「火災保険でリフォームができる」というウソの情報で勧誘を行う詐欺業者が存在するようです。しかし、断言しますが、リフォームのために火災保険金を受け取ることはできません。
この記事では、その理由を説明した上で、火災保険で保険金を受け取れるのはどんな場合で、どんな補償を受けられるのか解説しています。
火災保険は万が一の際に役立つ保険ではありますが、リフォームはできません。正しい知識をおぼえておいてウソの情報に踊らされないようにしましょう。
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1.そもそも火災保険でできるのは「修理」であり、「リフォーム」ではない
まず前提としておさえておく必要があるのは、火災保険では「リフォーム」ができないということです。火災保険で保険金がおりるのは、火災などで自宅が損壊し、「再築」や「修理」が必要な場合です。
リフォームと、再築・修理とでは根本的に違います。
リフォームとは、住宅の見栄えをよくしたり住みやすくしたりといった改装・改修工事をさします。「ゼロ」を「プラス」の状態に改良することです。
これに対し、再築・修理とは、何らかの原因で住宅の一部が破損した際に、それを直すことです。「マイナス」を「ゼロ」の状態に戻すことです。
- リフォーム:「ゼロ」⇒「プラス」
- 再築・修理:「マイナス」⇒「ゼロ」
この前提を覚えておきましょう。「部屋の壁紙を変えたい」「システムキッチンにしたい」といった理由で、火災保険の保険金は請求できません。
1-1.火災保険で「修理」が可能な補償の範囲
それでは火災保険で修理ができるのはどんな場合でしょうか。具体的には、以下の表にあてはまる災害等によって自宅に破損が生じた場合です。
【火災保険の補償範囲】
火災 |
失火・もらい火によって生じた損害に対する補償
例:火災で家が焼けてしまった、など |
落雷 |
落雷による損害の補償
例:
家の近くに雷が落ちて家電製品が故障した
屋根の一部が破損した |
破裂・爆発 |
破裂・爆発による損害の補償
例:ガス漏れで爆発し住宅に損害が生じた |
風災・雹災(ひょうさい)
雪災(せつさい) |
風・雹・雪による損害に対する補償
例:台風による強風で窓ガラスが割れた |
水濡れ |
漏水をはじめとした水漏れによる損害に対する補償
例:
賃貸住宅で上の階から水漏れし、壁紙がはがれた |
水災 |
台風・集中豪雨など水が原因の損害に対する補償
例:
台風で近くの川が氾濫し、床上浸水をおこし、床がダメになった。 |
盗難 |
盗難被害に対する補償
例:
家に泥棒が入り、現金や家電製品などが盗まれた
泥棒が入った際に、自宅の窓ガラスをわった |
騒擾(そうじょう)・集団行為などにともなう暴力行為 |
騒擾・集団行為を原因とした暴力や破壊行為による損害を補償
例:デモによる暴動で家が壊された |
建物外部からの物体の落下・飛来・衝突 |
何がしかの物体が、建物の外からぶつかってきたときの損害を補償
例:家に自動車が突っ込んできた |
破損等 |
不測かつ突発的な事故による損害を補償
例:
重い家具を室内ではこんでいるときに、あやまって壁にぶつけて穴をあけてしまった。 |
これらのことが原因で自宅の損壊で修理が必要な際に、火災保険の保険金が支払われます。
中でも特に日常で発生しやすいのは「破損等」でしょう。A損保の火災保険では、平成25年度~平成27年度支払実績のうち「破損等」等の割合が半数近い47%だったとのことです。
「破損等」は上記表に示した通り、日常生活のなかで起こりうる「うっかり事故」による自宅の破損や損壊を補償します。
上の表では、家具を壁にぶつけて壁が破損してしまった場合の例を紹介しましたが、その他にも以下のような場合にも補償を受けられます。
- 子どもが家の中でボールを使って遊んでいたら、自宅のガラスを割ってしまった
- 重い家具が倒れて、床がへこんでしまった。
- テレビの位置をずらそうと運んでいたら、誤って落とし画面を割ってしまった。
- 食器棚から無理やり食器を取り出そうとして、数十枚の皿を一気に割ってしまった。
なお「破損等」の補償は外すこともでき、付いていない可能性もあります。気になるのであれば、お手元の証券を確認してみてください。
1-2.明らかに経年劣化が原因の損壊であれば保険金はおりない
火災保険から保険金が受け取れるのは、建物・家財の損害が、保険の補償対象となる火災や自然災害等によって生じた場合です。
また、もともと経年劣化で建物が傷んでいたとしても、自然災害等が直接の原因となって破損したのであれば、保険金を受け取れます。なぜなら、保険料を算定する際に築年数等によって経年劣化を計算に入れているからです。
ただし、明らかに経年劣化のみが原因とみなされる場合には、保険金はおりませんので注意して下さい。
1-3.修理のための保険金請求はできるだけ早くする!
