに合わせて設定しています。

解約返戻金の推移については、以下の表をご覧ください。

逓増定期契約例返戻率表

この契約の場合、解約返戻金の返戻率は、6年目から95%を超えて、退職予定の10年目にピークの99.5%になります。10年目に解約したとすると支払保険料の総額が約8,780万円になっているため、解約返戻金はその99.5%の約8,732万円受け取れることになります。

10年間にわたり毎年保険料約878万円の1/2の約439万円を損金に算入することができ、退職金を準備できるということになります。

逓増定期積立プロセス

保険料支払~解約返戻金受取段階

まず、税引前利益1,000万円のうち約878万円の利益を保険料に充てると、その1/2の約439万円を損金に算入することができます(残りの1/2(約439万円)は資産計上)。その結果、その年度は益金に約878万円、損金に約439万円が計上されるので、法人税の額は約158万円です。そのため、10年間で税金を約1,580.4万円支払うことになります。

そして、解約返戻金のピーク時に解約すると約8,732万円を受け取れます。そのため、この時点で実質的に手元に残るキャッシュは、税金の総額約1,580.4万円を差し引くと約7,151.6万円です。

これに対し、同じ約878万円の税引前利益を利用して現金・預金で積み立てようとすると、1年度に税引後利益約561.9万円、10年間で約5,619.2万円しか残りません。

したがって、会社に残るキャッシュは、逓増定期保険に10年間加入した場合約7,151.6 万円、現金・預金で積み立てした場合約5,619.2万円なので、逓増定期保険に加入した方が約1,532.4万円、約30%多く残ることになります。

解約返戻金受取~退職金支給段階

加入から10年後に解約して解約返戻金約8,732.2万円を受け取ると、そのうち、それまで10年間資産に計上されてきた約4,390万円を差し引いた額・約4,342.2万円が益金に算入されます。したがって、そこから退職金をたとえば4,000万円支払うとすると、約342.2万円残ります(そこに税金が約123.2万円かかります)。

4,000万円を支給すると損金に計上されるため大幅な赤字を計上してしまうリスクがあるところ、解約返戻金により益金が約4,342万円計上される結果、退職金を支払っても約342万円の黒字が残るというわけです。

以上、「保険料の支払」→「解約返戻金の受取+退職金の支払」というプロセスを全体としてみると、毎年約878万円の利益の中から10年間で約7,151.6万円準備して退職金を支払ったことになります。同じ約878万円の利益の中から現金・預金で積み立てられるお金は約5,619.2万円にとどまるので、それと比べると約1,532.4万円多く積み立てることができたということになります。

また、退職金の支払により過大な赤字を出してしまうリスクがあったところ、約342.2万円の黒字にできています。

したがって、貯蓄で資金をまかなうよりも、手持ちのキャッシュを有効活用できたことになると言えます。

1-2.逓増定期保険を利用する際の注意点

逓増定期保険を利用する際に特に注意していただきたい点は以下の2点です。

  • 適切な保険料を設定しないと会社のキャッシュフローを悪化させるリスクがある
  • 解約のタイミングを外してしまうリスクが高い

適切な保険料を設定しないと会社のキャッシュフローを悪化させるリスクがある

上の契約例では、毎年、保険料約878万円がキャッシュアウトすることになります。したがって、その分、会社のキャッシュフローが悪くなります。

キャッシュフローの悪化は、経営にとって致命傷になりかねません。逓増定期保険の場合、特に保険料が高額になる傾向があるので要注意です。加入する前に、必ずキャッシュフローの試算をして、身の丈に合った適切な保険料を設定するようにしてください。

解約のタイミングを外してしまうリスクが高い

上の契約例で、当初は65歳で引退しようと考えていても、後継者が見つからないなどの事情で、引退時期を数年延ばさなければならなくなることもありえます。その場合には注意が必要です。逓増定期保険の場合、ピークはかなり短いのです。もう一度、解約返戻金の表をご覧ください。ピークを過ぎるとすぐに返戻率が下がっていきます。15年目になると79.2%まで下がり、保険期間終了の20年目になると0%になってしまいます。

