法人保険に加入する場合、考えなければならないリスクの一つに、将来、保険料の支払が困難になる可能性が挙げられます。
もちろん、無理なく払い続けられる額で組むのが前提です。しかし、会社の経営は必ずしも予測通りに行くとは限りません。
たとえば、コロナ禍のような予期せぬアクシデントが発生するなどして、業績が急激に悪化して保険料が負担になることがあるかも知れません。
今回は、そういった場合の対処法を、パターンに応じて4つお伝えします。法人保険を検討する際にお役立てください。
なお、法人保険の種類や役割、活用上の注意点については「法人保険とは?会社の様々な問題解決に有益な最新6つの活用法」をご覧ください。
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はじめに
保険料の支払が困難になった場合、以下の4つの対処法があります。
保険を続けたいのであれば、「解約」はあくまでも最後の手段ととらえてください。
- 契約者貸付を受ける
- 一部解約する(保障の減額)
- 払い済みにする
- 解約する
それぞれについて説明します。
1.契約者貸付|一時的にキャッシュが足りないケース
まず、一時的にキャッシュが足りないというケースでは、「契約貸付」を活用することをおすすめします。
契約者貸付制度の場合、保険会社や商品によっては、解約返戻金の80%~90%を上限として借りることができます。
利息は、保険会社と加入時期の予定利率によって異なりますが、2001年以後に加入した契約については2.5%~3%程度となっています。
なお、2020年から続くコロナウィルス禍の中で一時期、多くの保険会社が、契約者貸付の利息を一定期間免除する措置をとっていました。
平時でも使える
なお、この「契約者貸付制度」は、保険料を支払うキャッシュが足りない場合以外にも、活用法があります。それは、たとえば、急にビジネスチャンスが訪れたのに当座のキャッシュがない場合です。
こういう場合、銀行から融資を受けようとしても、審査等に時間がかりますし、担保を要求されることもあります。
そこで、「契約者貸付制度」を活用すれば、担保を立てる必要はないし、面倒な審査もなく、申請から1 週間程度で受け取れます。これによって、急なまとまった額の出費に対応することができるのです。
2.一部解約(保障の減額)|保険料を減らせば続けられるケース
保険料を減額すれば保険を続けられるというケースでは、「一部解約」を行うことが考えられます。
正式には「保障の減額」と言って、保険金額を減額して保険料を下げる方法です。
保障額は下がりますが、保険は続けることができます。
なお、保障の減額を行った部分については「一部解約」することになるので、その分の解約返戻金を受け取れます。
解約返戻金を受け取った場合、益金が発生することがあります。
益金の額は
- 解約返戻金額-減額分に相当する保険料のうち資産計上額の総額
です。
「減額分に相当する保険料のうち資産計上額の総額」とは、保険種類に応じて以下の通りです。
- 終身保険:減額分に相当する保険料の総額
- 全額損金の保険:0円(資産計上額なし)
- 1/2損金の保険(2019以前加入):減額分に相当する保険料総額の1/2
- 1/3損金の保険(2019以前加入):減額分に相当する保険料総額の2/3
- 60%損金の保険:減額分に相当する保険料総額の40%
- 40%損金の保険:減額分に相当する保険料総額の60%
現行の法人保険の保険料の扱いについては、詳しくは「法人保険の損金算入ルールを分かりやすく解説します」をご覧ください。
3.払い済み|保険料を支払い続けるのが困難なケース
保険料をこれ以上支払い続けていくのが困難な場合は、「払済」をおすすめします。
払済は、保険料の払込をやめて、その時点の解約返戻金に応じた保障を残す方法です。
保障=保険金額は減りますが、以後、保険料を支払う必要がなくなります。
払い済み後の保険契約は、終身保険または定期保険として継続します。
かつては終身保険しか選べませんでしたが、2019年の法人保険の損金算入ルールの改定後は、払い済み定期保険も選べるようになりました。
それぞれ処理が異なります。
3.1.払い済み終身保険を選ぶ場合の経理処理
払い済み終身保険を選ぶと、解約返戻金を受け取った場合と同じと扱われます。
その場合の経理処理は、
の額が益金(雑収入)として計上されます。
これを「資産計上額の洗い替え」と言います。
「保険料総額のうち資産計上額」は、保険種類に応じて以下の通りです。
- 終身保険:保険料総額
- 全額損金の保険:0円(資産計上額なし)
- 1/2損金の保険(2019以前加入):保険料総額の1/2
- 1/3損金の保険(2019以前加入):保険料総額の2/3
- 60%損金の保険:保険料総額の40%
- 40%損金の保険:保険料総額の60%
3.2.払い済み定期保険を選ぶ場合の経理処理
払い済み定期保険を選ぶ場合は、保険期間はそのままです。また、解約返戻金はその後もある程度の期間、増え続けていきます。
保険会社によっては、払い済み定期保険にすることによって、その後の解約返戻金の返戻率が、もともとのピーク時の返戻率よりも高くなることもあります。
たとえば、ピーク時返戻率85%だったのが、払い済みによりピーク時返戻率90%以上になるケースがあります。
なお、払い済み定期保険になることに伴う経理処理は一切不要です。
4.解約|最後の手段
解約は、最後の最後にとる手段です。
契約者貸付、保障の減額、払い済みを全て検討し、それらが全て難しい場合は、解約を行うことになります。
これにより、保険料の支払いを免れ、かつ、解約返戻金を受け取れることになります。
解約返戻金を受け取ると、以下の額が益金に算入されます。
「保険料総額のうち資産計上額」は、保険種類に応じて以下の通りです。
- 終身保険:保険料総額
- 全額損金の保険:0円(資産計上額なし)
- 1/2損金の保険(2019以前加入):保険料総額の1/2
- 1/3損金の保険(2019以前加入):保険料総額の2/3
- 60%損金の保険:保険料総額の40%
- 40%損金の保険:保険料総額の60%
まとめ
法人保険の活用を考える場合は、無理なく支払い続ける額にするべきですが、それでもなお支払が困難になることもあり得ないわけではありません。
法人保険の保険料の支払が困難になった場合、直ちに解約しなくても、「契約者貸付」、「保障の減額(一部解約)」、「払い済み」の3つの手段を利用することができます。
一時的にキャッシュに困っているだけであれば「契約者貸付」、保険料を減額すれば続けられるなら「保障の減額(一部解約)」、保険料を支払い続けるのが困難なら「払い済み」を利用します。
それぞれの場合にどのような経理処理がなされるかも、押さえておくことをおすすめします。