賃貸でアパートやマンション、一戸建てなどを契約する際、火災保険の加入が義務になっている場合がほとんどです。
家の中にそれほど高価な物を置いているわけでもない方は、なぜ、建物の所有者でないのに火災保険の加入が強制されているのか疑問に思うかもしれません。
その理由は、火災保険に入らないと、いざという時に貸主も借主も大変困ることになるからです。
この記事では、賃貸住宅で火災保険の加入が義務になっている理由、賃貸住宅向けの火災保険を自分で選ぶ時のポイントについて説明します。
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1.賃貸で火災保険に入らなければならない理由
賃貸住宅の場合、法律上は、火災保険に加入しなければならないという義務はありません。
しかし、たいていは、賃貸借契約を結ぶ際の条件として、火災保険に加入しなければならないことになっています。したがって、事実上、加入が義務付けられていると言えます。
賃貸借契約を結ぶ際、手続書類と一緒に火災保険のパンフレットと申込書も手渡されるので、「この保険に入らないとダメなのではないか?」と思ってしまいがちです。また、補償内容についても、「不動産会社が推奨するプランなのだから間違いはないだろう」と考えるかもしれません。
しかし、火災保険は、不動産会社の提示するものに加入するだけではなく、自分で選ぶことができます。
たしかに、勧められるまま火災保険に加入するのも一つの方法ではあります。しかし、そこには2つの問題があります。
- 火災保険の補償内容を知っていないといざという時に使い物にならない
- 保険料が割高かもしれない
火災保険は、貸主だけでなく、借主が自分自身を守るのにも役立つものです。だからこそ、いざという時に使えなければ意味がありません。特に、賃貸アパートに住む場合にぜひとも火災保険でカバーしておくべき補償内容については、最低限知っておくことが必要です。
2.火災保険に入らなかったらどう困るか?
ほとんどの賃貸物件で火災保険へ加入が入居条件とされている理由は、いざという時に貸主も借主も困るからです。
どういうことなのか、賃貸物件で火災保険に加入していなかった場合のシミュレーションをしてみましょう。
2.1.いざという時に貸主等に多額のお金を支払わなければならない
貸主に対しての補償
たとえば、火の不始末などが原因で火事を起こしてしまいアパートの建物に大きな損害を与えたとします。
この場合、建物自体は貸主が加入している火災保険で修理されます。しかし、その後で保険会社が火事を起こした借主にその分のお金を請求してきます。
なぜなら、借主は貸主に対し原状回復義務を負っているからです。火災を起こしてしまった場合は、元の状態に戻すのに必要な費用を請求されることになります。
その際の賠償額が数千万円と高額になることも多く、結局は、借主である自分自身が負担しなければなりません。火災保険でカバーしておかないと、借主は、高額な負債を抱えてしまうことになるのです。
他の部屋や近隣の家に対する補償
なお、他の部屋の住人の家財や、近隣の家の建物・家財に損害を与えた場合についてもお伝えしておきます。
結論から言えば、損害賠償の義務は負いませんが、ご近所との関係を考えると、結局はまとまった金額が必要になります。
どういうことかというと、隣室の家財、近所の家の建物・家財はその持ち主の火災保険でカバーされます。また、自分がそれらの人に対し、損害賠償責任を負うことはありません。
なぜなら、日本には「失火責任法」という法律があり、失火者自身に「重大な過失」がない限り、近隣住人や他の部屋の住人に対して損害賠償責任を負わなくてよいことになっています。
「重大な過失」とは、故意と同視しうるくらいの落ち度を言います。たとえば、寝たばこや、揚げ物をしていた鍋を火にかけたまま長時間家を空けたような場合をさします。
鍋からほんの一瞬だけ目を離した程度ではこれにはあたりません。つまり「重大な過失」があって損害賠償責任を負う事態はよほどのことです(なお、重大な過失があると、火災保険は損害賠償責任をカバーしてくれません)。
ただし、社会常識から考えて、ある程度は弁償してあげるのが人の道というものでしょう。最低でも見舞金くらいは支払いたいものです。したがって、お金はかかります。
2.2.自分の財物の補償も得られない
