事務所をかまえて仕事をしている場合は、事務所向けの火災保険に加入することになります。
事務所向けの火災保険の補償内容や組み方は、住宅向けの火災保険とはかなり異なります。
この記事では、事務所向けの火災保険とはどういったものかといった概要から、どのような補償があるか、保険料はどのくらいかなどについて解説しています。
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1.事務所向けの火災保険とは?
火災保険では、居住のみを目的とした建物(住宅物件)に対して、事務所や店舗(住宅・店舗併用向け)などに利用している建物を「一般物件」と呼び、補償内容や保険料に違いがあります。
具体的な補償の内容や保険料は後でお伝えしますが、事務所向けの火災保険は、住宅物件向けの火災保険と比べ補償内容が幅広いのが特徴です。
2.事務所向け火災保険で供えられるリスク
事務所向けの火災保険では、主に以下にあげるリスクに備えることができます。
- 事務所の建物・設備が破損するリスク
- 休業に追い込まれた場合のリスク
- その他、特約でカバーできるリスク
住宅物件向けの火災保険でも、建物や家財(家電・家具・衣類など)に対する補償が可能であるため、「事務所の建物・設備が破損するリスク」についてはそれとほぼ同じと考えてよいでしょう。
これに対して「休業に追い込まれた場合のリスク」に関する補償は、住宅物件向けの火災保険にない特徴といえます。
以下、1つずつ簡単に解説します。
2-1.事務所の建物・設備が破損するリスク
事務所の建物や設備が、火災などの災害・事故で損害を受けることがあります。
事務所向けの火災保険では、その際の建物・設備の修理費・再築費・再購入費を補償することができます。
また、補償の対象となる災害は火災だけではありません。以下に挙げる災害・事故等による損害も補償の対象となります。
火災 |
火災によって生じた損害が生じた場合
※もらい火による火災も補償対象 |
落雷 |
落雷で建物や什器などに損害が生じた場合 |
破裂または爆発 |
ガス漏れのように気体・蒸気の膨張に伴う破裂・爆発が生じた場合 |
風災・雹災(ひょうさい)・雪災 |
台風・旋風・竜巻・暴風・雹災・豪雨・雪崩などにより損害が生じた場合 |
物体の落下や飛来・衝突など |
建物の外部から物体が落下したり衝突したりして損害が発生した場合 |
水濡れ |
給排水設備の事故や他の人の戸室で生じた漏水で損害が発生した場合 |
騒擾(そうじょう)・集団行動等に伴う暴力行為 |
騒擾・集団行為・労働争議などの暴力行為・破損行為によって損害が発生した場合 |
盗難 |
盗難による損害 |
水災 |
台風・暴風雨・豪雨などによる洪水・土砂崩れが発生し被害が生じた場合 |
破損・汚損 |
不測かつ突破的な事故による損害※重い設備を壁にあてて穴をあけてしまったなど |
このなかで火災に関しては、表中に記載している通り自分で出した火災だけでなく、もらい火による火災にも対応しています。
「自分で火災を起こさないように気を付けていれば火災保険はいらないのでは?」と考える方がいるようですが、その考えは正しくありません。
また、ご覧の通り、火災保険の補償範囲は非常に幅広くなっている上に、これら補償の範囲は基本的にはカスタマイズできます。どのようなカスタマイズができるかは、保険会社などによって異なります。
補償範囲を工夫することによって保険料を節約することができます。
たとえば事務所が高台にある場合等、台風などによる洪水や土砂崩れの被害を受ける可能性が低いのであれば、対象となる水災の補償を外すというのも一つの方法です。
ただし、洪水が河川や海からかなり離れた場所まで及ぶこともあるため、ご自身の感覚だけで判断するのは危険です。
事務所のある場所が、洪水や土砂災害による被害を受ける可能性があるかは、国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」を参照して調べるようにしましょう。
2-1-1.賃貸物件の場合は貸主への損害賠償責任等の費用を補償
貸事務所では、事務所の建物自体は自身の所有ではないので、火災保険で直接的に補償が行われることはありません。