逓増定期契約例返戻率表

 

したがって、解約のタイミングと、退職金等のお金が必要なタイミングがずれてしまうリスクが高いのです。

2.事業承継にかかる税金の額を抑えるため株価を下げる

事業承継は、自分が経営する事業を、引退に伴い後継者に引き継ぐことです。株式会社であれば、後継者に株式の全部または大部分を引き継がせることになります。

後継者が誰であっても、どのような承継の方法をとるにしても、最も重要なことは、後継者の経済的負担を軽くしてあげることに尽きます。

事業承継対策に利用できる保険の種類と活用法は下図の通りです。

逓増定期・事業承継対策(身内)

逓増定期・事業承継対策(身内以外)

事業承継での保険の活用法全般についての詳細はこちらの記事をご覧いただくとして、この記事では逓増定期保険でできることを、ケースごとに説明していきます。

2-1.「後継者=法定相続人」の場合の問題と、逓増定期保険でできる対策

まず、あなたの後継者が「法定相続人」の場合についてお話しします。

なお、民法によれば「法定相続人」は以下の通りです。

①配偶者+子 ※死亡の場合は孫、孫が死亡の場合はひ孫

↓子・孫・ひ孫がいない

②配偶者+両親

↓子・孫・ひ孫も両親もいない

③配偶者+兄弟姉妹 ※死亡の場合はおい・めい

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そして、あなたの株式を法定相続人が後継者として承継するときに起こる可能性がある問題は、以下の3つです。

なお、これらのうち、3.については中小企業事業承継円滑化法による手当てがなされていますので、こちらをご覧ください。

  1. 後継者が相続税(相続による株式承継の場合)または贈与税(生前の株式承継の場合)を納税する資金が必要になる
  2. 株式以外の相続財産が少ない場合、後継者が他の法定相続人から相続分または遺留分を主張され、代償交付金(※)を支払わなければならない可能性がある
  3. 後継者の社会的信用が少ないため、運転資金を融資してもらうのが難しくなることがある

※代償交付金:相続財産の中に分けられない財産がある場合(土地、株式等)に、その財産を相続した者が、他の法定相続人の相続分・遺留分を得させるために支払うお金

事業承継to法定相続人の問題点

特に「遺留分」は、法定相続人(兄弟姉妹以外)の最低限の取り分なので、たとえ「株式の全部を○○(後継者)に相続させる」という内容の遺言を遺したとしても、無効です。

では、生命保険を利用してできる対策にはどのようなものがあるでしょうか。それは以下の3通りです。

  1. 後継者のために必要な資金を準備する →生命保険(経営者個人加入)
  2. 生前贈与に備えて株式(相続財産)の評価額を引き下げる →逓増定期保険・長期平準定期保険
  3. 相続に備えて会社が後継者から自社株を買い取る資金を準備する→終身保険(法人加入)・長期平準定期保険

これらのうち、逓増定期保険でできることは、「2.生前贈与に備えて株式の評価額を引き下げる」ということです。

どういうことなのか、以下、説明します。

株式を生前贈与したい場合|株式の評価額を引き下げる(2.の手段)

生前に後継者に株式を全部贈与しておきたい場合には、後継者にかかる贈与税の額を抑えるために、株式の資産価値(評価額)を引き下げる方法があります。

株式の価格の評価方法について、最もよく使われるのは「類似業種比準方式」という方法です。これは他の似たような業種・規模の会社と比べて適正な額を算定する方法で、単純に言えば、利益が圧縮されれば株式の価値が下がることになります。

そのため、利益を圧縮するには、あなたの退職金の資金の準備もかねて逓増定期保険、長期平準定期保険に加入することが考えられます。どちらの保険も保険料が高額なので、その1/2を損金に算入することで大きな損金を計上でき、利益が圧縮されるため、株式の評価額が抑えられることになります。

