火災保険の「再調達価格(新価)」とは、保険金の金額を決定する算出方法の1つです。
再調達価格(新価)の他に、保険金の金額を決める算出方法として時価がありますが、どちらを選ぶかで支払われる保険金に大きな差が生じる可能性があります。
そのため火災保険を契約したり既存の契約を見直したりする際は、それぞれの違いを覚えておきたいところです。
この記事では、火災保険の再調達価格(新価)とは何かや、その対比となる時価との違い、両者を比較したときに再調達価格(新価)を選択すべき理由について簡単に解説しています。
1.火災保険の「再調達価格(新価)」とは
火災保険の「再調達課価格(新価)」とは、補償の対象となる建物や家財(家電・家具・衣類など)を改めて購入・再築するのに必要な金額をさします。
そのため仮に火災で建物や家財が全焼しても、再調達価格(新価)で保険金が支払われるなら保険金だけで同等のものを再築・購入できるわけです。
火災保険では、契約時に保険金の算出方法について再調達課価格(新価)にするか、後述する「時価」にするか選択することになります。
2.「新価」の金額の求め方
火災保険の保険金を新価で評価する場合に必要となるのは、補償対象の建物や家財(家具・家電・家財など)などの価値をあらわす「評価額」です。
新価は、建物・家財それぞれの評価額と同額にします。
それでは評価額は、どのように求めるのでしょうか。以下、建物・家財、それぞれについて簡単に解説します。
2-1.建物の評価額の算出方法
建物の評価額を算出する方法は、以下3つのパターンで異なります。
- 一戸建ての新築物件の場合
- 一戸建ての中古物件の場合
- マンションの場合
以下、それぞれのパターンについて解説します。
2-1-1.一戸建ての新築物件の場合
一戸建て・新築物件の場合は、購入時(建築時)にかかった金額から土地代・諸経費を差し引いた金額が、建物の評価額となります。
ただし、土地・建物を一括購入するような建売の場合など、建物の価格がわからないこともあるでしょう。
そんな時には、売買契約書で確認できる消費税額から建物評価額を算出することができます。なぜなら、土地の代金には消費税にはかからないためです。
売買契約書に記載の消費税額は全て建物に対する金額です。したがって、以下の数式で、建物の評価額を求めることができます。
建物評価額=消費税額÷消費税率
2-1-2.一戸建て中古物件の場合
中古物件では、建築年と新築時の建物の金額がわかるか否かで計算方法が異なります。
●建築年と新築時の建物の価格が分かる場合
建物の価格へ、建築年から求められる建築費倍率という指数をかけあわせる「年次別指数法」を利用します。
年次別指数法を利用することで、物価の変動などを建物の評価額に反映されることができます。
また建築費倍率は毎年かわるため、計算時に確認が必要です。
年次別指数法の算出方法は、以下の通りです。
新築時の建物の価格 × 建築費倍率 = 建物評価額
たとえば新築時の建物の価格が3,000万円、建築費倍率が0.9であれば、建物評価額は以下のように算出されます。
3,000万円×0.9=2,700万円
●建築年と新築時の建物の価格が分からない場合
建物の構造や所在地といった条件で決められた1㎡あたりの標準的な建築費(新築単価)に、建物の延床面積をかけあわせる「新築費単価法」を利用して算出します。
新築費単価法の計算式は以下の通りです。
新築費単価 × 延床面積 = 建物評価額
たとえば新築費単価が10万円で延床面積が100㎡であれば、建物評価額は10万円×100㎡=1,000万円となります。
なお新築費単価法の算出結果は、標準的な建築費をベースに導き出された概算なので、より実態に近くするため保険会社と相談して、±30%の範囲で調整されます。
2-1-3.マンションの場合
マンションでは、購入価格に専用部分の建物の価格だけでなく土地代・共有部分の価格も含まれています。
一方、火災保険の建物評価額に該当するのは、専有部分の建物の価格だけです。そのため、前述の新築費単価法で建物評価額を算出します。
たとえば新築費単価が10万円で、延床面積(専有面積)が70㎡であれば、建物評価額は以下のように算出されます。
