先進医療とは?種類と治療費と保険で備える必要性

国の公的医療保険制度の一つに、先進医療というものがあります。

医療保険等の民間の保険を検討する時くらいしか登場しない言葉で、ほぼ聞き慣れないので「なんだそれ?」という感じだと思います。

そこで今回は、なかなかイメージしにくい用語「先進医療」について、どんな種類があるのか、治療費がいくらかかるか、民間の保険でカバーする必要があるか、といった点をまとめてお伝えします。

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保険の教科書 編集部

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1.先進医療とは

先進医療とは、厚生労働省がその治療効果と安全性をある程度認めた新しい治療法をさします。厚生労働大臣が定める医療施設でのみ認められています。

患者自身が希望し、かつ医師がその必要性と合理性を認めた場合に受けられます。

治療内容や必要な費用等について説明を受け、十分に理解・納得した上で同意書に署名をして治療を受けることになります。

現状、健康保険適応対象ではありませんが、将来的に健康保険の対象とすることが検討されている段階のものです。そのため、先進医療は、部分的に健康保険の適応を受けられることになっています。

すなわち、治療費のうち、健康保険の適応対象となる費目と、全額自己負担となる費目があるということです。

2.先進医療の自己負担額の算定方法

先進医療と認められた治療法は、今後、公的な医療保険の対象にするかどうかのテストをしている段階にあります。そのため、先進医療を受ける場合、「技術料」が全額自己負担となります。

技術料の額は、医療の種類によって異なるのはもちろんのこと、病院によっても異なります。

「先進医療に係る費用」以外の通常の治療と共通する「診察・検査・投薬・入院料等」の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。

すなわち、先進医療を受けると以下の支払いが生じます。

  • 技術料
  • 通常の治療と共通する部分についての一部負担金
  • 食事についての標準負担額

たとえば、総医療費が100万円で、そのうち技術料が20万円だった場合

  • 技術料20万円:全額自己負担
  • その他費用80万円(診察・検査・投薬・入院料):健康保険の適応対象

となります。

標準報酬月額28万円~50万円であれば、最終的な自己負担額は以下の通りです。

  • 先進医療の費用(技術料):20万円
  • 高額療養費制度適用後の自己負担額:80,100円+(80万円-26.7万円)×1%=85,430円
  • 合計:285,430円
※自由診療と先進医療の違い

先進医療の他に、「自由診療」というものもあります。自由診療は、厚生労働省が認めていない治療法や薬を使うもので、健康保険の適応外です。治療費の全額が自己負担となります。健康保険の対象となる治療と自由診療を併用したら、全体が自己負担になってしまいます。

【先進医療と自由診療の違いのイメージ】

3.先進医療の種類と概要

具体的な先進医療の種類と大まかな内容については、厚生労働省公式サイト「先進医療の各技術の概要」で確認できます。

2020年7月1日時点で80種類あり、先進医療A(23種類)と先進医療B(57種類)に分かれています。

先進医療Aと先進医療Bの区別は以下の通りです。

「未承認の医薬品・医療機器を使うか」と、「人体への影響が懸念されるか」の組み合わせで決まります。

先進医療A

  • 未承認の医薬品・医療機器を使わない医療技術(安全性・有効性が高い)
  • 未承認の医薬品を使うが、その医薬品による人体への影響が極めて低い医療技術

先進医療B

  • 未承認の医薬品・医療機器を使う医療技術(医薬品による人体への影響が極めて低いものは除く)
  • 未承認の医薬品・医療機器を使わないが、安全性・有効性について今後も慎重な観察や評価が必要とされる医療技術

4.先進医療の技術料の相場

次に、先進医療の技術料がどのくらいかかるかという相場をお伝えします。

以下の表は、先進医療の種類(一部)と平均費用をまとめたものです。

技術名 年間実施件数 1件あたりの平均費用(技術料) 実施医療機関数
高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術 147 ¥302,852 4
陽子線治療 1,295 ¥2,697,658 15
神経変性疾患の遺伝子診断 60 ¥20,697 5
重粒子線治療 720 ¥3,089,343 6
抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査 201 ¥37,900 12
家族性アルツハイマー病の遺伝子診断 8 ¥30,000 1
腹腔鏡下膀胱尿管逆流防止術 13 ¥260,800 2
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術
(※現在は先進医療から除外)
33,868 ¥678,497 883
技術名 年間実施件数 1件あたりの平均費用(技術料) 実施医療機関数
高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術 147 ¥302,852 4
陽子線治療 1,295 ¥2,697,658 15
神経変性疾患の遺伝子診断 60 ¥20,697 5
重粒子線治療 720 ¥3,089,343 6
抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査 201 ¥37,900 12
家族性アルツハイマー病の遺伝子診断 8 ¥30,000 1
腹腔鏡下膀胱尿管逆流防止術 13 ¥260,800 2
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術
(※現在は先進医療から除外)
33,868 ¥678,497 883

(参照元:厚生労働省「令和元年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」)

このうち、特に高額なのは「陽子線治療」・「重粒子線治療」です。いずれもがんの有効な治療法として注目されています。

一方で、低額で済むものもあります。たとえば「神経変性疾患の遺伝子診断」は、平均費用が20,697円程度です。

また、この表で紹介したものの他にも、大腸がんの治療の1つでがんの再発予防などのために行われる「術後のアスピリン経口投与療法」は、平均費用が938円ときわめて安価です(※)

※参照:厚生労働省資料「令和元年6月30日時点における先進医療Bに係る費用

5.先進医療を受ける可能性はきわめて低い!

