「住宅保険」とは何を指す言葉なのでしょうか。
実は、住宅保険という名前の保険はありません。火災保険と地震保険の総称であり、住宅や家財を守る保険という意味合いから生じた言葉のようです。
今回はそんな、火災保険と地震保険を総合した「住宅保険」について、特に賃貸ではどのような考え方で選ぶべきかを解説していきます。
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1.賃貸における住宅保険は損害賠償の面で重要
賃貸物件の借主にとって、「住宅保険」は大変重要なものです。
なぜなら、「住宅保険」は災害で家が壊れてしまった際に発生する貸主への損害賠償をカバーすることができるからです。
さらに、火災などで近隣の住民に被害を与えてしまった場合の弁償金や見舞金についてもカバーできます。
賃貸における「住宅保険」の必要性はほぼ、この損害賠償関係に集約されています。
ただし、損害賠償関係に対する補償は、「住宅保険」ではあくまで特約として用意されているものです。
「住宅保険」の補償対象として設定されているのは、あくまで「建物」と「家財」です。
このうち、建物は貸主のものなので、借主が保険をかけるのは「家財」のみになります。
しかし、特約によって建物に損害を与えた場合の損害賠償関係の補償をつけることになるので、実質的に「建物」と「家財」の両方に保険をかけていると考えることができます。
結果として、賃貸居住者の加入する「住宅保険」は、
- 建物が損壊した場合の貸主への損害賠償をカバーする
- 近隣住民に被害が広がってしまった場合の弁償金や見舞い金をカバーする
- 建物内にある家財への損害リスクに備える
という、3つの重要な役割を持ちます。
2.賃貸における「住宅保険」の役割
上記のような万一の備えとしての役割以外にも、火災保険は賃貸において、持ち家の場合にはない役割を持ちます。
それが以下の4つです。
- 家を燃やしてしまった場合の家主への賠償金等の補償【借家人賠償責任特約】
- 他に燃え移らせてしまった場合の弁償金等の補償【失火見舞費用特約・類焼損害補償特約】
- 他人に損害を与えてしまった際の賠償金等の補償【個人賠償責任特約】
- 自然災害や自身や他者が起こした損害から家財を守る補償【家財保険】
賃貸に安心して住むためには、上記の補償がとても重要になってきます。
それぞれ見ていきましょう。
2.1.貸主に対する補償を担う【借家人賠償責任特約】
自身の過失が原因で火災が発生してしまった場合、借主は貸主に対して損害賠償責任を負うことになります。
これは、賃貸契約の際、借主が貸主に対して「原状回復義務」を負うことになるためです。
「原状回復義務」とは、賃貸契約が終了した際、借主が賃貸物件を入居時と同じ状態に戻さなければならないという義務のことです。
火災などで部屋が損壊してしまった場合でも同様で、入居者の負担で元通りにしなければならず、当然、多額の費用がかかります。
「借家人賠償責任特約」は自身の過失による火災や水漏れによる損害を補償してくれる特約です。
火災保険加入時にこの特約を付けておけば、万一火災を起こしてしまっても、貸主への損害賠償金をカバーすることができます。
お互いの関係のためにも、賃貸居住者には必須といえる特約です。
2.2.火災を起こした際の見舞金を用意できる【失火見舞費用特約・類焼損害補償特約】
日本には「失火責任法」という法律があります。
これは、自身の過失で火災が発生し、近隣の住宅に被害を与えてしまったとしても、失火者自身の重大な過失でない限り、他の住人に対して賠償責任を負わないで良いという法律です。
「失火責任法」があることで、もし不注意などで火災を起こしてしまっても、重大な過失でない限りは隣人などに対して損害賠償責任を負うことはありません。
しかし、だからといって被害の弁償や見舞金の用意をしないのは、道徳的に問題があると考える人が大多数でしょう。
「失火見舞費用特約」や「類焼損害補償特約」は、そのような弁償金や見舞金をカバーしてくれる特約です。
