受託者賠償責任保険は、お客様や取引先から預かった品物を保管中に、誤って壊したり、紛失したり、盗まれたりした場合に、お客様等への損害賠償責任をカバーしてくれる保険です。
全ての業種が対象となる保険ではなく、倉庫などで品物を保管することを専門としている会社や、展示場やホテルなどで一時的にお客様の荷物をお預かりするような業務がある会社に対する保険となっています。
この記事では、受託者賠償責任保険について
- 加入できる会社
- 対象となる事故の範囲
- 保険金を受け取れる場合と受け取れない場合
- 受け取れる保険金の種類
の4点を中心に、分かりやすく解説させていただきます。対象となる業種の経営者の方にはお役に立つ内容となっておりますので、是非、最後までお付き合いください。
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私は10年以上にわたり、生命保険業界で働いております。マイホームの次に高い買い物と言われることもある保険ですから、本当に必要な商品を無駄なく加入してもらうことが大切だと考えています。お一人お一人のご希望やライフプランをおうかがいし、少しでも豊かな人生を送るお手伝いが出来ればと思っております。
1.加入できる会社
受託者賠償責任保険では、加入の対象となる事業が決まっています。対象外となる事業もあります。
そこでまず、どんな会社が対象になるかお伝えします。
1.1.対象の事業:物品の保管・管理が業務内容に含まれる会社
- 倉庫業を営む会社
- ゴルフ場、レストラン、理美容院など、お客様の荷物を預かる店舗を営む会社
- 手荷物預かり所を営む会社
- 各種委託加工業を営む会社
- 一般企業でお客様の荷物を預かり、保管・管理する場合
1.2.対象外の事業
- 整備工場や駐車場を経営する会社(→自動車管理者賠償責任保険)
- クリーニング店(→クリーニング業者賠償責任保険)
- ホテル・旅館(→旅館賠償責任保険)
ご自身の会社が受託者賠償責任保険の対象となるかどうかについては、業種だけではなく、実際の業務内容によって変わる場合もございます。
判断に迷われる場合は、保険会社もしくは代理店までお問い合わせください。
2.対象となる事故の範囲
次は受託者責任保険によって補償されるのがどんな事故か、見ていきましょう。
実際には、保険会社により補償される範囲や費用は異なりますが、こちらでは代表的な内容についてご説明いたします。
2.1.基本は「保管中の」「破損・汚損・紛失・盗難等」
受託者責任保険がカバーするのは、お客様から預かった品物を「保管中」に、「破損・汚損・紛失・盗難等」により、会社がお客様に損害賠償責任問題を負った場合です。
ただし、保険会社によっては、基本的な補償の範囲は微妙に違います。例えば、
- A保険会社:だまし取られた場合は対象、紛失した場合は対象外
- B保険会社:紛失した場合は対象、だまし取られた場合は対象外
といった具合に、A保険会社とB保険会社では真逆のパターンとなっています。受託者賠償責任保険を選ぶ際には、基本の補償となる範囲がどこまでなのかを確認して選ぶことも1つのポイントといえるでしょう。
2.2.特約で補償される場合を広げられる
上述のように、基本的な補償範囲は「保管中の」「破損・汚損・紛失・盗難等」による損害ですが、それ以外の補償を付ける特約もあります。
以下、受託者賠償責任保険の特約の例を見ていきましょう。
2.2.1.漏水による損害を補償する特約
例:水道管や消火栓、火災の時に作動するスプリンクラーなどから水漏れした
2.2.2.運送中の損害を補償する特約
例:トラックなどで荷物を運んでいる最中に、お客様の荷物を破損してしまった
2.2.3.修理や加工の際の損害を補償する特約
例:お客様からお預かりした商品を、修理中や加工中に壊してしまった
これらの特約を付加することにより、業種によって事故のリスクが高くなるケースに備えることができます。ただし、これらの特約は事業内容などによっては付加できないこともあります。
3.保険金を受け取れる場合と受け取れない場合
次に、どんな場合が補償の対象となるのかを確認していきましょう。よくあるのは以下のようなケースです。
- お客様からお預かりしていたガラス製品を壊してしまった
- 倉庫で火災が発生し、保管していた商品が全焼してしまった
- ホテルのクロークでお預かりしていたコートを紛失してしまった