したがって、建物自体に対する補償はつけません。
ただし、事務所の借主には、解約時に事務所のスペースを元通りにして貸主に返さなければならないという「原状回復義務」があります。
ただし、万が一自分や職員が出した火災などで事務所の建物に損害を与えてしまった場合、元通りにして返すことができません。代わりにお金で損害賠償することになります。
その際の賠償額は非常に高額となることも多く、借主にとっては大きな負担になることもあるでしょう。
そこで、貸事務所では、建物に対する補償の代わりに「借家人賠償責任保険」という特約をつけます。
「借家人賠償責任保険」は、借主が火災等で建物に損害をあたえてしまった際に、その賠償責任を補償するための保険です。
賃貸では、借家人賠償責任保険付きの火災保険に加入するのが、賃貸契約を結ぶための条件となることがほとんどとなっています。
高額な賠償の場合は借主が支払えない可能性も高いので、貸主からすれば、万が一の際に確実に賠償金を確保したいということです。
また貸主に対する賠償責任がなくても、賃貸契約書に基づいて、もしくは緊急的に自分のお金で修理した場合の費用を補償する「修理費用補償特約」も付けることができます。
修理費用補償特約で補償されるのは以下のようなケースです。
- 飛び石で窓ガラスが割れた。契約書上、窓ガラスは入居者が修理することになっていたため、修理を行った。
- 泥棒が侵入し、玄関の鍵を壊されてしまった。賃貸契約ではドアは入居者が修理することになっているため、修理を行った。
2-1-2.適切に補償を受けるために「保険金額」を正確に決めることが必要
「保険金額」とは、支払われる保険金の上限額のことです。建物や設備に対する補償を適切に受けるためには、契約時に保険金額を正しく設定する必要があります。
保険金額は建物・設備それぞれで決定することが必要です。
建物は改めて同等の価値のものを再建するのに必要な金額を設定します。
一方設備については、「パソコン●万円、コピー機●万円」のように、補償対象の設備をリストアップしそれを改めて買い直すのに必要な金額をまとめ、その合計額を保険金額として設定します。
保険金額が足りていないと万が一の際に十分な金額の保険金を受け取れません。
逆に、保険金の設定が高過ぎたとしても、受け取れる保険金は実際に発生した損害の額に限られるため、保険料の無駄になってしまいます。
2-1-3.設備には補償されるものとされないものがある
設備の中には補償対象になるもの、ならないものがあるので注意してください。
補償される設備とは、業務用の設備・装置・機械・器具・工具・工具・什器・備品をはじめ、賃貸物件の場合は借主自身で設置した冷暖房・棚・流し・調理台などを指します。
一方、主な「補償されないもの」としてあげられるものが以下の通りです。
- 生活用の動産
- 自動車※自動車保険で補償
- 帳簿
- 現金・預貯金の証書(※一定額を超えたもの)
- 図面、設計書、図案、稿本
- データ
また、リース物件に関しては、補償の対象になりません。なぜなら、通常リース物件には貸主が「動産総合保険」という別の保険をつけており、リース料にその分のコストも計算に入っているためです。
2-2.休業に追い込まれた場合のリスク
火災など上記表にあげた災害や事故でしばらくの間、休業しなければならなくなることがあります。
事務所向けの火災保険では、休業の際に本来は得られるはずだった粗利を補償してくれる「休業損失補償特約」(保険会社により名称が異なる場合もある)をつけることが可能です。
休業損失補償特約は、住宅物件向けの火災保険にはない特約・補償です。
2-3.その他、特約でカバーできるリスク
事務所向けの火災保険では特約を追加することによって、さらにほかのリスクもカバーすることができるようになります。
特約の種類は保険会社によっても異なりますが、その1つ「データ損害補償特約」は火災などにより事務所で扱っているデータが失われてしまったときに、その損害を補償してくれる特約です。
事務所では大量のデータを扱っていると考えられ、それが失われてしまったときの損害額はバカにならないと想定されます。
そのため事務所を運営するのであれば、付与しておきたい特約の1つといえるでしょう。
