中小企業退職金共済で従業員の退職金を準備するメリット・デメリット

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この記事をお読みの経営者の方は、従業員の退職金制度を整備するのに、中小企業退職金共済の活用をお考えのことと思います。

中小企業退職金共済は、掛金が全額損金扱いなので、会社の税負担が軽くなります。

また、何事もなければ、着実に、支払った掛金よりも多くの額の退職金を準備することができます。つまり、会社が掛金を減額せずに支払い続け、従業員が一定期間勤務した後で退職するという前提の下に制度設計がされています。

しかし、逆に言えば、イレギュラーな事態に弱いということでもあります。

また、従業員の退職金準備に特化した制度なので、融通が利かない面もあります。

そこで、この記事では、中小企業退職金共済を活用するメリットとデメリットを分かりやすくお伝えします。

1.中小企業退職金共済とは

中小企業退職金共済は、「独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)」が運営している制度です。

会社が月々の掛金を支払い、それにプラスして、国が掛金の一部を助成する形で運営されています。

従業員全員加入が原則です。

「資本金・出資金額」か「常時使用従業員数」のどちらかを充たせば加入できる

加入できる中小企業の範囲は、以下の表の「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員数」のどちらかを充たしていれば、加入できます。

中退共加入条件

掛金は16通り+3通り

月々の掛金は、5,000円~3万円の範囲で、以下の16通りの中から選ぶことができます。

中退共掛金①

この16通りに加え、労働時間が週30時間未満のパートタイム従業員等については、掛金月額を以下の3通りの中から選ぶこともできます。

中退共掛金②

加入手続が簡単

加入手続は簡単です。加入手続の流れについては以下の図をご覧ください。

事業主が加入申込をすると、共済手帳の交付を受け、掛金を銀行等の金融機関から振り込みます。

申込用紙は金融機関や、委託事業主団体(商工会議所、TKC等)に用意されています。

中退共加入・払込

退職金は中退共から直接従業員に支払われる

退職金は中退共から直接従業員に支払われます。

手続は、事業主が従業員に「共済手帳」を交付し、従業員が「共済手帳」の中にある請求書を使って中退共に直接退職金を請求することになっています。

中退共請求手続

2.中小企業退職金共済のメリット・デメリット

中小企業退職金共済には以下のようなメリットがあります。

  1. 従業員が24ヶ月間勤務すれば掛金総額を上回る退職金が積み立てられる
  2. 従業員が3年6ヶ月を超えて長く勤務すればするほど退職金の額は効率よく増える
  3. 掛金全額が損金に算入され会社の税負担が軽くなる
  4. 従業員の側でも掛金に税金がかからない
  5. 退職金支払に際して会社が不利益を被るリスクが全くない
  6. 従業員は提携のホテル・レジャー施設等を割引料金で利用できる

ただし、以下のようなデメリットがあります。

  1. 後で掛金を減額しづらいので適切な掛金の額を設定する必要がある
  2. 従業員の勤続期間が平均24ヶ月未満だと損をするリスクがある
  3. 掛金を払い込んだら1円たりとも返してもらえない
  4. 懲戒解雇した従業員にも退職金が支払われる
  5. 在職中の死亡の場合に遺族の生活保障が弱い

2.1.中小企業退職金共済のメリット

中小企業退職金共済のメリットについて、中退共と並んで従業員の退職金の積立によく利用されている養老保険(福利厚生プラン)との比較を念頭に置きながらお伝えしていきます。

なお、養老保険(福利厚生プラン)については詳しくは「養老保険で従業員の退職金を準備するメリット・デメリット」をご覧ください。

メリット1|従業員が24ヶ月間勤務すれば掛金総額を上回る退職金が積み立てられる

中小企業退職金共済で積み立てる場合、従業員に支払われる退職金の額は、大雑把に言えば、退職時期に応じて、以下の通りになっています。

退職金の額

具体的に、いつ、いくら受け取れるかの詳細については、こちらをご覧ください。

ご覧のとおり、従業員が退職金を受け取れるタイミング(24ヶ月目以降)まで勤務すれば、確実に掛金総額以上の退職金を積み立てられます。

これに対し、養老保険の場合は、平成29年11月現在、ほとんどの商品が、満期まで10年とか30年間とか加入し続けても、解約返戻金が保険料総額よりも低くなってしまっています(ただし、税金を抑えられる効果を考えると、何もしないよりは養老保険で積立をした方がお得なことが多いのです)。

