中小企業の経営者・役員の方が老後の生活資金を準備する手段として、小規模企業共済があります。
小規模企業共済は、中小企業の経営者・役員の方が個人で加入し積立をするものです。
ある程度の長期間きちんと掛金を支払い続けていれば、着実に、払い込んだ額以上のお金が受け取れるようになります。
また、個人と会社の双方にとって節税になるというメリットがあります。その結果、加入せず掛金の額を単に貯蓄する場合と比べて、手持ちのお金が60%くらい増やせることもあります。
ただし、掛金を減額した場合や中途解約した場合にデメリットを被るおそれがあることも忘れてはいけません。
この記事では、小規模企業共済の5つのメリットを分かりやすく説明した上で、3つの注意点についてもお伝えします。
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保険の教科書 編集長。2級ファイナンシャルプランナー技能士。行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
はじめに|小規模企業共済とは
小規模企業共済で最大45%近くの節税をしながら退職金を準備する方法
小規模企業共済は独立行政法人:中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。なお、中小機構は他に、中小企業倒産防止共済も運営しています。
加入資格
加入資格は下図の通りです。多くの中小企業の経営者(社長・個人事業主)と役員、そして個人事業主の共同経営者をカバーしていると言えます。

※「常時使用する従業員」には家族従業員・臨時従業員・共同経営者は含まれない
掛金の設定と増額・減額
掛金は、月1,000円~7万円の間で、500円刻みで決めることができ、増額・減額も可能です。
ただし、後でお伝えしますが、掛金の減額はデメリットが大きいので、最初から払い続けられる額にしておくことが重要です。
加入手続は簡単
加入手続は以下の通り、金融機関か委託事業団体(商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、事業協同組合、青色申告会)を通じて簡単に行えます。

※1:「委託事業団体」は商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、事業協同組合、青色申告会
※2:金融機関を通じて加入手続をする場合は掛金は同時に払い込む。「委託事業団体」を通じて加入手続をする場合は掛金は改めて金融機関から払い込む
1.小規模企業共済のメリット
小規模企業共済を活用する場合のメリットは以下の5つです。
- 個人の側で所得税の節税になる
- 会社の側で最大84万円の掛金を実質的に損金算入できる
- 契約者貸付制度を利用できる
- 「36ヶ月(3年)以上」加入していれば掛金総額より多くの共済金を受け取れる
- 共済金(退職金)を受け取る時の税負担が軽い
メリット1.個人の側で所得税の節税になる
掛金は経営者・役員が個人で支払うことになりますが、所得税の計算上、掛金の全額がその年の所得から控除されます。つまり、掛金の分には所得税が課税されません。
これに対し、単に預金するだけだと、毎年、所得税が引かれた額しか貯められません。
ですので、小規模企業共済に加入して掛金として払うほうが、税金が安くなる分、得をするということです。
以下は、小規模企業共済に加入することで所得税・住民税をどれだけ節税できるかを年間所得金額ごとに表にまとめたものです。
年間所得600万の方が月額掛金7万円を積み立てると、255,600円の節税になります。
年間所得1,000万円の方が月7万円(年84万円)積み立てれば、年間367,000円の節税になります。
いずれにしても、これが20年~30年続くと、累積では大変な額を節税できます。

