火災保険を契約する際に「免責」という言葉に出くわすことがあります。「免責事由」と「免責金額」の2種類です。
免責とは、保険会社が保険金の支払いを免れることです。逆に言えば、損害が発生しても保険金を受け取れないことを言います。ただ、「免責事由」と「免責金額」は意味合いが全く違います。
今回は、火災保険における「免責事由」「免責金額」のそれぞれの意味を紹介するとともに、火災保険を契約する際に多くの方が迷う「免責金額」の設定の仕方について解説しています。
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1.火災保険の「免責事由」とは?
火災保険で使われる「免責事由」とは、建物や家財に損害が発生しても保険金を支払ってもらえない場合のことです。
損害が発生したとしても、免責事由が1つでもあれば、保険金は1円も受け取れません。
火災保険の免責事由としてよく挙げられる例は、以下のとおりです。
- 損害が契約者・被保険者の故意や故意と同視されるような重大な過失によって生じた場合(契約者自ら放火した場合、寝たばこによる火災の場合など。)
- 損害が契約者・被保険者の法令違反の行為が原因で発生した場合
- 損害が戦争・核燃料物質により発生した場合
- 損害が建物や家財の経年劣化により生じた場合
この中でも、特に要注意なのが最後の「損害が建物や家財の経年劣化により生じた場合」です。なぜなら、経年劣化と自然災害が重なるケースが極めて多いからです。
たとえば、屋根がもともと経年劣化していたところに台風の暴風雨に襲われて破損し、雨漏りが起きたケースです。
こういう場合、理屈としては、損害を引き起こした直接の原因が自然災害であれば、火災保険の補償対象となります。なぜなら、経年劣化は、火災保険を契約する時に、築年数等によって考慮ずみだからです。
ただし、現実には、直接の原因が自然災害であることを証明することは意外に難しいものです。
損害の原因となる自然災害が発生した日時・原因を可能な限り特定するには、気象庁HP『過去の気象データ検索』のコーナーで、当日の時間ごとの天気・風速・降水量等の記録を細かく確認することをおすすめします。
2.火災保険の「免責金額」とは?
次に、「免責金額」とは、補償の対象となるような損害が発生した際に、契約者が自己負担する金額のことをさします。
たとえば免責金額が10万円と設定されている場合、損害額が50万円ならば、契約者はそのうちの10万円を自己負担しなければならず、受け取れる保険金の額は
50万円-10万円=40万円
です。
一方、免責金額10万円を下回る場合は、損害保険金は1円も受け取れません。
2-1.免責金額を設定することで保険料を抑えることができる
免責金額が設定される理由は、保険料を抑えることができるからです。
損害保険会社の立場からすると、免責金額を下回る少額の保険金の請求件数が減るので、人件費等の経費を削減でき、保険料を抑えることができます。
また、加入者からすると、損害額が免責金額を下回る場合の補償をカットすることで、保険料を抑えることができます。
免責金額はどのように設定すればよいかは後ほどお伝えします。
2-2.「損害額20万円以上型」との違いは?
火災保険では免責金額を定める方式のほかに、「損害額が20万円以上の場合に補償を行う(「損害額20万円以上型」)」というパターンがあります。これはまれに古い火災保険契約に見られるものです。
「損害額20万円以上型」は、損害額が20万円未満であれば保険金を1円も受け取れない代わり、20万円以上であれば全額受け取れるということです。
以下、損害額ごとに、「損害額20万円以上型」と免責金額10万円の場合のそれぞれで保険金をいくら受け取れるか比較します。
損害額 |
免責金額10万円の場合に支払われる保険金 |
「損害額20万円以上型」の場合に支払われる保険金 |
5万円 |
0円 |
0円 |
15万円 |
5万円
(15万円-免責金額10万円) |
0円 |
30万円 |
20万円
(30万円-免責金額10万円) |
30万円 |
「損害額20万円以上型」は損害額が20万円未満だと1円も受け取れないのに、20万円を1円でも上回ると全額受け取れるというもので、合理性に疑問があります。
2-3.免責金額をどう設定するかは保険会社・保険商品によって異なる
免責金額を設定できるか、設定できるとすればどういった金額の選択肢があるかは、保険会社によって差があります。
ある損保会社では免責金額の選択肢が「1万円、2万円、3万円、5万円、10万円」となっているのに対し、別の損保会社では「5千円、3万円、5万円」となっていたりします。
免責金額を大きくすれば、その分、設定保険料を安くすることができます。
2-3-1.免責金額ごとの保険料例
免責金額を高くすることでどのくらい保険料が変わるでしょうか。A損保の火災保険の契約例(2019年6月時点)を参考にみてみましょう。
契約条件を以下のように設定します。
- 保険対象の概要:平地の住宅街のコンクリート造一戸建て(T構造)
- 保険対象の所在地:東京都
- 建物評価額:3,000万円(新価)
- 床面積:100㎡
- 家財評価額:300万円
- 補償される事故:火災、風災、雹(ひょう)災、雪災、水ぬれ、外部からの物体落下等、騒擾(そうじょう)、盗難、水災、破損・汚損
- 契約期間:10年
- 支払方法:長期一括払い(10年分の一括払い)
この条件で、免責金額ごとの保険料は以下のとおりです。
- 免責金額なし:286,450円(1年あたり28,645円)
- 免責金額1万円:278,280円(1年あたり27,828円)
- 免責金額3万円:263,200円(1年あたり26,320円)
- 免責金額5万円:250,970円(1年あたり25,097円)
ご覧のとおり、免責金額なしと免責金額5万円の場合で、35,480円(1年あたり3,548円)の保険料の差があります。ちりも積もれば山となると言います。免責金額を設定して保険料を節約するのは有効な方法でしょう。
2-4.免責金額はどのように設定すべき?