火災保険の保険金の請求期限は、損害が発生してから3年です。
ただし、損害保険の調査業務担当者によれば、仮に3年以内であっても損害から相当の時間が経過していれば、その損害と災害等との因果関係が立証困難となり、結果的に保険金が支払われないこともあるとのことです。
このように自然災害等による破損であったとしても、時間が経ちすぎると保険金を受け取れなくなる可能性があるので注意しましょう。災害や事故で住宅の修理が必要になったら、できるだけ速やかに保険金請求をすべきです。
なおその際には、日時・原因を可能な限り特定するべく、気象庁HP『過去の気象データ検索』のコーナで、周辺地域の当日の時間ごとの天気・風速・降水量等のデータを細かく確認することをおすすめします。
2.火災保険でいくら保険金が受け取れる?
火災保険で気になるのは、結局いくらぐらい保険金が受け取れるかでしょう。ポイントは以下の2つです。
以下、1つずつ解説します。
2-1.新価と時価
火災保険では、保険金の算出方法として「新価」「時価」の2種類があり契約時にいずれかを選ぶことができ、一般的には「新価」が選択されます。
「新価」とは保険の対象物を改めて新品購入したり修理したりするのに必要な額のことで、「時価」とは新価から経年劣化により下がった価値の分が差し引かれた金額のことです。
時価を選ぶと保険料は若干安くなりますが、おすすめできません。なぜなら、万が一の場合に保険金だけでは修理・再購入ができず、困ったときに頼りたい保険の価値が半減してしまうからです。
逆に言えば、新価が選択されていれば、自宅を修理するのに必要な実費が保険金として受け取れるということです。
2-2.免責金額
受け取れる保険金について、もう1つ注意が必要なのが「免責金額」と呼ばれる自己負担額についてです。
免責金額とは、損害額のなかでも自己負担する額のことで、金額の設定は保険会社によって異なります。
たとえば免責金額が5万円に設定されていて、修理に必要とされる損害額が30万円だったとしたら、受け取れる保険金は「30万円-5万円=25万円」となります。
この免責金額は加入者にも損害保険会社にもメリットがあります。
加入者の立場からすると免責金額が高くなるほど保険料が安くなります。また、保険会社は少額の保険金請求を減らして事務処理のコストを抑えられます。
なお、古い火災保険の契約では、免責金額ではなく「修理金額が20万円以上の場合に保険金を支払う」といった条件が指定されている可能性があります。この場合、修理金額が20万円未満であれば保険金は支払われません。一方で修理金額が20万円以上となった場合には、免責金額と異なり自己負担はなく、満額を受け取ることが可能です。19万円だと1円も受け取れませんが、21万円だと21万円受け取れるということです。
いずれにしろ、どのような条件が設定されているかは保険商品ごとに異なるため、保険会社の公式サイトなどで確認してください。
3.火災保険で保険金を請求する方法
火災保険の保険金請求は、契約者自身で行います。
この手続きは、保険会社からアドバイスを受けながら行えばそれほど難しくありません。
ここでは、どんな手順で保険金を請求するのか簡単に紹介します。
3-1.損害があった旨を保険会社へ連絡する
火災や風災など、補償範囲に該当する内容で損害が発生した場合は、電話などで保険会社へ連絡して、その旨を報告します。
そのとき、保険会社からよく聞かれる主な内容は以下のとおりです。
- 契約者名
- 保険証券番号
- 損害が発生した日時・状況など(分かる範囲で)
この際、保険会社側の担当者から、請求にあたり必要な書類について指示があります。不明点があればこの時点で聞いておきましょう。
3-2.必要な書類の提出
保険会社の指示に従って、請求に必要な書類・資料を準備して提出します。
書類や資料の種類は保険会社によって少し異なる可能性がありますが、だいたい以下にあげる書類・資料が必要となります。
