法人保険(いわゆる節税保険)の販売停止に関する国税庁の新ルール案の解説

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2019年2月に、国税庁が、「節税商品」と言われている法人保険について、損金算入ルール等の税務処理の見直しを行うことを公表してから、生命保険会社各社が法人保険の販売を停止しています。

そして、2019年4月11日、国税庁がルール改正案(通達)の試案を公表しました。

この後、これに対する意見公募(パブリックコメント)を5月10日まで行ってから、正式なルールが決定されることになっています。

募集した意見がどの程度反映されるか分かりませんが、基本的には、新ルール案に沿ったものになる可能性が高いと考えられます。ただし、公表されたルール案は非常に難解なものになっています。

そこで、今回は、国税庁の提示しているルールについて、これまでの契約の取扱にも触れながら、背景にある考え方とともに分かりやすく解説します。

なお、今回お伝えする内容はあくまで速報です。詳細については、税理士等の専門家に確認することをおすすめします。

1.損金算入割合は解約返戻率を基準として決まる

国税庁が公表した新ルール案は、「定期保険」について、保険料の損金算入割合を、解約返戻金のピーク時の返戻率に応じて決めるものとしています。

以下の4通りに分けて扱いを定めています。

  1. ピーク時返戻率50%以下の場合
  2. ピーク時返戻率50%超~70%の場合
  3. ピーク時返戻率70%超~85%の場合
  4. ピーク時返戻率85%超の場合

ピーク時返戻率50%超の場合は、損金算入割合がタイミングによって違うなど、複雑なルールとなっています。

以下、それぞれについてイメージしやすいように分かりやすく説明します。

1.1. ピーク時返戻率50%以下の場合

まず、返戻率50%以下の場合、全額損金扱いが認められます。

そして、解約返戻金を受け取ると、全額が益金(雑収入)となります。

1.2.ピーク時返戻率50%超~70%の場合

ピーク時返戻率50%超~70%の場合、年間保険料が20万円以下の場合は全額損金になりますが、20万円を超える場合、損金算入割合は3段階に分けて計算されます。

  • 最初の40%にあたる期間:60%損金(40%資産計上)
  • 始期から起算して40%超にあたる期間~75%にあたる期間:全額損金
  • 始期から起算して75%超にあたる期間:164%損金

これを保険期間20年の場合で考えてみましょう。以下の通りになります。

  • 最初の8年間:60%損金
  • 次の7年間:全額損金
  • 最後の5年間:164%損金

なぜこのような計算になるかは後で説明します。

なお、解約返戻金を受け取った場合は、それまでの資産計上額総額を差し引いた額が益金(雑収入)に算入されます。

1.3.ピーク時返戻率70%超~85%の場合

次に、ピーク時返戻率が70%超~85%の場合の損金算入ルールは、以下の3段階に分けて計算することになっています。

  • 最初の40%にあたる期間:40%損金(60%資産計上)
  • 始期から起算して40%超にあたる期間~75%にあたる期間:全額損金
  • 始期から起算して75%超にあたる期間:196%損金

保険期間20年の場合で考えると、以下の通りになります。

  • 最初の8年間:40%損金(60%資産計上)
  • 次の7年間:全額損金
  • 最後の5年間:196%損金

なぜこのような計算になるかは後で説明します。

なお、解約返戻金を受け取った場合は、それまでの資産計上総額を差し引いた額が益金(雑収入)に算入されます。

1.4.ピーク時返戻率85%超の場合

最後に、解約返戻金のピークの返戻率が85%超の場合です。

この場合の新ルール案が最も難解ですが、原則的な扱いのみ押さえておきましょう(新ルール案は「返戻率ピークまでの期間が5年未満の場合」、「保険期間が10年未満の場合」についても言及していますが、些末なのでここでは省略します)。

新ルール案の原則は、タイミングに応じて以下の通りです。3段階に分けて考えるのは、「ピーク時の返戻率が50%超~70%の場合」「ピーク時の返戻率が70%超~85%の場合」と同じです。

年払保険料の額を「A」、ピーク時の返戻率をX%とします。

  • 最初の10年間:(AA×X%×90%)÷A×100(%)が損金(A×X%×90%が資産計上)
  • 10年後~返戻率ピークにあたる期間:(AA×X%×70%)÷A×100(%)が損金(A×X%×70%が資産計上)
  • 返戻率ピーク終了後:全額+αを損金算入

この+α」は、それまで資産計上した分を、返戻率ピーク終了後から保険期間満了までの各年に均等に割ったものです。

たとえば、保険期間30年とすると、以下の図のようなイメージです。

以下は、ピーク時返戻率(X%)ごとに、最初の10年間と、10年後~ピーク時までの損金算入率を計算してまとめたものです。。

なお、解約返戻金を受け取った場合は、それまでの資産計上総額を差し引いた額が益金(雑収入)に算入されます。

2.既存の契約の扱いはそのまま認められる

気になるのが、既存の契約の扱いです。今まで通りの損金算入割合が認められるのか、それとも新ルールが適用されてしまうのか、ということです。

結局、国税庁は、新ルール案に関する文面で、新ルールが適用されるのは「改正通達の発遣日から」つまり、新ルールが発効する日からとしています。

また、「廃止する個別通達の適用対象となる保険契約で、平成 31 年○月○日(改正通達の発遣日)前の契約に係る保険料については、なお従前の例によることとします。」とも記載しています。(P.5参照)。

