あなたは、「中小企業倒産防止共済」(経営セーフティ共済)が節税に役立つという話を聞いたことがあると思います。
中小企業倒産防止共済は、掛金の全額が損金になりますので、節税の効果があります。また、決算対策としても有効です。また、それ以外にも、様々なメリットがあります。
しかも、注意すべき点に気を配っておきさえすれば、リスクはそれほど大きいものではありません。そのため、中小企業であれば、加入しておいて損はありません。
この記事では、中小企業倒産防止共済の加入のメリットと注意点について、似たはたらきをする「法人保険」との比較も意識しながら、分かりやすく説明します。
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保険の教科書 編集長。2級ファイナンシャルプランナー技能士。行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
はじめに
経営セーフティ共済を活用した節税方法を税理士が解説!連鎖倒産を防いで総額800万円まで全額損金算入
中小企業倒産防止共済はメインの役割は、「連鎖倒産」のリスクに備えることです。
たとえば、ある日突然、あなたの会社の大口の取引先が倒産して、売掛金が回収不能になってしまった場合を考えてみましょう。
あてにしていた売掛金が回収できず、その結果として買掛金を支払えなくなってしまったら、最悪の場合、あなたの会社が倒産してしまうおそれがあります。
これは、特に、特定の大口の取引先との関係が強い傾向のある中小企業にとってはきわめて深刻な問題と言えます。
中小企業倒産防止共済に加入して月々の掛金を支払っておけば、取引先が倒産して売掛金等の回収が困難になった場合に、共済金の貸付が受けられるというものです。
そして、それだけでなく、他にも様々なメリットがあります。
これから、加入の条件やメリットについて、順を追って説明していきます。
1.中小企業倒産防止共済に加入するメリット
中小企業倒産防止共済のメリットは以下の7つです。
- 多くの中小企業が加入できる
- 取引先が倒産して売掛金が焦げ付いたら貸付が受けられる
- 急な資金が必要になったら無担保・低利率での貸付が受けられる
- 掛金の全額を損金に算入でき、決算対策にも有効
- 掛金の額の自由度が高い
- 40ヶ月以上加入していれば解約時に掛金全額が戻ってくる
- 解約してもまた再加入できる
メリット1|多くの中小企業が加入できる
中小企業倒産防止共済は、1年以上営業していて、下の表の「資本金の額または出資の総額」、「常時使用する従業員数」のいずれかの条件を充たせば加入できます。
会社か個人事業主かは問いません。

メリット2|取引先が倒産して売掛金が焦げ付いたら共済金の貸付が受けられる
貸付金の上限は、掛金の合計、つまり積み立てた金額の最大10倍ということになっています。
積み立てられる金の上限は800万円ということになっていますので、最大8,000万円ということになっています。
いざという時に最大で掛金総額の10倍もの金額を借りられるということは、それだけで非常に心強いものです。しかも無担保・無利子で借りられます。
「倒産」の意味と倒産日の基準については、以下の表をご覧ください。

