店舗向けの火災保険(店舗総合保険など)は、一般向けの火災保険が補償する内容に加え、他にも店舗を経営していく上での様々なリスクをカバーしてもらえる保険です。
この記事では、店舗向けの火災保険について、一般の火災保険との違いを念頭に置いて、どういう意味で店舗向けなのか、どんな補償を受けられるのか、分かりやすくまとめています。
店舗経営に関わる全ての方にぜひ知っていただきたいことですので、最後までご覧になってお役立てください。
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はじめに|店舗向けの火災保険(店舗総合保険など)とは?
火災保険は、一般的に、火災、水災・風災・落雷等の災害、盗難等の事故によって建物・什器・商品に発生した損害を補償するものです。
これに対し、店舗向けの火災保険は、より広い範囲の損害もカバーすることができるものです。備えることのできるリスクは以下の3つです。
- 店舗の建物・什器・商品に損害が発生するリスク(一般の火災保険と同じ)
- お客様の身体・財産に損害を与え損害賠償責任を負うリスク
- 店舗が休業に追い込まれて売上が減少するリスク
店舗向けの火災保険の際立った特徴は、後者2つのリスクに備えられることです。
具体的な商品名として、「店舗総合保険」「事業活動総合保険」といったものが挙げられます。飲食店や小売店のほか、美容室や病院、ホテル・旅館、さらには事務所等が対象となります。
以上の3つのリスクにどのように対応できるか、お伝えしていきます。
1.店舗の建物・什器・商品に損害が発生するリスク
まず、建物・什器・商品等に損害が発生するリスクの補償です。この補償は一般の火災保険と大きな違いはありません。
以下、どのようなケースで補償を受けられ、どのような保険金が支払われるのか、1つずつ解説します。
1.1.どのようなケースで補償を受けられるか?
火災保険同様に、火災をはじめとして以下のようなケースで補償が行われます。
① |
火災 |
火災によって損害が生じた場合 |
② |
落雷 |
落雷で建物や什器などに損害が生じた場合 |
③ |
破裂または爆発 |
ガス漏れのように気体・蒸気の膨張に伴う破裂・爆発が生じた場合 |
④ |
風災・雹災(ひょうさい)・雪災 |
台風・旋風・竜巻・暴風・雹災・雪崩などにより損害が生じた場合 |
⑤ |
物体の落下や飛来・衝突など |
建物の外部から物体が落下したり衝突したりして損害が発生した場合 |
⑥ |
水濡れ |
給排水設備の事故や他の人の戸室で生じた漏水で損害が発生した場合 |
⑦ |
騒擾(そうじょう)・集団行動等に伴う暴力行為 |
騒擾・集団行為・労働争議などの暴力行為・破壊行為によって損害が発生した場合 |
⑧ |
盗難 |
盗難による損害 |
⑨ |
水災 |
台風・暴風雨・豪雨などによる洪水・土砂崩れが発生し被害が生じた場合 |
⑩ |
持ち出し家財の損害 |
店舗から持ち出された家財が、日本国内の他建物において災害による被害が生じた場合 |
ご覧のように、火災・落雷・水災・水漏れ・盗難など家庭用の火災保険と同様の補償範囲を網羅しています。これらのうち、⑥~⑩に関しては、ケースバイケースで、外すという選択肢もありだと思います。
1.2.受け取れる保険金の種類
では、損害が発生した時にどのような保険金を受け取れるのでしょうか?以下、主な保険金の種類を紹介します。なお、保険会社によって、保険金の種類や金額などに多少の差異があります。
損害保険金
損害保険金は、建物・什器・商品が焼失したり使えなくなったりした場合の損害を補償するための保険金です。保険金額は、建物・什器・商品等の評価額の総額まで設定できます。
この評価額は、特に断りがなければ「新価(再調達価額)」という基準で設定され、これをおすすめします。これは、同等の物を新たに新品で買い替えるのに必要な金額です。
これに対し、「時価」という基準があります。これは経年劣化などで品質が下がった分を計算に入れるものです。時価の場合、保険料は多少安くなりますが、その代わり、保険金額で建物を新たに再建することも、什器・商品等を新品で買い直すこともできず、火災保険の意味がなくなるため、おすすめできません。
臨時費用保険金
店舗に損害が生じた際は、損害保険金の他にも費用がかかります。たとえば、建物を再建する間に代わりの建物を借りるのにかかる経費等です。
臨時費用保険金は、こういった費用をカバーしてもらえるものです。
失火見舞費用保険金
店舗で発生した火災やガス爆発で近隣に損害を与えた場合に、近隣に支払う見舞金の額を補償してもらえるものです。
地震火災費用保険金
地震・噴火による火災で生じた店舗の建物や什器・商品などの損害を補償してもらえるものです。
修理付帯費用保険金
什器などが復旧するまでに臨時に必要となる費用を補償してもらえるものです。たとえば、代わりの器具をレンタルする費用等です。
