医療保険の目的別の選び方

社会人として生活をしていると、様々な不安が頭をよぎるようになります。

特に、「もし働けなくなってしまったらどうしよう」「病気の治療費で大金が必要になったらどうしよう」と考えている人も多いのではないでしょうか。

病気への備えというと医療保険が浮かびますが、どのように医療保険を選べば良いのか分からないという人も少なくないはずです。

実は、上記のような心配事に備えたい場合、医療保険が最適であるとは限りません。

今回は、病気になってしまった場合の心配事に備える保険の選び方について、医療保険に限らず、様々な保険や制度を踏まえて紹介します。

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保険の教科書 編集部

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はじめに:病気になった時の備えについての考え方

医療保険の選び方についてお話しする前に、病気になった時の備えについての考え方を整理しましょう。

当記事にたどり着いた人の多くは、基本的に以下のようなことを心配しているでしょう。

  • 働けなくなった時の収入減が心配
  • 重病になった場合の治療費が心配

確かに、病気の後遺症で身体に障害が残り、働けなくなってしまった場合、今後の生活費をどうすれば良いか、心配な人も多いでしょう。

また、三大疾病に代表される重病になってしまった場合、高額な医療費がかかる可能性もあるので、備えが欲しいところです。

しかし、医療保険は上記のような心配事に備えるために最適な保険なのでしょうか。

詳しく見ていきましょう。

1.医療保険の基本的なしくみ

医療保険が上位の心配事にフィットしているのかどうか考えるために、まずは医療保険の基本的なしくみについて紹介します。

医療保険とは、入院や手術をした際にあらかじめ決められた保険金が受け取れる保険のことです。

基本の保障は以下の2つです。

  • 入院給付金
  • 手術給付金

入院給付金は基本的に日額換算で設定されており、設定された金額に入院日数を掛け合わせた金額を受け取ることが可能です。

手術給付金は、手術をした際に受け取ることができる給付金で、手術回数の分だけ設定した金額を受け取ることができます。

また、医療保険にはさまざまな特約が用意されており、技術料が健康保険の適用外で全額自己負担になってしまう先進医療を行った際に保険金を受け取れる「先進医療特約」や、がんと診断された場合や、三大疾病(がん、心疾患、脳血管疾患)で所定の状態になった場合に保険金を一時金で受け取れる「がん診断給付金特約」「三大疾病給付金特約」などを附帯することができます。

その他、介護が必要になってしまった場合の「介護給付金特約」や、働けなくなってしまった際に収入の補填をしてくれる「就業不能特約」なども存在します。

具体例として、A生命の医療保険に就業不能特約を付けた場合の保険料等をご覧ください。

  • 30歳男性
  • 保険期間:60歳まで
  • 入院日額:5,000円(60日間免責)
  • 就業不能年金:10万円/月
  • 年金支払期間:10年間

入院時に日額5,000円を受け取れるだけでなく、障害などで働けなくなった際に10年間月10万円を受け取ることができる保険です。

上記の条件で、月々の保険料は月額5,190円となります。

2.重病に備える保険の選び方

医療保険のしくみについて分かったところで、最初にお伝えした以下の2つの心配事に対し、どんな保険が適しているかを、医療保険よりも広い範囲で見ていきましょう。

  • 働けなくなった時の収入減が心配
  • 重病になった場合の治療費が心配

それぞれの心配事にはどのような備えが適しているのか、詳しく見ていきましょう。

2.1.働けなくなった時の収入減に備えたい場合

まず、働けなくなった時の収入減に備えたい場合についてです。

働けなくなってしまった場合、重要なのは、入院や手術に関する保障よりも、収入をカバーしてくれる保険です。

この場合、公的保障として以下の2つがあります。

  • 傷病手当金
  • 障害年金

①傷病手当金

「傷病手当金」とは、会社員(従業員)と公務員が受けられるものです。

業務外の病気やケガで働けなくなってしまい、給料が支払われないまたは給料が下がってしまった場合、その間の給与の一部を保障してもらえる制度です。

支給金額は標準報酬日額の2/3と、何とか生活できる金額を受け取ることができます。

ただし、支給期間の上限が1年6ヶ月と決まっており、それ以降については全く保障されません。

また、傷病手当金を受け取れるのは会社員(従業員)・公務員のみとなっており、自営業者は対象外です。

詳しくは「傷病手当金とは?支給額と支給期間と押さえておきたい申請の方法」をご覧ください。

②障害年金

「障害年金」は、長期的に働くことができなくなった人の生活を保障するために作られた社会保障制度です。

障害状態に至った病気・ケガの初診日から1年6か月後に申請を行い、審査を経て支給が開始されます。

会社員(従業員)・公務員であれば、ちょうど傷病手当金の支給期間が終了してから申請を行うことになるため、基本的には1年6ヶ月で傷病手当金から障害年金へ移り変わるといった流れです。

障害年金は傷病手当金と違い、自営業者でも受け取ることができるのですが、会社員とは支給額に大きな違いがあります。

年間で受け取れる障害年金は人によって違い、自営業者なら年間78万円~140万円程度、会社員は年間58万円~300万円程度です。

この数値からも分かるように、生活資金として見るにはあくまで最低限であり、足りない場合が多いのが実情と言えます。

詳しくは「障害年金とは?必ず知っておきたい基礎知識」をご覧ください。

続いて、保険会社が用意している保険には以下のようなものがあります。

  • 就業不能保険
  • 所得補償保険

詳しく見ていきましょう。

①就業不能保険

「就業不能保険」は、「就業不能状態」になった際に、一定期間保険金を受け取ることができる保険です。

基本的には定年となる60歳や65歳までを保障期間にすることが多く、月当たり数千円程度の保険料を支払えば、毎月十数万程度の保険金を受取ることができます。

「就業不能状態」と見なされる条件は保険会社ごとに定められており、意外と厳しめです。

たとえば、とある保険会社では、「60日以上」や「180日以上」といった長期間、入院しているか、もしくは自宅療養中で全ての業務に従事できない状態が続いていることをさします。

