法人税の節税方法は数多くありますが、意外と知られていないのが役員社宅という制度です。役員が支払っている家賃の一部を会社の経費として落とすことができるのですが、この制度を活用している経営者の方は少ないように思います。
役員の住まいについて社宅制度を取り入れることにより、会社の節税になるばかりでなく、役員個人にとっても家賃負担の軽減など、様々なメリットが発生するので、ぜひ取り入れていただきたい節税方法の一つです。
この記事では、
・役員社宅で節税できる3つのポイント
・家賃の具体的な設定方法
・役員社宅を取り入れる際の注意点
の3点について分かりやすく解説してまいります。
役員社宅を取り入れようとお考えの経営者の方や、すでに導入済みの方にとっても、役員社宅で最大限の節税効果を生み出す方法についてお伝えいたしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
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1.役員社宅で節税できる3つのポイント
家賃の50%が損金算入!?役員社宅で節税して社長の実質的な手取りを増やす方法を税理士が解説
役員社宅の制度を取り入れると、どのように節税ができるのでしょうか?最初に、その内容について確認していきましょう。
1.1. 役員社宅の家賃は全額損金
役員の住んでいるマンション等の賃貸物件の契約を、会社名義で法人として契約とし、家賃の一部を会社の経費で落とすと、会社が支払った社宅の家賃は全額損金算入が可能となり、結果として法人税の節税が出来ます。
役員社宅を導入すれば、少なくとも家賃の50%を会社の経費として計上し、全額損金とすることができます。実際には、もっと多い割合を経費にすることも可能なのですが、そちらについては後ほど解説してまいります。
1.2. 社会保険料負担が軽減される
経営者の方であれば、当然ご存じのこととは思いますが、社会保険料は会社がその一部を負担しています。社会保険料の金額については標準月額報酬という基準から算出されていて、給料や役員報酬が大きくなれば、それに比例して会社が支払う社会保険料も大きくなっていきます。
役員社宅を導入して役員報酬を減額すれば、結果として会社が負担する社会保険料を抑えることができます。家賃が全額損金となるだけでなく、二重の節税効果を得ることができるのです。
1.3. 役員の手取り額が増える
役員社宅の制度を導入せずに、個人でマンション等を契約すれば、その時に支払う家賃は単なる自己負担で終わってしまいます。しかし、役員社宅の制度を取り入れることによって、役員個人としての家賃負担が軽減されるので、結果として手取り額が増えるのと同じ効果を得られます。
例えば、役員報酬50万円で家賃20万円のマンションに住んでいる役員の場合、個人契約のままであれば役員報酬50万円から家賃20万円が引かれるので、役員の手取りは30万円になります。これを役員社宅とし、家賃の50%となる10万円を会社が支払い、残り10万円を役員の負担にします。結果として、役員の手取りは40万円になり、10万円、手取りが増えることになります。
2. 役員社宅の家賃、具体的な設定方法
次からは、実際に役員が支払う家賃の設定方法について確認していきましょう。普段あまり見慣れないような計算式も登場しますが、ご自身に置き換えてお読みいただきたいと思います。
2.1. 床面積で分けられる3つの住宅
役員が支払う家賃については、床面積などから3つの住宅に区別して計算されることになっています。
【小規模な住宅】
床面積が99㎡以下(木造は132㎡以下)の住宅のことを小規模な住宅と言います。
一般的には、この小規模な住宅に該当する場合がほとんどとなります。
次の①~③の合計額が、役員が支払う家賃になります。
①(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
②12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
【小規模以外の住宅】
小規模な住宅に該当しない場合、次の2種類に分けて役員の家賃を計算します。
(1) 自社所有の社宅の場合
次の①と②の合計額の12分の1
① その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%
② その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%
(2) 他から借りた住宅を社宅にする場合
会社が支払う家賃の50%の金額と(1)で算出した金額の、いずれか多い金額
【豪華社宅】
豪華社宅は家賃の全額が役員の負担となるので、役員社宅の節税効果は0です。
豪華社宅に該当するかどうかは、床面積が240㎡を超える場合、物件価格・家賃・内装や外装の設備の状況などを考慮した総合的判断となります。ただし、プールなど、役員の個人的な嗜好が反映されている設備があると、床面積が240㎡以下であっても、豪華社宅とみなされることがあります。
2.2. 家賃×50%の家賃設定は損をする?
