※(2020年10月17日追記)この記事における法人保険の保険料の税務上の扱い、契約例に関する記載内容は、旧ルールを前提としております。最新のルールについては「法人保険の損金算入ルールを分かりやすく解説します」をご覧ください。また、新ルールを踏まえた法人保険の最新の活用法については「法人保険|会社のお金の問題解決に役立つ最新6つの活用法」をご覧ください。
長期平準定期保険は、経営者・役員の方に不幸があった場合に会社を救うだけでなく、20~30年くらいかけて税金の負担を抑えながら必要な資金、特に退職金を効果的に積み立てられる保険です。
また、その他にも様々な使い道があり、リスクも比較的低いと言われています。
ただ、そうは言っても、長い間保険料を支払い続けることになるので、どんな仕組みで資金が積み立てられるのか、どんなリスクがあるのか気になるでしょう。そこで、経理処理がどうなっているのか知りたいとお考えになると思います。
この記事では、長期平準定期保険の経理処理を、難しい法令や通達の文章を使うことなく、イメージしやすいように分かりやすく説明します。
この記事をお読みになれば、長期平準定期保険の経理処理、ひいては税務について理解が深まり、最もあなたの会社に合った保険を選び、有効に活用するのに役立つと思います。
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保険の教科書 編集長。2級ファイナンシャルプランナー技能士。行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
1.保険料を支払う段階の経理処理
1.1.保険料の経理処理|前半は1/2が純粋な保険料で残りを保険会社が預かる
保険料を支払っている時の経理処理は、タイミングによって違います。具体的には保険期間の前半60%の期間と、後半40%の期間とで、扱いが違うのです。
たとえば、契約期間が60年間とすると、前半36年間と後半24年間で扱いが違います。
なぜそうなっているかというと、保険料の額をずっと一定にしているためです。どういうことなのか詳しく説明します。
本来、保険の対象となっている人(被保険者)が亡くなるリスクは若いうちは低く、年を取るごとに高くなっていきます。したがって、本来ならば、同じ保険金を受け取るためのコストである保険料も、最初は低く、後になるにしたがって高くなっていくはずです。
〈本来の保険料のイメージ〉

しかし、実際には長期平準定期保険は保険料がずっと平準、つまりずっと同じ額です。これはなぜかというと、保険料を全期間一定にするために、保険期間の前半の間、保険会社が後半の保障に充てるお金を預かっておくしくみにしているからです。これを「前払保険料」と言います。
〈保険料を一定にするしくみ〉

つまり、厳密に言えば、保険期間の前半の保険料は以下の2種類のお金が混じっています。
- その時に万一のことがあった場合に備えた純粋な意味での保険料(支払保険料=費用)
- 将来の保険料を前もって保険会社に預けて積み立てておくお金(前払保険料=資産)
ただし、経理処理をする際に、これらを厳密に区別して計算するのは非常にめんどうです。そこで、以下のような扱いをします。
【前半60%の期間】
- 1/2はその時点の保障を受けるための「支払保険料」(費用)
- 1/2は将来の保険料に充てるため積み立てる「前払保険料」(資産)
【後半40%の期間】
- 保険料全額はその時点の保障を受けるための「支払保険料」(費用)
- 積み立てておいた「前払保険料」を取り崩して各年に振り分ける「支払保険料」(費用)
(イメージ図)

1.2.具体例|B生命の長期平準定期保険の契約例
以上のしくみについて、B生命の長期平準定期保険の契約例で具体的に見てみましょう。
【B生命の長期平準定期保険の契約例】
- 契約年齢:40歳
- 男性
- 保険期間:60年(100歳満了)
- 保険料:2,739,700円/年
- 返戻率のピーク:30年後(102.2%(83,972,000円))
この契約例で、前半36年間と後半24年間とに分けて説明します。
1.2.1.前半36年間(60年の前半60%の期間)
まず、前半60%の期間の保険料の経理処理です。長期平準定期保険を活用する場合、前半60%の期間中に解約返戻金の返戻率のピークが来て解約することが多いです。たとえば40歳加入・保険期間60年(100歳まで)であれば、36年後の76歳の時までに解約する確率が高いでしょう。
前半60%の期間の経理処理は、
- 1/2はその時点の保障を受けるための「支払保険料」(費用)
- 1/2は将来の保険料に充てるため積み立てる「前払保険料」(資産)
というものです。以下の図をご覧ください。