この記述からすれば、既存の契約には新ルールは適用されず、今まで通りの「全額損金」「1/2損金」「1/3損金」等の扱いが認められることになります。

3.国税庁の新ルール案の背景にある考え方

以上が国税庁の新ルール案の概要です。

では、この新ルール案は、どのような考え方によるものでしょうか。今までと何が変わったのでしょうか。

文面を読むと、「各保険商品の実態を踏まえつつ、現行の取扱と整合性のとれた資産計上ルールとすべき」と書いてあり(P.5)、基本的な考え方を変えたわけではないと明記しています。

ただし、従来のルールと新ルール案を比べると、以下の2点が違います。

【従来のルール】

  • 基準となる数値:保険期間
  • 保険期間ごとの損金算入割合の計算区分:2段階

【新ルール案】

  • 基準となる数値:解約返戻金のピーク時の返戻率
  • 保険期間ごとの損金算入割合の計算区分:3段階

つまり、基本的な考え方は変えず、保険期間の長さではなく解約返戻金の返戻率に着目し、かつ、計算方法をきめ細かくしたと言えます。

今までのルールについては「長期平準定期保険の経理処理|1/2損金で積立ができるしくみ」「逓増定期保険の経理処理|キャッシュをより多く残せるしくみ」をご覧いただくとして、新ルール案と今までのルールに共通する根本の考え方をお伝えします。

本来、保険の対象となっている人(被保険者)が亡くなるリスクは若いうちは低く、年を取るごとに高くなっていきます。したがって、本来ならば、同じ保険金を受け取るためのコストである保険料も、最初は低く、後になるにしたがって高くなっていくはずです。

〈本来の保険料のイメージ〉

しかし、実際には、定期保険で保険期間が「20年」「30年」といった長期の保険は、保険料がずっと平準、つまりずっと一定の額です。

これはなぜかというと、保険料を全期間一定にするために、保険期間の最初のうち、保険会社が後半の保障に充てるお金を預かっておくしくみにしているからです。これを「前払保険料」と言います。法人保険の保険料で資産計上されるのは、この前払保険料です。

〈保険料を一定にするしくみ〉

つまり、厳密に言えば、保険期間の前半の保険料は以下の2種類のお金が混じっています。

  • 万一があった場合に備えた純粋な意味での保険料(支払保険料=費用⇒損金算入)
  • 将来の保険料を前もって保険会社に預けて積み立てておくお金(前払保険料=資産⇒資産計上)

ただし、経理処理・税務処理をする際に、これらを厳密に区別して計算するのは非常にめんどうです。「だから計算をなんとかシンプルにしよう」という方向性は、今までと同じです。

以上のようなイメージを持って、もう一度、それぞれの場合を確認してみましょう。

ピーク時の返戻率が50%超70%以下の場合

  • 最初の40%にあたる期間:60%損金(40%資産計上)
  • 始期から起算して40%超にあたる期間~75%にあたる期間:全額損金
  • 始期から起算して75%超にあたる期間:164%損金

ピーク時の返戻率が70%超85%以下の場合

  • 最初の40%にあたる期間:40%損金(60%資産計上)
  • 始期から起算して40%超にあたる期間~75%にあたる期間:全額損金
  • 始期から起算して75%超にあたる期間:196%損金

ピーク時の返戻率が85%超の場合

  • 最初の10年間:(AA×X%×90%)÷A×100(%)が損金(A×X%×90%が資産計上)
  • 10年後~返戻率ピークにあたる期間:(AA×X%×70%)÷A×100(%)が損金(A×X%×70%が資産計上)
  • 返戻率ピーク終了後:全額+αを損金算入

※「A」=年払保険料、「X%」=ピーク時の返戻率、「+α」=資産計上した分÷返戻金ピーク終了後・保険期間満了までの年数

まとめ

国税庁が2019年4月11日(木)に公表した、法人保険の保険料の損金算入等の取扱についての新ルール案について、どういう内容なのか、どういう考え方に基づくのか、お伝えしてきました。

これから2019年5月10日(金)にかけて意見公募(パブリックコメント)が行われ、それを踏まえて最終決定がなされ、新ルールが6月上旬頃に公表される可能性が高いと考えられます。

今回の発表を受け、生命保険会社各社は法人保険の新商品をどのようにするか検討を始めるものと思われます。

「法人保険の教科書」では今後も、できる限り迅速に有益な情報をわかりやすくお伝えしていく予定です。引き続き、よろしくお願いいたします。

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出岡 大作

出岡 大作

行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
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