3.保険料はどのようにして決まるか
事務所向けの火災保険では、保険料は以下にあげるような条件で決まります。
- 保険金額:支払われる保険金の上限額
- 保険期間:保険の契約期間
- 補償や特約の範囲:補償の範囲や付与する特約の種類
- 事務所の所在地:事務所がある都道府県
- 事務所の専有面積:面積が広くなるほど保険料が上がる
- 建物の耐火性能:耐火性能が高くなるほど保険料が安くなる
最後の「耐火性能」については、以下にあげる専用の「構造級別」という基準によって分類されます。
構造級別 |
条件 |
1級 |
コンクリート造の戸建住宅(耐火建築物) など |
2級 |
鉄骨造の戸建住宅(準耐火建築物)、省令準耐火建物に該当するツーバイフォー住宅など |
3級 |
木造の共同住宅、戸建住宅 など |
構造級別は、1級>2級>3級の順に耐火性能が高い(保険料が安くなる)ことを示します。
事務所の構造級別が分からない場合は、賃貸借契約書など契約時の書面で確認ください。
また、「耐火構造」「準耐火構造」など耐久性に関する専門的な基準についてくわしく知りたい方は、以下をご覧ください。
4.契約例にみる、事務所向け火災保険の保険料はどのくらい?
ここまで事務所向けの火災保険の補償内容について紹介してきましたが、保険料はどのくらいになるのでしょうか。
前項(「保険料はどのようにして決まるか」)であげた条件によって変動するため、一概にこれくらいというのは言えませんが、ここでは標準的な契約例を参考までに紹介します。
<貸事務所の契約例>
- 構造級別:1級
- 専有面積:100㎡
- 設備・什器保険金額:2,000万円
- 補償される事故と免責金額(※以下で解説):火災・落雷・破裂・爆発(免責金額0円)、風災・雹災・雪災(0円)、水濡れ・騒擾等・物体衝突等・盗難(免責金額0円)、水災(100万円)、破損汚損等(1万円)
- 借家人賠償特約:2,000万円
- 修理費用補償特約:300万円
- 契約期間:2年
- 休業損害:約定復旧期間30日間、1日あたりの休業補償額5万円
- データ損害補償特約:あり(保険金額100万円)
このなかで免責金額とは、損害額のなかで自己負担する金額を示します。
たとえば設備・什器の損害額が1,000万円なら保険金も1,000万円支払われるのが通常ですが、免責金額が100万円とされていた場合は、支払われる保険金は1,000万円-100万円=900万円となります。
免責金額を設定することにより、保険料を安くすることが可能です。
この契約例では、保険料が2年間で69,580円(設備・什器40,640円、休業損害5,220円、借家人賠償特約/修理費用6,000円、データ損害補償特約17,720円)となっています。
なおこの例では、事務所が高台にあり洪水の危険性が少ないということで、水災については他の補償と異なり100万円の免責金額を設定しています。
1つの例として参考にしてください。
5.事務所向けの火災保険は加入すべき
これまで事務所向けの火災保険の補償内容などについて解説してきました。
「事務所の火災保険は本当に必要か」と疑問に思っている方もいるかもしれませんが、結論からいうと絶対に必要です。
事務所の火災保険では、自分がいくら気を付けていても防げないもらい火や風水害などの災害も補償範囲としてカバーしています。
それらによって事務所の建物や設備が大きな損害を受けた場合、元通りに回復するのに多額の費用がかかるでしょう。
事務所で仕事ができない期間に生じる利益の損失もバカにはなりません。
また貸事務所であれば、万が一火災などで建物に損害を与えてしまったら、貸主への賠償額は非常に高額となる恐れがあります。
事務所向けの火災保険では、これらリスクを網羅してカバーすることができるのです。
まとめ
事務所向けの火災保険では、火災などの損害を受けた際に、住宅向けの火災保険同様に保険対象の建物や建物内の設備に対する補償を行います。
その他、火災などによる休業に追い込まれた期間の粗利を補償してくれる「休業損失補償特約」や、重要なデータが破損した場合のデータ損害補償特約など、自宅向けの火災保険にはない補償を付与することも可能です。