まず、現金・預金という資産が2,739,700円減少します。そして、1/2の1,369,850円が支払保険料として費用になり、残りの1/2の1,369,850円は前払保険料として保険会社に預けるものなので資産に計上されます。
その結果、費用である1,369,850円が損金に算入されます。これが「1/2損金」です。これによって、保険料を支払う段階では税金の負担が軽くなります。これをさして「節税」という表現をされることがあります。
しかし、これは厳密に言えば節税ではありません。なぜなら、後で解約して解約返戻金を受け取る時に、その使い道がないと、結局は税金を納めなければならなくなってしまうからです。
このことについては後ほど「2.解約返戻金を受け取る段階の経理処理」で詳しくお伝えします。
1.2.2.後半24年間(後半40%の期間)
次に、後半40%の期間の経理処理は以下の通りです。
- 保険料全額はその時点の保障を受けるための「支払保険料」(費用)
- 積み立てておいた「前払保険料」を取り崩して各年に振り分ける「支払保険料」(費用)

このように、後半40%つまり24年間の保険料は全額が支払保険料、つまり、保障を受けるための費用です。そして、それでは足りないので、事前に前半36年間に前払保険料として保険会社に預けて積み立てておいたお金(資産)合計49,314,600円を24年間に分けて2,054,775円ずつ支払保険料として費用に計上していきます。
つまり、この段階になれば、保険料を支払うとその1.75倍の額が損金に算入されていくことになります。そのため、極端な話、気付かないうちに赤字を出してしまう可能性も考えられるので、注意が必要です。
2.解約返戻金を受け取る段階の経理処理
次に、解約返戻金を受け取る段階での経理処理についてお伝えします。なお、上述のように、逓増定期保険は前半60%の期間のうちに解約返戻金の返戻率がピークを迎えるので、ほとんどそのタイミングで解約してしまいます。したがって、ここでは、ピークで解約した場合についてのみ説明します。
B生命の逓増定期保険で見てみましょう。
【B生命の長期平準定期保険の契約例】
- 契約年齢:40歳
- 男性
- 保険期間:60年(100歳満了)
- 保険料:2,739,700円/年
- 返戻率のピーク:30年後(102.2%(83,972,000円))
この契約では、加入30年後に解約返戻金の返戻率のピークを迎え、その時の返戻率は102.2%、解約返戻金の金額は83,972,000円です。
この時に解約し、解約返戻金83,972,000円を受け取ると、経理処理は以下のようになります。

解約返戻金83,972,000円を受け取るとその分、現金・預金という資産が増加します。
ただし、解約返戻金の一部は、保険会社に保険料の1/2を「前払保険料」として預けて積み立ててきた合計41,095,500円の資産が姿を変えて戻ってくるものです。したがって、その分だけ前払保険料という資産がなくなります。
そして、解約返戻金から前払保険料を差し引いた42,876,500円は雑収入・収益として益金に計上されます。
したがって、そのままだとこの42,876,500円には税金がかかります。法人実効税率30%として計算すると、12,862,950円の税金を支払わなければなりません。それまで保険料の1/2を損金に算入して税金の負担を軽くしてきたのに結局は税金を取られてしまうのでは、保険を活用する意味が乏しいです。
したがって、それを避けるには、解約返戻金を受け取ったのと同じ年度に、この益金42,876,500円と同じくらいの額の損金を計上する必要があります。
つまり、解約返戻金を受け取った時の使い道についてしっかり予定を立てておく必要があるということです。
まとめ
長期平準定期保険の経理処理について、具体例をもとに説明してきました。
保険料を支払う段階では、全期間のうち最初の60%の期間は1/2を損金に算入できます。また後半40%の期間は保険料の1.75倍の額を損金にできます。したがってその分、税負担を軽くすることができます。
しかし、解約返戻金を受け取る段階では多額の益金が計上されてしまうので、ここでその益金と同じくらいの損金を計上しないと結局は税金が取られてしまい、そこまで税負担を軽くしてきた意味が乏しくなってしまいます。
保険料と解約返戻金のそれぞれの経理処理を理解した上で、現在の課題や今後の見通しを基にプランニングをしっかりと行い、解約返戻金の返戻率だけでなくピークの時期のタイミングやピーク期間の長さなど、あなたの会社にとって最も有効な保険を選んで役立てていただきたいと思います。
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