個人の医師や歯科医師の中には、運営や税金対策などに悩みを持っており、解決策として法人化を考えている、という方も多いでしょう。
確かに開業医はクリニックを1つしか持つことが出来ず、さらに医療関係といえど別の事業を平行して行うというようなことは出来ません。
また、税金も平均収入が高い医師や歯科医師にとって、大きな負担になっていることは間違いないでしょう。
実際、開業医から医療法人になることで、事業の面でも税負担の面でも大きなメリットがあります。
今回はそんな医療法人のメリットについて、
の2つに重点を置いて解説していきます。
法人化を考えている方は、しっかり理解しておきましょう。
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私たちは、お客様のお金の問題を解決し、将来の安心を確保する方法を追求する集団です。メンバーは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持っており、いずれも現場を3年以上経験している者のみで運営しています。
1.事業展開におけるメリット
個人クリニックの場合、分院を開設したり、他の事業を行ったりすることができません。
しかし、医療法人であればそのような事業展開が可能で、より広い地域に対する医療サービスの提供や、老人介護保険施設の運営、訪問看護等の事業を行うことが出来ます。
医療法人が行うことのできる事業は、
です。
医療法人化することで、複数の医院を経営することが出来るようになります。
医院ごとで強みを分けたり、地域に広く展開することが可能になるため、事業を大きくすることが可能です。
医療に附帯する業務については、介護施設など、法人でないと行うことのできない事業にも着手することができます。
参考:「医療法人の業務範囲(厚生労働省)」
2.税負担におけるメリット
法人特有の制度を利用することで、税負担を抑えることが出来ます。
特に医療法人は、一般企業よりも税金面で有利な点が多いです。
2.1.一定額以上であれば所得税率が軽減される
厚生労働省の調査によると、平成27年度における一般的な開業医の平均年収は2,887万円にも上るとのこと。
個人の所得にかかる税率は、「超過累進課税」と呼ばれ、所得額が大きいほど税率も大きくなります。
2,000万円を超えるような金額を稼ぎ出している開業医が、多額の税金を支払っているのは言うまでもありません。
個人の所得に対して発生する税率と控除額は以下の通りです。
対して、医療法人の場合、所得にかかる税率は最大でも30%となっています。
仮に所得が2,000万円だった場合、開業医と医療法人では、所得税率に10%もの違いがあるわけです。
数ある職種の中でも収入が多いとされる医師の場合、この恩恵は大きいですね。
2.2.所得の分散ができる
個人の場合、原則家族に対する給与を経費にすることはできません。
例外として、専従者給与として支払った場合であれば経費にできますが、そのためには、税務署に届け出をした上で、月の半分以上は従業員として働く必要があります。
対して、医療法人では、家族を理事にすることで、役員報酬として給与を支払うことが可能です。
役員報酬は原則経費にできませんが、毎月一定額を妥当な金額で支払っている場合であれば、経費にすることが出来ます。
例えば、理事長が年間1億円の役員報酬を受け取っている場合、税務署に妥当な金額であると判断されなければ経費にできませんし、個人にかかる所得税についても、「超過累進課税」における最高税率である45%が計算に使われ、多額の税金を支払うことになってしまいのです。
しかし、妻と子供3人の家族4人を理事にし、役員報酬として各々に2,000万円ずつ支払った場合、1億円と比べれば税務署で妥当と判断される確率は上がります。
また、個人の所得税についても税率は40%になり、税負担を抑えることが可能です。
2.3.「社会保険診療報酬」による税負担への恩恵がある
「社会保険診療報酬」とは、患者が払う医療費のうち、保険組合などが負担している分のことを指します。
要は健康保険に入っていると免除される分のことですね。
個人の医師の場合、「社会保険診療報酬」が5,000万円以下であれば、一部を経費にすることが可能ですが、これは法人の場合でも適用されます。
経費にできる金額は以下の通りです。
加えて法人の場合、「法人事業税において、社会保険診療報酬は非課税になる」のです。
一般企業の法人事業税は、以下のように計算されます。
対して、医療法人の法人事業税の計算方法は、以下の通りです。
上記のルールにより、医療法人が開業医よりも税負担の面で有利なのが分かりますね。
2.4.「節税」の手段が広がる
法人化することによって、個人事業主よりも「税金対策」の幅が広がります。
詳しくは「会社の税金|効果的な節税対策をするためのテクニック」をご覧ください。
3.医療法人化する際に注意しておきたいこと
最後に医療法人を設立する上での注意点を紹介します。
経営の複雑化や事務作業の増加など、気にすべき点は色々ありますが、最も注意しておきたいのが「新しく立ち上げた医療法人には出資持分がない」ということです。
「出資持分」がない場合、法人を解散した時に、残った財産をすべて国や地方公共団体などに納めなければなりません。
つまり手元に財産を残すことが出来ないのです。
よって、医療法人の経営中に、後継者を探すか、退職金などの「お金の出口」を準備しておく必要があります。
まとめ
今回は、医療法人のメリットについて紹介してきました。
医療法人は個人の開業医と比べ、事業展開と税負担という点で大きなメリットを持っています。
事業展開については、分院や医療に関係する施設の経営など、地域や業種について、幅広く行うことが可能です。
また、税負担については、法人と同じような対策が行えたりと、恩恵が大きいことが分かります。
特に「社会保険診療報酬」が関係するものに関しては、医療法人特有であり、かつ威力の高いものになっていますね。
しっかりと仕組みを把握し、法人化した際には最大限利用しましょう。
忘れてはいけないのが、医療法人があくまで「非営利団体」であり、「医療への貢献」という使命を持っていることです。
法人化のメリットに振り回され、本来の事業目的を見失わないよう注意しましょう。