火災保険に加入していなければ、火災などにより自分の家具や家電製品が破損してしまった場合に補償してもらえません。
自分が火元でなくても、他から火が燃え移った場合も、補償してもらえないのです。
なぜなら、先ほどお伝えした「失火責任法」の話は、自分が火を出した場合だけでなく、賃貸住宅の他の住人や、近隣の住人が起こした火災についてもあてはまるからです。
つまり、隣室等からの火事が原因で自分の部屋が燃えてしまった場合、相手側に「重大な過失」がなければ損害賠償を請求できないのです。
したがって、もし、火災保険に加入していなければ、相手にも賠償を求められず泣き寝入りするしかなくなってしまう可能性があるのです。
3.賃貸の火災保険を自分で選ぶ場合の重要な補償内容
このように、賃貸住宅に入居する場合、火災保険に入らないと、自分が誤って火災を起こした場合も、他から出た火災で被害を受けた場合も、大変なことになります。だからこそ、火災保険に加入しなければならないのです。
それでは、自分で賃貸住宅の火災保険を選ぶ場合、どんな補償内容にするべきでしょうか。
重要な補償内容は以下の4つです。
- 家を燃やしてしまった場合の家主への賠償金等の補償【借家人賠償責任特約】
- 他に燃え移らせてしまった場合の弁償金等の補償【失火見舞費用特約・類焼損害補償特約】
- 自分の家具が被害を受けた場合の補償【家財保険】
- 他人に損害を与えてしまった際の補償【個人賠償責任特約】
以下、1つずつ簡単に解説します。
3.1.家を燃やしてしまった場合の家主への賠償金等の補償【借家人賠償責任特約】
繰り返すように、賃貸住宅で火事などにより物件に損害が発生した場合、借主は貸主に対して原状回復のための賠償責任を負うことになります。
「借家人賠償責任保険」とは、その場合の損害賠償金等の費用を補償するための保険です。これが、賃貸住宅の火災保険で最も重要な保障です。
3.2.他に燃え移らせてしまった場合の弁償金等の補償【失火見舞費用特約・類焼損害補償特約】
自分が火元になって他に火を燃え移らせてしまった場合、上でお伝えしたように、家主に対し損害賠償責任(原状回復義務違反)を負いますが、他の部屋の住人や近隣の家の住人に対しては損害賠償義務を負いません。
ただし、そうは言っても、近所との関係を考えると、できる限り、被害を弁償するか、最低限見舞金くらいは出したいものです。
そこで、役に立つのが、「失火見舞費用特約」と「類焼損害補償特約」です。
これらを付けておくことで、自分が火元になってしまった場合のリスクを完全にカバーすることができます。
3.3.自分の家具が被害を受けた場合の補償【家財保険】
火災などにより、自分の家財(家具・家電製品・衣服など)が損害を受けた際に、それを補償するための保険です。
自分で火事を起こしてしまった場合も、他の住人が火事を起こしてしまった場合も、いずれも補償が行われます。
火災以外の場合でも、家財に対する補償を受けられる
火災保険は火事だけに備える保険ではありません。以下のようなケースでも補償を受けられます。
- 落雷:(例)建物に雷が落ちて家電製品が故障してしまった
- 水漏れ:(例)給排水設備の不具合が原因で水漏れし、家具や家電製品が水にぬれ破損した
- 水災:(例)台風による洪水で部屋が浸水し、部屋の中のものが破損した
- 盗難:(例)泥棒が家に入り、家電製品や現金が盗まれてしまった
- 修理費用:(例)泥棒が入った際に玄関のドアロックが壊されてしまった
必要な補償内容を把握した上でプランを組むことをおすすめします。また、特に必要かどうかが問題となる補償は「水災」です。後ほどお伝えします。
3.4.他人に損害を与えてしまった際の補償【個人賠償責任特約】
日常生活で他人に損害を与えてしまう可能性があるのは、火事を起こしてしまう場合だけではありません。
人にケガを負わせてしまったり、人の財産に損害を及ぼしてしまったりすることがあります。
個人賠償責任特約を付けておけば、その場合の損害賠償金等の費用をカバーしてもらえます。
火災や水漏れを出してしまった場合等、家に関することだけでなく、広く、日常生活で他人に損害をあたえてしまった場合の補償も含まれています。家の外で他人に損害を与えた場合もカバーされます。
具体的には、以下のような場合がカバーされます。
- 水道の蛇口を閉め忘れ床が浸水し、下の階まで水が漏れその部屋にあったパソコンが故障した。