また、共済金を借りた場合の返済期間は、以下の通りです。割と余裕を持って返済できるように設定されています。

ただし、共済金を借りると、その1/10の額が取り崩されてしまいます。
たとえば8,000万円を借りたら、800万円が取り上げられてしまうことになります。
詳しくは「注意点4|取引先の倒産の場合に共済金を借りるのは「最後の最後」の手段と心得る」をお読みください。
しかし、そうは言っても、会社が取引先の巻き添えになって倒産してしまいそうになっているような時に、まとまった大金を貸してくれるようなところはなかなかありません。
中小企業倒産防止共済に加入していれば、そのような極限状態に陥った場合に、掛金全額を犠牲にしさえすれば、その10倍の額を借りられるのです。これは、年利3%で7年間かけて返済するよりも安い計算になります(興味がある方はこちらのページで計算してみてください!)。大きなメリットと言えるでしょう。
メリット3|急な資金が必要になった時に無担保・低利率での貸付が受けられる
倒産の危機の場合の「共済金」以外にも、お金を借りられる制度があります。
急に資金が必要になった場合に、年利0.9%という低い利率で、しかも担保なしで貸付が受けられるのです。
返済は1年以内に一括ですればいいことになっています。
ただし、1年以内に返済しなかった場合、年14.6%の違約金が課せられます。また、返済期限(借入をした1年後)から5ヶ月を経過しても返済がないときは、掛金から貸付金と利息と違約金の額が差し引かれることになるので、注意が必要です。
メリット4|掛金の全額を損金に算入でき、決算対策にも有効
中小企業倒産防止共済には税制上の配慮がされていて、掛金は全額が損金に算入できます。
しかも、前納と言って、向こう1年分を全額損金にできますので、決算対策にも有効です。
損金に算入できるのは年240万円・合計800万円に限られてはいます。
しかし、連鎖倒産のリスク等に備えることができると同時に、そのコストを掛金を損金に算入して税負担を軽くできるというのは、大きなメリットと言えるでしょう。
メリット5|掛金の額の自由度が高い
掛金は月5,000円~20万円(年間6万円~240万円)と、広い範囲で設定できます。

そのため、会社のキャッシュフローに悪影響を与えることは考えにくいと言えます。しかも、いざとなれば減額もできます。
メリット6|40ヶ月以上加入していれば解約時に掛金全額が戻ってくる
中小企業倒産防止共済を解約すると、「解約手当金」というものが返ってきます。これは、法人保険でいう「解約返戻金」のようなものです。
解約手当金の額は、40ヶ月以上加入していれば払い戻し率が100%になります。つまり、それまで支払った掛金の全額が戻ってくるということです。
しかも、40ヶ月未満でも、解約手当金の払い戻し率は高く設定されています。
加入期間12ヶ月未満ならば解約手当金はゼロですが、
- 12ヶ月以上ならば80%以上
- 24ヶ 月以上ならば85%以上
- 30ヶ月以上ならば90%以上
- 36ヶ月以上ならば95%以上
が戻ってきます。
【解約手当金の払い戻し率一覧】

