※(2019年8月6日追記)この記事における法人保険の保険料の損金算入割合等に関する税務上の扱いに関する記載内容は、旧通達のルールを前提としております。また、紹介している法人保険の商品は、2019年2月以前に販売されていたものです。
2019年6月30日に国税庁が新たな通達を発表しており、また、保険会社各社もそれに合わせて2019年8月以降に順次、販売再開、あるいは新商品の販売を行うことになっております。詳細はお問い合わせください。また、新たな通達のルールの概要については、国税庁HPにおいて通達をご確認ください。
よく、法人保険に加入すると「節税」になると言われますが、他にも、退職金の準備や福利厚生にも有用なものです。
しかし、選び方・活用法を誤ると、逆に会社のキャッシュフローを圧迫してしまうこともありえます。そこで重要なのが、その仕組みをしっかりと理解しておくことです。
とはいえ、忙しい中、じっくりと勉強する時間をとることが難しいので、税理士の方に一任されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
この記事では、法人保険に加入することで得られるメリットと仕組みについて
の3点を中心に、重要なことを分かりやすくご説明させていただきます。
法人保険の基本中の基本について解説しておりますので、事業を立ち上げたばかりの経営者の方や、これから法人保険を活用しようとお考えの方に役立つことと思います。
1.利益が繰り延べられる仕組み
まずは、法人保険に加入する大半の方が目的としている「節税」の効果についてです。
一体、どういった仕組みなのか、順に見ていくことにしましょう。
1.1.利益が多いと法人税が高くなる
まずは法人税について、確認していきます。
法人税は会社の利益(サラリーマンでいえば給与)がいくらかによって、かかる税率が異なります。細かな規定はあるのですが、大まかに言うと、利益が400万円以下なら税率は約26%、400~800万円なら約27.6%、800万円以上なら約33.6%となっています。※こちらのページを参考にしています。
例えば、年間の売上が2,000万円の会社、ここでは仮にA株式会社としましょう。A株式会社を例にして利益の差から法人税がどれ位変わるのかを確認していくことにします。
- 利益が300万円なら → 税率約26%なので 300万円×約26% = 税金約78万円
- 利益が600万円なら → 税率約27.6%なので 600万円×約27.6% = 税金約165.6万円
- 利益が900万円なら → 税率約33.6%なので 900万円×約33.6% = 税金302.4万円
いかがでしょうか?利益900万円のケースだと利益の3割超を税金として納めなくてはならないのです。このように利益が増えれば税率も高くなり、多くの税金を支払うことになるため、経営者の方は少しでも利益を抑えて税金を少なくする方法を模索しているわけです。
1.2.保険料は損金として算入できる
法人保険に加入すると、保険料の全部または一部が損金算入されるので、経常利益からマイナスすることができます。損金とは、簡単に言えば費用のことを表します。
保険料を損金算入できる割合は、保険種類によって「全額・1/2・1/3」と異なり、それぞれ活用法が違います。詳しくは『法人保険と損金の関係|全額損金・1/2損金・1/3損金それぞれの活用法』をご覧ください。
1.3.戻ってくるお金の使い道がないと損をする!
保険料の全部または一部を損金算入できると言っても、それだけでは、単に利益を繰り延べているだけ、つまり「税金の支払いを先延ばしにしているだけ」にすぎません。
法人保険は解約すると解約返戻金が発生し、会社に多額のお金が入ってくることになります。この解約返戻金は全部または一部が益金、つまり会社の利益として扱われ、そのままだと課税の対象となってしまいます。
なので、解約返戻金の使い道を決めずに法人保険に加入してしまうと、解約返戻金を受取った単年に多額の法人税がかかるリスクが大きいので注意が必要です。
このような事態を避けるためには、保険料の使い道について決めておくか、せめてある程度のめどを付けておくことが重要です。
2.退職金を効率よく積み立てる仕組み
サラリーマンとは違い、自営業や経営者の方は退職金をご自身で積み立てていく必要があります。
退職金は老後の生活を支える大切な資産となりますので、法人保険のメリットを活用しながら効率よく積立てをしていただきたいと思います。
そこで、法人保険を使って退職金を積み立てる仕組みについて、確認していきましょう。
2.1.解約返戻金を退職金として活用する
法人保険で退職金を積み立てる時に適しているのが、解約返戻金を退職金として活用する方法です。
先ほど説明したように、保険料を支払っている間は、保険料の全部または一部が損金算入され利益が繰り延べられます。しかし、解約返戻金を受け取った場合の使い道がないと、結果として多額の税金が課税されることになります。
これを避けるには、経営者や役員のご勇退時期を予測して、その時期に解約返戻金の返戻率が最も高くなるような法人保険に加入することが有効な手段となります。
なお、退職金の他にも、大きな設備投資や新規事業等の使い道があれば、そちらに解約返戻金を充てる会社もあるでしょう。
2.2.保険料は損金算入できるので貯蓄よりもお得
法人保険では、実際に支払った保険料と解約返戻金を比べた場合、その戻り率は100%を下回ることがあります。
これでは損をしてしまうと思われるかもしれませんが、「保険料を払って損金算入して税金の負担を減らす→解約返戻金を返戻率のピーク時に受け取る→使用して損金を計上する」というトータルで考えると、会社に残るキャッシュは法人保険に加入しなかった場合より大きくできる仕組みになっているのです。
経営者の方の中には、手堅く毎月決まった金額を退職金として貯蓄されている方もいらっしゃるかもしれません。ただ銀行預金は金利もほとんど付きませんし、税的な控除を受けることも出来ません。
このようなことからも、法人保険の仕組みを上手に活用して退職金を積み立てることは、経営者の方にとってたいへん有益な方法かと思います。
2.3.セーフティー共済(中小企業倒産防止共済)は全額損金!