それでは、逓増定期保険はどのような場合に活用すればよいのでしょうか。

逓増定期保険は解約返戻金のピークが来るのが5年~10年後と早いので、そのタイミングでの事業承継を予定している場合に向いていることになります。ただし、解約返戻金のピークが短いので、引退時期を明確に定めておき、それまでにスムーズに承継できるよう着実に準備を進めておかなければなりません。

なお、長期平準定期保険は、解約返戻金のピークが20年~30年後と遅く、しかも、そのピーク期間が長く続くので、引退を予定している時期が20~30年後と大まかに決まっている場合に活用するのが良いでしょう。

2-2.「後継者≠法定相続人」の場合の問題と、逓増定期保険でできる対策

後継者が法定相続人でない場合には、後継者に株式を買い取ってもらうか、無償で譲渡することになります。

その場合の問題点は以下の3つです。

  1. 無償譲渡の場合、後継者が贈与税を納税する資金が必要になる
  2. 後継者が法定相続人から遺留分を主張され、賠償義務を負う可能性がある
  3. 後継者の社会的信用が少ないため、運転資金を融資してもらうのが難しくなることがある

これらのうち、3.については「中小企業事業承継円滑化法」で様々な手当てがされています。詳しくはこちらをご覧ください。

1.と2.については、まず、後継者がいずれまとまったお金が必要になることを見越して、予めその人の給与の額をある程度多めに設定して支給しておくことが考えられます。そして、法人保険を利用してできる対策は、以下の1つだけです。

  • 逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して株式の価値を引き下げる

どういうことかというと、生命保険の保険金の受取人は原則として「2親等内の血族」に限られていることを思い出してください。後継者が法定相続人でないアカの他人である場合、経営者はその人のために個人で生命保険に加入して資金を準備してあげることはできません。

したがって、とるべき対策は、株式の価値をできるだけ引き下げることです。

というのは、まず、後継者に株式を買い取ってもらうのであれば、株式の評価額を低く抑える必要があります。

また、後継者に株式を無償で譲渡する場合には、後継者にかかる贈与税の額を少しでも低くしてあげるために、やはり株式の評価額を抑える必要があります。

いずれにしても株式の評価額を引き下げることが必要なのですが、そのためには、会社の利益を圧縮しなければなりません。このことを考えると、会社が逓増定期保険か長期平準定期保険に加入して、経営者の退職金を準備しながら保険料の1/2を損金に算入していくことが最も現実的だと言えるでしょう

それでは、逓増定期保険と長期平準定期保険の使い分けはどうすべきでしょうか。

逓増定期保険の活用条件は上に述べたとおりですが、ここでもう一度おさらいしておきましょう。

〈逓増定期保険の活用条件〉

  • 5年~10年以内に退職金や設備投資等のまとまった資金が必要なので、損益のタイミングを調整しながら資金を効率的に積み立てたい
  • 事業承継の対策をしたい
  • 利益が大きく安定していて、キャッシュフローが潤沢で、5年~10年にわたり保険料を支払い続けられる

これに対し、長期平準定期保険の活用条件は、以下の通りです。詳しくはこちらをご覧ください。

〈長期平準定期保険の活用条件〉

  • 現在30代か40代で、向こう20年~30年にわたり損益のタイミングを調整しながら退職金を効率的に積み立てたい
  • 退職金の準備をしたい
  • 事業承継の対策をしたい
  • 退職金準備・事業承継対策と並行して緊急時の予備資金をプールしておきたい
  • 自分の身に万一のことがあった場合の事業保障を備えたい
  • 利益とキャッシュフローが概ね安定していて長年にわたり保険料を支払い続けられる

3.いざという時に赤字を穴埋めする

予期しない天災や損害が発生するなどして、緊急に多額の資金が必要になるということがあるかも知れません。そんな時、タイミングによっては保険を解約し、解約返戻金を受け取って対応することもできます。

