特別償却とは、中小企業の設備投資を促すために国が定めた制度です。
一定の設備投資を行ったときに税制の優遇措置を受けることができます。
ただ国税庁のホームページなどを見ても、一見してどのように優遇されるのか分かりづらい面があり、どう活用していいか分からず、困っていらっしゃる経営者の方も多いのではないでしょうか。
また特別償却と類似の制度である税額控除との併用はできないため、どちらを選ぶとよいかという疑問も浮かぶところです。
この記事では、中小企業のための特別償却とはどんな制度なのかを簡潔に解説します。
その上で、特別償却と税額控除のどちらを選ぶべきかという基準を紹介します。
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1.特別償却の前提となる減価償却のおさらい
特別償却を理解するためには、前提として減価償却を知っておくことが必要です。
確定申告の際に、機械などの高額で長期的に利用する設備については、何年かに分けて経費として計算します。
この計算方法が、減価償却です。
減価償却の詳細は「減価償却とは?節税と資金繰りで圧倒的に得するための基礎知識」で解説しておりますので、興味のある方はそちらをご覧いただくとして、ここでは簡単に減価償却の例を紹介します。
たとえば以下のように減価償却する設備があるとしましょう。
- 購入した設備の費用:500万円
- 法定耐用年数:10年
- 定率償却率:0.2
この場合は、簡単に言うと10年にわたり毎年費用の残高の20%(0.2)ずつを費用として計上することになります。
(正確にはもう少し複雑な計算方法がありますが、詳細は上記記事をご覧ください)
そのため初年度には、500万円×0.2(20%)=100万円を経費として計上します。
2.特別償却の概要
減価償却の特別償却で節税する!中小企業におすすめの仕組みと計算方法を税理士が解説減価償却を踏まえて特別償却とは、初年度に30%(0.3)分を多く償却できる制度です。
上の例では、初年度に経費として計上できるのは500万円×(20%<0.2>+30%<0.3>)=250万円ということになります。
つまり特別償却によって、初年度に250万円-100万円=150万円が多く費用として計上できるということです。
国としては中小企業に特別償却を利用してもらうことで、より早く減価償却で資金を回収し新たな設備投資を行ってほしいというわけです。
3.特別償却できる条件
特別償却は全ての中小企業が利用できるわけではありません。
また対象となる設備にも、条件があります。この条件は時期によって異なりますが、2022年度までは以下のとおりです。
ご覧のとおり、全てではないもののほとんどの中小企業が対象となっています。
また対象となる設備については、比較的高額なものと考えてよいでしょう。
3.特別償却の主な注意点2つ
特別償却は、中小企業にとって役立つ制度ではありますが、利用にあたっては主に以下2つの注意点があります。
- 特別償却で必ずしも節税になるわけではない
- 税額控除とどちらを選ぶべきか考える必要がある
以下1つずつ解説します。
3-1.特別償却で必ずしも節税になるわけではない
一つ目の注意点は、特別償却とはあくまで「初年度の償却費を30%分増やせる」制度であって、経費に計上できる金額が増えて節税につながる制度ではない、ということです。
以下のイメージで示すように、長い目で見れば経費として計上できる総額は変わりません。
【500万円の設備投資に関する減価償却のイメージ例】
特別償却は「減価償却で手元に残す資金を早めに確保する」ための制度であることは、覚えておきましょう。
仮に特別償却によって節税につながるとすれば、それは対象となる償却の初年度の利益がとびぬけて多かったときです。
翌年以降はそこまで利益があがらないのであれば、結果的に初年度に多くの経費を計上することにより、長い目でみて節税につながるということはあり得ます。
逆にいえば、毎年一定の利益をあげているのであれば、特別償却が節税につながることはありません。
特別償却はその趣旨通り、「早めに資金を確保して新たな設備投資につなげたい」場合に使いたい制度です。
3-2.税額控除とどちらを選ぶべきか考える必要がある
2つ目の注意点は、税額控除とどちらを選ぶべきか考える必要がある、ということです。
中小企業の設備投資を優遇する措置としては、特別償却のほかに税額控除がありますが、特別償却と税額控除の両方を適用することはできません。どちらかを選んで適用することになります。
税額控除は、特別償却よりシンプルな優遇措置です。
税額控除では、単純に設備の7%分を初年度に追加で経費として計上することができます。
(参照元:国税庁公式サイト)
上にあげた500万円の設備投資を例にとると、税額控除を使えば500万円×7%=35万円分を追加で経費に計上できるというわけです。
償却できる経費の総額が変わらない特別償却と違い、税額控除は確実に節税につながるといえます。そのため基本的には、特別償却より税額控除が選ばれることが多いようです。
ただし以下にあげる3つのケースでは注意が必要です。
- 資本金3,000万円を超える場合は特別償却のみ
- 税額控除できる額が法人税の20%を超える場合は翌年に持ち越し
- 初年度の利益がとびぬけて多かった場合は特別償却がお得
1つずつ解説します。
3-2-1.資本金3,000万円を超える場合は特別償却のみ
特別償却と税額控除の適用条件はほぼ同じですが、特別償却が資本金1億円以下で適用可能なところ、税額控除は資本金3,000万円以下の中小企業が対象です。
資本金が3,000万円を超える中小企業は、残念ながら税額控除は利用できません。
特別償却と比べると、より規模が小さな企業が対象となっています。
3-2-2.税額控除できる額が法人税の20%を超える場合は翌年に持ち越し
税額控除の最大額は、法人税の20%までが上限となっています。
たとえば計算上、税額控除できる額が300万円でも、法人税の20%が200万円なら税額控除できる額も200万円です。
ただ残り100万円は税額控除できない、というわけではなく翌年度に持ち越されるかたちになります。
3-2-3.初年度の利益がとびぬけて多かった場合は特別償却がお得
繰り返すように、特別償却・税額控除を比較すると、基本的にはストレートに法人税を割り引ける税額控除がお得です。
ただし上でも説明した通り、初年度の利益が他年度と比較して顕著に多かったときに特別償却によって償却費の30%分を上乗せして経費として差し引けるため、場合によっては特別償却の方が節税につながることもあります。
利益が特別に多くなった初年度に、多くの損金を計上してしまおうということです。
この条件にあてはまりそうであれば、どちらがお得か一度概算してみることをおすすめします。
まとめ
特別償却は、比較的高価な設備投資を行ったときに初年度の償却額を割増できる制度です。
その設備全体で償却できる額が増えるわけではありませんが、より早く資金を確保したいときには適しています。
また設備投資をした初年度の利益が他の年と比べて顕著に多い場合は、節税につながることもあります。