なお、法人保険以外にセーフティー共済(正式名称:中小企業倒産防止共済)というものがあります。
これは、保険料を全額損金に計上できるので、多くの経営者の方が活用されています。この制度をご存知でない方は、是非取り入れていただきたい優れた内容です。
セーフティー共済は、経済産業省所管の独立行政法人である中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が管理しています。
中小企業倒産防止共済のメリットは以下の通りです。
- 掛金を月額5,000円~20万円の範囲で設定、変更できる
- 年240万円、累計800万円(3年4ヶ月分)まで全額が損金に算入できる
- 40ヶ月(3年4ヶ月)以上加入していれば解約時に掛金全額が戻ってくる
- 急な資金が必要になった時に無担保・低利率での貸付が受けられる
- 取引先が倒産して債権回収が困難な場合に、払い込んだ掛金の10倍(最大8,000万円)まで共済金の貸付が受けられる
- いつでも解約でき、また再加入もできる
退職金を効率よく積み立てる仕組みについては、詳しくは『経営者の退職金を約30%多く積み立てられる5つのポイント』をご覧ください。
3.従業員の福利厚生になる仕組み
不測の事態が起きた時、経済的に助けとなってくれるのが保険という商品の最大の特徴です。このことから、従業員の方を対象として法人保険をかけておくと、それが福利厚生の機能をもたらしてくれます。
3.1.従業員の病気やケガを保障する
優秀な従業員は、会社にとって大切な財産です。従業員がいなければ会社は円滑に回りません。
そこで、手厚い福利厚生を取り入れることは、従業員の方が安心して働ける環境作りにつながります。
たとえば、従業員の方を法人で医療保険やガン保険に加入させてあげれば、それが福利厚生の一環となります。実際、2人に1人がガンになると言われている現代において、特にガン保険を福利厚生に取り入れたことで、従業員の方にたいへん喜ばれた、という経営者のお声を多くお聞きします。
3.2.従業員の退職金を準備できる
先に経営者・役員の退職金を法人保険で積み立てる方法を説明しましたが、同じような仕組みで従業員の退職金を積み立てることもできます。
従業員の退職金を準備するのに有効な保険に「養老保険」があります。
養老保険は以下のような保険です。
- 保険期間中:万一のことがあれば死亡保険金が受け取れる
- 満期時:満期保険金が受け取れる
在職中に従業員に万一があれば、遺族が死亡保険金を受け取ることができます。
そして、無事満期を迎えれば、会社が満期保険金を受け取って、従業員に退職金として渡すことができます。
ポイントは、満期時期と退職時期を合わせておく点にあります。
養老保険以外にも、中退共(正式名称:中小企業退職金共済事業本部)の活用も有効です。
養老保険・中退共のそれぞれの向き・不向きについては詳しくは『中小企業退職金共済で従業員の退職金を積み立てるメリットと注意点』をご覧ください。
3.3.従業員の家族の生活を守る
従業員を対象に養老保険に加入すると、退職金の準備と同時に、従業員の身に万一のことがあった場合、その方のご家族が死亡保険金を受け取ることができます。死亡保険金は満期保険金と同額です。
特に働き盛りの世代で一家の大黒柱となっているような従業員にとって、大変ありがたい制度ではないでしょうか。
以上が、福利厚生のための法人保険の活用法です。
ただし、福利厚生で法人保険を活用する時は、原則として従業員全員の加入が必要です(勤続年数等の条件を付けることは可能です)。また、福利厚生規程を作成する必要があります。
詳しくは「従業員の福利厚生に役立つ法人保険3種類の活用法」をご覧ください。
4.事業承継にも有効な仕組み
最後に、多くの方が見落としがちな「事業承継」について、簡単ではありますがご紹介させていただきます。
事業承継とは、経営者のご勇退にともなって経営を後継者に引き継がせることをいいます。その際、たとえば株式会社であれば、株式を譲り渡す必要があります。
株式は、大雑把に言えば会社の資産価値を表すものです。なので、株式の評価額が大きいと、それを譲り受けた後継者には、贈与税や相続税がかかるのです。
そこで、法人保険の保険料を損金に算入できる仕組みを活用することによって、会社の資産を減らして法人税を軽減することができます。
会社の預金口座にある現金については、その会社の資産評価の対象となります。ですから、法人保険に加入して会社の現金を保険会社に預けておくほうがムダな税金を支払わずに済むことになるのです。
なお、法人保険が事業承継に役立つのは、保険料の損金算入で株式評価額を引き下げられることだけではありません。詳しくは『事業承継対策に役立つ生命保険4種類の活用法』をご覧ください。
まとめ
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
法人保険の活用について「利益の繰り延べ」「退職金の積み立て」「福利厚生」の3点を中心に、どんな仕組みから会社にメリットがあるのか?についてご説明させていただきました。
法人保険というと難しいイメージをお持ちになるかもしれませんが、個人でも法人でも、保険の基本は、経済的な安心をもたらすという点では変わりません。ただし、法人保険については、税務上の扱いや注意点を理解しておかないと、会社の経営を圧迫してしまう可能性もあります。
また、法人保険以外にも、共済など優れた公の制度もあります。民間と公の両方の法人保険を組み合わせ、会社にとって最善の選択をすることが大切です。
この記事だけでは解説しきれるものではありませんので、法人保険について少しでもわからないことがあれば、私たちにお気軽にお問い合わせください。