では、免責金額はどのように設定すべきでしょうか。
まず、前提として、火災保険の補償の種類は、ある程度自分でカスタマイズできます。そこで保険料をできるだけ抑えるため、必要な補償を選び、逆に不要な補償を外すことが重要です。
一口に火災保険と言っても、火災だけでなく以下に挙げるような場合も補償対象とすることができます。
【火災保険の主な補償範囲】
- 落雷:落雷による損害の補償。例:家の近くに雷が落ちて家電製品が故障した
- 風災:台風など風による損害の補償。例:台風の強い風にあおられて屋根が破損した
- 水災:台風・集中豪雨など水が原因の損害に対する補償例:台風で近くの川が氾濫し、床上浸水をおこした
- 雹災(ひょうさい)・雪災(せつさい):雹や雪による被害。例:大雪が降り、降り積もった雪のせいで屋根が破損した
- 盗難
- 破損・汚損
このうち、特に要注意なのは「水災」です。これは床上浸水など、水害が原因で建物や家財に損害が発生する場合です。間違いやすいのですが、台風の暴風雨等は「水災」ではなく「風災」にあたります。
たとえば、高台にある家に住んでいる方や、マンションの高層階に住んでいる方は、水害による床上浸水のおそれはほとんどないので、「水災」の補償を外してもよいでしょう。水害の発生のリスクがどの程度かは、自治体のホームページなどで公開されているハザードマップをご覧ください。
以上を踏まえて、免責金額の設定の仕方をお伝えします。以下の2つのポイントが重要です。
- 収入と貯蓄額を考慮に入れる
- 補償の内容ごとに免責金額を設定できる保険を選ぶ
1つずつ解説します。
2-4-1.収入と貯蓄額を考慮に入れる
まず、損害が発生した時に自力でどの程度までカバーできるかです。
一般的に、貯蓄がある程度あって、損害があっても5~10万円くらいなら自腹を切れるのであれば、免責金額を高く設定して保険料を抑えることが考えられます。
ただし、注意が必要なのは、火災保険の保険期間は5年~10年と長期に設定することが多くなっています。今のところ収入と貯蓄が十分にあってそれが余裕だと思っても、後になって子どもの教育費の負担が一気に増え経済的余裕がなくなるといったことも考えられるでしょう。
また、貯蓄がほとんどなく、損害が発生したときの出費が少額でも困る可能性があるのであれば、免責金額をせいぜい5万円程度に抑え、あまり高く設定しない方が無難でしょう。
このあたりは保険会社・代理店の担当者と相談して決めても良いかもしれません。
2-4-2.補償の内容ごとに免責金額を設定できる保険を選ぶ
まだ一般的とまでは言えませんが、一部の損害保険会社では、補償の内容ごとに免責金額を細かく設定できる火災保険が登場しています。
そのような火災保険を選び、必要性の高い補償は免責金額を低くし、必要性の乏しい補償は免責金額を高く設定する方法もあります。
まとめ
火災保険における「免責」「免責事由」「免責金額」の2種類があり、これらは意味が全く違います。
「免責事由」とは、損害が発生しても保険金を支払ってもらえない場合のことです。たとえば、損害の発生原因が経年劣化など、補償対象となる自然災害等とは関係ない事由だったケース等です。
これに対し、「免責金額」とは、実際の損害額のうち一定額について保険金を受け取れないよう設定するものです。この場合、免責金額は自己負担となります。
免責金額を大きく設定することで、保険料を抑えることができます。ご自身の経済状態を考慮し、「この程度の額までであれば自己負担できる」という無理のない額を設定しましょう。
また、損害保険会社によっては、補償内容ごとに免責金額を設定できる火災保険もあります。より必要な補償については免責金額を小さく設定して、必要性の乏しい補償については免責金額を高くするなど、ご自身の環境にあわせてカスタマイズするとよいでしょう。