つまり、上記の条件の場合は一定期間以上働けない状態が続かないと、保険金を受け取ることができないというわけです。

就業不能保険を検討する際は、どんな場合に給付金を受け取れるか確認しておくことが重要になります。

詳しくは「就業不能保険とは?知っておきたい保障内容と必要性」をご覧ください。

②所得補償保険

今後の就労が困難な場合にお金が受け取れる就業不能保険に対して、所得補償保険では仕事を休んで療養が必要との医師の診断書さえあれば、保険金を受け取ることが可能です。

ただし、保険期間は短く、最長で2年程度です。

比較的簡単に保険金を受け取れることや保険期間が短いことなど、傷病手当金と共通する部分が多くなっています。

傷病手当金を受け取ることができない自営業者にとっては、重要度の高いものです。

詳しくは「所得補償保険とは?加入を考える上で知っておきたいこと」をご覧ください。

自営業者は傷病手当金が受け取れないため、サラリーマンと自営業者では備え方に大きな違いがあります。

サラリーマンの場合は傷病手当金が受け取れるので、しっかりと健康保険料を支払っていれば、就業不能保険で障害年金をカバーすれば、十分に備えることが可能です。

対して自営業者は傷病手当金を受け取ることができないため、就業不能保険で障害年金を補填しつつ、傷病手当金の代わりに所得補償保険によって、障害年金と就業不能保険の受取開始日までの期間をカバーする必要があります。

2.2.重病になって治療費が心配な場合

次に、重病になって治療費が心配な場合についてです。

実は、重病の治療費に備える上で、医療保険の基本保障はそこまで優先度が高くありません。

何故なら、日本には高額療養費制度という公的保障があるためです。

高額療養費制度とは、医療機関や薬局でかかった医療費の月当たりの自己負担額が一定額を超えた場合、超えた金額分が支給される社会保障です。

年齢や年収によって自己負担額の上限が変動するのが特徴で、年収が高いほど自己負担額の上限が高くなる傾向があります。

70歳以上の自己負担額の上限は以下の通りです。

年収
自己負担額の上限
外来のみ
約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%
約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1%
約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
156万~約370万円 18,000円(年144,000円) 57,600円
住民税非課税世帯
8,000円
24,600円
住民税非課税世帯(年金収入80万円以下など) 15,000円

70歳未満の場合は以下のようになります。

年収 自己負担額の上限
約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%
約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1%
約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
156万~約370万円 57,600円
住民税非課税世帯 35,400円

例えば、年収約370万円~770万円で、1月当たりの医療費が100万円かかった場合で考えてみると、自己負担額の上限は「80,100円+(医療費-267,000)×1%」なので、上記の例で計算すると、

  • 80,100円+(100万円-267,000)×1%=87,430円

となります。

本来なら100万円の3割負担で30万円だった自己負担額が、87,430円に抑えられるのです。

高額療養費制度により医療費を抑えることが可能なので、人によっては医療保険に加入するよりも、月々の保険料を貯金に回した方が良いと考える人も少なくありません。

また、昨今では治療方法の多様化により、大病であっても長期の入院が必要ない場合も多いです。

例えば、三大疾病の1つであるがんや心疾患の治療では、昔よりも薬物治療の方法論が確立されているため、通院による治療も多くなってきており、そこまで入院日数は必要ありません。

しかし、入院日数は短くとも医療費は高額なので、入院給付金の恩恵が薄くなってしまいます。

上記の理由から、三大疾病のような大病に備えるために医療保険に入るのであれば、基本的な保障を最低限に抑え、三大疾病特約や先進医療特約のような特約を充実させるようにすると良いでしょう。

例として、医療保険で特約を充実させた例を紹介します。

  • 40歳男性
  • 保険期間:終身
  • 入院日額:3,000円(60日間免責)
  • 手術給付金:入院時3万円、外来時1万5,000円
  • 特約:がん診断給付特約、先進医療特約、終身介護特約

入院給付金と手術給付金の他、特約によって以下のような保障を受け取ることができます。

  • がんと診断された場合:一時金100万円
  • 所定の介護状態になった場合:年額36万円
  • 所定の認知症介護状態になった場合:一時金100万円

上記の保障をある上で、保険料は月々5,690円です。

基本保障よりも、むしろ特約の保障に着目して加入するものと言えます。

まとめ

医療保険に限らず、病気になった際の心配事に応じた保険の選び方についてお話ししてきました。

日本の健康保険は保障内容が充実しており、働けなくなってしまった場合や医療費が高くなってしまった場合にしっかり対応することが可能です。

働けなくなってしまった場合に備えるのであれば、医療保険よりも、就業不能保険や所得補償保険を選んだ方が効果的でしょう。

高額な医療費については、高額療養費制度である程度の金額にまで抑えることができることや、治療の多様化によって基本的な入院日数が減っていることを考えると、医療保険の基本的な保障を手厚くするよりも特約を充実させた方が、万一の際にも対応しやすいです。

保険を選ぶ際には、種類に注目するのではなく、自身の心配事をしっかりと把握し、それに対応した保険を選ぶようにしましょう。

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