近隣住民との関係を崩さないためにも、あって損はない特約といえます。
2.3.他人に損害を与えてしまった際に役立つ【個人賠償責任特約】
「個人賠償責任特約」は、家にいる時だけでなく、日常生活の中で、誤って他人をケガさせてしまった場合の治療費や、他人の物を壊してしまった場合の賠償費用等を補償してくれる特約です。
例えば、自転車で走行中に、衝突事故を起こしてしまった場合などを補償してくれます。
A損保が用意している「個人賠償責任補償特約」では、国内なら無制限、国外なら1億円まで補償してもらえて、保険料は月170円です。
日常のリスクに対して、上記のような少額の保険料で対応できるので、安心して生活するためにも、是非つけておきたい特約といえるでしょう。
2.4.家財を守る【家財保険】
家財保険は家財を守るための保険です。
上述の通り、日本には「失火責任法」という法律があります。
これは万人に等しく適用される法律なので、もし賃貸で隣の部屋に住んでいる人が火災を起こし、自身の家財が全部燃えてしまったとしても、故意に近いような重大な過失でない限り、火災を起こした隣人に対して損害賠償を請求できません。
もし家財に対して火災保険をかけていなかった場合、家財の損失を全くカバーできず、大きな損害を被ることになるのです。
また、家財保険は住宅保険のベースになるものです。
ここまで紹介した他の補償はあくまで保険の特約なので、ベースとなる家財保険に入らないと、他の補償をつけることができません。
基本的には、賃貸を借りる際の契約時に加入が義務付けられています。
①「家財」は家具や家電、衣類などのうち「動かせるもの」
「住宅保険」で「家財」として補償を受けられるものは、タンスや机などの家具、パソコンや洗濯機、冷蔵庫などの電化製品、衣類などです。
ただし、「動かせるもの」に限ります。
家に取り付けられていて外すのが困難なものは、「家財」としては扱われないのです。
具体的にはエアコンやトイレの便器、浴槽、ふすまや畳、カーテンなどです。
そういったものは火災保険では「建物の一部」として扱われ、「建物」に対する補償が適用されるのです。
加えて、建物内にエレベーターやリフトがある場合、それらも「建物」扱いです。
また、自動車や125㏄超の自動二輪車は、「家財」として扱われません。これらは「建物」としても扱われないため、火災保険の対象外となります。
ただし、125㏄以下の原動機付自転車や自転車は、ふだん駐輪場等に留めてあるならば「家財」として扱われます。よく覚えておきましょう。
賃貸物件に住む場合は、上記のような家財に対して「住宅保険」をかけることについて、賃貸契約時に義務付けられることになります。
②家財保険の補償範囲
家財保険の補償範囲は意外なほど幅広く、すぐに頭に浮かぶような災害はもちろん、盗難などの人災や、対人トラブルなどについても対応することが可能です。
ざっと挙げるだけで、以下のような補償範囲があります。
火災・落雷・破裂・爆発
まずは火災保険のベースとなる補償範囲といえる火災や落雷、ガス爆発などの爆発事故についての補償です。
直接的な損害はもちろん、落雷が原因で電化製品がショートしてしまった場合などや、スプレー缶の破裂による損害等、細かいところまで補償されます。
風災・雹災・雪災
暴風雨や豪雪など、空からの脅威に対して補償してくれます。
「風災・雹災・雪災」の補償範囲は、大雨による屋根の破損が原因の雨漏りや、暴風で窓が割れ、家財が濡れてしまった場合などに限られ、一度地上に降り注いで起こる洪水や土砂崩れなどの災害は含まれません。
水災
洪水や高潮、土砂崩れなど、水が原因で発生する災害に備えることができるのが「水災」です。
「風災・雹災・雪災」とは逆に、補償される範囲が「地上から発生する災害」に限られます。
例えば、「風災・雹災・雪災」で述べたような川の氾濫による洪水や融雪洪水は「水災」に含まれますが、暴風雨による雨漏りなどは含まれないので注意しましょう。
