逓増定期保険名義変更プランのしくみと3つの注意点

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オーナー社長の方は、会社の資産は自分自身が築き上げてきたものだという自負をお持ちの方が多いと思います。しかし、会社から受け取れる給与や退職金は損金算入できる額に制限があり、意のままには設定できないものです。

そこで、会社の資産を合法的に自分自身のものにできると言われる方法として、逓増定期保険の名義変更という方法があると聞いたことがあると思います。そして、どんな方法なのか、リスクがあるとしたらどんなものなのか、お知りになりたいことと思います。

逓増定期保険の名義変更プランは、保険料を払い続けるだけのキャッシュフローの見通しと、保険料の1/2以上の営業利益を出し続けられる見通しが確実であれば、会社の資産を個人にある程度移転させることができるものです。

しかし、私たちは、逓増定期保険の名義変更プランを積極的にはおすすめできないと考えています。なぜなら、他により確実でリスクの少ない方法がある上、この先、課税逃れ目的(租税回避)とされて否認されてしまうリスクが高まるおそれもあるからです。

この記事では、逓増定期保険の名義変更プランのしくみを説明した上で、3つの注意点についてお伝えします。

1.逓増定期保険の名義変更プランとは

1.1.逓増定期保険とは

逓増定期保険の名義変更プランがどのようなものなのか説明する前に、逓増定期保険について簡単におさらいしておきます。

逓増定期保険については詳しくは『逓増定期保険で会社のキャッシュをより多く残す4つの活用法』をご覧いただきたいのですが、税金の負担を抑えながら必要な資金を効率よく積み立てる機能があります。

ただし、今回注目していただきたいのは、その点よりも、保険料を支払ったらそのうち何%が戻ってくるかという、解約返戻金の返戻率の動きです。

逓増定期保険は、解約返戻金の返戻率の高いタイミング、つまりピークが5~10年後くらいにあります。そして、ふつうの逓増定期保険は、下図のように、返戻率の高さが釣鐘型に推移します。

【ふつうの逓増定期保険の返戻率の動き(イメージ)】

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1.2.名義変更プランは「低解約返戻金型」を利用する

しかし、名義変更プランに用いられる逓増定期保険は、返戻率がピークの直前まで低く抑えられており、ピークになって急激に上がるものです。「低解約返戻金型」と言われるタイプです。

返戻率が低い期間を「低解約返戻金期間」と言います。

【低解約返戻金型の逓増定期保険(イメージ)】

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名義変更プランは、低解約返戻金期間の最後、つまり、返戻率が跳ね上がる直前に、会社から経営者・役員個人へと名義変更、つまり保険契約自体を個人に譲り渡したり払い下げたりするのです。

保険の評価額は、法令・通達ではその時点の解約返戻金の額とされています。したがって、低解約返戻金期間の最後に会社から個人へ名義変更すると、その時の保険の評価額は、返戻率が高く跳ね上がる直前の低い額です。ここがポイントなので、よく押さえて以下を読み進んでください。

1.3.逓増定期保険の名義変更プランの具体例

では、逓増定期保険の名義変更プランを使うとどうなるのか、具体例で見てみましょう。

逓増定期保険を個人へ名義変更するのは以下の3つの方法があります。

  1. その時の評価額で買い取らせる方法
  2. 在職中に給与にプラスしてタダで譲り渡す方法
  3. 退職金の一部としてタダで譲り渡す方法

しかし、この記事では、話をシンプルにするために、「1.その時の評価額で買い取らせる方法」での名義変更を例に説明します。なぜなら、タダで譲り渡す方法だとややこしい問題が発生し、話が複雑になってしまうからです。

【契約例】

  • 保険をかける対象(被保険者):経営者
  • 年間保険料500万円(1/2損金)
  • 解約返戻金の返戻率のピーク:5年後(95%(2,375万円))
  • 低解約返戻金期間:4年間
  • 5年後の返戻率:20%(400万円)

