近年、退職金制度が多様化しています。勤務先から受け取る退職金だけでなく、確定拠出年金や小規模企業共済など、いわゆる個人年金と呼ばれる制度も充実してきています。
退職金は所得税の課税対象です。
しかし、老後の生活費として必要なお金でもあるため、一般的な所得にはない控除があったりと、税金の算出方法が少々特殊になっています。
今回はそんな退職金に発生する税金について、計算方法や控除の内容などを説明していきます。
状況によっては控除を受けられない場合もあるので、しっかりと把握しておきましょう。
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1.退職金は「退職所得」として課税対象になる
退職金は「退職所得」として所得税・住民税の課税対象となります。
退職所得とは、退職することが原因で受け取ることになるお金等をさします。
典型的なものは定年退職や転職で発生する退職金ですが、これらと同様の性質を持つ所得も含まれます。
たとえば、以下のようなものです。
- 解雇予告手当
- 勤めていた企業が倒産し、給与や退職金が未払いの際に「未払賃金立替払制度」によって給付されたお金
- 確定拠出年金や小規模企業共済などで積み立てて受け取るお金(一時金で受け取る場合)
2.退職所得の算出方法
退職所得の金額は原則として、下記の計算方法にて算出されます。
- 退職所得の金額={収入金額(税込)−退職所得控除額}×0.5
ただし、役員等としての勤続年数が5年以下である人が支払いを受ける退職所得については、0.5倍する前の数字になります。
ここで重要なのが、退職所得控除額です。
退職所得控除額は勤続年数によって計算方法が変わります。勤続年数は単数切り上げであり、例えば19年2ヵ月勤続した場合、切り上げられて20年勤続と判断されます。
算出方法は以下の通りです。
この図のように、勤続年数が20年以下の場合、退職所得控除の最低額が80万円に設定されています。つまり勤続年数が1年の場合でも、退職金を受け取れば80万円の所得控除が発生するということです。
例として、終身雇用で1社に40年間勤め続けた場合の、退職所得控除額を計算してみましょう。20年を超える勤続年数であるため、計算式は下のものを使用します。
- 800万円+70万円×(40年−20)=2,200万円
上記のように、40年勤め上げれば2,200万円もの控除を受けることができます。
日本経済団体連合会の「2018年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」によると、浪人、留年などせずに高校・大学を卒業し、標準的に定年まで勤め上げた人の退職金の平均額は大学卒で2,255.8万円、高校卒で2037.7万円となっています。
そこから2,200万円もの控除を受ければ、退職所得は極端に少なくなります。
2.1.退職所得控除額の計算における注意点
退職所得控除額を算出する際には以下の3点に注意が必要です。
注意点①:障害が原因で退職することになった場合
まず1つ目の注意点は、障害者になったことが原因で退職することになった場合です。
この場合は計算式に基づいて算出された退職所得控除額に100万円が加算され、より多くの控除を受けることができます。
注意点②:勤続年数の起算について
次に勤続年数に関する注意点です。
退職所得控除額の算出には、実際の勤続年数を使用します。
例えば会社によっては、試用期間については退職金計算の期間に含めないなど、独自の支給対象期間を定めている場合があります。
退職所得控除額の計算にはそういった企業独自の算出基準は一切関係ありません。あくまでも入社日から起算されます。
注意点③:優遇処置としての退職所得控除の重複利用について
その年の前年以前4年以内に、他の会社から退職金などの退職所得に該当する手当を受給しており、かつ現在の会社と勤務期間の重複がある場合、退職所得控除額は抑えられます。
これは退職所得控除額が法律で定められた理由として、「長年の勤務に対する感謝の気持ち」という趣旨があるため、そんな特別処置を何度も利用させないための処置となっています。
要は短期間で転職を重ねた場合、そう何度も恩恵は受けさせてくれないということです。
転職する際に退職金を受け取れる場合は、上記の条件に当てはまっていないか確認する必要があります。
3.退職所得に対する税金の計算方法
退職所得と退職所得控除額の計算方法が分かったところで、最後に退職所得に対する課税について確認します。
所得税は、原則としてすべての所得を合算して計算しますが(総合課税)、退職所得は他の所得と分けて単独で税金の計算を行います(分離課税)。
したがって、適用される税率が低くなります。
また、退職時に会社等に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているか否かで、徴収額が変化します。
3.1.「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合
会社等に「退職所得の受給に関する申告書」を提示している場合、算出した退職所得金額に応じた税率、控除を使って所得税額を計算していきます。
退職所得金額に応じた所得税率、控除額は下記の通りです。
退職所得の所得税額は「A×B-C」で算出されます。
例えば勤続年数10年で退職し、退職金として1000万円を受け取った場合、まず退職所得控除額は、
なので、退職所得金額は
- {1,000万円―400万円}×0.5=300万円
です。
300万円の場合、適用される所得税率(B)は10%、控除額(C)は97,500円となるため、退職所得の所得税額は、
- 300万円×10%―97,500円=202,500円
よって、この場合の退職所得の所得税額は202,500円となります。
3.2.「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、控除を受けることができません。
一律して収入金額の20.42%が源泉徴収されることになります。
例えば上記のように退職金1,000万円を受け取っていた場合、所得税として2,042,000円が徴収されます。
金額を見れば一目瞭然ですが、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合、多大な所得税を支払うことになってしまうので、注意が必要です。
ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出し忘れた場合でも、確定申告を行えば環付を受けることができます。
4.一時金受取と年金受取について
最後に「一時金受取」と「年金受取」の違いについて簡単に紹介しておきます。
退職金の受け取り方法は、多くの場合、一括で受け取る「一時金受取」と、分割して受け取る「年金受取」を選択できます。
ここまで説明してきた退職所得の計算方法は、一時金受取の場合のみ適用されます。
年金払いの場合、退職金は「公的年金等に係る雑所得」として扱われます。
公的年金等に係る雑所得の所得金額は、次の計算式で計算されます。
公的年金等に係る控除額は以下の表の通り適用されます。
また、雑所得は原則として他の所得と合算して税率が適用されるのですが(総合課税)、公的年金等に係る雑所得の場合、例外があり、
- 公的年金等の収入金額が400万円以下
- 公的年金等以外の雑所得での収入金額が20万円以下
であれば、分離課税方式で扱われます。
ただし、一般的な会社員であれば、上記の条件を超えることは少ないと考えられるため、あまり大きな問題ではないかもしれません。
まとめ
退職金に係る所得税と、それにまつわる控除について紹介してきました。
一時金受取の場合、「退職所得」として扱われ、所得税額は退職所得控除と分離課税により大きく引き下げられます。
また、年金受取の場合、「公的年金等に係る雑所得」にあたり、これも所得税額は控除と分離課税により抑えられます。
勤務先から退職金を一時金受取する場合、「退職所得の受給に関する申告書」の提出を忘れてしまうと控除を受けられないため、注意が必要です(後で確定申告して還付を受けることはできます)。