所得が多くなればなるほど、掛金が多くなればなるほどその効果は大きくなり、個人ができる節税対策として有効な手段といえます。
メリット2.会社の側で最大84万円の掛金を実質的に損金算入できる
会社の場合、掛金の分を役員給与に上乗せして支給すると、法人税の計算上、給与として損金に算入されます。
実質的に掛金全額を会社の損金に算入できるのと同じですので、節税の効果があります。
ただし、あくまで給与の一部ですので、社会保険料はかかります。
メリット3.お金に困ったら低利・無担保・無保証で貸付を受けられる
急遽、まとまった資金が必要になってしまった場合には担保も保証人も不要で貸付制度を利用することが出来ます。それまでに納付済みの掛金を限度に、年利1.5%で事業の運転資金、設備資金を借りることが出来ます。
また、年利0.9%で借りられる場合もあります。それは、経済環境に起因した一時的な売り上げの減少、病気または怪我で5日以上の入院をした、災害で被害に遭った、親族の介護による福祉機器の購入費や事業継承資金、新規開業や転業、廃業準備資金です。
利率は金利情勢等で変わる可能性がありますので、最新の貸付金利については「中小機構HP」確認ください。
メリット4.「36ヶ月(3年)以上」加入していれば掛金総額より多くの共済金を受け取れる
共済金(退職金)として受け取れるのは、以下の表の通り、「共済金A」「共済金B」「準共済金」の3種類です。
また、リタイア等の事由がないのに共済を「解約」した場合に受け取れる解約手当金があります。
これらのうち、何ごともなく務め上げてからリタイアする場合は「共済金B」を受け取ることになります。
〈法人の経営者・役員〉

〈個人事業主〉

以下は、掛金月額1万円で加入した場合に、「共済金A」「共済金B」「準共済金」がどのくらいまで増えて返ってくるかを表にまとめたものです。
多くの方は共済金Bの事由に該当することになるでしょう。仮に毎月1万円で契約をし、30年間掛け続けた場合、総支払額は3,600,000円になります。受取れる金額は4,211,800円となりますから、116.9%増となります。120%近くに増えて返ってくるということです。

掛金を支払う段階での節税効果と合わせると、大変お得なものと言えます。
以下、もう少し詳しく説明します。
「共済金A」「共済金B」
「共済金A」「共済金B」については、3年以上加入すると、掛金総額より多くの共済金を受け取ることができるようになります。
どれほど増えるかというのは、「基本共済金」と「付加共済金」とに分けて計算されます。
詳しい計算方法はややこしいので深入りしませんが、興味のある方はこちらをご覧ください。
たとえば、40歳ならば、月7万円で30年間積み立てると、掛金合計は25,200,000円になります。
そして、70歳の時に退任すると、29,482,600円を「共済金B」として受け取れます。約17%増えています。
また、「メリット1」でお伝えしたように、30年間で節税できる額は11,010,000円ですので、これを足すと、40,492,600円で、掛金合計25,200,000円の約61%増ということになります。
「準共済金」
「準共済金」については、基本的に掛金総額と同額が受け取れます。加入期間が長いと、掛金総額より少し多く受け取れることもあります。
「解約手当金」
解約手当金は、引退や廃業などの共済金・準共済金の受取事由がないのに、途中で「やーめた」と解約することです。
240ヶ月(20年)以上加入していれば、掛金を支払った月数に応じて、掛金合計額の100%~120%の額を受け取ることができます。
なお、加入期間が239ヶ月以下の場合は、元本割れしてしまうので注意が必要です。詳しくは「注意点1」をご覧ください。
メリット5.共済金(退職金)を受け取る時の税負担が軽い
共済金の受取方法は、原則として、一度に全額を受け取れる「一時金」方式とされています(一括受取共済金)。
しかし、法人が解散した場合の「共済金A」と、身体の障害・死亡・65歳以上で引退した場合の「共済金B」については「一時金」方式と「年金」方式(分割共済金)のどちらかを選ぶことができます。また、場合によっては「一時金」方式と「年金」方式を併用することもできます。
一括受取(一括受取共済金)、年金受取(分割共済金)の税務上の取り扱いについては以下のとおりです。

