決算直前になって、このままでは大きな利益が出て多額の税金を支払わなければならなそうな時に、決算対策として、決算賞与(決算ボーナス)を考えることがあるかもしれません。
この記事では、
- 決算賞与はいつまでに出せば良いか?
- どんな手続が必要か?
- 注意すべきポイントは何か?
といった疑問にお答えします。また、役員に対する決算賞与の損金算入の可否・条件についても説明します。
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公認会計士・税理士。監査法人トーマツ、税理士法人山田&パートナーズを経て筧会計事務所(現、税理士法人グランサーズ)に入社。
税理士法人グランサーズ代表社員。
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1.決算賞与と支給するメリット
まず、決算賞与とは何か、企業が決算賞与を支給するメリットは何か、支給の要件は何か、という点をご説明します。
1.1.決算賞与とは
決算賞与とは、企業が決算期に支給する臨時ボーナスのことです。
例年よりも多くの営業利益が上がった時に、その利益を従業員に賞与として還元するというものです。
一般的な夏・冬のボーナスは「通常賞与」と呼ばれますが、決算賞与の名称は企業によって「年度末手当」「特別賞与」「臨時賞与」など様々です。
基本は決算月に支給するものですが、場合によっては、翌月に支給しても今期の損金に算入できます。その詳細は後ほど説明します。
3月決算の企業であれば、支給は3月または4月ということになります。
1.2.企業が決算賞与を支給するメリット
企業が決算賞与を支給するメリットは、以下の2点が挙げられます
①決算対策になる
従業員に対して決算賞与を支給すれば、その全額を損金として算入できます。また、決算賞与は、決算期末直前からでも実施可能な決算対策です。
②従業員のモチベーションが上がる
利益が還元されることは、従業員のモチベーションアップにつながります。
1.3.今期中に未払いの決算賞与も損金算入できる
以下の全ての条件を満たしていれば、決算時に未払いの賞与についても、今期の損金とすることができます。
- 決算期末までに従業員全員に支給額を通知する
- 決算期末から1ヶ月以内(つまり翌年度の最初の1ヶ月間)に支給する
- 通知した金額について今期中に損金として経理上の処理をする
つまり、決算期末までに決算賞与の支給額を通知し、経理処理を行えば、支払い自体は翌年度であったとしても、今期に損金計上できるということです。
通知は、証拠を残しておくために、書面またはメールで行うようにしてください。
1.4.決算賞与に限度額はあるか?
決算賞与は、会社の業績に応じて出されるものなので、平均や相場はありません。また、上限・下限も制限はありません。
2.役員に対する「決算賞与」は損金にできるか?
要注意なのは、決算賞与の損金算入は、基本的には従業員に対するものしか認められないということです。役員に対する決算賞与は、原則としては損金にできません。
2.1.原則NGだが・・・
役員に対する賞与が経費として認められるには、厳しいルールが定められています。これは、法人が期末に利益操作を行って課税逃れしようとするのを防ぐためです。
役員賞与を損金に計上するには、遅くとも会計年度の最初の4ヶ月目までに金額と支給時期を税務署に届け出た上で、1円の違いもなくピッタリの額を支給しなければなりません。これは、多くても少なくてもダメです。これを、事前確定届出給与といいます。
つまり、決算期になって、駆け込み的に役員に賞与を支給し、それを損金にすることは、物理的に不可能です。
2.2.実質的に役員への決算賞与を損金にできる方法!?