先進医療を受ける可能性はきわめて低いと言えます。

たとえば、上で紹介したがん治療の「陽子線治療」「重粒子線治療」の年間の実施件数は合計2,015件にすぎません。

厚生労働省の資料によればがん(悪性新生物)患者の数は178.2万人なので、「陽子線治療」または「重粒子線治療」を受ける人は900人に1人くらいしかいないという計算になります。

また、先進医療全体で見ると、2018年7月1日~2019年6月30日の1年間に行われた先進医療の件数は39,178件です。

日本の総人口は約1億2,615万人(総務省統計局「人口推計-2019年(令和元年)9月報-」参照)なので、1年間で先進医療を受けるのは0.03%、つまり3,000人に1人もいなかった計算になります。

しかも、この数は今後さらに大きく減少することが予測されます。

なぜなら、上の表の最下段の「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」が2020年4月に先進医療から除外されたからです。

「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は、先進医療の年間総件数39,178件のうち33,868件と、実に約86%を占めていました。

このように、先進医療を受ける確率自体は決して高くはありません。

先進医療から外れた「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」の今後

なお、ごく最近まで先進医療の中で件数が圧倒的に多かった「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」について、簡単に説明しておきます。

これは、白内障になった場合に、眼球のレンズを性能の良いレンズに取り換えるものです。

2020年に先進医療から外され、「選定医療」というものに変わりました。現在は以下のような扱いがされるようになっています。

  • レンズの代金:全額自己負担
  • 技術料:全額自己負担
  • 手術代・入院費用:公的医療保険適用(3割負担)

ただし、選ぶレンズの種類によっては、「自由診療」という扱いになり、技術料だけでなく手術代・入院費用も含め全額が自己負担になる場合があります。事前に確認しておく必要があります。

6.先進医療をカバーする保険とその必要性

このように、先進医療の中には、治療費がきわめて高額になるものがあります。そこで、なんらかの保険でカバーできないか、そもそも保険で備えるべきか、ということが問題になります。

6.1.医療保険・がん保険の「先進医療特約」

医療保険やがん保険には、オプションとして「先進医療特約」があります。これを付けると、先進医療の技術料の実費を保障してもらえます。

医療保険の先進医療特約は全ての先進医療を対象としています。これに対し、がん保険の先進医療特約が対象とするのはがんに関する先進医療のみです。

保険会社・保険商品、年齢によって違いがありますが、保険料は月100円~300円程度です。

なぜこれほど安いかと言うと、上でお伝えしたように、先進医療を受ける可能性自体が非常に低いためです。

6.2.先進医療特約の必要性

では本当に先進医療特約は必要なのでしょうか。

これから、新規で医療保険やがん保険に加入する場合は先進医療特約を付けることをおすすめします。なぜなら、先進医療を受ける確率自体が低いとしても、100円~300円程度の低額な保険料で、いざ先進医療を受けるとなれば、最大数百万円という大きな額をカバーしてもらえるからです。

これに対し、現在加入している医療保険やがん保険に先進医療特約がない場合、先進医療特約を付けるためだけに保険自体を掛け替えることはおすすめできません。なぜなら、年齢が上がってから加入し直すと保険料が大幅に上がることが多いからです。

先進医療を受ける確率自体がきわめて低いことからすれば、その確率のためだけに加入するのはおすすめできません。

特に、医療保険はそもそも優先順位が低い保険ですので、先進医療特約のみを目的として見直しを行うのは、とりわけ慎重に考えていただきたいと思います。

まとめ

先進医療は、厚生労働省がその治療効果と安全性をある程度認めている新しい治療法です。

先進医療にかかる費用のうち、技術料は国の公的医療保険の対象外で、自己負担になります。これに対し、通常の治療と共通する「診察・検査・投薬・入院料等」の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。

先進医療の多くは、ごく限られた医療機関でしか受けることができず、受ける可能性もきわめて低くなっています。技術料の金額は様々ですが、中にはがん治療の「重粒子線治療」「陽子線治療」のように、数百万円になるものがあります。

先進医療に備える保険としては、医療保険やがん保険の「先進医療特約」があります。これは、先進医療を受ける可能性がきわめて低いことを反映して、保険料が月100円~300円程度と低額に設定されています。

新規で保険に加入する場合、コストパフォーマンスが高いので付けることをおすすめしますが、現在保険に加入している場合、先進医療特約のみを目的として掛け替えることはおすすめできません。


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