- 修理のためにお預かりしていたカメラが盗難にあった
- 保管していた美術品を運び出す時に誤って汚してしまった
経営者の方は、こういった事故を発生させないよう、社員教育に力を入れたり予防策を導入したりと企業努力をされていることと思います。しかし、それでも事故のリスクをゼロにはできません。
一度事故が起きてしまうと、賠償責任だけではなく、再発防止のための費用等もかかる可能性があります。もしもの事故に対する備えが受託者賠償責任保険になります。
ただし、保険金が受け取れない場合が事細かく定められています。受託者賠償責任保険を検討する際には、必ずご確認をお願いいたします。具体例としては以下のようなものがあります。このような場合は原則として保険金が受け取れません。
- わざと起こした事故による損害
- 同居の親族に与えた損害
- 通貨・有価証券・貴金属等、価値が非常に高い物の損害
- 危険な物(放射性物質、アスベスト、爆発物等)を扱う業務から生じた事故による損害
- 土地・動植物・自動車の損害
- 荷物自身の性質・状態のせいで発生した損害
4.受け取れる保険金の種類
受託者賠償責任保険は、被害者に支払う損害賠償金はもちろん、それ以外の一定の損害も補償します。以下、説明します。
4.1.損害賠償金
まず、被害者に支払った損害賠償金の額が補償されます。
お客様からお預かりした商品を破損した場合にかかる修理費用、使用不可となってしまったことに対する損害費用、紛失した品物と同じ商品を再調達する時にかかる費用など、です。
会社がお客様に支払った見舞金などは損害賠償金ではないので補償の対象外です。
4.2.損害防止費用
事故が発生した場合、それ以上の被害拡大を防止するために発生した費用に対する保険金が支払われます。例えば火災が発生した場合に、消火活動のために使用した消化器を再購入したり、緊急に人員や器材を投入したりしてかかった費用が対象となります。
4.3.権利保全行使費用
会社が第三者から損害賠償を受けることができる場合に、その権利を保全・行使するために必要な手続きにかかる費用です。
たいへん分かりにくくて申し訳ないのですが、お客様からお預かりしている商品が盗難にあってしまい、その加害者に対して会社が賠償責任を求める時にかかった費用等のことをいいます。弁護士費用、示談交渉などのための内容証明郵便や請求書を送る郵送費用なども含まれます。
4.4.緊急措置費用
事故が発生した場合、被害拡大を防止するために費用が発生したが、実は賠償責任がなかったと判明したときに、かかった費用の中で「応急手当・護送・治療・看護・その他緊急措置にかかった費用」と、その他費用でも保険会社と書面による同意を得た費用が補償されます。
一般的に救急車やドクターヘリの搬送費用は無料ですが、そこで行われた医療行為に対しては料金が発生することもあるようです。
4.5.協力費用
損害賠償請求について保険会社が解決に向けて事故の対応をした場合、会社が保険会社に協力するためにかかった費用を支払います。
4.6.訴訟等にかかった費用
損害賠償の訴えを起こされた場合等に、裁判費用、弁護士費用、仲裁・和解または調停などにかかった費用が対象となります。
以上の費用に対する保険金の支払いについては、実際にかかった費用を全額補償してくれる場合もありますが、ある程度まで自己負担しなければならない場合があります(その自己負担の額を「免責金額」と言います)。
保険会社によって違いますので、検討にあたっては十分に確認が必要な項目になります。
まとめ
受託者賠償責任保険は、取引先やお客様からお預かりした商品や荷物の「保管中の」「破損・汚損・紛失・盗難等による損害」に対して損害賠償責任を負うことになった時の費用を補償する保険です。
水漏れによる損害や高価な貴金属などは基本的に補償の対象外ですが、特約をプラスすることにより補償の対象を拡げることができます。
万が一、賠償責任問題が発生してしまうと会社にとっては大きな損失となってしまいます。この損失は、裁判にかかる費用だけでなく、問題解決に費やす時間、その後の会社の評判にも係る重大なものになります。
こういったリスクを負う可能性のある経営者の方であれば一度ご検討されてみることをおすすめします。なお、現状としては受託者賠償責任保険は単独契約ではなく、他の様々な補償を組み合わせた契約をしている会社が多いようです。