- 自転車で走行中に人にぶつかりケガをさせてしまった。
- 誤って人にケガをさせてしまった。
特に、近年、自転車走行中の事故で人にケガさせたり、死亡させたりしてしまった場合の賠償責任が重くなってきています。火災保険の個人賠償責任特約を付けておけば、カバーできます。
なお、多くの自治体で自転車保険への加入が義務付けられていますが、その代わりになります。
また、個人賠償責任特約は自動車保険や傷害保険にも付けることができるので、それらの保険に付いているかどうか確認して、付いていなければ、火災保険に付けることをおすすめします。
4.自分で火災保険を選ぶ時のポイント
賃貸契約を結ぶ際は、あわせて不動産会社に勧められた火災保険に加入するのが一般的ではあります。
しかし、必ずしも、不動産会社に紹介された火災保険に加入しなければならないわけではりありません。
不動産会社によっては特定の保険代理店と契約しており、結果的に平均より保険料が高い保険の加入をすすめられることもありえます。
また、自分で火災保険を探した方が、保険料が安い場合もあります。
そこで、以下、自分で賃貸物件の火災保険を選ぶ時のポイントをお伝えします。
4.1.家財の保険金額を適切な額に設定する
まず、保険金額を適切な額に設定する必要があります。
賃貸住宅の火災保険(家財保険)の保険金額は、今持っている家財の評価額の合計ということになります。家財1つ1つは大した金額ではなくとも、全ての金額を合わせると馬鹿にできないものになることが多いです。
そこで、評価額をどのように計算するかが問題となります。
火災保険の家財の評価額の計算方法は基本的に「新価」(再調達価格)となっています。これは、物が新しいか古いかに関係なく、同じような物を新品で買ったらいくらになるかという基準です。
ただ、最近はやりの、モノをできるだけ持たない「ミニマリスト」でもない限り、いちいち全部の家財をピックアップして計算するのはめんどうだし、現実的ではないことが多いです(もちろん計算できるならば計算して申告するのでも構いませんが)。
そこで、多くの場合、「簡易計算表」を使います。保険会社ごとに計算方法が違いますが、ここでは一例としてある損保会社の簡易計算表を紹介しておきます。
単身世帯は部屋の広さ(延床面積)に関係なく290万円です。
これに対し、2人以上の世帯は世帯主の年齢と部屋の広さによって違います。
|
単身世帯
(面積無関係) |
2人以上世帯(延床面積) |
20㎡未満 |
20㎡~
30㎡未満 |
30㎡~
40㎡未満 |
40㎡~
50㎡未満 |
世帯主年齢 |
29歳以下 |
290万円 |
290万円 |
360万円 |
420万円 |
490万円 |
30歳~34歳 |
290万円 |
390万円 |
480万円 |
560万円 |
650万円 |
35歳~39歳 |
290万円 |
540万円 |
660万円 |
780万円 |
900万円 |
40歳~44歳 |
290万円 |
660万円 |
800万円 |
940万円 |
1,080万円 |
45歳~49歳 |
290万円 |
750万円 |
910万円 |
1,070万円 |
1,230万円 |
50歳以上 |
290万円 |
790万円 |
960万円 |
1,130万円 |
1,300万円 |
もし、実際の家財の総額がこの簡易計算表の額よりも安いだろうと思ったら、自分で総額を計算した方が多少は保険料が安くなるかもしれません。
4.2.保険料は建物の構造によって違う
次に押さえておきたいのは、火災保険の保険料が建物の構造によって違うということです。
火災保険の保険料を決める重要な要素のひとつに、建物の「構造級別」があります。
構造級別は以下の表のように「M構造」、「T構造」、「H構造」の3種類に分かれています。そして、アパートは「M構造」か「T構造」のどちらかになります。どちらにあたるかは賃貸借契約書を見れば分かります。
構造級別 |
条件 |
M構造 |
共同住宅であり、コンクリート造である、または耐火建築物・耐火構造建築物である |
T構造 |
①戸建て住宅で、鉄筋コンクリート造等、耐火性のある素材で造られたもの
②鉄骨造の集合住宅で、耐火性に関する基準(耐火構造・準耐火構造等)をみたさないもの
③木造の集合住宅・戸建て住宅で、耐火性に関する基準(耐火構造・準耐火構造等)をみたすもの |
H構造 |