※1「みなし解約」とは、個人事業主が亡くなった場合や、法人(会社など)を解散した場合、法人を分割(その事業のすべてを承継)した場合、個人事業のすべてを譲渡した場合に該当します。
※2「機構解約」とは、12ヶ月分以上掛金の払込みが滞った場合に、中小機構が行う解約です。
加入40ヶ月後以降という比較的早いタイミングで、解約した場合に掛金の全額が返ってくるようになるというのは大きなメリットです。
メリット7|解約してもまた再加入できる
中小企業倒産防止共済は、一旦解約しても、加入条件を充たしていさえすれば、再び加入し直すことができます。
ただし、その場合、加入後6ヶ月間は共済金の貸付を受けることができませんのでご注意ください。
2.中小企業倒産防止共済を活用する時の注意点
以上の通り、中小企業倒産防止共済には多くのメリットがあります。ただし、リスクが全くないわけではありませんので、上手に活用するには、注意すべき点があります。
具体的には、以下の4つです。
- 掛金は無理なく支払い続けられる額に設定する
- 法人保険との使い分け・併用はニーズと掛金・保険金のバランスを考える
- 解約のタイミングに気をつける
- 取引先の倒産の場合に共済金を借りるのは「最後の最後」の手段と心得る
注意点1|掛金は無理なく支払い続けられる額に設定する
中小企業倒産防止共済の掛金は月5,000 円~ 20 万円で、条件を充たせば減額することもできるので、キャッシュフローに悪影響を与えることは考えにくいと言えます。
しかし、もしも単年度の営業利益の額が掛金の額を下回ってしまうと、節税の効果は損なわれてしまいます。
やはり、加入期間を通じて無理なく支払い続けられる額にしておくに越したことはありません。
注意点2|法人保険との使い分け・併用はニーズと掛金・保険金のバランスを考える
あなたが中小企業倒産防止共済と法人保険とどちらが良いのか考えたいという場合、注意が必要です。
中小企業倒産防止共済と法人保険との最大の違いは、法人保険の場合、死亡保障があることです。
また、800万円を超える額の退職金を積み立てたいといった希望があるかも知れません。
これから中小企業倒産防止共済に加入して掛金の上限(年240 万円、累計800万円)を充たそうとすると40 ヶ月(3 年4 ヶ月)かかりますが、極端な話、法人保険ならば1年で800 万円の損金を計上することも可能です。
また、生命保険の場合、加入する年齢が早いうちほど契約条件が有利になります。
したがって、ニーズに合った法人保険への加入を優先することも一つの方法です。
あるいは、中小企業倒産防止共済の掛金を敢えて抑えておいて、法人保険に加入するという方法も考えられます。
その場合には、共済の掛金と法人保険の保険料を同時に支払うことになります。したがって、掛金の額の設定に注意が必要です。
注意点3|解約のタイミングに気をつける
中小企業倒産防止共済は、掛金総額が満額の800万円に達すれば、その後いつ解約しても全額が戻ってきます。
そして、それがまるまる雑収入として益金に算入されます。
そのため、それを相殺できる損金が計上されなければ、結局、掛金総額に税金が一気にかかってくることになります。
したがって、解約するタイミングは、掛金総額(益金)を損金で相殺できる時、たとえば、大きな赤字が出そうだったり、退職金等のまとまった支出があったりする時を選ぶことが大切です。
なお、法人保険の場合、「一部解約」をすることができます。そのため、返戻率が高い期間のうちに毎年少しずつ一部解約することによって、一気に大きな雑収入・益金が出てしまうのを避けることができます。
注意点4|取引先の倒産の場合に共済金を借りるのは「最後の最後」の手段と心得る
先ほど「メリット2|取引先が倒産して売掛金が焦げ付いたら貸付が受けられる」でお伝えしましたが、中小企業倒産防止共済は、無利子・無担保である代わりに、お金(共済金)を借りると、その1/10の額が掛金総額の中から取り崩されてしまいます。
たとえば、これは極端な話ですが、掛金が満額の800万円貯まっている状態で、取引先の倒産によって共済金8,000万円を借りることになった場合、掛金800万円が全額取り上げられてしまうということです。
返済を所定の返済期間よりも早いうちに終わらせた場合には「早期償還手当」が受け取れますが、その額は最大でも貸付を受けた額の3.05%~4.12%(取り上げられた掛金の30.5%~41.2%)にすぎません(翌月に返済した場合)。
つまり、掛金総額800万円(満額)で共済金8,000万円を借りた場合、翌月に返済できた場合でも、掛金800万円のうち約330万円、つまり、最大でも4割程度しか戻ってこないということなのです。
したがって、取引先の倒産の場合に中小企業倒産防止共済を活用するのは、掛金が大幅に目減りするのを甘受してでも自社の倒産を避けなければならない究極のケースに限られることになります。
共済金の貸付を受ける決断をするときは、倒産を避けるためにやれることは全てやって、それでも万策尽きてあとはノンバンクから借りるくらいしか手がなくなってしまったという「最後の最後」のことだと心得ておきましょう。
まとめ
中小企業倒産防止共済は、年最大240万円を損金にできて、最終的に掛金全額を取り戻すことができるので、節税に大いに役立ちます。
また、それだけでなく取引先の倒産から売掛金を回収できず倒産しそうになった場合や、急に資金が必要になった場合に貸付が受けられるなど、メリットが大きいものです。
そのため、会社を守り、発展させていく上で、強い味方になってくれるものです。したがって、加入しておくことをおすすめします。
ただし、法人保険と違って死亡保障の機能はありません。また、掛金は最大で年間240万円、合計800万円までです。
法人保険への加入を考える前に一度、中小企業倒産防止共済で何がどこまでできるのか、ということを十分に理解して、上手に活用することを考えていただきたいと思います。