類焼損害が生じた場合の火災保険の特約とは?

自分の家で火事を起こしてしまった場合、自分の家の損害もさることながら隣家へ類焼したらどうなってしまうかも不安なところです。

相手への賠償責任はどうなるのか、加入している火災保険で補償してもらえるのか等の問題があります。

この記事では、仮に自分で出した火災で類焼損害が発生した場合にどうなるか、押さえておきたいことをまとめて解説しています。

The following two tabs change content below.
保険の教科書 編集部

保険の教科書 編集部

私たちは、お客様のお金の問題を解決し、将来の安心を確保する方法を追求する集団です。メンバーは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持っており、いずれも現場を3年以上経験している者のみで運営しています。

1.自分の家の火事が隣家に類焼しても原則は賠償責任なし

万が一、自分の家で火事を出して隣家に類焼してしまった場合、「相手に損害賠償しないといけないだろうな」と考える方が多いのではないでしょうか。

自分の責任で相手に損害を与えてしまったわけですから、そう考えるのが自然でしょう。

しかし、実際には、この場合に賠償責任に問われることはありません。なぜなら「失火責任法」があるためです。

1-1.賠償責任が問われない根拠となる「失火責任法」とは?

失火責任法とは、自分の家から出した火事が隣家に類焼しても、失火の原因が故意や故意とほぼ変わらない重大な過失でない限り賠償責任を問わないという法律です。

失火責任法は明治32年に定められた法律で、正確な条文は以下の通りです。

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス(現代語訳:民法709条の規定は、失火の場合は適用しない。しかしながら失火者に重大な過失があった場合はこの限りではない。)

民法709条では「故意もしくは過失で他人に損害を与えた場合は賠償責任を負う」と定めています。

失火責任法は、失火の場合にはこの民法709条を適用しないと書いているのです。つまり、自家からの失火で類焼した場合、原則として賠償責任がないのです。

なぜこのような法律があるのでしょうか。

明治32年当時、日本には今より木造建築が多く万が一失火して周囲に類焼した場合、その損害額は莫大になる恐れがありました。

その賠償責任を失火元一人に背負わせると、大変酷なことになります。

そういった事態を防ぐために、失火元の賠償責任を原則として問わないとする失火責任法が成立したのです。

1-2.故意や故意と同視される重過失に限り賠償責任が問われる

では、例外的に賠償責任に問われる「重大な過失」とは具体的にはどんな場合でしょうか。

まず前提として、放火のような故意の場合は賠償責任に問われるのはもちろんで、これは失火責任法でも賠償責任を否定していません。

その上で、ほんの少しの注意で防げる故意とほぼ変わらないようなケースを「重大な過失」と扱い、例外的に賠償責任を負わせることにしているのです。

たとえば以下のようなケースです。

  • 寝たばこの火が原因で火災となった
  • 燃えやすい藁が散らばっている倉庫にたばこの吸い殻を捨てたために失火した
  • 電気コンロの火をつけたまま寝てしまったために失火した
  • 石油ストーブの火をつけたまま給油したため、石油に火が引火して火事になった。

これらは誰が見ても危険な行為で、結果的にどんな事態になるかすぐ分かることばかりです。

1-3.自分が類焼損害を受けた場合、火災保険に入っていないとカバーされない

これまで、「自分の家で生じた火災が近隣に類焼してしまったとき」という視点で書いてきましたが、裏を返せば隣家の火事により自分の家で類焼損害を受けた際にも、火元に対して損害賠償を請求できないということになります。

それを防ぐためには、自分が火災保険に加入していなければなりません。

火災保険は自分が出した火災だけでなく、もらい火による損害も補償の範囲に含めているわけです。

また、逆の立場で考えても、仮に自分の家の火事が隣家に類焼しても、隣家の入っている火災保険にて補償が行われるとは言えます。

1-4.賃貸の場合、貸主への賠償は必要

類焼しても失火責任法により火元の賠償責任が問われないことは前述したとおりです。

けれど、仮に賃貸住宅で暮らしていて失火した場合、全く賠償責任がなくなるわけではありません。

賃貸住宅の借主は、貸主に対し、物件を元通りに回復して返さなければならないという「原状回復義務」があるためです。

この原状回復義務による賠償責任は、失火責任法が対象とする民法第709条の責任とは別のもので、民法415条の「債務不履行に基づく損害賠償責任」によるものです。

そのため、借主が失火で賃貸住宅に損害を与えた場合、貸主に対して賠償責任を負うことになるので注意しましょう。

なお、この賠償責任を補償する保険として「借家人賠償責任保険」がありますが、この保険の詳細については「賃貸住宅で火災保険が義務である理由と自分で選ぶ時のポイント」で詳しく解説しているのでこちらをご覧ください。

2.法律的な責任がなくても隣家に賠償したい場合の特約

失火責任法の関係で、万が一自分の家の失火が隣家に類焼しても、賠償責任がないのは述べた通りです。

けれど、その場所で今後も暮らしを続け類焼させてしまった隣家の方と今後も顔を合わせることを考えると、法律上の責任がないからといって何もせずにすますのは困難ではないでしょうか。