10万円×70㎡=700万円
2-2.家財評価額の算出方法
家財の評価額を求め方法には、「積算評価」「簡易評価」の2種類があります。
まず「積算評価」とは、補償対象となる家財とその金額を全て正確にリストアップし足し合わせる方法です。
この方法はきちんと行えるのであれば実際に近い評価額が求められるものの、非常に手間がかかるため、あまり使われません。
そこで、一般的には「簡易評価」が使われます。
簡易評価とは世帯主の年齢や世帯人数、敷地面積などに基づき、保険会社がまとめた目安額を使う方法です。
以下、参考までにA損保の簡易計算表を紹介します。
|
単身世帯
(面積無関係) |
2人以上世帯(延床面積) |
20㎡未満 |
20㎡~
30㎡未満 |
30㎡~
40㎡未満 |
40㎡~
50㎡未満 |
世帯主年齢 |
29歳以下 |
290万円 |
290万円 |
360万円 |
420万円 |
490万円 |
30歳~34歳 |
290万円 |
390万円 |
480万円 |
560万円 |
650万円 |
35歳~39歳 |
290万円 |
540万円 |
660万円 |
780万円 |
900万円 |
40歳~44歳 |
290万円 |
660万円 |
800万円 |
940万円 |
1,080万円 |
45歳~49歳 |
290万円 |
750万円 |
910万円 |
1,070万円 |
1,230万円 |
50歳以上 |
290万円 |
790万円 |
960万円 |
1,130万円 |
1,300万円 |
家財評価額は、まず上記のような簡易評価表を参考に導き出します。
A損保の簡易評価表では、たとえば世帯主の年齢が50歳以上、2人以上の世帯で延床面積が40㎡~50㎡であれば、家財評価額の目安は1,300万円です。
その上で、「うちは家族の人数が少ないからもっと減らそう」とか「高額な家財が多いから、もっと増やそう」といった調整をして決定します。
3.「再調達価格(新価)」の対となる「時価」との違いは?
火災保険において「時価」とは「再調達価格(新価)」と対になる概念です。
上述したとおり再調達価格(新価)は、補償対象の建物や家財を再築・購入する金額を指す一方、時価は以下のようにそこから経年劣化で減った価値の分を差し引いた金額です。
新価 – 経年劣化で減じた分の価値分の価格 = 時価
なお、火災保険の保険金についてより詳しく説明すると、経年劣化以外に物価上昇の影響も受けることになります。
実際に新価と時価での保険金の算出方法がどのようになるか、計算例を1つ見てみましょう。
3-1.建物が全焼した場合に支払われる損害保険金の例
- 10年前に建物を新築した際の建物の建築費(評価額)は4,000万円
- 新築時と同等の建物を再築する場合は、物価上昇の影響により現在は4,500万円が必要
- 経年劣化により建物の価値が1,000万円分下がっている
この条件で「新価」「自家」それぞれで支払われる保険金がいくらになるかみていきます。
まず「新価」は建物を再築するのに必要な金額ですから、この例では4,500万円です。
物価上昇の影響も加味された金額で算出されます。
次に、時価で計算する場合は、新価から経年劣化で下がった分の価値(この例では1,000万円)を差し引くことになります。
時価を算出する具体的な計算式は、以下の通りです。
4,500万円 – 1,000万円 = 3,500万円
もちろん経年劣化によってどのくらいの金額が差し引かれるかは物件によって大きな差があると想定されますが、新価と時価では支払われる保険金の額に大きな差が生じる可能性があることは覚えておきましょう。
4.「再調達価格(新価)」と「時価」では「再調達価格(新価)」を選ぶべき
繰り返すように、火災保険では契約時に支払われる保険金の金額を「再調達価格(新価)」「時価」どちらで計算するか選択することになります。
再調達価格(新価)の方が支払われる保険金の額が多くなるため、保険料は時価を選択した方が安いです。
しかし、火災保険の契約では、時価ではなく再調達価格(新価)を選ぶべきです。
