万が一、自転車で事故を起こし歩行者にケガをさせてしまった場合、その賠償額は非常に高額になる恐れがあります。
そのため自転車保険の義務化の動きが全国的に広がっており、自転車保険に加入する人も増えていますが、もともと加入している火災保険が自転車保険代わりになることをご存知でしたでしょうか。
この記事では、自転車事故を起こした際の火災保険による補償の内容や、自転車保険との違い、自転車が盗難に遭った場合の補償といったことについてお伝えします。
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1.自転車事故が社会問題化している
健康意識の高まりから自転車で通勤する「ツーキニスト」が増加したり、自転車で街中をぶらりと散歩する「ポタリング」が流行したりなど、自転車を活用する人が増えています。
しかし、日本は自転車専用レーンが普及していなかったり、路上駐車する車が多かったりなど、自転車にとって走りやすい環境が揃っているとは言えません。そんな中で、走行中の自転車が歩行者にぶつかり死傷させてしまう事故が増えています。
自転車の安全な利用を推進する「自転車の安全利用促進委員会」HPの『自転車事故の実態』によると、自転車対歩行者の事故の件数は、2000年は1,827件だったのに対し、2010年では約1.5倍の2,760件に増えています。
また、より最近の統計として、警察庁『令和元年における交通死亡事故の特徴等について』(P27)によると、2017年の自転車対歩行者の事故の数は2,550件となっています。
1-1.自転車事故による賠償が高額となる事例も
自転車の歩行者に対する事故で覚えておきたいのは、その賠償額が高額になる可能性があることです。
兵庫県がまとめた『自転車事故による高額賠償事例』では、以下の事例が紹介されています。
東京地裁 平成25年3月の例【賠償額:2,174万円】
歩行者も通行可能なサイクリングロードで、自転車で出勤中の男性会社員が散歩中の77歳男性と衝突し死亡させてしまった。
神戸地裁 平成25年7月の例【賠償額9,520万円】
小学5年生の少年が自転車で坂道を下っていたところ、歩行中の62歳女性と衝突。女性は意識不明となった。
東京地裁 平成26年1月の例【賠償額4,746万円】
46歳男性が自転車で信号無視をして、横断歩道を渡っていた75歳女性と衝突。相手女性が死亡した。
このように、自転車対歩行者の事故では、賠償額がきわめて高額になることがあります。
ところが、自転車保険の加入率はまだ低く、au損保が2019年4月に公開した「自転車保険加入率調査」によれば56%にとどまっています。
2.火災保険で自転車事故の賠償に備えられる?
ただし、もし自転車保険に加入していなくても、火災保険等で「個人賠償責任保険」を特約として付けていれば、自転車で歩行者に衝突して死傷させてしまう事故にも備えることができます。
個人賠償責任保険とは、名前の通り相手への賠償が必要になったときに賠償金等の費用を補償してもらえる保険です。
自転車による事故だけでなく、以下のようなケースで損害賠償責任を負った時に補償を受けることができます。
- 散歩中の飼い犬が歩行者に噛みついてケガをさせてしまった
- デパートで買い物しているときに、カバンが商品の花瓶にあたって壊してしまった
- 洗濯機のホースが外れ、アパートの階下の部屋を水浸しにしてしまった
- 子どもがキャッチボールをしていた際に、ボールが他人の家の窓にあたり割ってしまった
補償額は、保険会社によりますが数億円~無制限から選ぶことができ、自転車事故による高額賠償への備えともなります。もちろん自転車事故を起こさないことが一番重要ですが、火災保険等の個人賠償責任保険の特約があれば、万が一の場合に対応できます。
なお、個人賠償責任保険は、火災保険だけでなく自動車保険にも付けることができます。
2-1.本人だけでなく家族も補償の範囲に
一般的な個人賠償責任保険の補償対象は、本人だけではありません。以下の人も補償の対象となります。
- 配偶者
- 被保険者もしくは配偶者と生計を同じくする同居親族
- 被保険者もしくは配偶者と生計を同じくする未婚の子ども
配偶者であれば、別居して生計が別でも対象となります。
また、たとえば、大学への通学などのために離れて暮らしている子も、仕送りなどして生計を同じくしていれば対象となります。
個人賠償責任保険一つあれば、家族の自転車事故に備えられるということです。
2-2.広がりつつある自転車保険の義務化にも対応できる
自転車事故での人身事故を起こした加害者に損害賠償金の支払い能力がない場合、被害者には多大な迷惑がかかります。
そこで、2015年10月に兵庫県で自転車保険への加入が義務化され、それ以来、義務化の流れが全国に広がっています。
国土交通省がまとめた『自転車損害賠償保険の加入促進』によれば、2019年12月時点で、以下に挙げる自治体が自転車保険を加入義務化、もしくは努力義務としています。
●加入を義務化している自治体【13府県7政令市】
山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、長野県、静岡県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、愛媛県、鹿児島県、仙台市、さいたま市、相模原市、静岡市、名古屋市、京都市、堺市