確実に相手との関係性は悪くなりますし、心が重くなるとは当然のことです。

そこで、火災保険では、類焼で仮に賠償責任がなくても、被害を与えてしまった相手にお金を支払うための以下2つの補償を特約として用意しています。

  • 類焼損害賠償補償特約
  • 失火見舞費用保険金

以下、それぞれの特約について簡単に解説します。

2-1.類焼の損害を補うための「類焼損害補償特約」

類焼損害補償特約は、名前の通り自分の住居からでた失火が類焼して近隣の住宅の建物や家財に損害がでた場合に、その被害を受けた方に対して保険金を支払うための特約です。

火元の契約者ではなく、被害を受けた方に直接保険金が渡されます。

ただし、仮に類焼して相手に損害を負わせても、必ずこの特約で補償が行われるわけではありません。

相手が火災保険に加入している場合、基本的にはそちらの保険金によって損害がカバーされることになります。

類焼損害補償特約が補償するのは、相手側の火災保険でカバーしきれない損害分のみです。

仮に、相手側の火災保険で損害額が全て補償されるなら、類焼損害補償特約の出る幕はありません。

そのため、この特約を持ってしても相手の不満を解消できると限らない点は注意しましょう。

ただ相手が火災保険に加入していなかったり、仮に加入していても支払われる保険金が少なかったりした場合には、相手も負担が重くなるとは想定できます。

そんなときでも、類焼させた側がなんの賠償もしなければ、さらに隣家との関係性が悪化してしまうでしょう。

こういったときに助けになる類焼損害補償特約は、非常に役立つといえるのではないでしょうか。

2-2.見舞金の支払いを補償する「失火見舞費用保険金」

失火見舞費用保険金とは自家の失火から類焼し損害を与えてしまった近隣に対して、賠償責任の有無にかかわらず見舞金を支払うための特約です。

ただし、支払われる見舞金の額は、たとえばA損保の場合は1世帯あたり20万円など限定されているので注意してください。

失火見舞費用保険金では相手の損害を全てカバーできないことが多いと想定されますが、相手の生活費に充ててもらうこともできますし、何も賠償しないよりはずっとマシでしょう。

なお、失火見舞費用保険金は、上述の類焼損害補償特約とあわせて契約することも可能です。

たとえば、相手側の火災保険で損害額が全てカバーされ類焼損害補償特約が結果的に使われなかった場合にも、失火見舞費用保険金で相手にお詫びすることができるわけです。

そういった意味でも、2つの特約をあわせて契約するのは大変意義があるといえるのではないでしょうか。

2-3.<補足>「重過失」と判断されるときは個人賠償責任保険が使えることも

上述した通り、失火責任法があっても類焼の原因となった火災が故意もしくは故意と同様と判断されるような重過失であった場合には、賠償責任が生じると書きました。

仮に、類焼で賠償責任が生じた場合、その金額は膨大になることがあり、個人では支払いきれない恐れもあります。

放火のような故意の火災ではいずれにしろ補償はありませんが、故意ではない重過失であった場合には、火災保険などに付与できる「個人賠償責任保険」にてその賠償金を補償してももらえる可能性があります。

個人賠償責任保険とは、第三者へ損害を与えてしまった場合の賠償金を幅広く補償する保険です。

たとえば、賃貸住宅で洗濯機のホースが外れ階下の部屋を水浸しにしてしまった場合、自転車で走行中に歩行者に衝突し怪我をさせてしまった場合などに補償を行います。

ただし、個人賠償責任保険も故意による事故では補償はされないため、どこまで重過失を補償対象として認めてくれるかは一概には言えません。

この保険自体は保険料が安い上に非常に役立つので加入しておくことが推奨されますが、類焼の場合は「使える可能性がある」程度に考えておくとよいでしょう。

いずれにしろ、個人賠償責任保険に加入していて、万が一近隣に類焼の損害を与えてしまった場合には、保険会社へ問い合わせするのも1つの方法です。

個人賠償責任保険の詳細については、「火災保険につけられる個人賠償責任保険とは何か?」で解説しているので、興味があればあわせてご覧ください。

まとめ

自分の家で生じた火災が仮に近隣へ類焼しても、それが故意や故意と同様とされるような重大な過失でない限り、賠償責任に問われることはありません。

しかし、自分の家の火災で近隣へ大きな迷惑をかけてしまったとして、何もしないのは心苦しいものです。

火災保険の類焼損害補償特約と失火見舞費用保険金は、そんなときにも類焼させてしまった相手へお金を支払うことができる特約です。

類焼損害補償特約は相手の火災保険でカバーしきれない分の損害額を補償し、失火見舞費用保険金は相手への見舞金を支払うための費用を補償します。

いずれも万が一のときのために、火災保険へ付与しておきたい特約です。

【無料Ebook '21年~'22年版】知らなきゃ損!驚くほど得して誰でも使える7つの社会保障制度と、本当に必要な保険

日本では、民間保険に入らなくても、以下のように、かなり手厚い保障を受け取ることができます。

  • ・自分に万が一のことがあった時に遺族が毎月約13万円を受け取れる。
  • ・仕事を続けられなくなった時に毎月約10万円を受け取れる。
  • ・出産の時に42万円の一時金を受け取れる。
  • ・医療費控除で税金を最大200万円節約できる。
  • ・病気の治療費を半分以下にすることができる。
  • ・介護費用を1/10にすることができる。

多くの人が、こうした社会保障制度を知らずに民間保険に入ってしまい、 気付かないうちに大きく損をしています。

そこで、無料EBookで、誰もが使える絶対にお得な社会保障制度をお教えします。
ぜひダウンロードして、今後の生活にお役立てください。


無料Ebookを今すぐダウンロードする

法人損害保険の人気記事
データ取得中
TOPに戻る