損害防止費用
損害がそれ以上広がらないようにするため防止措置をとった場合に、その費用を補償してもらえる保険金です。
たとえば、消火活動の際に使用した消火剤の費用等がこれにあたります。
緊急処置費用保険金
建物・什器に生じた汚染物質の除去、サビ・腐食の防止などにかかる費用を補償してもらえる保険金です。
たとえば、火災などによって建物・什器に大きな損害が発生した場合、72時間以内に応急処置をするかしないかで、その後の状況に大きな差が生じてしまうと言われています。
特に、火災で建物についた悪臭は、72時間以内に対処をしないとその後もずっと残るとのことです。
「緊急処置費用保険金」があれば、応急処置の費用をまかなうことができます。
2.お客様の身体・財産に損害を与え損害賠償責任を負うリスク
これから紹介する「店舗で賠償責任が生じるリスク」「店舗が休業するリスク」の補償は、一般の火災保険では確保できません。この点が、店舗向けの火災保険の大きな特徴です。
まず「お客様の身体・財産に損害を与え損害賠償責任を負うリスク」は、以下のような場合です。
- スタッフが店内で料理の入った皿を落とし、顧客に火傷を負わせてしまった
- お店の看板が落ちて、通行人にケガを負わせてしまった
- 店で使っていたプロパンガスが爆発し、隣家の塀が焼けてしまった
- 店舗の水道を閉め忘れ、階下の店舗へ浸水し什器を故障させてしまった
- 食中毒を起こし、顧客への賠償が必要となった
これらのケースでは「賠償責任補償特約」をつけることで、その賠償金を補償してもらうことができます。
なお、1.~4.のケースは「施設賠償責任保険」、5.のケースは「PL保険(生産物賠償責任保険)」の補償対象です。
施設賠償責任保険は、施設・建物の欠陥や不備によってお客様等に損害を与えてしまった場合に、損害賠償金等を補償してくれる保険です。
PL保険(生産物賠償責任保険)は、提供したモノに欠陥があったことによってお客様等に損害を与えてしまった場合に、損害賠償金等をカバーしてくれる保険です。
3.店舗が休業に追い込まれて売上が減少するリスク
最後に、店舗が休業に追い込まれて売上が減少するリスクです。
以下のような理由で店舗が休業を強いられた場合、その間に売り上げが得られないのは大きな打撃になってしまいます。
- 火災・風災・水災などの事故・災害により損害が発生し、休業しなければならなくなった
- 食中毒を出してしまい、一定期間の営業停止処分を受けた
このうち1.については「休業損害補償補償特約」を付けることによって、休業中の粗利を補償してもらえます。
2.については、「食中毒・特定感染症・利益補償特約」などの名称(保険会社により異なる)の特約を付けることで、休業中の粗利が補償されます。
4.【注意】賃貸物件の場合は「借家人賠償責任補償特約」が必要
店舗を運営するにあたって建物が所有物件であれば、建物と、什器・設備・商品の両方に火災保険をかけることになります。
これに対し、賃貸物件の場合、火災保険の対象となるのは什器・設備・商品のみです。
なぜなら、建物の火災保険は所有者である貸主が加入するものだからです。
ただし、借主が店舗を焼失させてしまった場合、貸主に対して損害賠償をしなければなりません。なぜなら、借主には、物件を元の状態にして返却する「原状回復義務」があるからです。
この損害賠償をまかなうための費用を補償してもらうために、火災保険に「借家人賠償責任補償特約」を付けておかなければなりません。
5.保険料はどのようにして決まるか
店舗向け火災保険の保険料は、以下の条件に基づいて算出されます。
- 保険期間
- 保険金額
- 店舗の所在地
- 店舗の専有面積
- 店舗の構造
- 店舗の職種
たとえば耐火性能の高い構造の建物の保険料は非耐火構造の建物より低くなり、火気を使う飲食店の保険料は事務所等より高くなります。
保険会社によって保険料には多少の差がありますが、ただ安ければ良いというものではありません。補償内容が充実していて、万一の場合のフォローもしっかりしていて、かつ、保険料が手頃な保険会社を選ぶようにします。その辺りのことは、専門家に相談してみることをおすすめします。
まとめ
店舗向けの火災保険は、店舗の運営に関わる様々なリスクに備えることができるものです。「店舗総合保険」「事業活動総合保険」等があります。
まず、一般の火災保険と同様、火災や落雷、水災などによる事故・災害に見舞われた際に、破損した建物や什器・商品などの補償が行われます。
それに加え、お客様等に損害を与えしまった際の賠償金等の補償、災害などによって休業を強いられた間の粗利の補償等を付けることもできます。
店舗経営においてどのようなリスクがあり、それをどこまで火災保険でカバーしてもらうか、といったことをイメージした上で、信頼できる専門家に相談し、補償内容を組み立ててもらうことをおすすめします。