●加入を努力義務としている自治体【12道県3政令市】
北海道、茨城県、群馬県、千葉県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、香川県、福岡県、熊本県、千葉市、静岡市、福岡市
現時点でお住まいの自治体が自転車保険の加入を義務づけていなくても、今後義務化される可能性があります。
そんな時、もし自転車保険に加入していなくても、火災保険の個人賠償責任保険があれば、加入義務を満たしているといえます。
なぜなら、自転車保険の義務化の目的はあくまでも、自転車で人身事故を起こしてしまった際の賠償責任に対する補償を確保することだからです。
2-3.【参考】火災保険ではそのほかにもさまざまな補償をカバー
火災保険の補償範囲は、火災だけではありません。この記事の本題である個人賠償責任保険の特約をはじめ、以下表に挙げる自然災害なども補償範囲に含めています。
火災 |
失火・もらい火によって生じた損害に対する補償
例:火災で家が焼けてしまった、など |
落雷 |
落雷による損害の補償
例:家の近くに雷が落ちて家電製品が故障した |
破裂・爆発 |
破裂・爆発による損害の補償
例:ガス漏れで爆発し住宅に損害が生じた |
風災・雹災(ひょうさい)
雪災(せつさい)
|
風・雹・雪による損害に対する補償
例:台風による強風で窓ガラスが割れた |
水濡れ |
漏水をはじめとした水漏れによる損害に対する補償
例:賃貸住宅で上の階から水漏れし、家電製品が故障した |
水災 |
台風・集中豪雨など水が原因の損害に対する補償
例:台風で近くの川が氾濫し、床上浸水をおこした |
盗難 |
盗難被害に対する補償
例:家に泥棒が入り、現金や家電製品などが盗まれた |
騒擾(そうじょう)・集団行為などにともなう暴力行為 |
騒擾・集団行為を原因とした暴力や破壊行為による損害を補償
例:デモによる暴動で家が壊された |
建物外部からの物体の落下・飛来・衝突 |
何がしかの物体が、建物の外からぶつかってきたときの損害を補償
例:家に自動車が突っ込んできた |
このように、住宅におけるさまざまな補償に対応しているので、最近では火災保険を「住まいの保険」「住宅総合保険」などと呼ぶ保険会社が増えています。
3.火災保険の自転車事故に対する補償と自転車保険との違いは?
火災保険の個人賠償責任保険特約は、自転車保険の賠償責任の補償の代わりになりますが、自転車保険の完全な代わりになるわけではありません。
以下の表をご覧ください。
|
事故の被害者に対する賠償のための補償 |
交通事故で自分が負傷・死亡した際の補償 |
自転車保険 |
○ |
〇 |
個人賠償責任保険 |
○ |
× |
ご覧のとおり、自転車保険は事故の被害者に対する補償だけでなく、交通事故(自転車以外の事故を含む)で負傷したり死亡したりしてしまった場合の補償も備えています。
たとえばA損保の自転車保険で付与できる主な補償の内容は以下のとおりです。
- 死亡・後遺障害:最大800万円
- 入院一時金:最大10万円
- 入院保険金:最大12,000円
- 手術保険金:最大12万円
- 通院保険金:最大1日4,000円
これに対し、火災保険等の個人賠償責任保険では、上記のような自分の身体に対する補償はありません。これが自転車保険との大きな違いです。
3-1.交通事故による自分の身体に対する補償は医療保険や生命保険でカバー
このように、自転車保険の補償内容のうち、自分や家族が交通事故に遭ってしまった場合の補償は、火災保険等の個人賠償責任保険にはありません。
しかし、だからといって、交通事故の際の補償を受けたいのであれば自転車保険に加入する必要があるというわけでもありません。
一般的には医療保険や生命保険で、その場合の補償も受けられますし、それらの保険は交通事故以外のケガや病気もカバーしているので、より補償範囲が広いともいえます。通常であれば自分のケガ・病気・死亡に関する補償は、医療保険や生命保険でまかなった方がコストパフォーマンスは高いといえるでしょう。
4.【参考】自転車向けの「盗難保険」になる場合も
自転車の中には数十万円の高価なタイプもあり、盗難に備えて自転車盗難保険に加入する人もいるようです。
しかし、火災保険で盗難の補償をつけていれば、自宅の敷地内に駐輪している自転車が盗難された場合に保険金を支払ってもらえます。
自転車向けの盗難保険では、自宅以外の場所に駐輪している場合でも補償されるため、火災保険で完全に代替できるわけではありませんが、火災保険が自転車の盗難に役立つことがあることも覚えておきたいところです。
まとめ
火災保険の個人賠償責任保険は、自転車保険と異なり自分が自転車でケガをした際の補償はありませんが、自転車事故で相手にケガを負わせてしまった際の賠償を補償することが可能です。
自分がケガをしてしまった際などは、別に医療保険や生命保険に加入していればよいので、無理に自転車保険に加入する必要はありません。
また全国の自治体で自転車保険の加入を義務化する動きが広がっていますが、火災保険の個人賠償責任保険があれば、自治体の求める条件を満たすことができます。