なお、アパートの上階の場合は、洪水等による浸水のおそれは乏しいので、「水災」を外すと保険料が抑えられます。
なので、もし水災のおそれがないならば、補償対象から水災を外すことを検討しましょう。それだけで保険料が安くなります。
水濡れ
給排水設備、つまり水道管などの故障による水濡れや、マンションなどで上階からの水濡れ被害が原因で、建物や家財などに損害があった場合について補償してくれます。
自然災害による損害については補償されません。
破損等
家の内部で起こる事故について補償してくれます。
掃除機でテレビやパソコンのコード類を引っ掛けてしまい、落下によって破損させてしまった場合や、子供が遊んでいる中で、窓ガラスを割ってしまった場合など、家の中で起こる事故は意外と多く、つけておくと安心な補償範囲です。
盗難や衝突事故などの人災
盗難や自動車が家に突っ込んでくる事故など、「人災」についての補償です。
特に都心で住む場合に発生しやすいリスクなので、必要に感じる人は多いでしょう。
地震災害
地震保険を家財にかけることで、地震が原因となる災害に備えることができます。
具体的には、地震による倒壊や、地震が原因で発生して起こる津波などです。
3.賃貸における「住宅保険」の内容の考え方
「住宅保険」の内容を考える際、まず吟味することになるのが保険金額です。
家財に対する保険の保険金額は、現状家で保有している家財の評価額の合計です。
評価額は「新価」(再調達価額)と言って、損害を受けた家財が新品か中古であるかにかかわらず、新品で買い揃える場合の価額を基準にして計算します。
家具に電化製品と、家にある家財は全ての金額を合わせると意外に大きな額になります。
そこで、多くの場合、「簡易計算表」を使います。一例としてA損保の簡易計算表を紹介します。
「単身世帯」は部屋の広さ(延床面積)に関係なく290万円です。これに対し、「2人以上世帯」は世帯主の年齢と部屋の広さによって違います。
|
単身世帯
(面積無関係) |
2人以上世帯(延床面積) |
20㎡未満 |
20㎡~
30㎡未満 |
30㎡~
40㎡未満 |
40㎡~
50㎡未満 |
世帯主年齢 |
29歳以下 |
290万円 |
290万円 |
360万円 |
420万円 |
490万円 |
30歳~34歳 |
290万円 |
390万円 |
480万円 |
560万円 |
650万円 |
35歳~39歳 |
290万円 |
540万円 |
660万円 |
780万円 |
900万円 |
40歳~44歳 |
290万円 |
660万円 |
800万円 |
940万円 |
1,080万円 |
45歳~49歳 |
290万円 |
750万円 |
910万円 |
1,070万円 |
1,230万円 |
50歳以上 |
290万円 |
790万円 |
960万円 |
1,130万円 |
1,300万円 |
これはあくまで目安であり、例えば社会人になりたてでの一人暮らしの場合や、ものを多く持たないミニマリストの人などは、「簡易計算表」の金額よりも保険金額を低く設定できる可能性があります。
まずは主だった持ち物をイメージしてみて、保険金額がいくらくらいなら適正なのか、考えることが重要です。
まとめ
賃貸における「住宅保険」の必要性についてお話してきました。
「住宅保険」は家に付けるものというイメージから、賃貸の場合は必要ないのではないかと考えてしまいがちです。
しかし、「住宅保険」は建物だけでなく、家財も補償対象に含めることができます。
また、事故時の貸主や隣人に対する賠償責任についても、「住宅保険」の補償でカバーすることができます。
賃貸における「住宅保険」の必要性は、ほとんどこの損害賠償関係の補償に集約されるといっても過言ではありません。
「住宅保険」は基本的に賃貸契約時に加入することが義務付けられていますが、その必要性を理解し、場合によっては補償内容を吟味することで、日常生活をより良いものにできるでしょう。