リコール保険とは、リコール、すなわち、企業が商品の出荷後、商品の重大な欠陥が見つかって修理や交換・返金に応じる場合に、それにかかる費用を補償してもらえる保険です。
企業が消費者に商品を提供するにあたって、常にリスクとして付きまとうのがリコールです。そして、リコールに関する費用を補償するのがリコール保険なのです。
この記事では、そもそもリコールとは何かといった基本から、リコール保険の概要を簡単に解説しています。
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1.リコール保険とは?
まず、リコールとは、商品の出荷後に企業がその商品の重大な欠陥を見つけた場合に、その商品を無料で回収し、無償修理や交換・返金に応じることをさします。
リコールの具体的な例は以下の通りです。
- 自動車のブレーキの設計ミスにより、事故のリスクがあることが確認された
- エレベーターの設計ミスにより、ドアが開いたままになってしまうことがあった
- 衣料品に金属片が混入してしまった
- 食料品の賞味期限の記載などに誤りがあった
消費者庁の「消費者庁 リコール情報サイト」をみると、食料品や家具、家電、自動車など数多くの商品がリコールの対象となっていることがわかります。
リコールが必要になった場合、企業は多大なコストをかけて必要な対応をしなければなりません。
たとえば、自動車メーカーのスズキは、2019年4月に、ブレーキ・速度計の安全性能にかかわるリコールによって、約200万台のリコールを約800億円かけて行うことを発表しました。
リコール保険とは、このようなリコールにかかる費用を補償するための保険です。
2.どんな費用が補償されるか
リコール保険で補償されるのは、リコールにかかる費用全般です。
リコール費用は、ときに膨大になることがあります。たとえば、以下のような費用がかかります。
- リコールの事実をメディア(ホームページ・新聞・雑誌・テレビ・ラジオなど)で一般消費者に対し広報するのにかかる費用
- リコールについてリコール対象者に個別に通知するのにかかる通信費用(電話や郵便など)
- リコール対象製品を回収するのにかかる運送費用
- リコール対象製品の代替品の製造もしくは仕入れにかかる原価
- リコール対象製品を修理する費用
- リコール対象製品の代替品を輸送する費用
- リコール対象製品を保管・廃棄するための費用
- 回収実施などで余分にかかった人件費
- リコールのために発生した出張費や宿泊費
このようにリコールにかかる費用は多岐にわたります。これらを全て自社でまかなうとなると、膨大な額の費用となることは必然です。
リコール保険では、これら費用を全てカバーしています。ただし、タイプが2つあります。次に、それぞれについてお伝えします。
3.リコール保険の2つのタイプとその役割
タイプ1|PL保険を補完するもの(リコール保険)
リコール保険のタイプの1つめは、PL保険(生産物賠償責任保険)の補償を補完するものです。単に「リコール保険」と言う場合、このタイプをさします。
PL保険とは、被保険者となる企業が製造した商品や提供したサービスにより、消費者に対してなんらかの損害を与えてしまった場合に、損害賠償金等を補償してくれる保険です(詳しくは『PL保険とは?基本の補償内容と組み方のポイント』をご覧ください)。
これに対し、リコール保険が補償するのは、損害賠償金等の費用ではなく、リコール自体にかかる費用です。
損害が発生した場合に重要なのは、さらなる損害の拡大を防ぐために、製品を回収することです。そのためのリコール費用をカバーするのです。
【自社製品の利用が原因で消費者がケガをした場合の補償内容】
PL保険 |
損害賠償金等を補償 |
リコール保険 |
製品の回収に必要な通知費用・運送費・人件費などを補償 |
保険会社にもよりますが、PL保険の補償対象には、基本的に、リコール自体にかかる費用は含まれていないことが多いです。
もし、PL保険に加入する場合に、同時にリコールの費用を補償してもらいたい場合は、リコール保険を特約の1つとして契約する方法があります。
ただし、全てのPL保険で、リコール保険を特約として追加できるわけではありません。また、その特約の限度額では、リコールするのに足りないこともあります。
そういった場合に、PL保険に追加して、リコール保険に加入するのです。
なお、このタイプのリコール保険によって費用が補償されるのは、商品によって消費者に損害が発生した場合のみです。何も損害が発生していない段階では、補償は行われないので注意してください。
タイプ2|損害が未発生でもリコールの費用をカバーしてもらえるもの
もう1つのタイプは、消費者に損害が発生しなくても、未然に商品の欠陥に気づいてリコールを行う場合にその費用をカバーしてもらえるものです。「生産物品質保険」と呼ばれます。
ただし、対象物は主に食品に限られます。なぜなら、食品は自動車や工業製品と比べると、より不特定多数の手に渡りやすくてリコール対象者の特定が難しい上、しかも異物混入や表示の誤り等があると被害が拡大するリスクも大きいため、それを未然に防ぐ必要性が大きいからです。
生産物品質保険で補償される費用の例として、以下が挙げられます。
回収等費用
該当の商品を回収するためのかかる費用全般のことです。
新聞・テレビ・雑誌などでリコールの内容を幅広く知らせる費用、商品の輸送にかかる費用、廃棄費用などが含まれます。
喪失利益
リコールがなければ得られていたと想定される営業利益を補償します。
広告宣伝活動費用
製品の信頼回復を目的とした広告宣伝活動に要した費用を補償します
コンサルディング費用
リコールの事実確認や、調査・回収の方法、その後の信頼回復のための広告宣伝の方法などについてコンサルティングを受けるための費用などを補償します。
まとめ
企業活動を続け、消費者へ商品を提供していく限り、リコールのリスクは常につきまとうことになります。
いざ、リコールをすることになると、リコール内容を広く周知宣伝する費用から、回収費用、商品の修理費用など多くの負担が企業にのしかかります。その際の費用を補償するリコール保険は、市場で商品を販売する企業にとっては必要な保険です。
リコール保険には2つのタイプがあります。1つは、製品が原因で消費者に損害が発生した場合の賠償金等の費用を補償してくれる「PL保険」を補完するタイプで、あくまでも実際に損害が発生しなければ、リコール費用の補償を受けられません。ふつう、リコール保険というとこれをさします。
2つめは、損害の発生の有無にかかわりなく、リコールが発生した場合にリコール費用やその他必要な費用を補償してくれる「生産物品質保険」というものです。