上述の通り、決算期になってから役員賞与を支給して、損金に計上しようとしても間に合いません。
しかし、予め事前確定届出給与の届け出をしておいて、思うように利益が上がらなかった場合には支払わなかったとしても、問題はありません。
これを活用し、決算対策を行うことが可能です。まず、事前の届け出では、支払い日を決算期に設定しておきます。そして、実際に決算期になった時に、以下のどちらかを選択します。
- 大きな利益が出て決算対策が必要であれば、届け出通りの額で役員賞与を支給する
- 思ったような利益が出ず、決算対策が必要でなければ、支給しない
こうすれば、1の場合は役員賞与を損金に計上できるので、事実上の決算対策になり得ます。
ただし、以下の点に注意してください。
- 支給しない場合、支給予定日までに取締役会で不支給の決議を行う
事前確定届出給与を支給しない場合は、支給予定日までに取締役会を開き、全額支給しない事と、役員が受給を辞退した旨を決議する必要があります。
これを行わないと、実際には受給していないにも関わらず、所得税の課税の対象となる可能性があります。
事前確定届出給与では、支給額が届け出た金額と1円でも違うと、損金に算入できません。
つまり、事前に200万円で届け出ていたのに、利益が上がらなかったということで100万円しか支給しなかった場合、この100万円は損金に算入できません。
3.決算賞与が損金計上されないケース
従業員に対する決算賞与の損金算入が認められないケースが2つあります。
3.1.通知後に退職者が出たケース
決算賞与通知後、退職者が出て、その退職者に支払いしなかった場合、たとえ未払いが1人だったとしても、全員分の決算賞与が損金に計上できないことになります。
ただし、その退職者に対しても実際に決算賞与が支給されていれば、問題なく損金計上できます。
3.2.通知額と支給額が違うケース
事前に通知した決算賞与の金額と支給額は一致していなければいけません。実際の支給額が通知額に満たない場合、損金に算入されるのは、実際に支給された額までです。
4.決算賞与のその他の注意点
最後に、決算賞与に関するその他の注意点をご説明します。
4.1.社会保険料は損金計上できないことがある
企業が決算賞与を支給する際に、それに係る社会保険料も支払うことになります。
どうせなら社会保険料も損金にしたいところですが、決算賞与を決算期末ギリギリに通知し、翌年度初頭に支払った場合、決算賞与に係る社会保険料は今期の損金としては計上できません(次の期の損金になります)。
社会保険料も今期の損金に算入したい場合は、決算期末までに支給しておく必要があります。
4.2.会社のキャッシュが減る
決算賞与を支給し、経費計上した場合、確かに法人税の支払いは減ります。しかし、その分事業資金が出ていくことにもなります。
例えば、今期1,000万円の利益が出る場合を考えてみましょう。
法人実効税率を30%とすると、法人税を300万円支払うことになります。
これに対し、決算対策として、決算賞与を計300万円支給すると、課税対象所得が700万円になるので、法人税の支払いは210万円になります。つまり、法人税負担が90万円軽減されることになります。
しかし、この時の実際の支出額は、
です。
決算対策をせずに法人税を350万円支払った時に比べて、210万円多くのお金が出て行っています。
法人税対策を意識するあまりに資金繰りを悪化させることがないように、決算賞与の金額や、そもそも決算賞与を行うべきなのか、ということを考える必要があります。
4.3.逆にモチベーションを下げてしまう場合もある
決算賞与は本来、臨時的な賞与であり、事業の状況次第では支給されないこともあるものです。しかし、一度決算賞与を受け取った従業員は、翌年以降も貰えるものと期待してしまいがちです。決算賞与が支給されなかった場合、従業員のモチベーションを下げることになりかねません。
その為、決算賞与支給のルール化や、決算賞与の性質を従業員に説明することなどが必要です。
まとめ
決算賞与は、決算期末直前でも間に合う決算対策です。決算期末までに従業員に通知を行い、経理処理を行った上で、決算期末から1ヶ月以内に支給すれば、支払いが決算に間に合わなくても今期の損金に計上できます。
役員への決算賞与は、原則として損金にできませんが、事前確定届出給与の届け出をしておいて、決算期に届け出通り支払うことで、例外的に経費計上することも可能です。
しかし、決算対策を意識しすぎて、会社の資金繰りを悪化させることがないように、慎重に考えた上で実施する必要があります。
決算対策の方法と考え方については、「中小企業の決算対策|厳選重要10のテクニックと5つの落とし穴」をご覧ください。