1.3.1.経営者個人は1,950万円の利益を受け、所得税も安い

まず、加入4年後に経営者個人に保険を時価400万円(その時の解約返戻金額)で買い取らせます(①)。

そして、個人の側で、名義変更の翌年に1年分の保険料500万円を支払い(②)、その後で解約します(③)。この時の返戻率は95%で、解約返戻金は2,375万円です。

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こうすると、個人の側では、会社からの買取金額400万円と名義変更後1年分の保険料500万円の計900万円を支払っただけなのに2,375万円のお金を受け取れて、差し引き1,475万円の利益を受けたことになります。

しかも、個人が受け取った2,375万円は一時所得と扱われ、所得税の負担が軽くなります。どういうことかというと、一時所得金額の計算は、

(収入金額-必要経費-50万円)×1/2

で、いわゆる「1/2課税」がされるため、所得税が大幅に抑えられるのが特徴です。

この事例では、個人が400万円で保険を買い取り、翌年分の保険料500万円だけを支払っているので、必要経費は計900万円です。したがって、一時所得の金額は

(2,850万円-900万円-50万円)×1/2=712.5万円

です。

つまり、自分が支払ったお金よりも1,475万円多い解約返戻金が受け取れる上、一時所得と扱われるので税金も「1/2課税」で712.5万円にしかかからないという効果があるのです。

これに対し、経営者が通常の給与にプラスして会社から1,475万円を受け取ると、給与所得と扱われ、事実上、そこにそのまま所得税がかかってきてしまいます。

どういうことかというと、給与所得の計算は

収入金額-220万円(平成29年度以降)

ですが、既に支給されている通常の給与の額から220万円が差し引かれています。したがって、通常の給与にプラスして支給された1,475万円からは差し引ける金額はなく、そのまま課税されてしまうことになるのです。

以上、まとめると、逓増定期保険の名義変更プランを使うと、個人の側では、使わない場合よりも、課税所得が1,475万円-712.5万円=762.5万円減らせることになります。

1.3.2.会社には1,600万円の損金が発生する

会社の側では、年500万円の保険料を支払うとその1/2の250万円がその年度の損金に算入され、4年間で損金算入額は合計1,000万円になります。

他方、保険料の1/2の250万円が4年間資産計上されていき、合計1,000万円になります。そして、4年後に会社が経営者個人に対して保険をその時の評価額(解約返戻金額400万円)で売り渡すと、1,000万円の資産を400万円で払い下げたことになり、600万円の損失が発生し、損金に算入されます。ただし、これはあくまでも費用ではなく資産損失であることを忘れてはなりません。

2.逓増定期保険の名義変更プランの問題点

以上が、逓増定期保険の名義変更プランのしくみです。しかし、この方法については以下の3つの問題点があります。

  1. より確実に会社の資産を自分に移せてリスクの少ない方法が他にある
  2. 「租税回避」として否認されるリスクが高まる可能性がある
  3. 自分の支払ってない保険料まで必要経費に計上し、税金を免れるケースがある

このうち、「3.自分の支払ってない保険料まで必要経費に計上し、税金を免れるケースがある」については、一種の脱税なので、税法のルールにのっとって処理する限りは特に問題はありません。また、そういった方法は今後は網がかかることになっています。

しかし、あとの2つは、よくよく注意する必要があります。

「1.より確実に会社の資産を自分に移せてリスクの少ない方法が他にある」というのは、保険を活用するのは、あくまでも保険料を支払えるだけのキャッシュフローがあり、かつ、保険料の1/2以上の営業利益を出し続けられることが前提です。しかし、それは保障できません。そうであれば、会社の資産を合法的に自分に移すことのできる、より堅実な方法を選んだ方が無難だということです。

また、「2.『租税回避』として否認されるリスクが高まる可能性がある」ということについては、現在、実際に否認された例はまだ確認されていません。しかし、今後、否認されるリスクが高まる可能性があります。

したがって、逓増定期保険の名義変更プランを積極的にはおすすめできません。

以下、それぞれについて説明します。

2.1.より確実に会社の資産を自分に移せてリスクの少ない方法が他にある

2.1.1.逓増定期保険の名義変更も損をするリスクがある

逓増定期保険の名義変更プランは常にうまくいくとは限りません。名義変更の年度までに業績が悪化した場合には、中途解約しなければならなくなるかも知れません。そんな時、解約返戻金の返戻率が低いので、損をしてしまうというリスクがあります。