時価では、ただでさえ火事などの災害にあって負担の多いときに、保険金だけで元通りの生活を取り戻せず、別途、貯蓄などからの出費が必要となる可能性が高くなります。
これでは、いざというときの助けとなるべき保険としては、その価値が半減してしまっています。
一方で新価であれば、保険金だけで建物や家財の再築・購入が可能であり、自己負担が不要です。
時価の契約、新価の契約、どちらが火災保険として価値が高いかは言うまでもないでしょう。火災保険を契約する際は、時価ではなく再調達価格(新価)を選ぶことを強くおすすめします。
4-1.時価を選択すると保険料を余分に支払ってしまう可能性も
時価がおすすめできない理由はほかにもあります。
たとえば建物の「新築時」の建築価格が3,000万円で、火災保険の保険金額(支払われる保険金の上限額)も3,000万円、保険金の算出方法は時価だったとしましょう。
また10年後には経年劣化によって建物の価値が700万円分減って2,300万円になったとします。
このとき万が一建物が全焼したときに支払われる保険金額は、今まで見てきたように2,300万円(再調達価格(新価)であれば3,000万円)です。
しかし、保険料に関しては、経年劣化によって建物の価値が低くなっておらず、最大で3,000万円の保険料が支払われる契約当時のままなのです。
最大で2,300万円までしか保険金が支払われないにも関わらず、保険料は最大で3,000円の保険金が支払われる時と変わらないということになります。
時価に設定していると、結果的に保険料を余分に支払ってしまうリスクがあり、この点からも時価はおすすめできません。再調達価格(新価)を選ぶようにしましょう。
5.保険料自由化(1988年10月)以前に加入した火災保険は要注意
前項では「再調達価格(新価)を選ぶべき」と書きましたが、実のところ最近の火災保険の契約では、契約者が何も言わなくても再調達価格(新価)で保険金が算出されるような設定で提案されることがほとんどであり、時価が選ばれることありません。
つまり再調達価格(新価)と時価の違いを知らなくても、ほとんどの火災保険では、自動的に再調達価格(新価)で保険金が算出される契約になっているということです。
しかし、1998年10月の保険料率の自由化が行われる以前はその逆で、「時価」で計算されることがほとんどでした。
しかも、2015年9月までは火災保険の契約期間は、最長36年まで設定することが可能だったため(現在は最長10年)、1998年10月以前に開始された火災保険の契約は、まだ数多く残っていると考えられます。
ご自身の世帯で火災保険の契約が古くからある場合は、一度確認した方がよいでしょう。
5-1.再調達価格(新価)の火災保険に入り直すことも検討すべき
仮に契約内容を見直した古い火災保険の契約で時価が選択されている場合、これまで説明してきたようにデメリットが多いので再調達価格(新価)の保険への入り直しを検討しましょう。
なお火災保険料の保険料については一括払いもしくは年払いとしていることも多いですが、火災保険の場合、残りの期間分の保険料はほぼ全額解約返戻金として返金されるのでご安心ください。
払い済みの保険料が無駄になってしまうことはありません。
なお、実際にどのくらい戻ってくるのかは、「火災保険の解約返戻金はいくら受け取れるか?」で詳しく解説しておりますのでよろしければあわせてご参照ください。
まとめ
火災保険の保険金が再調達価格(新価)で支払われるのであれば、万が一の際に、保険金だけで建物や家財を再購入・再築することが可能です。
一方で時価が選ばれていると、再調達価格(新価)から経年劣化によって減じた分だけ保険金が差し引かれてしまうため、同等の建物や家財を調達するのに保険金か足りなくなる可能性が高いです。
そのため最近の火災保険では、契約者が何も言わなくても、ほとんど再調達価格(新価)で保険金が支払われるような契約設定になっています。
一方で、1998年10月の保険料率の自由化が行われる以前の火災保険の契約では、時価が選択されることがほとんどだったため、古い火災保険の契約がある場合は一度契約内容を見直し、可能であれば再調達価格(新価)で保険金が算出されるよう契約し直すことが推奨されます。