ただし、逓増定期保険は、上に述べたように、解約返戻金のピークがすぐに終わってしまいます。ピーク時以外に解約すると解約返戻金の返戻率が低く損をしてしまうため、ピーク時にたまたまアクシデントが起こったならばともかく、解約返戻金を緊急予備資金として活用することはあまり期待しない方が良いでしょう。

4.急なチャンスに審査不要でお金を借りる

逓増定期保険には、契約者貸付の制度があります。借入できる限度額はその時点の解約返戻金の90%程度です。

利率は年3%程度ですが、担保は不要だし、面倒な審査もなく、申請から1週間程度で受け取れます。したがって、急なまとまったお金が必要になった時に役に立つ便利な制度です。

おまけ1.「名義変更プラン」にご用心!

読者の皆様の中には、逓増定期保険の「名義変更プラン」というものを耳にしたことがある、あるいは、保険代理店の営業マン等から勧められたことがある方がいらっしゃるかも知れません。

これは、「『低解約返戻金型』の逓増定期保険のシステムを利用して法人から個人に資産を移転する」というスキームです。

しかし、「名義変更プラン」は法的観点から問題があり、リスクがきわめて高いものです。

詳しくは『逓増定期保険名義変更プランのしくみと3つの注意点』をお読みいただくとして、以下、「名義変更プラン」と、その問題点・リスクについて簡単に説明します。

逓増定期保険「名義変更プラン」のしくみ

「名義変更プラン」を理解するには、まず、「低解約返戻金型」という商品を理解する必要があります。

「低解約返戻金型」とは、簡単に言えば、解約返戻金のピークの直前まで、解約返戻金の返戻率が普通の商品よりも抑えられているタイプの保険です。解約返戻金はピーク時に一気に跳ね上がることになります。その分、保険料の額は低めに設定します。

低解約返戻金型と普通のタイプの比較

これをどのように活用するかというと、まず、「低解約返戻金型」の逓増定期保険に加入し、低解約返戻金期間の最後の年を経営者の引退の時期と同じにしておきます。

そうしておいて、低解約返戻金期間の最後の年のタイミングで解約し、経営者個人に退職金代わりに名義変更するのです。そして、その後、解約返戻金が跳ね上がってピークに達したところで解約すれば、引退した経営者は、高額な解約返戻金を受け取れるというものです。

名義変更スキーム

逓増定期保険の「名義変更プラン」を勧めてくる側の言い分は、「『保険の評価額=解約返戻金の額』なので、会社が経営者に名義変更(=現物支給)した保険の資産価値は、名義変更の時点での評価額、つまり、跳ね上がる直前の解約返戻金の額だから、その分、経営者が得をする」というものです。

何か狐につままれたような感じがしますが、要するに、会社が保険料を支払って積み立てた資産である解約返戻金を、実際よりも低い金額で経営者に譲り渡すものと言えます。

実際に、私は、ある保険会社の営業マンの方が「会社の資産の私物化」「私利私欲プラン」と揶揄しているのを聞いたことがあります。

逓増定期保険「名義変更プラン」の問題点

「名義変更プラン」が倫理的に妥当どうかはさておいても、少なくとも、法的観点からは3つの問題があります。

  1. 会社の資産(解約返戻金)を実質よりも低い金額で経営者個人に譲り渡すもので、会社法上の利益相反行為にあたる可能性がある
  2. 税法上否認され、延滞税まで取られるリスクがある
  3. 国税庁が問題視しているとみられ、近い将来、税法上網が掛けられることがほぼ確実である

このうち、1つ目の利益相反行為の点は、会社の内部での手続(株主総会または取締役会の承認)をクリアすれば済む話です。しかし、

しかし、あとの2つは深刻な問題です。

まず、課税庁から、形式的な法律違反はなくても税を逃れるための「経済合理性のない行為」であり、法人税法・所得税法の「同族会社の行為計算否認規定」に抵触すると認定されてしまう可能性があります。そうすると結局、法人の側で損金算入が認められず、受取人の側ではピーク時の解約返戻金の額を前提として課税され、しかも延滞税を取られてしまうリスクがあります。

