出産時にかかる医療費は健康保険の対象ではなく、全額負担となってしまうことはご存知でしょうか。
出産費の相場は自然分娩の場合、地方で30万円程度、都心部で60~70万円程度と呼ばれています。
十月十日と呼ばれ、10ヵ月程度の妊娠期間が一般的ですが、その間に上記のような金額を用意するのは大きな負担となるでしょう。
そんな負担をサポートしてくれる公的保障として、出産一時金というものが存在します。
出産一時金は出産時の費用をカバーする公的保障であり、健康保険加入者であれば受給が可能です。
もう1つ重要な公的保障として、出産手当金というものも存在します。
この2つの保障は共に出産時の諸費用をカバーしてくれますが、対応するシチュエーションや受給条件に違いがあります。
今回は出産一時金と出産手当金の制度概要や申請方法、受給時の注意点を比較しつつお話ししていきます。
人生の大イベントを円滑に乗り切るため、しっかりと理解しましょう。
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1.出産育児一時金とは
まずは出産育児一時金の概要についてみていきましょう。
出産育児一時金は健康保険に加入している本人、または扶養家族が妊娠し、4か月以上の妊娠期間を経た上で出産した場合に支給されます。
早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)等、無事に出産が出来なかった場合であっても支給されるのが特徴です。
出産にかかる費用は健康保険による医療費控除の対象には含まれません。
出産育児一時金を利用することで健診から出産、出産前後の入院費などを賄うことが出来ます。
1.1.給付金額について
出産育児一時金は、どの健康保険でも1人出産につき42万円が支給されます。
これは一回の出産で複数の新生児が生まれた場合でも同一で、例えば双子の場合は、42万円×2=84万円を受け取ることが可能です。
しかし、条件によってはそれ以上の金額を受け取ることが出来たり、受給額が減少してしまう場合があります。
それぞれの条件をみていきましょう。
受取金額が多くなる条件
国民健康保険を発行している自治体や、会社で加入することになる健康保険組合によっては、出産育児一時金と共に付加給付金を受け取ることができます。
付加給付金は組合や自治体によってまちまちですが、より多くの給付金を受け取ることが出来れば、もし難産の結果、帝王切開等を行うことがあった場合でも安心ができますね。
受取金額が少なくなる条件
出産した医療機関が「産科医療補償制度」に加入していなかった場合や、妊娠期間を22週未満だった場合は、受取金額が少なくなってしまいます。
産科医療補償制度は、医療機関が出産時の出来事で新生児や母体に重篤な障害を与えた場合、その家族に対して一定の保障を行う制度です。
参考:「産科医療補償制度について」
上記の条件に該当する場合、受給額は40万8千円に下がってしまいますので注意しましょう。
1.2.申請方法について
出産育児一時金の申請方法には、
が存在します。
直接支払制度は、出産育児一時金を健康保険から直接病院に支払ってもらう方法で、最も一般的な手続き方法と言えるでしょう。
受取代理制度は、必要書類を事前に提出することで、出産育児一時金の支払いを予約しておく方法で、入院中に書類記入をしたくないという人におすすめの申請方法といえます。
手続き後、退院時に出産費用の精算が行われます。
出産費が出産育児一時金を上回った場合は差額を支払い、下回った場合は差額が指定口座に振り込まれます。
直接支払制度の場合は明細書と必要書類を医療保険者に提出する必要があり、差額の振り込みに1~2ヵ月のタイムラグがあるため注意しましょう。
また、産後申請という手段もあります。
産後申請では出産費の支払いはすべて自腹で行うこととなり、退院後に必要書類を申請先に提出すること、2週間~2ヶ月ほどで指定口座に給付金が入金されます。
クレジットカード払いが出来る医療機関では、産後申請を行った上で出産費をクレジットカードで支払えば、ポイントを取得できるというメリットがあるため、家計のキャッシュフローに余裕がある場合は検討してみても良いでしょう。
1.3.申請先に注意
出産育児一時金の申請先は、妊娠する母親の状況によって変化するので注意が必要です。
基本的に本人が加入している健康保険組合や協会に申請すれば良いのですが、注意が必要なのが、出産をきっかけに退職した場合等です。
以前の勤務先の健康保険に1年以上継続して加入していた場合、退職から6ヵ月間は、夫の加入している健康保険と以前の勤務先の健康保険を申請先として選択することができます。
夫の健康保険組合と比較して、より付加給付金が多い方を選ぶなど、選択肢が広がる為、該当する可能性がある人はしっかりと覚えておきましょう。
2.出産手当金とは
出産一時金と出産手当金の大きな違いは、受給条件とその役割です。
出産手当金は、妊娠している母親が就業者である場合に適用される給付金です。
出産育児一時金と併用が可能で、出産に備える為の給付金というよりは、出産前後の生活費を担保するものといえるでしょう。
健康保険加入者で、出産日以前42日(双子以上の多胎であれば出産日以前98日)から出産の翌日以後56日までの範囲に会社を休んだ人が対象となります。
2.1.給付金額について
1日当たりに受給できる金額は、
標準報酬月額÷30日×3分の2
で計算されます。
つまり、月々の給与が27万円の場合
- 1日あたりの標準報酬日額:33万円÷30日=9,000円(1円未満切り捨て)
- 受け取れる手当金の日額:9,000円×3分の2=6,000円(10円未満切り捨て)
- 産前は42日分:6,000円×42日分=252,000円
- 産後は56日分:6,000円×56日分=336,000円
- 252,000円+336,000円=588,000円
となり、588,000円の手当金を受け取ることが出来ます。
また、会社を休んでいたとしても有給休暇の使用などで給与が発生している場合は、出産手当金を受け取ることができないので注意しましょう。
例外として、休んだ期間分の給与額が出産手当金を下回っていた場合は、その差額を受け取ることが出来ます。
2.2.申請方法について
出産手当金の申請には「出産手当金支給申請書」が必要です。
出産手当金支給申請書は産休前に会社、または社会保険事務所で受け取ることが出来ます。
会社で用意されていない場合は自分で社会保険事務所まで取りに出向く必要があるため、身軽なうちに総務部等の担当部署に確認しておくとよいでしょう。
申請にはその他に給与や勤務実態が確認できる書類が必要です。それらと共に記入が完了した出産手当金支給申請書を健康保険組合に提出することで、申請が完了します。
まとめ
ここまで出産一時金と出産手当金の違いについて説明してきましたが、いかがでしたか?
まず出産育児一時金と出産手当金は、カバーする費用が違うことが理解できたでしょうか。
出産育児一時金は出産時にかかる検診費や入院費、分娩等にかかる費用をカバーする為の給付金です。
健康保険加入者で妊娠期間が4か月以上の人であれば、だれでも受け取ることが出来ます。
基本的には給付金は一律ですが、条件によって上下することもあるのが特徴といえます。
申請方法には様々な種類があるため、自身にはどの支払い方法が合っているか、しっかりと吟味しましょう。
出産手当金は、就業している人が対象となる給付金で、産休によって給与が受け取れない期間の生活費をカバーするものです。
給付金は月々の給与を日割りにした標準報酬日額の3分の2となります。
申請には産休前に出産手当金支給申請書を受け取る必要があるため、注意しましょう。
前述したように2つの給付金は併用が可能です。
これから生まれる新しい家族を安心して迎えるためにも、特に申請方法をしっかり理解して備えましょう。