仕事を勤め上げ、ついに定年を迎える、そんな時に会社から支給されるのが退職金です。
最近では確定拠出年金や小規模企業共済といった、個人で年金を積み立てるような制度も充実してきていますね。
退職金は老後の生活を支える大切なお金ではありますが、やはり経理上は所得として扱われ、受け取ると税金を納める必要が出てきます。
しかし、そこは老後を支える大事なお金、一般的な所得と同じような税金の計算方法にはなっていないのが特徴です。
今回はそんな退職所得について
- 退職所得にかかる税金の算出方法
- 納税する際の手続き
の2点を解説していきます。
会社から支給されるにしても個人で積み立てるにしても、いずれほとんどの人が通るであろう道なので、しっかりと理解しておきましょう。
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はじめに:退職所得とは
そもそも退職所得とはどういったものなのか、算出方法などを解説する前に説明しておきます。
退職所得とは、退職することが要因となって受け取ることになる「給与・退職金・一時金」のことです。
定年退職や転職の際に受け取る退職金はもちろん、解雇された場合の解雇予告手当や、勤めていた企業が倒産してしまった際、給与や退職金が未払いだった場合に受け取れる「未払賃金立替払制度」によって給付されたお金なども含まれます。
さらには、確定拠出年金や小規模企業共済など、個人で年金を積み立てるような制度で受け取ったお金についても、退職所得として扱われるのです。
形はどうであれ、とにかく「退職」がトリガーとなって受け取れるお金が、「退職所得」になるということですね。
1.退職所得にかかる税金の算出方法
退職所得が何なのかわかったところで、退職所得にかかる税金の算出方法について見ていきましょう。
結論からいうと、退職所得にかかる税金は、一般的な所得税よりも軽くなっています。
退職所得は、退職後の生活を支えるための重要なお金であるため、一般的な所得よりも税負担が軽くなっているのです。
具体的に見ていきましょう。
1.1.課税退職所得の算出について
まず、退職所得の計算に使用する「課税退職所得」を計算します。
「課税退職所得」の算出方法は以下の通りです。
- 課税退職所得={退職金等の金額(税込)−退職所得控除額}×0.5
基本的には上記の計算方法で算出されますが、「役員等としての勤続年数が5年以下」である人の場合、「課税退職所得」は0.5倍される前の金額になります。
注意しましょう。
また、計算内に出てきた「退職所得控除額」ですが、これは勤続年数によって金額が変わります。
勤続年数ごとの「退職所得控除額」の違いは以下の通りです。
上記を見ると、「勤続年数が20年超の場合」の方が大きな控除が受けられることがわかりますね。
勤続年数は端数切り上げです。
つまり、19年3ヶ月勤続している場合、勤続年数20年ということになります。
1.2.退職所得控除額の計算には注意が必要
「退職所得控除額」を計算する際にはいくつか注意点があります。
一つづつ見ていきましょう。
①障害が原因で退職することになった場合は控除が大きくなる
障害者になったことが原因で退職することになった場合、控除額が大きくなります。
障害が原因で退職する場合、基本的な「退職所得控除額」に加え、さらに100万円が控除に加えられることになるのです。
忘れてしまいがちな内容なので、よく覚えておきましょう。
②勤続年数の起算は入社日から
会社によっては、試用期間については退職金計算の期間に含めないなど、独自の支給対象期間を定めている場合があります。
しかし、「退職所得控除額」の計算に使用する勤続年数の起算日には、そういった会社独自の規則は関係ありません。
入社日から起算されるので注意しましょう。
③優遇処置としての退職所得控除の重複利用について
その年の前年以前4年以内に、他の会社から退職金などの退職所得に該当する手当を受給しており、かつ現在の会社と勤務期間の重複がある場合、退職所得控除額は上記計算式とは別の計算式によって算出され、結果として減額されます。
これは退職所得控除額が法律で定められた理由として、「長年の勤務に対する感謝の気持ち」という趣旨があるため、そんな特別処置を何度も利用させないための処置となっています。
要は短期間で転職を重ねた場合、そう何度も恩恵は受けさせてくれないということです。
転職する際に退職金がもらえる場合は、上記の条件に当てはまっていないか、よく確認しましょう。
1.3.退職所得にかかる税金の算出方法
「課税退職所得」の算出方法と「退職所得控除額」に関する注意点についてわかったところで、退職所得にかかる税金の算出方法を見ていきましょう。
まず重要なのは、「退職所得が分離課税である」ということです。
一般的な所得は課税所得金額が合算され、その合計金額から税金が算出されます。
その上で、所得税の税率には「超過累進課税」が使われているので、所得が高くなればなるほど税率が高くなっていくのです。
退職所得は分離課税なので、他の所得と合算されて所得が大きくなり、税率が上がるといった事態を避けることができます。
これも退職所得が、退職後の生活を支える大事なお金だからこその処置と言えますね。
また、退職時に会社に対して「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかで、退職所得にかかる税金が変わってきます。
それぞれ見ていきましょう。
①「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合
会社等に「退職所得の受給に関する申告書」を提示している場合、算出した課税退職所得に応じた税率、控除を使って所得税額を計算していきます。
課税退職所得金額に応じた所得税率、控除額は下記の通りです。
退職所得の所得税額は「A×B―C」で算出されます。
例えば勤続年数10年で退職し、退職金として1,000万円を受け取った場合、まず退職所得控除額は、
10年×40万円=400万円
なので、課税退職所得金額は
{1,000万円―400万円}×0.5=300万円
です。
300万円の場合、適用される所得税率(B)は10%、控除額(C)は97,500円となるため、退職所得の所得税額は、
300万円×10%―97,500円=202,500円
よって、この場合の退職所得の所得税額は202,500円となります。
②「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合
もし「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、上記のような控除を受けることが出来ません。
一律して収入金額の20.42%が源泉徴収されることになります。
例えば上記のように退職金1,000万円を受け取っていた場合、課税退職所得の計算はスキップされ、単に1,000万円に20.42%をかけた2,042,000円を納税しなければならないのです。
金額を見れば一目瞭然ですが、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合、多大な所得税を支払うことになってしまう為、注意しましょう。
なお、もし「退職所得の受給に関する申告書」を提出し忘れた場合でも、確定申告を行えば環付を受けることが可能なので、覚えておきましょう。
2.納税する際の手続きについて
退職金にかかる税金についての手続きは、先に述べた「退職所得の受給に関する申告書」のみです。
提出するしないでは、税金額に大きな差が生じてしまうため、退職時には、しっかりと申告書の提出を行いましょう。
「退職所得の受給に関する申告書」は以下の様なものです。
参考:「退職所得の受給に関する申告書」(国税庁HP)
まとめ
退職所得は退職後の生活を支える大切なお金です。
その分、他の所得に比べ、かかる税金の負担が少なくなっています。
しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を会社側に提出していない場合、せっかくの控除などを受けることが出来ないので注意しましょう。
これからの生活の為にも、税金の計算方法と手続きについて、しっかり把握しておきましょう。