- 保険金請求書:保険会社が用意する書類に記入
- 罹災証明書:罹災した事実や被害の内容を証明する書類。管轄の消防署・消防出張所で発行してもらえる
【罹災証明書の書式】
- 写真:被害の状況を撮影したもの(画像データも可)
- 修理見積書(報告書):修理業者から取り寄せたもの
3-3.③保険会社が現地調査を実施
保険会社が契約者のお宅へ損害鑑定人を派遣し、申請された請求内容が適切か調査します。損害の原因が経年劣化なのか自然災害などなのか等をここで調べます。
鑑定人は現地調査の結果をまとめて、保険会社へ報告します。
もし、詐欺業者にそそのかされて申請したとしても、この現地調査ではじかれる可能性が高いです。
損害保険の調査業務担当者によれば、いつ、どのような災害でその部分が被害を受けたかの立証が難しいようなら保険金の支払いが行われない可能性が高いとのことです。
当然のことではありますが、保険会社が保険金を支払う場合は、しっかりした根拠が求められます。
3-4.保険金支払い可否の決定
現地調査の結果に基づき、保険会社が審査を行います。この審査に通れば、保険金が支払われることになります。
3-5.修理の実施
保険金を受け取れたら、その保険金で修理を行います。
なお修理を実施するのは、保険金を受け取った後にすることが推奨されます。なぜなら、請求した通りの額を満額受け取れるとは限らないからです。
保険金の受取の前に修理を行ってしまうと、後から保険金が足りずに困ることもあります。
4.火災保険で自己負担なしでリフォームできるという詐欺に注意
火災保険を悪用した詐欺業者が増えているので注意して下さい。詐欺業者は「火災保険の保険金だけでリフォームができる」などと甘い言葉で勧誘し、リフォーム工事の契約を結ばせようとしてきます。
独立行政法人 国民生活センターの報道発表資料(平成30年9月6日)によれば、火災保険に関する詐欺業者に勧誘を受けたとの相談件数は、2008年度と比較すると2017年度は30倍以上に増加しているとのことです。
ここ数年だけでも、以下のように増加傾向にあります。
- 2014年:663件
- 2015年:817件
- 2016年:1,081年
- 2017年:1,177件
もし詐欺業者の勧誘を受けて契約した場合、後で保険金を受け取れないことが分かっても「キャンセル料」「請求サポート費用」と称して高額な代金を請求される可能性があります。
最初に述べたとおり、火災保険でリフォームはできませんし、自宅の修理についても正当な理由がなければ保険金を受け取ることはできません。
また、仮に受け取れたとしても、期待した通りの額にならない可能性が高いので注意しましょう。
なお詐欺業者の具体的な手口や被害の事例などは「火災保険を悪用した詐欺が増加中?手口は?どう気を付ける?」でくわしく紹介しているので、あわせてご覧ください。
4-1.不安なときは、国民生活センターに相談しよう
詐欺業者からしつこく勧誘を受けたり、騙されてしまったりした場合には、消費生活センターへ相談してみましょう。
万が一結んでしまっていたとしても、消費生活センターのアドバイスに従ってクーリングオフしたり解約出来たりする可能性もあります。
消費者ホットライン(「電話番号:188(いやや!)」)に電話すれば、お近くの国民生活センターの連絡先を教えてもらえます。
まとめ
火災保険で補償されるのは住宅の修理や再建などのための費用であり、リフォーム費用ではりありません。
リフォームの一環として住宅の修理を行うということであれば、その部分の費用を補償してもらえる可能性がないわけではありませんが、改築・改装という意味でのリフォームは火災保険では補償されません。
「火災保険でリフォームができる」と言ってリフォーム工事の契約を結ばせようとしてくる詐欺業者がいるようなので、十分注意して下さい。