したがって、中小企業退職金共済は、従業員の平均の勤続年数が2年以上の会社であれば、退職金制度を整備するのに利用しやすいと言えます。

メリット2|従業員が3年6ヶ月を超えて長く勤務すればするほど退職金の額は効率よく増える

中小企業退職金共済には国による助成が行われています。

以下の表のように、新規加入の場合と掛金を増額する場合に掛金の一部を助成してもらうことができます。

中退共掛金増額

※ 同居の親族のみを雇用している場合は助成の対象外

※1 パートタイマー等で掛金月4,000円以下の加入者についてはさらに一定額を上乗せして助成

また、地方自治体によっては、中小企業退職金共済制度に加入している事業所に対して独自に補助を行っているところもあります(詳しくはこちらをご覧ください)。

そのため、中小企業退職金共済は、特に従業員の平均の勤続期間が3年6ヶ月以上の会社であれば、退職金制度を効率よく整備するのに利用しやすいと言えます。

メリット3|掛金全額が損金に算入され会社の税負担が軽くなる

中小企業退職金共済の掛金は全額が損金に算入されます(個人事業主の場合は「必要経費」になります)。

これに対し、現金・預金で積み立てようとすれば、税金を支払った後の税引後利益から積み立てなければなりません。

したがって、中小企業退職金共済に加入した方が、加入しない場合よりも税負担が軽くなります。

また、掛金は給与扱いされませんので、従業員に対して「給与所得」として所得税が課税されることもありません。

これに対し、養老保険(福利厚生プラン)の保険料(≒掛金)は、損金に算入されるのは1/2にとどまります。そのため、中小企業退職金共済に加入して掛金を支払えば、養老保険よりも会社の税負担が軽くなります。

メリット4|従業員の側でも掛金に税金がかからない

中小企業退職金共済の掛金については、会社の損金に算入されるばかりでなく、従業員の側でも給与扱いされないので税金はかかりません。

そして、退職金を受け取る時は「退職所得」と扱われ、所得税の負担が軽くなるという恩恵が受けられます。

メリット5|退職金の支払いに際して会社が不利益を被るリスクが全くない

退職金は中退共から従業員に直接支払われます。そのため、退職金の支払いによって会社には益金も損金も発生せず、会社が不利益を被るリスクが全くありません。

つまり、退職金を支払うことで赤字を招くリスクはゼロです。

これに対し、養老保険の場合は、解約返戻金を受け取ったら益金に算入され、退職金を支給したら損金に算入されるので、タイミングがずれると会社が損をするリスクがあります。

したがって、中小企業退職金共済の方が、損益計上のタイミング調整に失敗するリスクが全くない分ラクということになります。

メリット6|従業員は提携のホテル・レジャー施設等を割引料金で利用できる

加入している会社の従業員は、中小企業退職金共済と提携しているホテル、レジャー施設等を割引料金で利用できます。

退職金を効率よく積み立てるついでに、それ以外の福利厚生のサービスも提供することができるのです。

中小企業がそのような福利厚生を従業員に単独で提供することは難しいので、これは大きなメリットです。

2.2.中小企業退職金共済のデメリット

デメリット1|後で掛金を減額しづらいので適切な掛金の額を設定する必要がある

会社にとって一番大切なのはキャッシュです。「黒字倒産」という言葉があるように、業績の良し悪しに関わらず、会社にキャッシュがないために倒産してしまうこともあり得ます。

ところが、中小企業退職金共済の場合、以下に説明するように、一旦払い込んだ掛金は何があっても取り戻すことができません。しかも、加入後に掛金の減額をするのはかなり面倒です。そのため、加入する時点で適切な額を設定しないと、会社のキャッシュフローが悪化するリスクがあります。

まず、後で詳しくお伝えしますが、24ヶ月未満で退職した従業員だと、退職金は全く払われないか、あるいは掛金総額を下回る額しか支給されません。しかし、それならば会社はその分の掛金を返してもらえるか?というと、1円たりとも返してもらえません。