最初に申し上げたのですが、役員社宅の制度を取り入れると、少なくとも家賃の50%を全額損金とすることができます。これは、先に説明した「床面積から役員が負担する家賃の計算」が難しい時に、おおまかに家賃の50%を役員負担として設定しても、税務署が損金として認めてくれるからです。
「床面積から役員が負担する家賃の計算」が難しくなる理由としては、「固定資産税の課税標準額」が分からないケースがあるためです。
しかし、最近では、固定資産税の課税標準額を確認することが出来る閲覧制度があります。この制度を利用して、計算式にのっとった家賃設定をしたほうが、より多い金額を損金にすることができることもあります。
家賃の50%の設定で、既に役員社宅を導入している方については、ぜひ一度、固定資産税を確認し、計算式に当てはめた場合と比較してみることをおすすめします。
参考:東京主税局ホームページ 『東京23区内の固定資産の「閲覧・証明」制度とは』
2.3. 無償での賃貸、低すぎる家賃設定は逆効果
役員住宅は節税を目的として行うものです。役員へ無償で社宅を貸し出したり、家賃の設定が低すぎてしまうと、税務署に社宅として認めてもらえません。社宅と認めてもらえないと、節税効果が得られないばかりか、思わぬ税金がかかってしまうこともあります。
また、間違って「住宅手当」として家賃を支給してしまうと、その分が役員報酬とみなされてしまい、課税の対象となってしますので、ご注意ください。
3. 役員社宅で節税する時の注意点
ここまで、役員社宅の良い点ばかりを説明してきましたが、最後に注意していただきたい点がいくつかございます。節税を目的として役員社宅を導入したはずが、思い描いた通りの結果が得られなかった、ということがないように、必ず確認をお願いいたします。
3.1. 社内ルールを整備する
従業員の社宅については、福利厚生の一環として、社内規定などに定められていることが多いのですが、これを役員社宅として適用する場合は、別途、内規などにルールを定める必要があります。
会社内での役員社宅の利用方法についてルールを定めていない場合、税務調査で問題視されてしまうことも考えられます。役員社宅は、節税や社会保険料の負担を軽減できる素晴らしい制度なので、これを最大限に活かすためにも、税理士の先生など専門家の助けをかりながら、しっかりとしたルール決めを行ってください。
3.2. 敷金など一時的な資金負担が発生する
役員社宅を取り入れる際には、会社名義で法人としての契約が必要になります。個人で賃貸物件を借りる時でも同じですが、契約時には敷金や手数料、各種書類の作成費用などがかかります。結果、一時的に資金負担が発生することになります。
すでに役員個人で契約しているマンションを、会社名義の法人契約にする場合でも、ほとんどの場合、全ての契約手続きを最初から行う必要があります。通常は、個人契約から法人契約への名義変更のみを行うことは出来ないのですが、これについては不動産会社に相談してみると良いでしょう。
3.3. 家賃以外の負担は課税対象
水道代、電気ガスなどの光熱費、駐車場代などは役員本人の負担となります。会社が負担してしますと、役員報酬として課税されてしまいます。ちなみに共益費については、家賃の一部として計算しても問題はありません。
まとめ
役員社宅で法人税の節税を行うことは、会社負担の家賃分が全額損金算入できる直接的な節税のほか、社会保険料の負担を軽減できる間接的な節税効果を得ることができます。また、役員個人としても実質的な手取りを増やすことができるので、一石三鳥と言えるような、たいへん魅力的な節税方法です。
法人の節税については、従業員の給与・事務所の賃料・水道光熱費など、普段から損金に算入できるもの、また、不要な固定資産を売却することによって得られる一時的なもの等、様々な節税方法があります。会社の規模や状況によって、適した節税方法は異なるのですが、今回ご紹介した役員社宅制度を導入している方は少ないように思います。これは、役員社宅で節税ができることをご存じない経営者の方が多いからだと感じています。
この記事をお読みいただき、役員社宅で節税が出来ることを一人でも多くの経営者の方に知っていただけたなら幸いです。
参考:国税庁ホームページ