また、税負担の軽減がうまくいかないリスクもあります。たとえば、「1.3.逓増定期保険の名義変更プランの具体例」で試算したところでは、保険料の1/2の250万円の損金と、譲渡による600万円の資産損失が出ますが、もしもたまたま急な業績の悪化等によってこの年度の営業利益がゼロだった場合、赤字になってしまう上、税負担の軽減の効果はありません。

したがって、逓増定期保険の名義変更プランの利用を考えるならば、少なくとも名義変更までの間、保険料を払い続けるだけのキャッシュフローの見通しと、保険料の1/2以上の営業利益を出し続けられる見通しが確実でなければなりません。

2.1.2.より確実な方法が他にある

また、会社の資産を個人に移すならば、より確実な方法があります。会社の財産を実際の資産価値よりも安い価格で買い取れる方法です。

たとえば、

  • 会社でマンションを購入し、「役員社宅」等として利用した後3年後に個人で買い取る
  • 会社で中古の高級車を購入し、減価償却した後で個人が買い取る

といったやり方です。

■会社でマンションを購入し、「役員社宅」等として利用した後3年後に個人で買い取る

まず、会社でマンションを購入し、減価償却(※)した後、3年後に個人で買い取る方法です。この方法だと、減価償却できる上、3年後には資産価値が「相続税評価額」という低い評価方法(※※)で評価されるようになります。

なお、「役員社宅」として節税に活用する方法もあります(※※※)。

「相続税評価額」がどれくらい低いかというと、私の知人で最近首都圏のマンションを購入した人によれば、そのマンションの「相続税評価額」は購入価格の約1/3だそうです。したがって、単純計算すれば、会社の側で減価償却を受けられた上、3年後には個人の側では時価の約1/3で買い取れます。

※減価償却の意味については、『法人税とは何なのか|もっとも分かりやすい法人税入門』をご覧ください。

※※マンションの相続税評価額については、詳しくは『マンションの相続税を抑えるため必ず押さえておきたい3つのポイント』をご覧ください。

※※※役員社宅を活用した節税については『役員報酬の設定で節税効果を最も高める方法と3つのテクニック』の「2.3. 役員社宅制度を活用した福利厚生術」をご覧ください。

■会社で中古の高級車を購入し、減価償却した後で個人が買い取る

また、会社で中古の高級車を購入し、社有車として使って減価償却した後で個人で買い取る方法があります。新車ではなく中古車という点がポイントです。なぜなら中古品は新品よりも短い年数で減価償却をすることができるからです。中古車であれば1年減価償却しただけでも効果は高いです。

詳しくは『法人税の節税の全てが理解できる19のテクニック解説』の『テクニック7.減価償却資産は中古品の購入を検討する』をご覧ください。

これらの方法は、利益が出ていてキャッシュもある時にその時点のキャッシュで購入すれば良いので、将来にわたって保険料を払い続けなければならない逓増定期保険の名義変更プランよりも堅実で、リスクが低いです。しかも、減価償却は税法上当然のルールだし、個人に払い下げるのも何らおかしくないオーソドックスな方法なので、次に説明するような、「租税回避」とされて否認されてしまうことも考えにくいでしょう。

したがって、これらの方法があるのに、これらをさしおいてより不確実で否認のリスクもある逓増定期保険の名義変更を選ぶメリットは乏しいと考えます。

2.2.「租税回避」として否認されるリスクが高まる可能性がある

次に、税理士・公認会計士・弁護士等の専門家から、「名義変更プラン」は「租税回避」として税務当局に否認されるリスクがあるとの指摘があります。

つまり、会社から保険契約の名義変更を受けた個人はその直後に高額の解約返戻金を受け取れるのだから、本来ならば名義変更の時にその分まできちんと課税すべきではないか、と言われているのです。しかも、逓増定期保険の名義変更プランは、返戻率が低いタイミングで個人に名義変更をするため、会社に損失を与えてしまうことになります。上の例でも、名義変更によって会社に600万円の資産損失が発生しています。

ただし、もしも名義変更に合理的な理由があれば、租税回避にはあたらないことになります。しかし、敢えて会社に資産損失が発生するタイミングを選んで名義変更することに、合理的な理由を付けるのはきわめて難しいと考えられます。