また、平成27年1月14日に閣議決定された「平成27年度税制改正大綱」に、平成30年度以降、保険会社に対し、法人加入した保険が名義変更された場合、生命保険金等の支払調書に「保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載すること」を義務付けると定められています。

これはつまり、会社から個人への名義変更の証拠が残るようになるということです。このことからすれば、国税庁が「名義変更プラン」を大いに問題視していることは間違いないとみられ、近く税法の網がかかることはほぼ確実と言えます。

この期に及んでまだ、この「名義変更プラン」を勧めてくる代理店があるようですが、あまり真に受けないのが賢明です。

おまけ2.「全額損金タイプ」の逓増定期保険の活用法

逓増定期保険は、今までお伝えしてきた「1/2損金タイプ」が最もメジャーですが、実は「全額損金」タイプもあります。

「全額損金タイプ」の特徴は以下の通りです。

  • 保険期間自体が10年程度と短い
  • 保険料の全額が損金に算入される
  • 「1/2損金タイプ」等よりも解約返戻金の返戻率が低い

逓増全額損金タイプの表

保険期間自体が10年程度と短い

「全額損金タイプ」の保険期間は10年程度と短く設定されています。

解約返戻金の返戻率が低い

「全額損金タイプ」の場合、「1/2損金タイプ」等よりも解約返戻金の返戻率が低めに設定されます。そして、ピーク時の返戻率は加入年齢によって違い、20歳~30歳くらいであれば90%以上に設定できる場合もありますが、年齢が上がるにつれて率が低くなっていき、50%程度にまで下がってしまいます。

保険料の全額が損金に算入される

若い経営者の方で、数年後に新規事業を立ち上げたり業務を拡張したりするなどの予定があるならば、現金・預金として貯めた場合よりも多くのキャッシュが用意できる可能性があります。

あるいは、経営者自身の年齢が高い場合でも、若い役員がいれば、その人にかけておいて、ピーク時に解約して経営者の退職金に充てるという活用法も考えられます。

ただし、そのためには、加入期間中ほぼ全ての年度で保険料の額以上の益金を計上し続けられることが条件です。そうでないと、保険料を全額損金に算入してもただ収支が赤字になるだけで、税金を減らせないからです。「税金を減らせない」=「手持ちのキャッシュが増やせない」となれば、最終的に手元に残るキャッシュは少なくなってしまいます。特に、全額損金タイプはもともと解約返戻金の返戻率が低いので、保険料を支払う段階で税金が減らせないと最終的にキャッシュが大きく目減りしてしまうリスクが非常に高いのです。

また、保険料を適切な額にしないと、保険料の支払いがキャッシュフローを圧迫してしまうおそれもあります。

したがって、加入するのであれば、保険料を無理なく支払い続けることができ、ほぼ全ての年度で保険料以上の利益を上げられることが必要です。

そういった点は生活障害保障型定期保険(こちらの記事をご覧ください)と似ています。

逓増定期保険の「全額損金タイプ」は「1/2損金タイプ」よりもリスクが高いと言えるので、注意してください。

まとめ

退職金や設備投資等の明確な目的を持って、短期間のうちに資金を効率よく準備するのに向いている保険だと言えます。

退職金の積立をする場合は事業承継対策(自社株の評価額の引き下げ)も兼ねることができます。

しかし、短期間で多額の解約返戻金が積み上がる代わりに、保険料が会社のキャッシュフローを圧迫したり、解約のタイミングを逃したりするリスクが大きいものです。そのため、逓増定期保険の活用を考えるならば、何よりもまず、キャッシュフローが潤沢で安定していることが必要です。

この記事の冒頭で、「効果も強いが副作用も強い劇薬のような保険」だと表現したのは、そういう意味です。

活用する場合には、十分な計画を立て、支払える範囲の保険料を設定するようにしてください。

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出岡 大作

出岡 大作

行政書士資格保有。保険や税金や企業関係法、民法、行政法といった分野について幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
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