また、加入後に、業績の悪化等により掛金を減額するには、以下のどちらかが必要です。

  • 従業員の全員の同意を得る(署名または押印)
  • 現在の掛金を支払い続けることが「著しく困難」だと厚生労働大臣に認定してもらう

これらはいずれも面倒なので、加入後に掛金を減額するのは難しいと言わざるを得ません。

掛金を後で増額できますので、加入する時点でよくよく考えて、無理のない額を設定するしかありません。

なお、養老保険の場合は、後で「一部解約」という形で保険料(≒掛金)を減額することは可能です。従業員の承諾を得る必要ありません。また、一部解約するとその分の解約返戻金が戻ってきます。

キャッシュフローや利益の状況をみて、どちらが向いているのか見極める必要があります。

デメリット2|従業員の勤続期間が平均24ヶ月未満だと損をするリスクがある

従業員が勤続12ヶ月未満で退職した場合、その従業員には退職金は1円も支給されません。

また、12ヶ月以上24ヶ月未満だと、掛金総額を下回る額の退職金しか支給されません。

しかも、そういう場合でも、次にお伝えするように、その従業員のための掛金は1円も戻ってきません。

したがって、従業員の勤続期間が平均24ヶ月未満だと、掛金が無駄になるリスクがあるということになります。

デメリット3|掛金を払い込んだら1円たりとも返してもらえない

いったん払い込まれた掛金は、後で返してもらえません。

24ヶ月未満で退職した従業員だと、退職金は全く払われないか、あるいは掛金総額を下回る額しか支給されませんが、掛金との差額を会社に返してもらうことはできません。

なぜかというと、その分のお金は、勤続年数がより長い人の退職金を多く積み立てるための財源として活用されることになっているからです。

デメリット4|懲戒解雇した従業員にも退職金が支払われる

加入後24ヶ月目以降であれば、退職金は退職理由を問わず、必ず従業員に支給されます。したがって、自己都合退職の場合だけでなく、懲戒解雇の場合にも、退職金が支給されることになります。

懲戒解雇の場合、退職金を減額することはできますが、中退共を通して厚生労働大臣による「認定」の手続をしなければなりません。

しかも、減額分の掛金は会社に戻ってこず、没収されることになります。つまり、懲戒解雇した従業員の退職金を減額しても会社はその分を取り返すことができません。

これに対し、養老保険であれば、そういった制約はありません。「福利厚生規程」で支給条件や不支給条件を細かく定めておくことができます。そして、支給せず養老保険を解約すれば、会社は解約返戻金を受け取れます。

デメリット5|在職中の死亡の場合に遺族の生活保障が弱い

退職金制度を整備する場合、従業員の身に万一のことがあった場合に遺族に「死亡退職金」を支給するようにすることが多いです。

そして、中小企業退職金共済は、従業員が亡くなった場合には、その時点まで積み立てられた分のお金が遺族に「死亡退職金」として支払われることになります。この場合、その従業員の勤続期間が短いと、「死亡退職金」の額自体が少なくならざるを得ません。

これに対し、養老保険であれば、従業員が死亡した場合には会社は満期保険金と同額の死亡保険金を受け取れるので、遺族の生活の保障の意味合いを含めて、それまでに支払った保険料の総額をはるかに上回る額の「死亡退職金」を支給することも可能です。

したがって、中小企業退職金共済を選択する場合は、従業員に万一のことがあった場合に「死亡退職金」の額が少ないことがあるので、遺族の生活を保障してあげる機能が弱いということを押さえておく必要があります。

まとめ

中小企業退職金共済で従業員の退職金を準備する方法のメリットとデメリットについて、養老保険との比較も念頭において説明してきました。

中小企業退職金共済は、従業員の平均勤続年数が24ヶ月以上であれば、着実に退職金を積み立てていくことができます。また、他の福利厚生サービスも受けられます。

しかし、その反面、従業員本位の制度設計がされているので、掛金を一旦払い込んだら一切会社が取り戻せません。また、経営状態の悪化や、在職中の死亡など、イレギュラーな事態に弱いといえます。

それらの特色を踏まえた上で、他の手段と比較して、効率よく退職金を積み立てられる方法を選んでいただけたらと思います。

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出岡 大作

行政書士資格保有。保険や税金や法律といった分野から、自然科学の分野まで、幅広い知識を持つ。また、初めての人にも平易な言葉で分かりやすく説明する文章技術に定評がある。
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