なお、現在のところ、実際に租税回避として否認された事例はありません。それは、国税当局としては、後で述べるような脱税よりはまだ租税回避の方が軽いので、当面は黙認するという態度を取っているからだと考えられます。

しかし、次にお伝えするように、今後、脱税については網がかかり、不可能になります。そうしたら、次は租税回避への締め付けが厳しくなることが予想されます。したがって、今後は否認されるリスクがないとは断言できません。

また、保険会社の中には、営業マンや代理店に対し、「名義変更プラン」を推奨して勧誘する行為について、「租税回避」の推奨であって不適切だとして明確に禁止しているところもあります。契約時に、名義変更プランのような方法をとらないことについて誓約書を書かせる保険会社もあります。

したがって、他により手堅く否認のリスクが考えにくい方法もあることを考慮すると、逓増定期保険の名義変更プランを積極的におすすめすることはためらわれます。

2.3. 自分の支払ってない保険料まで必要経費に計上し、税金を免れるケースがある

2.3.1. 一時所得の計算上、会社の支払った保険料まで必要経費にされている

最後に、逓増定期保険の名義変更プランについて、政府・税務当局が最も問題視している点についてお伝えします。

それは、名義変更後に個人が解約返戻金を受け取り、一時所得として納税申告をする際、会社が払った保険料まで必要経費に計上することが、一部で横行しているということです。

つまり、名義変更以前に会社が支払ってきた保険料まで、最初から自分が全て支払い続けてきたことにしてしまうのです。

こうすると、必要経費が水増しされ、場合によっては一時所得の金額がゼロになります。

上の例で言えば、本来、個人の側で解約返戻金2,850万円を受け取ると一時所得の金額は

{2,375万円-(400万円+500万円×1年分-50万円)}×1/2=612.5万円

のはずなのに、

{2,375万円-(500万円×5年分-50万円)}×1/2=-87.5万円

となり、一時所得の金額がゼロ、つまり税金を1円も払わなくていいことになってしまいます。

このように、個人の側で納税申告をする際に、解約返戻金の一時所得の計算で、自分が払っていない(会社が払った)4年分の保険料2,000万円まで全部差し引いてしまうと、税金がゼロになり、非常に大きな利益を受けられることになります。

これは、4年分の保険料2,000万円を、会社の側で損金にしておきながら、個人の側でも必要経費にしてしまうので、ほとんど脱税です。しかし、これまでは多くが見過ごされてきました。なぜなら、個人が加入している保険が、もともと法人から名義変更を受けたものだという明確な証拠が残りにくいからです。

2.3.2.今後は保険料を何年分支払ったか厳密な申告が求められるようになる

しかし、今後はこれができなくなります。どういうことかというと、平成27年1月に閣議決定された「税制改正の大綱」で、平成30年度以降、保険会社に対し、法人加入した保険が個人に名義変更された場合、生命保険金等の支払調書に「保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載すること」を義務付けると定められています。

これはつまり、会社から個人への名義変更の明確な証拠が残るようになるということです。そうなると、以後は個人の側では、解約返戻金を受け取って一時所得として申告する際に、名義変更前に会社が支払った保険料を必要経費に算入することはできなくなります。

したがって、今後は、ルールに則って一時所得の金額の計算をするしかなくなります。

まとめ

逓増定期保険の名義変更プランについて、その具体的な内容と、問題とされている3つの点を説明してきました。

逓増定期保険の名義変更プランは、保険料を支払い続けられるだけのキャッシュがあり、保険料の1/2以上の営業利益を出し続けられるのであれば、会社の資産を実質的に個人に移す効果が得られます。

しかし、それらの前提が崩れてしまえばかえって損をしてしまう可能性もあるし、また、租税回避として否認されるリスクもあります。

敢えて生命保険を使わなくても、むしろ、「減価償却」や「相続税評価額」といった税法のルールに則って会社から資産を安く買い取る方法の方がより堅実だし、否認のリスクも低いのです。

したがって、逓増定期保険の名義変更プランを積極的におすすめはできません。

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出岡 大作

行政書士資格保有。保険や税金や企業関係法、民法、行政法といった分野について幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
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