一時金方式の場合は、退職金を受け取るのと同じなので、「退職所得」として控除を受けることができます。その結果、所得税の負担が軽くなります。
また、死亡を原因として受け取る場合は、相続税を計算する時に「死亡退職金」として一定額の控除を受けられ、税金が軽くなります。
他方、年金方式の場合は、「退職所得」ではなく「雑所得」として扱われます。ただし、「公的年金等控除」を受けることができるので、結局、所得税の負担が軽くなります。
2.小規模企業共済の3つの注意点
このように、小規模企業共済は節税の効果や、お金が増える効果等のメリットが大きいので、大変おすすめな制度です。
ただし、以下の3つの注意点を知って活用していただく必要があります。
- 加入後20年経たずに「解約」すると掛金の全額が返ってこない
- 掛金を減額・掛止めをすると減額分は運用されず放置
- 事業保障の役割が乏しい
注意点1.加入後20年経たずに「解約」すると掛金の全額は返ってこない
「共済金A」「共済金B」「準共済金」については、3年以上加入していれば掛金総額以上のお金が返ってきます。
しかし、それ以外で、すなわち廃業・退職等の事情がないのに途中で共済を「やーめた」と解約した場合等に返ってくるお金(解約手当金)は、最初の1年目は1円も支払われません。
また、解約手当金が掛金の100%に達するのは240ヶ月後(20年後)です。
そのため、それより前に解約すると、掛金の全額を取り返すことができません。
注意点2.掛金の減額・掛止めをすると減額分は運用されず放置
2つ目の注意点は、掛金の払い込みが困難になった場合に「減額」「掛け止め」をすると損をするということです。
掛金の減額
まず、掛金の減額の場合です。掛金の減額は、所定の手続をとることにより可能です。
しかし、これはおすすめできません。
どういうことかというと、減額した分は、その後全く運用されないまま放置されることになります。しかも、その分を「解約手当金」として取り返そうとしても、上に書いたとおり、加入後240ヶ月目にならないうちは、掛金総額より少ない額しか受け取れません。
つまり、掛金を減額すると、減額分について解約手当金を受け取っても、そのまま積み立てておいても、どちらも損してしまうことになるのです。

掛金の掛止め
掛金の納付が困難になった時には一定期間(6ヶ月または12ヶ月)掛金の掛止めの手続きを行うことが出来ます。しかし、掛止め期間中は共済等の退職所得控除の計算のための共済契約期間には入りません。また、掛止め期間中の掛金を後から納付することも出来ません。
しかも、掛止めした分についてはそれ以降まったく運用されなくなってしまいます。ならばせめて解約できればと思っても、解約をすれば元本割れしてしまいますから、解約することも出来ません。つまり共済金が受け取れるようになるまで、金利が一円もつかず、放置するような状態になってしまうのです。

したがって、後で減額や掛止めをしなくて済むように、最初から無理のない掛金の額を設定する必要があります。
注意点3.事業保障の役割が乏しい(法人保険との比較)
経営者・役員の退職金を準備する手段としては、小規模企業共済以外に、経営者保険・法人保険を活用する方法があります。
生命保険であれば、退職金の資金を積み立てるだけでなく、役員の身に万一のことがあった時には会社が保険金を受け取り、会社の資金にできるのです。
しかし、小規模企業共済は、経営者個人の引退後の生活資金等を積み立てる機能に特化したものです。そのため、事業保障の役割は期待できません。
まとめ
小規模企業共済は、掛金を月額1,000円~7万円の間で設定することができます。そして、3年以上加入していれば払い込んだ掛金よりも多くの額を共済金として受け取れます。
その上、個人も会社も両方とも税負担を軽くすることができます。つまり、掛金支払段階では経営者・役員個人に所得税がかからない上、会社の側でも実質的に掛金の全額、年間最大84万円を会社の損金に算入したのと同じ効果を得ることができます。
しかし、加入後約20年未満で解約してしまうと掛金の全額が返ってこず、また、掛金を途中で減額すると減額分は運用されずにずっと放置されてしまいます。
そのため、掛金の額を決める段階で慎重に判断して適正な額を設定しないと、損をしてしまうおそれがあります。
また、法人保険と違って、役員の身に万一のことがあった場合の保障の役割は期待できません。
小規模企業共済は、個人も会社も節税のメリットがあり、しかも最後まで掛金を払い続けると増えて返ってきます。なので、ぜひおすすめしたいものです。ただし、以上の注意点も理解した上で、適正な掛金額で加入するようにしましょう。