耐火構造建築物・準耐火建築物・特定避難時間倒壊等防止建築物または省令準耐火建物ではない一戸建ての木造住宅 |
4.3.場合によっては「水災」を外すと保険料が安くなる
次に、借りる物件が高台にある場合や、マンション・アパートで自分の部屋が上階にある場合は、洪水等による浸水のおそれは乏しいので、「水災」を外す選択肢もあります。
特に、不動産屋が紹介する火災保険は、そこを考慮せず、立地条件や部屋の高さに関係なく、水災が付いたままになっていることがあります。
なので、もし水災のおそれがないならば、不動産屋さんから加入するにしても、補償対象から水災を外すことを検討しましょう。それだけで保険料が安くなります。
4.4.個人賠償特約が自動車保険等に付いていないかチェックする
火災保険のうち、他人に損害をあたえてしまった場合の「個人賠償責任保険」は、自動車保険などすでに加入済のほかの保険でカバーできている場合があります。
つまり火災保険でこの保険をつけると、同様の補償を行う保険が重複するということです。
そのため自分で火災保険を探す際は、加入済のほかの保険で個人賠償責任保険をカバーできているのであれば、火災保険につける必要はありません。その分、保険料を抑えることができます。
また自分の家具に対する「家財保険」に関しても、高い家財が少ないのであれば補償される額を低くすることによって、保険料を抑えることが可能です。
不動産会社によってすすめられる火災保険では、家財保険についても必要以上の補償額になっていることがあります。
5.契約例と保険料の相場は?
最後に、補償内容・保険料ともに標準的なC損保の火災保険の契約例と、保険料の目安をお伝えします。
これはあくまで一例ですので、保険料がこれよりも安い場合も高い場合もあります。インターネット加入の場合、大幅に安くなることもあります。
なお、火災保険を決める際は、保険料の点だけでなく、プランニングの柔軟性や、対応の早さ、担当者が信頼できるか、といったことも重要です。
例1|高台の鉄筋コンクリート造アパートの2階・3人世帯(夫婦と子1人・世帯主40歳)
- 構造級別:M構造
- 家財評価額:500万円
- 補償される事故:火災、風災、雹(ひょう)災、雪災、水ぬれ、外部からの物体落下等、騒擾(そうじょう)、盗難
- 借家人賠償特約:5,000万円
- 個人賠償責任特約:1億円
- 契約期間:2年
この場合、保険料は2年間で19,070円(家財5,960円、借家人賠償特約9,550円、個人賠償特約3,560円)です。
内訳を見て分かる通り、最も大きいのが、借家人賠償特約です。
高台に位置しているうえ、部屋の場所も上階なので、水災による被害のおそれはほぼありません。そのため、水災の補償を外しています。
なお、水災を付けた場合は2年間で23,130円(家財10,020円、借家人賠償特約9,550円、個人賠償特約3,560円)となります。家財保険の部分だけ2年間で4,060円高くなります。
例2|平地の木造アパートの1階・単身世帯(29歳以下)
- 構造級別:H構造
- 家財評価額:200万円
- 補償される事故:火災、風災、雹(ひょう)災、雪災、水ぬれ、外部からの物体落下等、騒擾(そうじょう)、盗難、水災
- 借家人賠償特約:5,000万円
- 個人賠償責任特約:1億円
- 契約期間:2年
この場合、保険料は2年間で29,450円(家財16,340円、借家人賠償特約9,550円、個人賠償特約3,560円)です。
耐火構造でない普通の木造(H構造)の場合、火災に遭った場合に室内のものが燃えやすいので、保険料がかなり割高になっています。
また、水災による被害のおそれがあるため、水災の補償を外すことはできません。
まとめ
賃貸住宅に入居する場合、一戸建てでもアパート・マンションでも、たいてい火災保険への加入が入居条件となっており、加入が事実上義務となっています。
ただし、不動産会社が紹介する火災保険にする必要はなく、自分で必要な補償を選んで加入することをおすすめします。
その場合、重要な補償は、以下の4つです。
- 部屋の原状回復をするための補償【借家人賠償責任保険】
- 他に燃え移らせてしまった場合の補償【失火見舞費用特約・類焼損害補償特約】
- 自分の家具に対する補償【家財保険】
- 他人に損害を与えてしまった際の補償【個人賠償責任保険】
この記事でお伝えした内容を踏まえ、適切なプランを組んでみてください。